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『鈴蘭の剣』崎元仁氏インタビュー。“絶望の中にある希望の光”を楽曲で直球に表現。開発陣の『タクティクスオウガ』愛にも強く影響された

byNiSHi

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『鈴蘭の剣』崎元仁氏インタビュー。“絶望の中にある希望の光”を楽曲で直球に表現。開発陣の『タクティクスオウガ』愛にも強く影響された
 XD Entertainmentより、2024年8月1日にリリースされたスマホ、PC向けタクティクスRPG『鈴蘭の剣:この平和な世界のために』。戦乱に陥った古国イリアにある町“鈴蘭”で活躍する傭兵団“鈴蘭の剣”の物語を描いた作品だ。

 『タクティクスオウガ』や『ファイナルファンタジータクティクス』に強い影響を受けた本作は、同作などの音楽を手掛けた崎元仁氏も参加。本稿では、そんな崎元氏へのインタビューをお届けする。『鈴蘭の剣』の劇半制作でこだわった点のほか、名作タクティクスRPGを作り上げた崎元氏の、本作への印象なども聞いた。
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崎元仁氏さきもと ひとし

ベイシスケイプ代表取締役社長。『タクティクスオウガ』や『ファイナルファンタジータクティクス』など名作タクティクスRPGを始め、数多くのゲーム音楽を担当。近年では、『十三機兵防衛圏』などを手掛けている。

“きびしい状況でも、つねに人に対する希望を失わない”というテーマをストレートに表現し、聴きやすい音楽に


――『鈴蘭の剣』の劇伴制作のオファーが届いたときの心境はいかがでしたか。

崎元
 僕が音楽を制作するときのいちばんの原動力は、ゲームを作っている人の熱意です。今回の開発チームの皆さんは熱意と熱気に溢れていて、自分たちの作るゲームのことを、子どものような笑顔で楽しそうにお話されるんです。私もひとりのゲームファンとしてそんな皆さんといっしょにお仕事をできるのは本当にうれしいことです。

――開発チームの皆さんは、『タクティクスオウガ』を始め、崎元さんたちが手掛けたゲームのファンだそうですね。

崎元
 『タクティクスオウガ』はもう30年ほど前のゲームですよね。それほど昔のゲームいまだに愛してくださっているのは本当にうれしいですし、ありがたいことです。

 正直、10年ほど前までは、自分の昔の作品の話をするのは照れくさて居心地の悪さ感じていましたが、最近では素直に受け止められるようになりました。ですので、
『鈴蘭の剣』の開発の皆さんが僕たちの作品たちを愛してくれているというお話を聞いて、率直に喜びました。開発チームの皆さんのためにも、よい音楽ができればと思い取り組みました。
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――劇半の制作は、どのように進行していったのかお聞かせください。

崎元
 劇版を作る際にとくに重要視しているのが、作品が持つ世界観とその舞台となる現場の雰囲気です。その世界の中で生きている人々がどのような気持ちなのか、またそうなった歴史的な背景を想像するわけですが、オファーを受けさせていただいた段階で、もうすでに世界観は丁寧に作り上げられていましたし、資料もたくさん用意されていました。ストーリーの中でなぜ主人公たちが葛藤するのか、またそれをプレーヤーの皆様にどう受け取ってほしいのか明確だったと思います。

 “きびしい、悲しい状況であっても、つねに人に対する希望を失わない”というのは人間の根本的なテーマであるがゆえに、新しい作品として扱うのは簡単ではありません。そんな中でもXDの皆様が真っすぐに、自分たちが信じるものを描こうとしている姿に背筋が伸びる思いでした。このような出会いは本当に貴重でありがたいです。

 技術的には、できるだけ和音のテンションを上げない、難しいスケールは使わないというルールを最初に決めて、使用する楽器もオーケストラが中心となっていますので、聴きやすい音楽になっていると思います。

――さまざまな国や勢力が登場しますが、それぞれのテーマとなる音楽を作るにあたって、こだわった点はありますか。

崎元
 その地域に紐づけられた楽曲については、特色を出すために、さきほど挙げたルールを少し破っています。たとえば民族音楽は、オーケストラで使われているような華やかで便利な音階とは違って、変則的で限定された音階が使われています。ただ、それが特徴でもありますので、民族音楽の雰囲気を加える必要があるものに関しては、ルールからはみ出して制作しています。

 各国、勢力によって登場するキャラクターたちは異なると思いますが、彼らの心情の移り変わりなどもしっかり表現できていると思います。

――どれくらの数の楽曲を担当されたのですか。

崎元
 僕が担当したのは47曲ほどですね。オファーを受けたのが約3年前で、そこから段階的に作っていきました。発注を受けるたびに、毛色の違う曲調のものがリクエストされたり、具体的なシーンなどが指定されている楽曲などもありましたので、こんな感じの展開になっていくんだなと、自分でも物語の予想を立てながら、楽しく制作させていただきました。

――制作された音楽で、とくに印象的なものはありますか。

崎元
 テーマ曲ですね。テーマ曲の旋律はほかの場面で使われる際にもしっかりと機能するように作る必要があります。そうした制約がある中で、作中の世界の心情や雰囲気が表れるように慎重に制作しましたので、自分としては思い入れが深いですし、皆様の心に届いてくれるとうれしいです。
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――『鈴蘭の剣』は海外ではリリース済みですが、すでにプレイされた海外のファンからの反響などは崎元さんのもとに届いていますか。

崎元
 はい。海外のファンからのメッセージなどは受け取っています。すごく熱く語っていらっしゃる方のメッセージがたくさん寄せられていました。すごくうれしかったですね。

 僕らのような作曲家は、基本的に家の中でひとりで曲を書いているので、反応をリアルタイムで感じる機会がなかなかありません。ですので、作品が公開されてプレーヤーの方々からメッセージをいただけるのは、やはりうれしいですし、励みになります。

――開発チームの皆さんも崎元さんの作品のファンですが、彼らからも反応はありましたか。

崎元
 もちろん、フィードバックという形で受け取っていましたが、それとは別に直接お褒めの言葉をいただくこともありました。それと、海外のスタッフさんたちでしたが、ゲーム好き同志として、単純にゲームのことを語り合えるのは楽しかったです。僕は自分のことを褒められるのは照れてしまってダメなので、むしろそちらのほうを楽しんでいました(笑)。
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――『鈴蘭の剣』のサウンドトラックも発売予定とのことですので、改めて、本作の音楽の聴きどころなどお聞かせください。

崎元
 きびしい状況の中でも、人への希望は失わない。本作の確固たるテーマを表現するため、僕の近年の音楽制作の中では珍しく、直球で楽曲を書いたと思います。技術云々ではなく、心に直接届く曲を目指しましたので、それが皆さんにも伝わってくれるとうれしいです。

――ちなみに、本作『鈴蘭の剣』について、松野泰己さんにもインタビューさせていただきまして。その際、「盟友の崎元さんが担当しているので、それを応援したいという想いがある」とおっしゃっていました。松野さんから、直接メッセージなどは受けられましたか。

崎元
 本作の最初のトレーラーが公開されたときに、「すごい崎元っぽい曲が鳴っているゲームがあるぞ」と、メッセージを送ってくださって。「このゲームは私が担当しているんです」と返すと「お前もワンパターンだな(笑)」というようなやり取りがありました(笑)。松野さんとは随分長い付き合いでお互い気心の知れた間柄ですが、いまでも変わらず、彼らしく応援してくれたのはうれしかったです。
――ここで、『鈴蘭の剣』のゲームとしての印象もお聞かせいただければと思います。

崎元
 僕たちが、本作のようなクォータービューのゲームを作ったのが約30年ほど前ですよね。当時は、ハードウェアによるきびしい制約がありましたので、少ない選択肢の中で工夫に工夫を重ねてクオータービューという表現にたどり着いたのだと思います。

 そして現代ではハードウェアの制約がなくなり、自由に作りたいものを作ることができる時代になりましたが、いまでもクオータービューを選ぶ人たちがいることを、僕は奇妙に感じていました。もしかしたら懐古主義なのかなと。

 ですが、それは違って、
『鈴蘭の剣』の開発の皆様は本当にこの表現が大好きで、素晴らしいものだと考えているんですね。「この表現方法でないといけない」という情熱を感じました。

 私たちの世代が、ある意味ネガティブな理由でたどり着いたクオータービューという様式を、新しい世代の人々が、本当の意味で素晴らしいものに昇華してくれたのだと思います。その表現方法を信じている人たちが作り出す作品の迫力は凄いものだと驚かされました。エンタメにおいては、そういった制作者の情熱は伝わってくるんです。

――最後に、『鈴蘭の剣』を気にしているファンにメッセージをお願いします。

崎元
 本作は、タクティクスRPGが大好きな人たちが、その可能性を信じて制作していますので、素晴らしい作品になったと思います。私もそういった制作者たちの情熱に引っ張られて、音楽を初心に返ったつもりで制作しました。ゲームとともに音楽も楽しんでいただけるとうれしいです。
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