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ラーメンの屋台からこんにちは。ファミ通.comのミス・ユースケです。
ミュージシャンの椎名慶治さんによる『HIT:The World』テーマ曲『Let's HIT』。MMORPGプレイヤーの心情を歌った曲なのだけど、ミュージックビデオは屋台のラーメン屋を舞台にしていて、実直な店主と屋台を訪れるお客さんのふれあいを描いている。
まずはMV本編を見てほしい。話はそれからだ。
駆け出したくなるようなロックをBGMにねぎを切り、麺の湯切りをする。ラーメンもまさか自分が疾走感を演出する日が来るとは思っていなかっただろう。今日が新しいきみの誕生日だ。
ラーメンはうまそうだし、店主はすごくまじめそう。きっとラーメンに真摯に向き合ってきたのだと思う。つらいこともあっただろうな。店主の人生まで想像してしまう。
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絶対うまいに決まってる。
このMVには僕も出演している。『HIT:The World』を運営するネクソンさんから出演依頼のメールが来たのですぐに「いいよ」と返信した。ミス・ユースケ、役者デビューします。
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『HIT:The World』日本運営ディレクターの新たな才能
撮影日は2024年10月上旬。指定されたスタジオに行くと、すでに基本的な準備は整っていた。かつて実際に使われていたラーメン屋台のリヤカーが用意され、表には“ラーメン HIT”の暖簾がかかっている。この暖簾はわざわざ作ったらしい。
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暗がりにラーメン屋台があるだけでうまそう。
スタッフさんは映像制作のプロだ。かといってぴりぴりした空気はなく、部外者みたいな僕もやさしく受け入れてくれてありがたい。いろいろ写真を撮らせてもらう。
撮影テスト中に一眼レフカメラの操作音が「ピピッ!」と鳴ってしまったときは、「すみません……。音もいっしょに撮るときがありますので……」と恐縮しながら注意してくれた。あわわわ、申し訳ありません!
こんなに気を使ってくれたのは主演が素人だからかもしれない。
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この人が主演。
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慣れていないので、ずっと所在なさそうにしている。
ラーメン屋の店主役は『HIT:The World』日本運営ディレクターのはくしんさんなのである。人前に出るのは苦手な性格だと思うが、こういうときによく駆り出される。苦労人。
ところが、我々はこの日はくしんさんの新しい才能を目の当たりにする。ラーメン屋の格好がやけに似合うのだ。ゲーム業界一と言っても過言ではないだろう。
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この表情。
これは絶対にラーメンに30年向き合った結果、鶏ガラのシンプルな醤油味に行きついた顔だ。じゃないとおかしい。NHKのドキュメンタリー番組“プロフェッショナル 仕事の流儀”に出ていたような気すらしてくる。
実際のはくしんさんは料理を全然しなくて、もちろん演技も初めて。さらに、直後に控えたハーフアニバーサリーの準備もあって気が気じゃないという三重苦。それなのにプロの映像クリエイターの手にかかると、
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こうなる。雰囲気がある。何だかわからないけど泣けてくる。1杯にドラマがある。抑えた演技に定評のあるベテラン俳優か? ねぎの切り方だっておぼつかないというのに。
はくしんさんが食材を切ると「雰囲気はすごくいい感じです!」、「その表情いいですね!」などと励ましの言葉が飛ぶ。「雰囲気“は”」ということは雰囲気くらいしか褒めるところがないのだと思う。何としてでも褒めようというスタッフの鋼の意志を感じる。
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包丁を握るのは数年ぶりということで、ねぎやチャーシューの切り方を習う。おっかなびっくり。
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時間があくとスタッフさんがスッとイスを持ってきてくれる。ムービースターのような扱いを受けるはくしんさん。
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素人に手伝えることは何もない。待つしかないのである。
物語の舞台は屋台のラーメン屋“HIT”
カットシーンごとにテストと本番をくり返しながら撮影は進んでいく。絵コンテを見たところ、設定とお話の流れはおそらくこんな感じだ。
東京のどこかでひっそり営業する屋台ラーメン屋“HIT”。常連客の椎名慶治は店主と顔見知りで、飲み食いしながら『HIT:The World』を遊ぶのがいつもの光景だった。ある夜、疲れた様子のサラリーマンが来店。その若者はグルメ雑誌の記者だった。
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撮影ははくしんさんオンリーのカットから始まり、途中で椎名さんも現場入り。はくしんさん演じるラーメン屋店主を見て、最初のひと言は「何だよそれ!?」だった。仕事だよ。
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はくしんさんがブレてしまった。そんな彼とは対照的に余裕な表情の椎名さん(右)。
椎名さんは演技が本職ではないのにも関わらず、勘がいいように思う。監督の指示をすぐに理解する。アイデアも出す。だけど出しゃばらない。曲とは違い、このMVに関しては監督とクライアントであるネクソンさんの作品だから。
記者を演じるのは俳優の籾江悠さん。プロだけあって絶妙な演技力を発揮し、とくにラーメンをひと口すすったときの表情がいいのだ。優しい味なんだろうなとイメージが膨らむ。そういうラーメンを、僕は食べたい。
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撮影で使ったラーメンを残さず食べる椎名さん。
ところで、当初は僕が記者役を演じる案もあったらしい。たしかに取材して記事を書くのは本業のひとつだが、僕みたいに私服が派手な記者はそうそういない。とたんにリアリティが薄れるので正しい判断と言える(ふつうの服にするなら、プロの役者に頼むのが手っ取り早い)。
おかしいな、嘘なんてひとつもないはずなのだけど。
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しっかり演技をする必要があったので、僕じゃなくてよかった。
妙に演技がうまいエキストラたち
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用意していただいたお弁当を食べて出番を待つ。
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メイクしてもらいました。44歳男性のお肌がきれいに。
撮影がお昼に差し掛かると、続々と出演者が現場入り。『HIT:The World』公式エバンジェリストの反王ケンラウヘルさんは、肩の腱を切る大けがをして手術したばかりなのに、病院から外出許可をもらって参戦。すごく楽しみにしていたみたい。
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帰って寝てなさいよ。
この辺から中盤のシーンに入っていく。
若い記者は名刺を差し出し、写真を撮って帰っていった。翌日以降も屋台ラーメンHITにはいろいろなお客さんが訪れる。ラーメンを食べておしゃべりして和やかな時間。その隣りには、丁寧にラーメンを作り続ける店主の姿があった。お店が混んでくると、常連客が配膳のお手伝いをすることもあるみたいだ。
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お客さん役は椎名さんのファンが中心。2人ひと組で暖簾をくぐり、あらかじめ説明を受けた人物設定どおりに振る舞う。会社の同僚のふたり組は仕事の愚痴をこぼし、とある女性は失恋の痛みをラーメンの温もりで癒す。ガテン系の男性は豪快にラーメンをかっこむ。うまそう。
現場では実際に会話をしているのだが(MVにセリフは乗っていない)、台本なんてないのに妙に自然でスタッフ陣がどよめいた。念のためパターン違いをいくつか撮ったくらいで、全然NGが出ない。何なんだ。
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ガテン系のお兄さんは関係者。せっかくなのでと『HIT:The World』を始めたらハマってしまい、命中200まで上げたとのこと。
僕と反王ケンラウヘルさんの出番がやってきた。監督から「ユースケさんはケンラウヘルさんにラーメンを食べさせてください」と指示されたものの、どうやら僕らだけ設定がないらしい。もっと愛してよ。それならばと、本番直前に設定を考えた。設定好きな人間をなめないでほしい。
- ふたりは友だちどうし
- ケンラウヘルさんは大きな事故で入院していたが、どうしてもラーメンが食べたくなり、許可をもらって外出
- 屋台ラーメンHITは2軒目
- 僕はケンラウヘルさんが生きていることがうれしくて、1軒目でそこそこの深酒をしてしまった
- ここから2年後、プリキュアになる
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こんなことをしているふたりが運命に選ばれてプリキュアになるなんてね。
ケンラウヘルさんは右利きで、ケガをしたのは左肩。ふつうに食べられるのに僕が食べさせているのは酔っ払っているから、ということにした。
その後で「生きてて……よかったよ。心配させんなよ……」と急に泣き出す演技もしたのだが、そこはカットされていた。泥酔に対する造詣が深すぎたのかもしれない。だってほら、リアリティって大切だから。
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椎名さんに絡んで「ちょっと! お兄さんも写真撮ろうよ!」と記念撮影。20年以上の酔っ払い経験がこんなところで役に立つとはね。
ちなみに、このラーメンはちゃんとおいしかった。現場にはフードコーディネーターさんが入っていて、お客さんが入れ替わるたびに熱々のラーメンが提供される。
見た目だけならインスタント食材でも問題ないと思う。にも関わらず、わざわざ鶏ガラなどを煮込んで出汁を取り、醤油だれで味を整える本格仕様。スタジオ内のキッチンで撮影開始前から入念に準備されているなど、ラーメンにかける情熱がハイレベルである。大元はゲームのプロモーション企画ということを忘れていないか。
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「何でだよ!」とツッコみたくなるほど手が込んでいる。
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完璧なビジュアル。醤油ラーメンのイデア。
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この後、お弁当も食べたのに完食することに。どうしてビールがないのか。
スタッフさんが食事用のテーブルを用意してくれた。出番が終わった人から席につき、ほかの人の演技を横目で見ながらラーメンをすする。かと思えば椎名さんがギター片手にファンの近くにやってきて1曲歌ったりする。情報量が多すぎる。明け方に見る不条理な夢だろうか。
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平和な雰囲気の中にある唯一のノイズ
このMVでは屋台ラーメンHITに集まる人々を描いている。人が集まれば揉めごとも起きるということで、中盤ではお客さんどうしが険悪な雰囲気に。トラブルメイカー役はネクソンの染谷さんと田中さんだ。キャスティングの理由は“ガラが悪そうだから”(実際は気のいいふたりです)。
酔っているのか、金髪の男性客ふたりがちょっとした口論に。大きな声で騒ぐわけではないが、頭に血が上っているようだ。常連客の仲裁むなしく、一触即発の雰囲気が漂う。そんな中、店主から静かにラーメンが差し出された。
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今回の撮影で数少ない演技シーンは立ち上がるタイミングが重要。重点的に何パターンも撮ることになった。「おれが肩を叩くから、それを合図にしてみて」など、椎名さんからもアイデアが出る。
監督的には“平和な雰囲気の中にある唯一のノイズ”という狙いなのだと思う。ただ、ちょっと待ってほしい。どう見ても、
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どうして左腕を吊ってるんだ。(左)/その派手な眼鏡は何だ。(右)
ケンラウヘルさんと僕のほうがよっぽどノイズである。肩をケガしている理由も奇抜な眼鏡をかけている理由もわからない。“屋台=いろいろな人生が交錯する場所の表現”と言うとかっこいいが、要するに色物枠だということはうっすら気付いていた。
自分たちの存在についてケンラウヘルさんと話し合っても答えは出ない(意識の高い大学生か?)。僕らはいったい何者なんだ。MVの撮影前に自分探しの旅に出させてください。お土産に通りもん買ってきますから。
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椎名さんも「細かいことは気にするな。それがロックだから」と言っているに違いない。
なお、事前に「派手なやつがいると邪魔だから大人しめの服にしましょうか」とネクソンさんに提言したところ、「いつものユースケさんでお願いします。眼鏡も」とノータイムで返事があったので、いつもどおりの格好で臨んだ次第である。
こんなに陽気なことをしてもいいのか
映像はここから大団円に向かっていく。
屋台ラーメンHITは今日もいつもの場所で暖簾を出す。開店準備をしていると、あのグルメ雑誌記者が再び来店。手には1冊のグルメ情報誌があった。雑誌掲載の影響もあってか、お店はこれまでにない賑わいを見せるが、それでも店主の視線の先は変わらない。いつもと同じようにラーメンに向き合うだけだ。
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行列はお客さん役の皆さんや手の空いたスタッフで表現。僕も並んで、ラーメンと瓶ビールを頼んでいる。またケンラウヘルさんと食べに行ったという設定なのでグラスはふたつ。
特筆すべきは、注文を取っているのがあのグルメ雑誌記者ということ。店主のラーメン像によほど感銘を受けたのだろう。ずいぶん思い切った転身である。こういう人が人生の荒波を越えてイノベーションを起こすのだ。僕は保守的なので会社員のまま生きていく。よろしくお願いします。
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ほんの数分で若者の決断を描く演出力たるや。
宴もたけなわなタイミングで、僕の出番が再度やってきた。肩を組んで歌うシーンだ。そんなに陽気なことを僕がしていいのだろうか。いや、ここはラーメンを食うと人はこんなにもハッピーになれるということを示していきたい。そしてご飯も食うともっといい。稲作農家を救うことは日本を救うことと同義だから。
僕以外の陽気者は、椎名さんとケンラウヘルさん、ミュージシャンの町田孝さんとコンノユウタさん、ケンカしかけたけどラーメン食って落ち着いた染谷さんと田中さん。ラーメン食ってるうちに盛り上がってしまったのだろうな。
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そういえば、頼まれてほら貝を持って行ったが結局使わなかった(※)。吹くとしたらこのシーンだと思うが、みんな楽しくなってすっかり忘れていた。そういうこともある。
※ほら貝:難解なことをしれっと書いているが、僕はゲームイベントのオープニングなどでほら貝を吹くことがある。『Let's HIT』関連のイベントでも吹いた。![[IMAGE]](https://cimg.kgl-systems.io/camion/files/famitsu/23314/a6c2a7db797dabf4140f29e77aeeeef6c.jpg?x=767)
ま、いいか。
最後の撮影カットははくしんさんが屋台を引くシーン。けっこう重いので自然とゆっくり引くことになり、一歩、また一歩と進むごとに「おー!」と歓声が上がる。姪っ子と甥っ子がまだ赤ちゃんのとき、一生懸命歩く姿を見て笑顔になったことを思い出した。
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最後に、MVのテーマを考える
はくしんさんがオンラインゲームの運営ディレクターであると知る人は、このMVの意図を感じ取ったはずだ。ラーメンは彼が担当する『HIT:The World』の、屋台に集まるお客さんはプレイヤーのメタファーと言える。
提供するのがシンプルな鶏ガラ醤油ラーメンというのがまたいい。奇をてらうことなく、実直にラーメン(ゲーム)に向き合うことが大切。このスタンスが味(MMORPGとしてのおもしろさ)に表れ、それはいつしか居心地のよさに変わる。
MVの中にはラーメンの奥にお客さんの笑顔が浮かぶシーンがある。それを見て満足そうにうなずく店主。そのままMMORPG運営に置き換えられる光景だ。
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つまり、これが『HIT:The World』なのである。
「ラーメンは豚ガラ、鶏ガラ、人柄」。東池袋 大勝軒の創業者である故・山岸一雄氏の言葉だという。味の基礎を整えたうえで、それと同じくらい人間性も大事ということ。いい言葉。
きっとオンラインゲームも同じだ。実直な人が運営するゲームはおもしろくて、自然と安心できる雰囲気が形成されていく。大切なのは、豚ガラ、鶏ガラ、HIT柄。
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MVの後半からは、グルメ雑誌の切り抜きが屋台に貼られる。中身もちゃんと作ってある。
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