『.45 パラベラム ブラッドハウンド』開発者インタビュー。『VA-11 Hall-A』の生みの親がいまこのゲームを作る理由。『killer7』をはじめとした須田剛一作品からの影響も【BitSummit Drift】

by小林白菜

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『.45 パラベラム ブラッドハウンド』開発者インタビュー。『VA-11 Hall-A』の生みの親がいまこのゲームを作る理由。『killer7』をはじめとした須田剛一作品からの影響も【BitSummit Drift】
 2024年7月19日(金)~21日(日)の3日間、京都・みやこめっせにて開催されたインディーゲームの祭典“BitSummit Drift(ビットサミット ドリフト)”に出展されたSukeban Games(スケバンゲームズ)の新作『.45 パラベラム ブラッドハウンド』(.45 PARABELLUM BLOODHOUND)。

 本稿では、デモ版をプレイ後に行われた開発者インタビューをお届け。『VA-11 Hall-A ヴァルハラ』の生みの親でもある“Kiririn(キリリン)”ことChristopher Ortiz氏は、なぜいま完全新作アクションアドベンチャーを発表したのか?

 また、担当ライターがデモ版をプレイして色濃く感じた『killer7』(キラー7)からの影響をはじめ、須田剛一氏のゲームから受けた影響についても、じっくりと聞くことができた。
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Christopher Ortiz(Kiririn)クリストファー・オルティス

Sukeban Games所属のゲームディレクター。ベネズエラ出身で、現在はアルゼンチン在住。アドベンチャーゲーム『VA-11 Hall-A』を手掛け、世界中で高く評価された。現在は『.45 パラベラム ブラッドハウンド』を開発中。本作の完成後、開発がストップ中の『VA-11 Hall-A』続編、『N1RV Ann-A(ニルヴァーナ)』の開発再開を予定している。

『45pb』は『VA-11 Hall-A』と同様、ストーリー重視のゲーム

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――『.45 パラベラム ブラッドハウンド』というタイトルは、なんと呼べばいいのでしょう?

Kiririn
 オフィシャルな略称などはまだ決まっていませんが、私たちは「パラベラム ブラッドハウンド」の部分で呼ぶことが多いです(※)。
※ちなみに後日Kiririn氏のX(Twitter)アカウントをチェックしたところ、文字で書く際には『45pb』と略すことが多い模様。なので本稿でもこれ以降『45pb』と表記する。
――では私も「パラベラム ブラッドハウンド」と呼ばせていただきますね。日本では『VA-11 Hall-A』のファンが多く、『N1RV Ann-A(ニルヴァーナ)』より先に本作が出ることに驚いた人も多いと思います。この開発順になった経緯をお聞かせいただければと思います。

Kiririn
 それについてはいろいろとあったんだけど、そもそも『45pb』はけっこう前からProject D』という仮タイトルで、『N1RV Ann-A』とはチームを分けて平行して開発を進めていました。

 その中でより早く形になったのが『45pb』だったから、全員でこのゲームに注力して、完成させてから『N1RV Ann-A』の開発を再開することにしたんです。『45pb』のノウハウも『N1RV Ann-A』に活かせるから、以前のバージョンよりもっといいゲームにできると思います!

――どちらもすごく楽しみです。Sukeban Gamesとしては、アクション要素のあるゲームは初挑戦でしたよね? 新たなジャンルに挑戦した理由をお聞かせください。

Kiririn
 『VA-11 Hall-A』のゲーム内で遊べるシューティングのミニゲームを除くとそうなります。『VA-11 Hall-A』の開発が続いた反動で、今度はアクション要素が強いゲームも作りたくなったんです。ただ、純粋なアクションゲームにする技術はまだなかったこともあり、アクションとRPGの中間のようなゲームを目指しました。

 もともと大好きな『パラサイト・イヴ』みたいなゲームを作りたいとずっと思っていたのですが、結果的にかなり近いゲームになりました。だんだん開発に慣れてきたので、複雑な動きをするボス戦なども組み込めるようになってきています。
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――BitSummitで試遊できたデモはゲーム序盤の部分だと思うのですが、このあとの展開で攻撃手段が増えたり、システムが追加されたりといった、より複雑なゲーム性に変化していったりするんでしょうか?

Kiririn
 まったく新しいシステムがあとから追加されるようなことは考えていないのですが、バトルの戦術はもっと奥深いものになっていきます。

 デモ版で使えたのは、武器はハンドガン、鉄パイプ、ショットガンの3種。スキルは回復と電撃の2種だったんだけど、将来的には武器ならスナイパーライフルなどが追加されて、選択肢が増えていくんです。武器によって攻撃範囲・アクションバーの上昇速度が変わるので、スキルとの組み合わせなど、いろいろ試して楽しんでほしいですね。

 もちろん、ストーリーについても同じくらい期待していただきたいです。チャプター1ではまだまだ謎めいた部分が多いけれど、先に進めば新キャラクターなども登場して、ダイアログからいろいろな事実が明かされます。ストーリーがゲームのメインというのは
『VA-11 Hall-A』から変わっていません。
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主人公・レイラのラフ。額に“第三の目”がある理由もストーリーが進めば明かされる?

『killer7』などからの多大な影響も含めて「これが俺が作るゲームだ!」と言いたい

――Kiririn氏は須田剛一氏のゲームがお好きだとお聞きしています。『45pb』はいたるところから須田さんの代表作『killer7』の影響が感じられたのですが、この印象は合っていますか?

Kiririn
 (すごくいい声で)そうなんです! 『45pb』は『killer7』からとても影響を受けています。

――おぉっ!
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『killer7』(画像はSteamストアページより)
Kiririn
 意図的に『killer7』に近づけたわけじゃないんです。バトルシステムは『パラサイト・イヴ』を参考にすることが決まっていたんだけど、それ以外は自分のカラーが出せるように、外部からの刺激を可能な限りシャットダウンしながら『45pb』は開発していました。でも、気付いたら『killer7』を彷彿とさせる要素が増えていたんです。

――自分の内側ですでに大きな存在になっていた『killer7』の影響が自然とにじみ出た?

Kiririn
 その通りです。

――これは極めて個人的な感じかたかもしれないのですが、主人公のレイラが倒されるたびに目覚める赤い扉の部屋と、そこに佇む奇妙な人たちからは“ハーマンズ・ルーム(※1)”やイワザル(※2)を連想しました。あとは、自宅を出る前にボストンバッグを携えるレイラの姿がガルシアン・スミス(※3)に重なって……。
※1『killer7』に登場するセーブポイントなどが配置されたセーフティールームのこと。 ※2『killer7』に登場する全身に拘束具を付けた男。「我はハーマンの名の下に……」 ※3『killer7』のプレイアブルキャラクターのひとり。スミス同盟を束ねる中心的人格。死んだ仲間を回収するため、常に横長のケースを持ち運んでいる。
Kiririn
 あ~、はいはい(笑)! うんうんうん(※)。
※基本的にインタビューは通訳を介して進行していたが、このときKiririn氏はガルシーの名前が出た瞬間、うれしそうに日本語風のあいづちを打ってくれた。
――いい反応がいただけてよかった(笑)。
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左がデモ冒頭のレイラ。右が『killer7』のガルシアン・スミス(画像はSteamストアページより)
Kiririn
 須田さんには『45pb』について個人的にお伝えしたいこともあります……。gamescomでぐでんぐでんに酔った須田さんと話す機会があって、「日本のあのタイトルみたいなゲームが作りたい」と言ったら「なんで日本なの? もっとベネズエラの味を出しなよ」みたいに言われたことがあったんです(笑)。

 このとき「たしかにそうだな」と納得したことが、『45pb』が現在の形になった切っ掛けのひとつだったと思います。須田さんの言葉で植えられた種が育ったのが、いまの『45pb』なんです。

 結果的に『killer7』っぽい要素が多くなったけど、「どこかで見たことあるな」の連続なだけのゲームじゃなくて、自分だから作れる世界を描くために大好きなゲームたちから「力をお借りしている」と思ってほしいです。最後まで遊んでくれたプレイヤーには“『45pb』でしかない体験”だったと振り返ってもらえるゲームを目指しています。
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――デモの時点で、すでに総合的な体験や語り口はKiririn氏ならではのものになっていたと感じました。“匂い立つ影響”みたいなものも楽しみながら、それも『45pb』の味わいのひとつとしてプレイしようと思っています。

Kiririn
 ありがとう! 「このゲームから影響を受けている」というのを隠すつもりはないし、『killer7』を感じてくれたことはすごくうれしいです。ゲーム開発は時間が掛かるから、なにかから受けた影響がまったく出ないというのはあり得なくて、それも含めて「これが俺だ!」「俺が作るゲームだ!」と声を大にして言いたい。

 インディーゲームは独創性を期待されることが多いけれど、どんなゲームも必ずなにかしらの影響を受けているはずです。その中でアウトプットのオリジナリティをどうやって作り出していくのか……みたいなことはいくらでも語れるので、このインタビューとは別に特集を組んでもらってもいいですよ!

――私はぜひともやりたいので、編集さんに相談してみます(笑)。

いちばんプレイしてほしい人をあえて挙げるなら“『N1RV Ann-A』を待っている人”

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――『45pb』のキービジュアルに目を向けると“CYBERPUNK ACTIVE TIME ACTION”と、今回もサイバーパンクな世界であることがわかります。同じくサイバーパンクな世界が舞台だった『VA-11 Hall-A』と世界観のつながりはあったりするのでしょうか?

Kiririn
 『45pb』と『VA-11 Hall-A』に世界観のつながりはありません。ただ、デモ版でもアナが出てくるように、いわゆるスターシステム(※)を採用しています。『45pb』に登場するアナは、『VA-11 Hall-A』のアナとは違うアナです。これを当たり前に採用しているのも須田さんの影響かも(笑)。
※スターシステム:ここでは複数の異なる世界観の作品に、同一のキャラクターを登場させることを指している。手塚治虫作品から広まった使われかただが、当の手塚治虫はハリウッド映画を意識して取り入れたものだったとのこと(手塚治虫 公式サイト参照)。[IMAGE]
『.45 パラベラム ブラッドハウンド』に登場するアナ
――『VA-11 Hall-A』は治安の悪さや貧富の差など、生まれ育ったベネズエラの情勢がモチーフだったとのことですが、この点は『45pb』ではいかがでしょう?

Kiririn
 『45pb』はサウスアメリカの架空の都市が舞台なんだけど、ソビエトやアフリカなどの歴史も盛り込んでいます。現在のベネズエラの情勢がモチーフというわけではありません。そもそも私たちは4年くらい前にアルゼンチンへ引っ越していますからね。ただ、政治的に不安定な国で生まれ育って、どういった想いを抱いてきたかというのは確実に反映されているとも思います。

 それでいえば、ゲーム内の一部テクスチャーは私がアルゼンチンで撮った写真をそのまま使っているんです。デモ冒頭の乗り物を使って移動しているシーンで使っているのは、ブエノスアイレスの地下鉄です。“バーチャルなサウスアメリカ”としても楽しんでもらえると思いますし、アルゼンチンに来る機会があるなら聖地巡礼にもなります(笑)。
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――最後の質問になりますが、『45pb』は『VA-11 Hall-A』のファンはもちろん、それ以外の人にも刺さりうるゲームだと思います。本作を日本のどういう人たちにプレイしてほしいと考えていますか?

Kiririn
 難しい質問だけど、あえて言うなら『N1RV Ann-A』を待っている人に遊んでもらって「待っていた甲斐はあったな」と思ってもらいたいです。プレイした上で「こんなもの作ってないで早く『N1RV Ann-A』を作れよ」と思う人もいるかもしれない。感じかたは自由だけど、『4pb』の開発で学んだことは絶対に『N1RV Ann-A』にも活かされるから、それも含めて楽しみにしていてほしいですね。

 めちゃめちゃアクションが難しいというタイプのゲームではないから、アドベンチャーゲームが好きという人にも挑戦してみてほしいんです。
『VA-11 Hall-A』が好きな人、Sukeban Gamesが作るゲームが好きだと感じている人はぜひ遊んでみてください!

 須田さんも『シルバー事件』、『花と太陽と雨と』を経て
『killer7』やノーモア★ヒーローズ』など、アドベンチャーゲームからアクションアドベンチャーへと、徐々にアクションの度合いが高いゲームを作るようになって行きましたよね。

 『ノーモア★ヒーローズ』でトラヴィスは、プロレスのビデオを観てプロレス技を習得します。須田さん本人にお会いしたこともあるけれど、自分のゲーム開発において無意識に指針のひとつになっていたのは、やはりモニター越しに遊んできた須田さんのゲームなんだと思います。

 意図的に同じことをしているわけじゃないし、須田さんに自分と同じ思惑があったかは分からないけど、私たちはこれからも作れるゲームの幅を広げていきたい。『45pb』の経験を活かして、将来的にはもっとアクション要素の強いゲームも作りたいと思っています。もちろん『N1RV Ann-A』がアクションゲームになるわけではないので、そこは安心してください(笑)。

――私も『VA-11 Hall-A』が大好きだからこそ、これからKiririn氏とSukeban Gamesが手掛けるまったく新しいジャンルのゲームもすごく楽しみです。さまざまな挑戦を心から応援しております!

Kiririn
 Thank you!!!
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