現実世界(リアル)と架空世界(ザ・ワールド)が織りなす重厚な世界
本作は、“オフライン”RPGとして発売された。“オフライン”RPG? いや違う、“オフラインオンライン”RPGと表現したほうがよいかもしれない。では、その理由を解説していこう。
そのころ小学生だった筆者は、プレイに必要な回線設備を整えることも月額の利用料金もまかなうこともできず、ゲーム雑誌の攻略記事をみながら
「へー。黒魔導士はストーンを覚えるんだ。黒魔導士にしようかな」
なんて妄想するばかりだった。しかし、そんなある日、目に飛び込んできたのが、
“オフラインでオンラインゲームが遊べる『.hack//感染拡大 Vol.1』”
といった触れ込み。飛びつかないわけがなかった。おなじような理由で『.hack』シリーズを始めた人もけっこういるのではないだろうか。オフラインゲームでありながら、オンラインゲームの世界をみごとに表現した作品だった。
ゲームだけでなく、アニメ、マンガ、小説などでも展開される『.hack』の世界
たとえば、『.hack//感染拡大 Vol.1』が発売される2ヵ月前の2002年4月に、ゲームの前日譚を描いた『.hack//SIGN』がテレビアニメとして放映開始。ゲームとは異なる主人公・司を中心にしたストーリーを描かれた。
そしてのちに、アニメに登場したキャラクターを操作していたプレイヤーが別のキャラクターを操作してゲームのほうにも登場するといった、思わずニヤリとしてしまう要素もふんだんに散りばめられていた。『.hack』シリーズ特有の“メディア展開”と“二重構造”でしかできない演出方法だった。
また、『.hack//』は『.hack//感染拡大 Vol.1』~『.hack//絶対包囲 Vol.4』の4部作に分けてプレイステーション2用タイトルとして発売された。当時プレイステーション2はDVDの再生機器としても活用されていた。そこに目をつけた『.hack//』は、4話からなるアニメ作品『.hack//Liminality』を収録したDVDディスクも同梱させたのだった。まさにトンカツとカレーが一挙両得のカツカレー的発想!
ゲーム『.hack//』では“The World”の出来事が描かれていくのに対して、アニメ『.hack//Liminality』では、ゲームと同じ時間軸で起きている現実世界の出来事を描く内容になっており、このふたつの物語の交差していくさまは『.hack』でしか得られないゲーム体験だった。
ほかにもマンガ、小説などさまざまなメディア展開をした『.hack』シリーズだが、どの作品から入っても最終的にはゲームをプレイしたくなるように巧妙に作られているところが、これまた憎いところ。しかし、ゲームの仲間と協力して自分の手で物語の真相を突き止めた瞬間は格別なので、ぜひゲームをプレイしてみてもらいたい(何卒、『.hack//』のリマスター・リメイク作品お願いいたします‼)。
アニメや小説、マンガなども合わせると35作品以上にもなる『.hack』シリーズの歴史を完全網羅した1冊なので、気になる方はチェックしてみてほしい。