良質な海外タイトルを日本向けにリリースするメーカーとしてもおなじみのスパイク・チュンソフト。1998年にスパイク時代に『V-Rally』の日本語版を発売後、26年にわたって海外タイトルの紹介に務めてきた。初期のレースゲームに始まり、『ドラゴンエイジ』シリーズや『The Elder Scrolls IV : オブリビオン』、『BIOSHOCK』、『ウィッチャー3 ワイルドハント』、『バルダーズ・ゲート3』など手掛けたタイトルは幅広い。
そんなスパイク・チュンソフトが、国内およびアジアの他社タイトルのグローバルパブリッシング事業に取り組むという。その狙いとは? スパイク・チュンソフトでローカライズ事業を取り仕切り、今回の事業を主導する飯塚康弘氏に聞いた。
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飯塚康弘氏(いいづか やすひろ)
スパイク・チュンソフト 執行役員
Spike Chunsoft, Inc. CEO(米国オフィス)
26年間で106タイトルを手掛ける、国内屈指の洋ゲーメーカー
――スパイク・チュンソフトは、旧スパイクの時代から海外タイトルのローカライズを積極的に展開していきましたよね。
飯塚
そうですね。僕は、大学を卒業して旧スパイクに入社したのですが、そのタイミングで『Driver 潜入!カーチェイス大作戦』(日本発売は2000年)がリリースされていましたね。入社した年にいきなりE3(※)に行くことになり、やったことのないビジネス上の通訳をしたりと、いまではいい思い出です(笑)。
『V-Rally』シリーズや『コリン・マクレー ザ・ラリー』シリーズ、『WRC』シリーズなどをリリースして、レースゲーム=スパイクになっていた時期もあったかと思います。
その後、いまで言うAAAタイトルの『コール オブ デューティ3』や『The Elder Scrolls IV : オブリビオン』、『BIOSHOCK』などを手掛けるようになり、今日までで携わった作品数は廉価版などを除いて106タイトルを数えます。ちなみに記念すべき100タイトル目は『サイバーパンク2077』ですね。
※E3……エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポの略。1995年から2021年まで開催されていた世界最大級のゲーム見本市。![[IMAGE]](https://cimg.kgl-systems.io/camion/files/famitsu/10888/aa33f482845b268f2b1996c08a4a66ab2.jpg?x=767)
スパイク・チュンソフトの記念すべきローカライズタイトル100本目となった『サイバーパンク2077』。
――26年間で106タイトルはすごい。平均すると1年で4本強になりますね。
飯塚
そのあいだ、いろいろな会社さんが日本で洋ゲービジネスに取り組まれては撤退されていったりもしたわけですが、僕たちがいままで続けてこられたのは、パートナーさんとのつながりがあればこそだと思います。たとえば、『バルダーズ・ゲート3』に関しても、2016年に発売した『ディヴィニティ』からLarian Studiosとお付き合いがあったので、日本でのパブリッシャーを任せていただけることになりました。
僕たちは、パートナーさんとはつねに透明性と熱意をもって接しています。ときには、彼らの意向に反することを言うこともありますが、それもすべて作品が日本で成功するため、ユーザーの皆さんに楽しんでもらえるためと信じ、接しています。結果、世界中のパートナーさんとの強い信頼関係につながっているという認識でいます。
――スパイク・チュンソフトのローカライズに対する評価が、海外のスタジオどうしでも伝わったりしているのでしょうか。
飯塚
ローカライズの品質の高さは、たしかに当社の強みではありますが、売りかたも含めた洋ゲーの取り扱いかたの実績が評価されているようです。そのうえで、海外の開発スタジオが「日本でやるんだったら、スパチュンというおもしろい会社があるよ」と推薦してくれる横のつながりは確実にあるようです。
実際のところ、スパチュンとしては、先ほどもお話ししました通り、パートナーさんに対して透明性を持って取り組んでいきたいという思いはつねにあります。パートナーさんにすべてオープンにして情報共有をしてということをずっと続けてきたので、そのあたりも納得していただけているのではないでしょうか。「スパチュンはいい会社だから、相談してみたら? というアドバイスをもらった」という形での問い合わせはけっこうあります。
――お仕事をしたパブリッシャーやデベロッパーから、どんどん縁がつながっていったのですね。
飯塚
たとえば、CD PROJEKT REDとの出会いのきっかけは、Biowareの存在が大きかったかもしれません。Biowareとは『Dragon Age:Origins』(2009年)を通して知り合ったのですが、もともとBiowareとCD PROJEKT REDがすごく仲がよくて、「CD PROJEKT REDというポーランドの会社がE3に来るからミーティングしないか?」と誘われまして。そこからつながっていきました。
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Biowareとの出会いが大きかったと語る飯塚氏。同社からCD PROJEKT REDにもつながっていったのだという。写真は『Dragon Age:Origins』(日本発売は2011年)。
CD PROJEKT REDの『ウィッチャー3 ワイルドハント』は、スパチュンの転機となったタイトルの1本ですね。タイトル自体高い評価を受けて、CD PROJEKT REDの知名度も世界的に上がりましたが、ローカライズの品質もとても評価していただいて、ひとつの大きなターニングポイントになったかなと思っています。
あとは、最近で言うと『ARK: Survival Evolved 』ですね。2017年にPS4版を発売し、その後Switch版、PS5版をリリースしました。いまでも売れ続けているロングヒット作品です。
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大きなターニングポイントのひとつになったというCD PROJEKT REDの『ウィッチャー3 ワイルドハント』(日本発売は2016年)。ローカライズも大いに評価されたとのこと
――いま話題に挙がった『ARK』や『テラリア』など、スパイク・チュンソフトはロングテールで売れるタイトルも多数手掛けていますが、タイトル選定の秘訣も気になります。
飯塚
『テラリア』に関しては、PC版がリリースされたころからメンバーとずっとプレイしていて気にしていたタイトルでした。“2D版マイクラ”と言われていましたが、RPG要素が強くて、仲間でわいわいしながらモンスターを倒すのがすごく楽しくて、「これ、コンシューマーに来たら行けそうだね」という話はしていました。
Steam版は開発元のRe-Logicが自社で展開していたのですが、505 Gamesがコンシューマー向けに出すというのを海外でアナウンスした直後に、すぐに505 Gamesに連絡しました。505 Gamesとも長い付き合いなんです。「日本での展開をスパチュンにやらせてほしい」と言ったら「いいよ」という感じでトントン拍子に進んでいきました。
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ロングヒットとなった『テラリア』。PC版がリリースされたころから、スタッフが気にしてずっとプレシしていたタイトルだという。
――『テラリア』には、そんな経緯があったのですか。
飯塚
ちなみに、『ウィッチャー3』に関しては、Xbox 360で『ウィッチャー2 王の暗殺者』を出したときにCD PROJEKT REDの方から「もう『3』も動いていて、今度はオープンワールドになるからもっとおもしろくなるよ」という話を聞いていたんですね。その後、実際に動くものをポーランドに行ったときに見せてもらって、「これはすごいな」と。当時のローカライズ担当だった本間さん(本間覚氏)が、「日本語フルボイス版もグローバルローンチに間に合わせたい」ということで、ポーランドに数ヵ月間滞在して、命を削ってローカライズ作業をしたりしました。そんな縁もあって、後に本間さんはCD PROJEKT RED ジャパン・カントリー・マネージャーになりましたね。
――ゲームに対する理解度も高いので信頼されると。
飯塚
うちのメンバーは洋ゲーが好きです。みんなゲームが好きなので、情報を集めてすぐにプレイしてみて、可能性を判断しています。自分たちがプレイして「おもしろい!」と思える作品は、けっこうな確率で多くのユーザーの皆さんに楽しんでもらっているんじゃないかと思っています。
――それだけの自信を持っているということでしょうか。
飯塚
そうですね。いままでゲームをプレイしないで、ローカライズを決めたことは基本ないです。開発途中でも、プレイアブルを必ず触ってみて判断しています。
僕らが想像していたものと違うゲーム性や内容だと判断したらお断りすることもあります。その際は、必ず想定販売数や日本で受け入れにくい箇所などをリポートにまとめてお渡ししています。そのライセンスを受けるときに大事にしているのが、「当社が関わることで、他社よりもっと売れる可能性があるのか?」です。どこが発売しても結果がさほど変わらないなら、当社が中途半端に関わらなくていいと思っています。『ARK』のときは、Wildcardの社長に「○○万本売ります!」って言ったら即決してくれましたね(笑)。
スパチュンのメンバーは、英語版からかなりゲームをやり込んでいて、「日本でいちばんこのゲームのことを知っている」というところまで気持ちを高めてローカライズに挑んでいます。まあ、言ってみれば洋ゲーおたくの集まりです(笑)。
ローカライズをするかしないかの基準は、単純におもしろいかどうか
――スパイク・チュンソフトでは、インディーゲームの発掘もしていますね。
飯塚
大前提としてインディーゲームだから、AAAだからとタイトルを評価していません。つねに僕らがおもしろいいかどうかで判断しています。ご縁があったタイトルが偶然独立系の会社が作ったタイトルだっただけです。
たとえば『ホットライン・マイアミ』はそのうちの1本ですね。プレイしたらめちゃくちゃ楽しくて、「絶対にやりたい!」ということで、日本だけですがパッケージ版をリリースするために『1』と『2』をバンドルセットにして販売させてもらいました。開発メンバーもすごく喜んでくれて、日本だけのパッケージアートを描き下ろしてくれました。
本当にインディーゲームだからどうこうというのは考えてなくて、単純に「このゲームいいな、おもしろいな」というものがあった場合は、とりあえず連絡を取って交渉し始める感じです。
『クリプト・オブ・ネクロダンサー』(2016年)とかもそうで、その後、『ケイデンス・オブ・ハイラル: クリプト・オブ・ネクロダンサー feat. ゼルダの伝説』(2019年)につながっていくことを思うと、世の中何が起こるかわからない感じですね(笑)。
――ところで、ローカライズにあたってはどのような方針なのですか?
飯塚
とりあえず修正はしたくないですね。基本できるだけそのままでリリースしたいという気持ちはあります。けれど、日本で出すためにはルールがあるので、どうしても無理というところに関しては、やはり修正せざるを得ません。そんなことも含めて、ユーザーさんに正しく伝えるということは、念頭に置いています。
あとは、できる限り世界同時発売はしたいですね。
――それは気にするゲームファンも多いでしょうね。
飯塚
日本のマーケットを考えたときに、欧米地域のほうが重要だという判断をするパートナーさんもいるのは事実です。そこをどうにか交渉していって……というのは、腕の見せどころではあります。海外からの熱量や情報に敏感な日本のユーザーさんも多くて、その熱量の高いうちに日本でも販売していきたいというのは、取り組んでいきたいことです。
ただし、2023年12月に発売した『バルダーズ・ゲート3』に関しては、そこはあえてちょっと変えました。そもそもパッケージ版は日本でしか出していないんです。海外では、8月にPC版が配信されて、アップデートを重ねてPC版バージョン1.0にしたタイミングで、コンシューマー版が10月にリリースされました。日本で出すのならやはりバッケージ版はほしいということになって、そうするとどんなに急いでも11月末ころになってしまうという話になったんです。
だったら、11月末を目標に……ということで動こうとした矢先に、『バルダーズ・ゲート3』が5大Game AwardのひとつめのThe Golden Joystick Award 2023にノミネートされまして。メタクリの点数も高かったし、ユーザーの熱量も知っていたので、これは、たぶん12月のThe Game Awardsで“ゲーム・オブ・ザ・イヤー”(GOTY)を取るかもしれないと思い、The Game Awardsの後に発売したほうがいいのではないか……と判断しました。
なぜかと言うと、『バルダーズ・ゲート3』は、日本ではまだまだ認知度が低い『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の世界観のタイトルです。それが、The Game AwardsでGOTYを取ったらそれなりの注目は集めるはずだ、ということでマーケティングやセールス担当と話をして、The Game Awards後に発売日を切り替えました。結果は本当にGOTYを受賞して、大いに盛り上がってくれました。何しろThe Game Awardsで6冠ですものね。取れなかったらどうなっていたのかな……(笑)。
※関連記事:“ゲームアワード 2023”受賞作まとめ。『バルダーズ・ゲート3』がGOTYを始め6冠に。『Alan Wake 2』は3部門で受賞【The Game Awards】
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The Game Awardsを始め、2023年の各賞を独占した『バルダーズ・ゲート3』。
――狙い通りだったと。ローカライズにあたってはそういったことも気にしつつなのですね。
飯塚
そういう神がかったタイトルもたまにはあります。やっぱりタイトル自体が持っているんですよね。運というか……。ですので、リリースタイミングというのも、いつも気にします。
――冒頭でお話ししたように、スパイク・チュンソフトはローカライズを26年にわたって継続してきているわけですが、そういった取り組みの成果の賜物と言えそうですね。
飯塚
継続は力なりと言いますよね。まあ継続できたのは、スパイク・チュンソフトのファンというよりも、洋ゲーファンが日本にいてくださることでしょうか。やはりファンの方がいなかったらビジネスとして成り立たないので。
開発会社さんやパブリッシャーと良好な協力関係を築けているのも大きいです。日本のユーザーさんが喜んでくれる施策に対して、彼らが積極的に取り組んでくれるんです。
あとは、スパチュンのマーケチームやセールスチーム。洋ゲーの取り扱いのノウハウはかなりあると思っています。展開のやりかただったり、セールスのアプローチの仕方だったりというのは、とても信頼しています。スパチュンが手掛ける洋ゲーに関しては、ゲームショップに持っていっても、“安心して取り扱いができる”という安心感を持っていただけているのではないかと自負しています。
信頼関係が、いろいろなパートナーさんとうまく共有できているということではないでしょうか。
――ファンに近い立ち位置で取り組んでいるというところがあるのでしょうか。
飯塚
そうですね。これは洋ゲーのみならずだと思うのですが、ユーザーさんの顔を想像しながらやっていかないといけないというのはあると思います。ゲームを買ってくれるユーザーさんの喜んでくれる顔を想像しながら取り組んでいくことが、先ほどお話しした透明性にもつながっていくのではないでしょうか。
実際のところ、僕らの私利私欲を優先して何かをするのではなくて、「ユーザーさんに喜んでもらいたいから、こういうことをしたい」ということをデベロッパーなりパブリッシャーに伝えると、喜んで「だったら協力するよ」となるんです。その積み重ねで信頼関係が築かれていくんです。
――ビジネスではあるけれども、大事なことですね。
飯塚
海外のデベロッパーやパブリッシャーにしてみれば、彼ら自身がゼロから作った大事な子どもを、言ってみればホームステイさせるようなものですよね。ホームステイ先としてみれば、ちゃんと育てて返さないといけないというところがあると思うので、大事にしないといけない。
だから、ローカライズのメンバーは、おのずといつでも仲よくなっていますね。ビジネスの付き合いを越えて、子どもが生まれたりするとお祝いとかをプレゼントしたりします。開発者が仕事とは関係なく日本に来ることがあっても、いっしょにご飯を食べにいったりとか……。
6年継続している北米法人の取り組みに大きな手応え
――いい関係を築かれていますね。スパイク・チュンソフトの海外市場への取り組みのことも聞かせてください。スパイク・チュンソフトでは、2017年には北米法人を設立していますが、海外展開での手応えを教えてください。
飯塚
設立から6年経ちました。少数精鋭でスタッフは10名です。これまでに約40タイトルをリリースしています。当社タイトルやパートナーのMAGES.さんのタイトルを欧米で拡販展開していくことを主目的に設立した法人です。6年コツコツとやってきたおかげで、海外のスパチュンタイトルのファンがどんどん成長している手応えはすごくありますね。
なかでも、当社が海外ユーザーに一目置かれているジャンルとして、ビジュアルノベルがあります。『ダンガンロンパ』シリーズや『極限脱出』シリーズ、『AI: ソムニウム ファイル』、『シュタインズ・ゲート』シリーズなどがすごく盛り上がってくれていて、年々スパチュンのファン層が成長してくれるのがうれしいです。
スパチュンでは、毎年ロサンゼルスで開催されるアニメ・エキスポで、パネルといういわゆるプレゼンテーションを毎年実施しているのですが、キャパはそんなに大きくないながらも毎回満員になるほどの盛況ぶりです。やっていかないといけないことは、まだまだたくさんあるのですが、とりあえずファンがいてくださるというのが、僕らとしてみればすごくうれしいです。
もちろん、まだまだいまの状況に満足せず、ひとりでも多くのスパチュンファン&コミュニティーを育てていきたいです。
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今年のアニメ・エキスポの壇上から。ファンがぎっしり。
――この6年で大きな手応えを感じているのですね。
飯塚
そうですね。スパチュンは日本の会社なので、やはり日本のコンテンツに期待してくださっているのかなと思っています。彼らが喜ぶコンテンツは定期的にお届けしたいです。そして、さらに充実した市場にしたいので、さきほどのローカライズタイトルといっしょですが、“スパチュンが出したほうが売れる”という運命を感じる作品を、今後もどんどん提供していきたいと思っています。
――米国法人では、スパイク・チュンソフトやMAGES.のタイトルに限らず有望なタイトルを取り扱うのですか?
飯塚
はい。僕らが伝えられるファンは見えましたし、僕らが発言することによって聞いてくれる耳がちゃんと存在することもわかったので、そんな彼ら彼女たちに、「こういう展開もありますよ」という横の広がりを、強みとしてアピールしていきたいです。言ってみれば、ファンを裏切ることなく、時間をかけてこれからも育てていきたいですね。スパチュンがFPSとか出したら、「なんで?」とびっくりされるでしょうし(笑)。
――アドベンチャーというジャンルに限りはしないかもしれないけれど、スパイク・チュンソフトというブランドに期待されるものと親和性が高い日本のタイトルを出していきたいということですか?
飯塚
はい。物語性ですね。ナラティブ性の強いものかな。米国法人でも当然のことローカライズの品質には気を配っていて、メタクリティックのスコアも含めて、ユーザーさんの満足度も高いです。ローカライズのスタッフは言ってみれば和ゲーおたくなんです(笑)。日本のゲームが大好きで、彼らがいちばん和ゲーファンに近いところにいます。彼らの考えかただったり、好みだったりが、和ゲーファンに合致しているんですね。
カルチャライズにしても、米国法人のスタッフが取り入れることによって、欧米のファンが感動してくれることが、スタッフ自身にとっても喜びになっているのでしょうね。ささやかなことですが、そんなことを見ていると、海外市場での展開もうまくいけるかなと思います。
良質な“和ゲー”を海外に展開する手助けを
――そういった、展開を受けて、今回新しい事業に取り組むのですか?
飯塚
はい。欧米での家庭用ゲーム機向け展開やSteamでの展開のノウハウを活用して、日本・アジアのパートナーさんのタイトルの海外パブリッシングのサポートに取り組もうと思っています。やっと、パートナーの皆様に、僕らが培ったグローバルパブリッシングのスキルやノウハウなど、当社のサービスを提案できる段階まできました。これからはパートナーさんのタイトルを預からせていただいて、グローバルで成功できるよう微力ながらお手伝いできればと思っています。
――言ってみれば、良質な“和ゲー”を、海外向けに展開するわけですね。これまで培ってきたノウハウが生かせる、と。
飯塚
そうですね。とはいえ、いかにそのタイトルに対して親身に向き合って、パートナーさんやユーザーさんに透明性を持って接していくか、最終的には洋ゲービジネスで培った熱意(ハート)だと思っています。米国法人のメンバーは、この6年間でその熱意の重要性に関しては十分理解していますし、最近は熱すぎる気もしています(笑)。
――スパイク・チュンソフトならではの強みというと、やはりローカライズですか?
飯塚
はい。ローカライズのサポートももちろんいたしますし、マーケティング関係も当然サポートします。とはいえ、僕らも万能ではないので、僕らが得意なもの、不得意なものは当然存在します。さすがに、あらゆるタイトルすべてを……という気はないんです。
僕たちが協力することによって、その作品が少しでも世界に浸透して売れるためのお手伝いができるタイトルかどうか、偉そうなことを言いますが、選ばせていただければと思っています。ただ、誤解しないでほしいのは、僕らだけが選ぶ訳ではなく、これからごいっしょするパートナーさんも、「スパチュンでいいのか?」を考えて選んでくださいということです。
僕らの信念として、スパチュンが発売するタイトルを待ってくれている、期待してくれているファンを裏切ることはできません。タイトルの選定も真摯に取り組んでいかなければダメだと思っています。なんでも無作為にタイトルを発売しても、結果ユーザーさんもパートナーさんも当社も、誰ひとり幸せにはなりません。
ビジュアルノベルやアドベンチャーゲーム、ストーリーが売りのゲームに関しては、実績と自信がありますので。ちなみに、今回の事業を展開するうえで、きっかけのひとつとして、当社のSteamビジネスが順調に成長していることもあります。
――Steamは日本でも重要なプラットフォームのひとつになっていますね。
飯塚
すごく活性化していいチャンネルになっています。Steamのそれぞれのパブリッシャーは、個人経営のセレクトショップみたいなものです。さらに、それぞれのパブリッシャーには色があって、たとえばスパチュンはおもしろいアニメ風のビジュアルノベル商品が揃ったお店として、世界中のニッチな層に人気があるオタク系店舗として認識されているかもしれません(笑)。
しかし、それがSteamで成功するために重要なことだと思っています。つまり、特徴を持ったお店にして、常連客(リピーター)が来てくれるお店を作り、そこから口コミで常連客を増やすべきかと。年間10000本以上の新作が発売されているSteam市場で1本ひとつのタイトルに目を止め、そして購入まで到達するのは至難の業です。巨大なSteamマーケットでゲームをどうやって売っていけばいいのか、そのためにはどういうふうに展開すべきかノウハウが必要になります。
――スパイク・チュンソフトにはそのノウハウがあると?
飯塚
万能ではありませんが、2016年からSteam上でパブリッシングさせてもらっているので、それなりにノウハウはあります。最初にリリースしたのが『ダンガンロンパ』で、そのつぎに『スーパーダンガンロンパ2』を出して、『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』や『428 〜封鎖された渋谷で〜』をリリースして……と、欧米向けの自社パブリッシングとしてのスタートはSteamだったりします。
とくにビジュアルノベルというジャンルになると、先ほどお話ししたように当社の認知度は高いです。まず、そのファンが興味を持ちそうなタイトルをリリースすることで、成功率を上げる自信もありますし、さまざまな相乗効果が得られるかなとも思っています。
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スパイク・チュンソフトのSteamサイト。
――今回の事業では、日本などではすでに発売されているもの、もしくはほぼ完成しているものが中心となるのでしょうか?
飯塚
基本的にはライセンスビジネスになるかと思います。欧米地域に関しては、海外展開のパートナーを探しているメーカーのひとつの選択肢でありたいというイメージです。
――お手伝いするのは、基本的にSteamタイトルなのですか? コンシューマー向けはやらないのですか?
飯塚
いや、コンシューマー向けも合わせてです。欧米地域のコンシューマー向けとワールドワイドのSteamです。
――今回の取り組みで、すでにスパイク・チュンソフトからパブリッシングすることが決まっているタイトルはあるのですか?
飯塚
お陰様で、すでに数社とのビジネスがスタートしています。
――日本メーカーのタイトルなのですよね?
飯塚
そうです。とくに交渉事に関しては、自信があります。たとえば、ファーストパーティーとのいろいろな交渉ってなかなかできないと思うので、スパチュンを使ってもらえれば、交渉できる場はあります。
――SteamのValveとも直接話をしているのですか?
飯塚
はい。タイトルの説明や、グローバルでの展開内容などを直接説明させてもらっています。ファーストパーティーに対して交渉していくのは、パブリッシャーの仕事だと思うので。さきほどお話しした通り、洋ゲーの日本でのパブリッシャーはスパチュンで、タイトルを日本でどうやってうまく売っていくかときに、ファーストパーティーと交渉したり、プロモーションのためにメディアとやり取りしたり……というのは当たり前にしていますが、実際どうやるのかは誰も教えてくれません。そのへんのノウハウに対しても、責任を持って僕らがサポートしていきます。
――今回のプロジェクトでは、どれくらいのタイトル数を想定しているのですか?
飯塚
たくさん数を取りたいわけではないんです。僕らがいいと思うゲームで、パートナーさんともゆっくり時間をかけていい関係を築きたいですし、当たり前ですがタイトルを成功させたいです。
――やるべきことをやれる範囲でという感じでしょうか。
飯塚
そうですね。プロジェクトの大小に関わらず、同じ熱量で取り組んでいかないといけないという気持ちでいます。
というところで考えると、おそらく年間10本くらいが適量ではないでしょうか。僕の勝手なイメージですけど。
“いいタイトル”という言いかたも難しいですね。
――クリエイティブ的に“いい”というだけではなくて、スパイク・チュンソフトとの相性など、いろいろなものを含めて“いいゲーム”ということですね。
飯塚
その通りです。スパチュンがお手伝いすることでさらに輝くゲームというか、お手伝いしたくなるゲームと言いますか。とはいえ、こちらがお手伝いしたいと言っても、相手が「ノー」ということもあるので、それは運命みたいなものですね。
――両思いになるように……と。
飯塚
そう。おっしゃる通りだと思います。だから、僕らがどうしてもその作品をお手伝いしたいと思うようなタイトルに巡り合えたらいいなと思います。
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スパイク・チュンソフトのことを知ってもらうためにBitSummitに出展
――いずれにせよ、海外進出を考えている日本のメーカーにとっては朗報と言えそうですね。
飯塚
とはいえ、本格的な取り組みはこれからで、まずはとにかく未来のパートナー各社さんと顔を合わせ、お話ししたいことがいろいろとありまして、このたびBitSummit Drift(※)にブースを設ける形で出展することにしました(笑)。
※ BitSummit Drift……7月19日~21日(19日はビジネスデイ)に京都市勧業館みやこめっせで開催される日本最大級のインディーゲームのイベント。――BitSummitの会場で新事業をお披露目するのですか?
飯塚
いえ、まず会ってお話をするというのが、僕のビジネススタイルでもありますし、お互い顔を合わせ話さないと、これからのよい信頼関係は生まれないと思っています。
そこで、BitSummitにブースを設営して、どなたでも気軽にお話ができる場を作ります。
――試遊台などを出展するわけではない?
飯塚
ないです。今回のコンセプトは“スパイク・チュンソフト・カフェ”です。コーヒーなどを飲みながら、ゆったりとした環境でお話ができればと思っています。パイプ椅子で、壁に囲まれた狭い場所では、よい関係は築けないですからね(笑)。ちなみに完全にオープンです。
――あの会社の人がスパイク・チュンソフトの人と話しているということがバレてしまう(笑)。
飯塚
いいじゃないですか。「まずは、仲よくしましょう」という場なので、そこでいきなり数字を突き合わせて……なんていうことはしないです。ご挨拶代わりの顔合わせというところでいいかなと。
――ビジネスデイはいいとして、一般日はどうするのですか?
飯塚
一般のユーザーさんと商談をするのもおもしろいかもしれませんね。それはまた別の機会で、世界のユーザーの皆さんとの交流会はしてみたいですね。
それはそれとして、この記事を見て弊社とのミーティングをご希望する方はぜひご連絡ください。スケジュール調整させていただきます!
スパイク・チュンソフトとのミーティングを希望する関係者のご連絡はこちら→ask-partner@spike-chunsoft.co.jp