※本記事は、2023年10月30日にアップした記事を再編集したものです。「メガテンと言えばコレ!」というイメージを決定づけた、偉大なる真シリーズの始まり
いまから32年前の1992年(平成4年)10月30日は、スーパーファミコン(SFC)用ソフト『真・女神転生』が発売された日。
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『真・女神転生』は、アトラスから発売された3DダンジョンRPG。ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)が販売していたファミリーコンピュータ用ソフト『デジタル・デビル物語 女神転生』と『デジタル・デビル物語 女神転生II』のシステムや悪魔召喚プログラムなどの概念などを受け継いだシリーズです。過去の『デジタル・デビル物語 女神転生』の記事でも触れましたが、本作はファミコンで展開した2作品から世界観や登場人物を一新したオリジナルの作品。まったく違う新たなシリーズとなっています。
『女神転生十年史』(アスペクト刊)の冒頭に掲載されているシリーズ年表でも、『真・女神転生』以降のシリーズは“ALTERNATE WORLD”という別の時間軸として表記。ファミコンのシリーズ2作品とは完全に異なる世界を舞台にしたシリーズとなっています。
何より大きいのが、本作になって初めて現代・東京が舞台になったこと。じつは、ファミコン時代の2作品だと謎の大魔宮や崩壊した近未来の世界が舞台であり、現代の東京は描かれていませんでした。『女神転生』シリーズと言えば東京がたいへんなことに……というイメージも強いと思いますが、その始まりはここから。199X年の東京・吉祥寺から、すべてが始まったのです。
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記号的に表現された全体マップがとてもクール。ちなみに、主人公の現在の属性によって、アイコンの回転方向が変わりました。
当時の日本は、1999年7の月……でおなじみノストラダムスの大予言が大流行。本当に世界が破滅することはないと思いながらも、どこか不穏な雰囲気が拭い去れない世紀末の世相でした。パソコン通信はあっても一般家庭にネットが普及していないこともあり、オカルトや未知の存在への畏怖がいまよりも強かった時代だと記憶しています。
本作は、そんな時代の空気感が漂う作品。いまから見ると理解しにくい部分もあるかもしれませんが、当時の肌感覚としては「世紀末だし何かありそう……」という不気味なリアルさを感じていました。
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それは恐らく、現代の日本から始まる設定だったのも大きいと思います。吉祥寺に住んでいるふつうの青年が、やがて神と悪魔の壮大な戦いに巻き込まれる。現実の延長上にある世界だからこそ“本当にありそうな物語”として、身近に感じていたのかもしれません。
謎の啓示を受ける夢から、パソコンに届いた“悪魔召喚プログラム”を受け取ることで物語が動き出す導入部は、いまでも語り草になるほどのインパクトがありました。のちのシリーズでも、平和な日常から崩壊した世界への転換や常識が崩れていく流れが描かれることがありますが、何度遊んでも冒頭の吉祥寺からアメリカ大使館にいたるまでの序盤は忘れられません。
TOKYOミレニアムから始まり、地下世界やさらに先まで物語が広がる『真・女神転生II』。序盤の東京受胎で人類が全滅し、ボルテクス界と化す『真・女神転生III』。東のミカド国からケガレビトの里に降り立ったときに誰もが驚く『真・女神転生IV』。ダアトと呼ばれる破壊された東京と、平和な日常を過ごす東京が並立している『真・女神転生V』と、形や手法を変えながらも平和な世界と崩壊した世界の対比。
価値観の転換を迫られるのが、ナンバリングの『真・女神転生』シリーズが共通して持つよさですね。その始まりにして、高い完成度を誇る作品だったと思います。
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主人公の目が覚めるところから物語が始まる、という流れもナンバリングの共通点でした。
それくらい、初代『真・女神転生』の衝撃は凄すぎました。街を騒がせている殺人事件。戒厳令の発動。平穏な日常が狂い、やがて悪魔たちが出現する世界へと変わって……。現実が壊れていく描写がとても秀逸でしたし、リアルとオカルトや現実と架空のバランスが絶妙なシナリオだったと思います。
「お休みの間、悪魔に肉体を乗っ取られぬようにお気をつけて……」というセーブ後の文章ですら、キレッキレのハイセンス。ゲームオーバーになると三途の川を渡っていく描写があるのも、ほかにない表現でした。
アトラスのRPGはゲームオーバー画面の表現に並々ならぬコダワリを持っている作品が多く、毎回どのような死後の世界を描いてくれるのかが楽しみでした。それは、いまの『ペルソナ』シリーズにも受けつがれています。ただゲームオーバーになるのではなく、そうした細かい表現にもこだわるからこそ、アトラスのゲームはいまでも独自性を保ち続けていますし、ファンが多いのではないでしょうか。
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いわゆる“東京が崩壊したあとの世界で戦うメガテンのイメージ“を決定づけたのは、前作の『デジタル・デビル物語 女神転生II』。メガテンというイメージの半分は前作が作り上げたものですが、残り半分のイメージは『真・女神転生』の影響が大きいはず。
ロウやカオス、ニュートラルへの属性変動やそれに伴うストーリー分岐。平和な日常の崩壊。ドライな人間関係ながら忘れられないストーリー。短い出番でも強烈な印象を植え付けるキャラクター。まさに、いまの“メガテン”のイメージを大きく作り上げた作品であり、どうしても初代と比較されてしまうくらい、偉大なタイトルです。金子一馬氏による悪魔のイラストもドット絵もすばらしい!
チェハンやチュルルックといった3D化していない悪魔たちも、いつかまた見たいものですね。ちなみに、悪魔の人気はもちろんキャラクター人気も高く、攻略本以外にファンブックも存在していました。
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私物のファンブックと攻略本の一部。小学館の攻略本にある公式設定なのか怪しいイントロダクションや、CGで作り直した街のイメージ画像はお気に入り。
直接的な続編となる『真・女神転生II』のほかに、『真・女神転生NINE』などの東京大破壊が起点となる外伝作品もいくつか存在しています。それとは逆に、本作とは違う平和な日常が続いたパラレルなシリーズ展開もありました。たとえば、『真・女神転生 デビルサマナー』の作中では、喫茶アフロにあるTVのニュースで『真・女神転生』の登場人物が逮捕されています。事件が未然に防がれているため、『真・女神転生』とは違う世界なのだとわかる仕掛けですね。こうした繋がりやパラレルワールド的な関係を示すお遊びを探すのも、長く続いたシリーズならではでしょう。
いまでは完全に独立したシリーズとなった『ペルソナ』ですが、じつは旧作の『女神転生』や『真・女神転生』を思わせる要素もあります。たとえば、『ペルソナ4』のボイドクエストでは『真・女神転生』の母親と同じセリフが流れる場面が存在。『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』では、『真・女神転生』にも登場した吉祥寺のアーケード街が追加されました。
アーケード街を歩いていると、その再現度もさることながら時の流れと技術の進歩に感動できます。ダーツバーなどで流れるBGMも『真・女神転生』の吉祥寺・2Dマップで流れた曲のアレンジですね。まったく違うシリーズですが、間違いなく『真・女神転生』から続くアトラス作品の血が流れています。
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『真・女神転生』における吉祥寺のアーケード街。昔のゲームなので背景は非常に殺風景ですが、それが逆に不気味さを引き立てていて臨場感がありました。
夢で見た親友たちやヒロインと出会い、神と悪魔の戦いに巻き込まれながら、自分の取った行動で変わっていく属性と運命。初代『真・女神転生』がいまでも我々を惹きつけるのは、人間の描写や属性の描きかた、神や悪魔たちの存在を描いた物語のバランスがよいからでしょう。もちろん、近年の作品に比べるとテキスト量は少ないのですが、ストーリーのおもしろさは負けていません。
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ショックな出来事があったあと、主人公に対して声を掛けるふたり。短い台詞の中に、お互いの気遣いや性格が垣間見える秀逸なテキストです。
恋人を捜すために行動をともにするロウヒーロー。オザワたち不良集団にいじめられながら、より強い力を求めて仲間になるカオスヒーロー。性格も思想も違うふたりの友人と行動し、離れ、思想がすれ違い……確実に親友だと思えてくる話の流れがうまいんですよ。よく考えると出会ったばかりなのに、夢で見ただけで初めて会った人なのに、いつの間にか長年の親友だったような感覚になるのです。
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プレスターンを採用した『真・女神転生III』以前の作品なので、バトルは非常にオーソドックス。6人パーティーであることなども含めて、最近の作品から入ったユーザーがNintendo Switch Onlineで遊ぶと驚くと思います。ですが、悪魔との会話やボス悪魔のカッコよさ。根底に流れる女神転生らしさの源流は、いま遊んでも色褪せないはず。
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BGMも含めて、いけないことをしているような気持ちになれる悪魔合体。世界情勢がやや不穏ないまだからこそ、逆にリアルさもある東京大破壊。日常が続いていくからこそよいいまの 『ペルソナ』シリーズとはまた違った、日常が壊れていくからこそよい『真・女神転生』ならではの背徳感。SFCの作品ですが、まさに求めるメガテン要素のすべてが濃縮して詰め込まれているのが本作なのです。
それから、増子司(増子津可燦)さんのBGMも最高ですね。とくに人気が高い『銀座』は、近未来的な雰囲気がシビれる自分も好きな曲のひとつ。戦闘もマップの曲もすばらしいのですが、自分はいまでも『廃墟』が好き。スマホに入れて聞いています。崩壊した世界をこんなに美しく彩る曲は、まさに『真・女神転生』を象徴するBGM。ゲーム中で歩いていると、すぐにガイア教徒しょけいライダーなどが出てくるので、よく足を止めて聴いていました。
すでにレトロゲームの範疇に入る作品ではあるので、システムや遊びやすさの面では現代の作品にかなわないかもしれません。しかし、短くも必要最低限なものが用意されたテキストも、心に残る物語も、悪魔の存在感も、そのすべてに『女神転生』として必要なものが揃っている作品だと思います。
いま見てもすばらしいと言い切れますし、時代を越えて残していくべき作品でしょう。いや、むしろいまの時代だからこそ遊んでほしい! メガドライブミニ2をお持ちの方はグラフィックや曲が大幅にアレンジされたメガCD版を、Nintendo Switch OnlineではSFC版を遊べます。最近の作品から入った人も、ぜひこの機会に触れてみてください。いまに続く作品の礎となった濃さが、きっと伝わると思います。
※使用している写真は一部Nintendo Switch Onlineの『真・女神転生』を含んでいます。