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『グラブル』11周年記念シナリオライター座談会。11年という月日で変化していった作業内容と、スクリプトの進化で広がり続けるシナリオの可能性!

by原常樹

『グラブル』11周年記念シナリオライター座談会。11年という月日で変化していった作業内容と、スクリプトの進化で広がり続けるシナリオの可能性!
 2025年3月10日に11周年を迎えた『グランブルーファンタジー』(以下、『グラブル』)。衝撃的な展開が続いているメインクエストや、11年経ってもなお空の世界を新しい切り口から広げ続けている月末シナリオイベントなど、シナリオの魅力は『グラブル』の魅力といっても過言ではない。そんな『グラブル』のシナリオがどのようにして生み出されるのか、ぜひ本インタビューでチェックしてほしい。
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寺嶋てらしま

シナリオディレクター。全体監修・ディレクター業務のほか、メインクエストの執筆も担当している。

稲荷屋いなりや

シナリオリーダー。 6周年記念シナリオイベント“こくう、しんしん”や、9周年記念シナリオイベント“...and you.”などを担当。

越上こしがみ

シナリオライターとして活動しつつ、 昨年からは監修業務も担う。10周年記念シナリオイベント“HEART OF THE SUN”や、11周年記念シナリオイベント“十二神将演義”などを担当。

監修者Aかんしゅうしゃえー

監修業務をしつつ、 シナリオライターとしても活動。 おもにキャラシナリオ、 月末シナリオイベント、コラボシナリオなどを担当する。


――まずはシナリオ班の具体的な作業内容について教えてください。

寺嶋
 作業的なフローですと、まずは決められたコンセプトに対してライターがシナリオを執筆し、監修者がライターから上がってきたシナリオ全体のクオリティーチェックを行いつつ、さらに各キャラクターを担当するライターがチェックしていきます。シナリオ内でおかしなことを言っていないか、 二人称が変ではないか……などですね。

 修正が必要な箇所をひとつにまとめつつ、シナリオを上げたライターに改稿してもらうというのがシナリオチーム内での基本的な作業の流れになります。その先の工程に関してはいろいろな部署が関わってくるのですが、なかでも密にやりとりをするのはスクリプト班。「この箇所はどういう意味ですか?」とか、「こういう演出を入れてもいいですか?」といった連絡を逐一連携しながら、ゲームへ実装する作業を進めている感じです。

稲荷屋
 あとは、イラストチームとも関係性が深いですよね。

寺嶋
 イラストに関してはシナリオプロットの段階で発注をかけることが多いです。ただ状況によっては、シナリオを書いている最中にイラストがガンガン上がってきて焦るときもあります(笑)。

稲荷屋
 逆にキャラクターのイラストはまだ来ていないけれど、セリフは書かなきゃ…… みたいなこともあって。

越上
 ありますね。もちろん、我々から「こういうイラストにしてください」と指定させてもらうこともありますが。

稲荷屋
 ケースバイケースです。たとえば、“ノーレイン、ノーレインボー!”で活躍したファスティバは先にイラストが完成していて、そこから設定を作っていきました。

監修者A
 えっ、そうなの!?

越上
 知らなかった(笑)。

稲荷屋
 じつはイラスト先行なんですよ。イラストの時点でファスティバさんが漢女(おとめ)ということはすぐにわかりましたけど、性別に関する部分をギャグとして扱いたくなかったので現在のような形にさせてもらいました。
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ファスティバ
寺嶋
 『グラブル』はリリース開始してすぐのころはイラスト先行で作業をすることが多くて。

監修者A
 確かに昔は、イラストが先にできていて、それを書く……みたいな感じでしたね。

――現在はどうですか?

越上
 最近はイベントに登場するキャラクターに関して「こういう人物にしてほしい」とシナリオチームのほうから提案することも増えました。たとえば10周年記念シナリオイベントである“HEART OF THE SUN”のアブラメリンやサブリナ、フェニーなどの新キャラクターは、キャラクター作りの際にこちらからいろいろ提案をして作り上げていきました。

監修者A
 こうやって振り返ると、 制作の過程も徐々に変化してきましたね。

寺嶋
 月末に開催しているシナリオイベントは先ほど越上が言った通りライターが提案するケースが増えましたけれども、四聖のようにイラストやキャラクターの取得方法が優先されるケースもあります。

監修者A
 四聖に関しては特殊というか。「こういう感じにしたいんですよ~」というラフな企画が来たのが始まりで。

――もともと“四象降臨”は長らくボスとのバトルをメインとするコンテンツでしたし、そこから新たにキャラクターを登場させるパターンがイレギュラーだったということでしょうか。

監修者A
 そうですね。 ユーザーさんにどう新しくキャラクターを取得してもらうのかだったり、そのキャラクターのバトルでの性能をどう調整するのかといった部分が先行していた特殊なケースだと思います。そんな特殊なケースでも違和感なく受け入れてもらえないといけませんし、かといって何の抵抗も持たれないとそれはそれで意味がありません。

――だから、あえて癖を残したと。

監修者A
 はい。十天衆や十賢者と違って四聖はイベントに参加すればすぐに仲間にできるので、代わりにバトルでの性能は控えめになっています。ということは、強さを求めるユーザーさんの編成からは外れてしまう可能性があるわけで、結果的に印象にも残らなかったらもったいない。入り口の部分、キャラやシナリオで興味を惹ける何かがあったほうがいいだろうと。

寺嶋
 ゲームシステム先行のケースは稀なのでいろいろ考えました。「ゲーム性を反映したいのはわかるけど、少しややこしくなりすぎない?」といった相談も何度かした記憶があります。

監修者A
 とはいえ、それをうまく調理するのも僕らの仕事なので。そんな状況下でもコクに関しては担当ライターがおいしく仕上げてくれました。

――物語上でも重要なポジションに位置するコクが、中性的なキャラクターで驚いたユーザーも多かったかと思います。

監修者A
 コクに関しては、 僕と担当ライターとで性別不詳にしようという話をずっとしていました。“女の子らしさ”も“男の子らしさ”も排除することで、ユーザーさんがそれぞれ自由に正解を出してくれればいいと……。そのため、コクの性別についてはこちらから今後語ることも触れることもありません。だから、イラストが上がってきたときも内股すぎるとか、胸もとが膨らみすぎているといった点でどうするべきかなど、慎重に相談をしてきました。

 また、表情がなく仮面で感情を表現するキャラと方針を決めたので、演出面では表情を一切出さないでほしいというオーダーもさせてもらっていました。
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コク
――なるほど……。
監修者A
 スクリプト班からも「仮面を変えるしかないのでコクの表情を盛れなくて……」と相談されましたが、「コンセプト通りなのでコクに関しては盛らないでいただければと」と答えていました。表情を作ってしまったら仮面で感情を表現するコクの魅力が薄れてしまいますから。

2024年のイベントで活躍したキャラクターを振り返って

――昨年、2024年に開催されたシナリオイベント全体の印象を教えてください。

監修者A
 ユーザーさんからいただいた感想をざっと見ていると、どのシナリオイベントも安定して楽しんでもらっているかなと ……。

寺嶋
 確かにそうかもしれません。“孤狼の墓標”はこの場にはいないライターが企画を出してくれたのですが、主役がセワスチアンというおじいちゃんだったのでユーザーさんが受け入れてくれるのか最初は不安で。でも、担当ライターが書いたシナリオを見たら「なるほど、こういう方向で来たのか!」という感じだったので、お話の方向性なども相談しつつ進めました。そうしたらユーザーさんからもかなり大きな反響をいただきまして。

稲荷屋
 じつは“白詰草想話”を担当したとき、セワスチアンに「殺しますか?」という物騒なセリフを入れさせてもらったんです。それがかなり注目を集めたことがありまして……。

越上
 ありましたね。

稲荷屋
 あのときの方向性が間違っていなかったようで改めてよかったなと。あと、イケてるおじいさんといえばキハールにもまた出番が作れたらうれしいです。
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セワスチアン
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キハール
――供給があるとファンにとってはありがたい気がします。
越上
 そう思っていただけるのであれば、こちらもうれしい限りです。そういう意味では“孤狼の墓標”ではセワスチアンのみならず、リュミエール聖騎士団の物語がひさびさに動いたのも大きい意味があったのかも。6~7年ぶり?

監修者A
 確かみんなで料理をした後、まったく動いていませんでしたよね。

稲荷屋
 そうそう。“ほぼお湯”を飲んでいる印象が強く焼きついています(笑)。

寺嶋
 シナリオ的な観点でいうと、リュミエール聖国は国としての問題をあまり抱えていないので、お話を作りづらいというのはどうしてもあるのかなぁと。やっぱりRPGである以上は敵と戦うというファクターが必要になりますので……。逆にいうと、シナリオイベントで取り上げる機会が多い国は、こういった点から国内外に多くの敵を作っている状況に陥りがちです。

――まさに、いまとんでもないことになっているウェールズとか。

寺嶋
 そうですね。フェードラッヘやウェールズ担当のライター陣によるとシナリオの今後の大まかな道筋は決まっているそうなので、 細部を詰めながら続編を作ることになるかと思います。

――10周年記念シナリオイベント“HEART OFTHE SUN”については、越上さんの担当だったそうですが。

越上
 はい。シナリオを書くにあたり、フェニックスを中心とした物語にするというコンセプトが先にあって、そのためにも世界観に合うキャラクターを補強しようと思って探したときに、たどり着いたのがエニアドシリーズとして登場していた6体のボスたちでした。

 もともとこの6体をシナリオで登場させる予定はなかったので、戦闘中のボイスセリフの執筆を担当していたのも別のライターでしたが、世界観がピッタリ合うだろうということで“卜者(ぼくしゃ)”という名前を与えて物語にアサインさせてもらいました。

――ユーザーの注目も大きかったかと思います。

越上
 当初は敵という立ち位置ではあったものの、ユーザーさんからはありがたいことに好いていただいているようで……。人気のキャラクターになってほしいという想いももちろんあったので素直にうれしかったですね。逆に予想以上に嫌われてしまったのがセオドリク王子。私は気に入っていたキャラクターだったのでちょっと面食らいました。
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セオドリク
――フェニーやアブラメリンを巡るストーリーがあまりにも重かったので、その反動で嫌われたのかもしれません。
越上
 フェニックスの被害者である一方、敵であることは確かなので、そうかもしれませんね。

稲荷屋
 セオドリクは登場初期からいろいろな意味で注目されている感じはありましたよね。サブリナとセオドリクのどちらが生き残るか、SNSで予想していたユーザーさんもけっこういらっしゃいましたし。

越上
 ちなみに、卜者のメンバーであるベンヌとテフヌトに関しては、流れで“ラスト・スモウォーリア”にも登場してもらいました。スモウォー第1弾であるシナリオイベント“人魚姫と海に眠る伝説”を担当したライターと、共作という形で私も携わっています。

稲荷屋
 “ラスト・スモウォーリア”といえば、ライデンとタラッタがちゃんとくっついたのはよかったです(笑)! 『グラブル』は、あのタイプの男女カップルはなかなかうまくいかずに波瀾万丈な人生を歩まされることが多いというか、シナリオを作る側としても波瀾万丈にせざるをえなくなってしまうので。紆余曲折の末にくっついたロミオとジュリエットもそうでしたが、作中で幸せそうな姿を見せてくれてとても安心しました。

越上
 やっぱり夏のアウギュステイベントといえばコミカルなのが定番ですからね。楽しい感じで終われれば、それでいいのかなと。

――なるほど。そのほかにも2024年10月には“魔匕人:壱”も開催されましたね。こちらはどのような経緯で制作されたのでしょうか?

寺嶋
 タイトルに数字が入っていることからわかるように、かなり大きな絵図を描いているシナリオイベントとなっています。11年も続いていると過去のイベントと近しい雰囲気のものが出てきてしまうこともあるのですが、こちらは『グラブル』全体のことを考えているライターが担当していることもあり、これまであえて拾っていなかった設定なども盛り込んでいます。“壱”の段階ではまだ序章という位置づけですので、“弐”以降の展開にぜひ注目してください。

砕ける選択肢にチチリの土下座。スクリプト班との連携も大切に

――シナリオ班はスクリプト班との関わりが深いという話もありました。近年はシナリオ内での演出のバリエーションが大きく増えたこともあり、驚いている騎空士も多いかと思います。

稲荷屋
 『グラブル』の最初期はシナリオチームがスクリプト作業も担当していたのですけど、独立したチームが発足して、そこから大幅に演出がパワーアップしました。

監修者A
 いやー、 我々としても本当にありがたいです。

――演出に関してオーダーをすることも?

越上
 もちろんあります。こちらからムチャぶりをお願いすることもありますし、スクリプト班の担当プランナーのほうでいろいろとやってくれることもありますね。

稲荷屋
 スクリプト班に「こういう演出をしたいんですけど、難しそうならば地の文章で補います」とお伝えしたうえで、 相談しながら詰めていくパターンもありますよね。

越上
 とはいえ、シナリオを書いた後、そのままスクリプト班に任せしてしまうことも多いので、ゲームに実装されてから実際にプレイしたときに演出のすごさに驚くこともあります。最近だと“HEART OF THE SUN”でシエテとサンダルフォンがフェニックスを相手に共闘するシーンを見たら、予想以上のことになっていました。昔だったらできなかったと思います。

稲荷屋
 私は9周年記念シナリオイベントである“...and you.”の演出がやっぱり印象に残っています。オロロジャイアの選択による苦しみをユーザーさんにもいっしょに体感してほしくて、シナリオの中にも分岐をいくつも入れつつ、最後の最後に“手を伸ばす”という選択肢を出すことでカタルシスを得られるように組んだんです。それでスクリプト班の担当者に「最後に選択肢を砕けさせたいんです!」とお願いして最高の演出にしてもらったんですけど……。かなりムチャを言ってしまったのですが、いい形で実装していただき本当に感謝です!

監修者A
 最近の演出だと、僕は人ごみが動く演出に驚きましたね。最近はしれっと背景に入ってきたりするので「昔はできなかったはずだけど、これはどういうスクリプトになっているんだ!?」って(笑)。

 同じように、昔はシンプルなことしかできなかった戦闘の演出についても、ドラマティックな演出が盛りだくさんになっていて驚きました。もともと起きている行動や状況を地の文章で説明するのがライターの役割なのですが、ここまでスクリプト班の演出が優秀なのであれば、逆に説明過多になってしまう可能性もあるなぁと。今年に入ってから考えるようになりました。

稲荷屋
 演出の可能性が広がったぶん、地の文章との割合をどうするか、考えないといけませんよね。

監修者A
 そうそう! ゲームアプリのテキストというより、映像劇の脚本の作りかたに近くなってきた気がします。

寺嶋
 個人的にすごいと感じたのは、キャラクターがアップになる演出ですかね。こちらは技術的にはそこまで難しいことをしているわけではありませんが、『グラブル』ではアップになった画像を個別に用意しているので、たとえば立ち絵のほかに表情差分が5枚あるキャラクターだったらアップにするために合計で10枚の画を用意しなくてはいけないわけです。

――単純に用意しなければいけない画像の量が倍になると……。

寺嶋
 その影響でひとつのシナリオイベントのたびに追加される画像の枚数もとんでもないことになっているんじゃないかとも思ってしまいます。一方で美麗なグラフィックが魅力の『グラブル』において、これまで通りの立ち絵だとどうしても顔が小さくなってしまって魅力を伝えきることができていなかったとも思いますし、ネックだったとも思うんですよ。カメラがアップにならない映画やドラマがあったら物足りないのといっしょで……。それがアップにできるようになったことで、より細かい表情までユーザーさんに届けられるようになったので本当にすごいなと。

稲荷屋
 情熱を感じますよね。 私も「シエテから主人公へ七星剣を投げ渡したいんですけど、演出をつけられますか?」と相談したことがありますが、そうしたら剣がクルッと回転して手もとに来る動きまで追加されていて。もっとシンプルなものになると予想していたので、びっくりしました。

寺嶋
 さっき話題に上がった人ごみなどは、その部分をムービーにすることで対処しているのだと思いますけど、シエテの動きはものすごく工夫がなされているはずです!

監修者A
 それでいくと、四聖のチチリが投げた武器を囮にして攻撃するシーンも衝撃的でしたね。地の文章で説明できればいいかなと思っていたんですけど、演出を確認したら武器が本当にクルクル回っていて、「えっ、この武器のイラスト、どこからもってきたの!?」って(笑)。チチリの立ち絵イラストで持っている武器とも違うし、武器画像からわざわざ引っ張ってきてくれたのだとは思いますが。
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チチリ
寺嶋
 チチリに関しては土下座の演出もすごかったですね(笑)。

監修者A
 「画面上に誰も立っていない状態でアホ毛だけ出しましょう」みたいな話をした記憶が残っています。あれも本当にいい感じの演出をつけてもらいました。

越上
 そういえば、土下座演出は落語をモチーフにしたシナリオイベント“三道楽と死神”でも使われていましたよね。

寺嶋
 チチリのおかげで土下座が定番の演出になったわけですね(笑)。

監修者A
 いやいや、さすがにそれは言いすぎだと思いますが(笑)。

越上
 “三道楽と死神”は音楽の演出もよかったですよね。『グラブル』のおなじみのテーマ曲がお囃子のようなアレンジになっていて、こういうこともできるのかって。

――落語のオマージュもたっぷり詰まっていて、SNSでも大きな反響を呼んでいた印象があります。

越上
 もともとものすごく落語に精通しているライターが担当しているので、それが功を奏したのは間違いありません。ちなみにそのライターは卜者のオシリス担当でもあるので「オシリスを出したら?」とささやき続けた結果、彼女の愉快な一面が白日のもとに晒されることになりました。卜者は設定だけ見るとかなりシリアスですが、シリアス一辺倒ではとっつきにくいので、コミカルなイベントではユーザーさんに親しんでもらえる面を出していけたらいいなと思っています。
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オシリス
――シリアスな空気を依然まとっているアトゥムもいずれそういった面を出してくれるのでしょうか?
越上
 アトゥムは……うーん、彼はシリアスのままのような気もしますし、どうなることやら……。先々の展開にご期待ください(笑)。

――先ほど音楽の話も出ましたが、『グラブル』の音楽に関する思い出はありますか?

稲荷屋
 やっぱり新曲が実装されると感動しますね。“こくう、しんしん”のシナリオを書いている最中に、バトルのときに流れる楽曲を3曲、先行で聴いたときは心が震えました。しかも、シナリオのタイトル案だった“燦然世界”がそのうちのひとつの曲名になっていて、それもまた感動しました。その流れで行くと“カイオラ”というイベントのシナリオを書いた後に「じつはキャラクターソングがあります」と言われて……。

――オイゲン、ソリッズ、ジンによる名曲『三羽烏漢唄』ですね。

稲荷屋
 そうです(笑)! まさかキャラソンが入るとは思わなかったので衝撃も大きかったです。

越上
 楽曲というと、数年に1回程度のペースで歌詞をつけてほしいとかキャラクターソングのタイトルを決めてほしいといったオーダーも来ます。“ダンシング・アベンジャー”に出てくるインド映画っぽい楽曲に歌詞をつけてほしいと頼まれたライターが四苦八苦していたのを、当時、横で見ていました。

稲荷屋
 私も“蛇神の島に響く歌”のときにアウギュステの楽曲に合わせて英語の歌詞を書いてほしいと頼まれたことがあって……。そのときは、日本語で歌詞を書いてそれを英訳チームにローカライズしてもらいました。あとはセルエルとノイシュのキャラクターソング『Pray for the sky』の歌詞も担当させていただきました。

監修者A
 本来、作詞とシナリオ執筆はぜんぜん違う技術が必要になるのに、よくやれるなぁ……。
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寺嶋
 もしかすると最初にエイプリルフールで『キミとボクのミライ』の歌詞の一部をシナリオチームが書いたことがきっかけかもしれません。

越上
 ちょうど先日、別のライターのところにクピタンとトリステットの楽曲に関する相談が来ていたんですけど、そのライターはCDジャケットの構図までしっかり希望を伝えていました。
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ユーザーの声をエビデンスに。ライターから企画を提案したい

――シナリオチーム内でとくに人気の高いキャラクターなどはいるのでしょうか? もしいれば教えていただければ。

越上
 誰だろう? チーム内での人気とは少し違いますが、ラジエルについての謎が個人的にあり……。ずっと前から“ラジエルの書”というアイテムがあるのに、誰に聞いても“ラジエル”がどういうキャラクターかわからない状況で。

寺嶋
 アイテムの名前に関しては、プランナーが決めることが多いですからね。

越上
 もとの設定はあったようなのですが、結局そのあたりがはっきりしなかったので、じゃあもういっそ、ということでシナリオイベントに登場してもらいました。多くのユーザーさんに温かく受け入れていただけたようでホッとしていますが、実際どこまで人気なのか、我々には見えないのがもどかしいですね……。
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ラジエル
寺嶋
 人気を確認するうえでも、社内でひとつの目安になっているのがバレンタインにいただいたプレゼントの数。ユーザーさんにおかれましては、ぜひお慕いしているキャラクターに想いをお送りいただけるとありがたいです。

監修者A
 SNSで感想をいただけるのもものすごくありがたいのですが、ユーザーさんの熱意次第でフィルターも変化する可能性が高いので完全な可視化とは言えないんです。かといって、ゲーム内でのキャラクター使用率はバトルの性能も反映されてしまっているのでキャラクター自体の人気とはまたちょっと違いますし。

――なるほど。ちなみに、週刊ファミ通本誌ではユーザーからのアンケートという形でシナリオイベントの人気投票を行っています。こちらの結果も見られていたりするのでしょうか?

稲荷屋
 個人的にはすごくありがたいです! 続編があることを想定して書いていた“白詰草想話”というシナリオイベントがあったのですが、長いこと続編の制作が未定のままで ……。ただ、ファミ通さんのアンケートのように多くのユーザーさんが続編を望んでいるということを形にしてくれたおかげで、続編の“待雪草祈譚”を世に出すことができました。

越上
 やっぱりユーザーさんの声は大きいと思います。ライターが企画を提案するときの励みにもなりますからね。

稲荷屋
 そうなんですよ。それに企画書を提出するときに“前のシナリオイベントがユーザーさんのコメントやアンケートで推されていました”とひと言添えられるのはシンプルに大きいと思います(笑)。

寺嶋
 好き勝手に企画を出しているわけではなく、しっかりエビデンスがあるという証左になりますから。

稲荷屋
 “待雪草祈譚”で登場したガランサラスや、アイルスト王国関連についてももっと先のお話を書きたいという思いがあるので、もし続きが読みたいという方がいらっしゃったら、ぜひお力添えください!(笑)

監修者A
 ファミ通さんのアンケートはキャラクターの意外な人気が見えるので、そういった意味でも興味深いです。たとえば、過去に行われた“十賢者を誰から加入させたか”というアンケートも、キャラクターの強さとは必ずしもイコールで結びつかないような結果に思えて、すごく分析し甲斐がありました。

――声が上がればキャラクターの活躍の可能性が広がるかもしれないと。自分も含め、まわりには“窮寇迫ること勿れ”のポラリスを諦めきれないハーヴィン好きがたくさんいるのですが、これは……。

寺嶋
 ポラリスもコアな人気がありますよね。ポラリスはシナリオイベントの中で退場してしまっていますが、ここまで人気が出ると思っておらず、あのような結末になってしまったというのもあるのかなとは思います。

越上
 当時、シナリオを担当していたライターに「えっ、ポラリスを死なせちゃうんですか?」と言ったことは覚えています。

寺嶋
 難しいところだなと。先ほども話に出たようにイラストが上がってくるまでにラグがあったりもしますから。
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ガランサラス
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ポラリス
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猫にやさしい『グラブル』は犬にもやさしくしたい!?

――シナリオチームの皆さんで“グラブルフェス”に足を運ばれたことはありますか?

寺嶋
 ここにいるメンバーはそれぞれ行ったことがあると思います。感想としては正直すごいという言葉しか出てこなくて……。職業柄、語彙力を失ったらダメだろという感じですけど(笑)。

稲荷屋
 私は“グラブルフェス”のテキストも監修することが多いので、現地でリアルに展開されているのを見ても感動しますし、ユーザーさんがそこに喜んでくださっている雰囲気が伝わってくるのもうれしいです。ふだん、そういうユーザーさんの反応を見る機会もほとんどないので、すごくありがたい場だなって。

越上
 ユーザーさんの熱量をこの目で見ると、モチベーションになりますよね。

監修者A
 コスプレで参加されている方もいっぱいいらっしゃって、その熱量は本当にありがたいなと思っています。しかも、コスプレをする人選も意外なチョイスだったりして。

越上
 そうそう! エスタリオラで参加されている方を見かけたときは驚きましたし、コスプレに落とし込むアイデアにも感服しました。

稲荷屋
 現地だと六竜の人気もすごくて。シナリオを書いたときは彼らにこんな人気が出るとは予想できませんでしたし、しかもこんなに早くオフィシャルキャストさんがついてくれるとも思っていなかったので。

――昨年からはイーウィヤもオフィシャルキャスト(キャット)が登場して話題になりました。

稲荷屋
 キャラクター造型の話になりますけど、もともと六竜のうち一体は猫にしたいという話があって。じゃあ、どの六竜がいいんだろうと別のライターが書いたバトルのセリフを参考にしていたのですが、イーウィヤ以外に選択肢がないだろうということで白羽の矢が立ちました。六竜まわり、とくにイーウィヤについては、比較的細かくイラストの発注をかけさせてもらいました。
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寺嶋
 モチーフにする猫の種類まで指定していましたよね。

稲荷屋
 ええ、体格に至るまで細かく。ちなみに翼に関してはリミテッドシリーズが出るときに生やすことになって、“翼で飛んでいるというより、もはや翼に飛ばされているのでは?”と感じた記憶があります。あの体勢、猫の腰にはあまりよくないので心配なんですけど……。

寺嶋
 イーウィヤは猫じゃなくて竜なので大丈夫です。

一同 (笑)。

寺嶋
 イーウィヤはバレンタインのプレゼントもキャットフードでもらう形でした。前例として猫があったのもよかったなと。

稲荷屋
 サイゲームスは猫にやさしい会社ですから。

越上
 猫だけじゃなくて、犬にもやさしくしたいと僕は思っているのですが……。

監修者A
 そう、それは本気で思います!

――『グラブル』にも犬と縁の深いキャラクターは登場しますよね。

稲荷屋
 でも、やっぱり少ないんですよ。水着バージョンのユーステスとかフレッセルとかぐらいで。

監修者A
 あとはスカルとか?
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ユーステス(水着バージョン)
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スカル
稲荷屋
 これに関しては、犬種によってイメージが変わってくるというのが大きいのかもしれません。猫はどの種類でもシルエットが大きく変わることはないのですが、犬はぜんぜん違ってくるので……。ひと口に“私のワンちゃん”と言っても、人によってイメージが異なるので難しいところがあります。

寺嶋
 種類によって性格のイメージもだいぶ変わりますから。

越上
 ヴァジラの連れているガルジャナはまんま土佐犬の闘犬という感じですけど、フレッセルの連れているカマロは猟犬。ぜんぜん違いますよね。
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フレッセル
――ちょうどヴァジラの名前が出ましたが、11周年記念シナリオイベント“十二神将演義”がまさに注目を集めています。こちらのシナリオは越上さんが担当されたとか。
越上
 “年年歳歳”を始め、さまざまな活躍を見せてきた十二神将の子たちならではの内容にするということを意識して書かせていただきました。十二神将はどうやって誕生したのか、そして気になる午神とは? そういった部分を覇空戦争の歴史を絡めて描きつつ、新たなシナリオにつなげられるようにしています。

――これまでの周年シナリオイベントに比べると明るく、コミカルな要素がふんだんに含まれているのも特徴に。

越上
 「明るく和やかな内容に」というコンセプトが最初にあったので、そこは守りました。

寺嶋
 少なくとも、これまでの周年シナリオイベントよりやわらかい内容にするというコンセプトは達成できたのではないでしょうか。あらゆる意味でサービスシーンがめちゃめちゃ多いですし。

越上
 確かに……。十二神将のシナリオイベントは今回が第3弾になりますが、毎回水着を着てもらっているのは事実です。といっても、第4弾がある場合、その確約はできませんが!

寺嶋
 いろいろな環境が混在する空間を舞台にしたのもサービスシーンを入れたかったからだったりします?

越上
 なくはない、という程度ですが……。ストーリーの着想のきっかけは、十二神将の始まりとなったアニラのフェイトエピソードの頭で“空の世界と星の世界の境界を監視する存在であるということ”と語られていたので、立ち戻ってそこをしっかり描くべきだろうというのはありました。

――新たなキャラクター群として十三仏が登場しました。彼らの登場の経緯も教えてください。

越上
 これまで一年に一回登場する十二神将の期待値が大きかったので、彼女たちからバトンを託されるキャラクターたちを出したいという話は打ち合わせでも出ていました。そんな中でデザインされたのが十三仏です。

寺嶋
 いまの段階ではプレイアブルキャラクターにはなっていませんが、もちろん可能性はあるので期待していただければと思います! 今後の展開というところで言えば、メインクエストの新たな展開も発表になりました。こちらもたいへんお待たせして申し訳ありません……! これまでの伏線が回収されていくクライマックス展開となっているので、こちらもぜひご期待いただければと思います。

――最後にシナリオチームの皆さんの2025年の目標を教えてください。

寺嶋
 私はチームメンバーが執筆したシナリオのさらなるクオリティーアップがおもな仕事なので、まずは為すべきことをしっかり為すというのがひとつ。そして、先ほどアンケートのエビデンスの話もしましたけれど、ライターからも企画を提案しやすいような地固めもしていければと思っています。

稲荷屋
 私はこれまで手掛けたシナリオの数が19本なので、あと1本書き上げたいです。あとは昔登場したものの、それ以降出番が少なくなってしまっているキャラクターにも活躍の場を作ってあげたいですね。

 古くから登場しているキャラクターを輝かせてあげることで
『グラブル』の世界観ももっともっと強固になるはずなので。特殊な本を持っているノルセルというキャラクターや、 犬のお話で名前が挙がったフレッセル、レアキャラとして人気を博しているクムユ、プレイアブルになっていないガランサラスやミアハにもスポットライトを当てられたらうれしいです。
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クムユ
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ミアハ
越上
 2025年に限らない目標になりますが、多くのユーザーさんに好かれる人気のキャラクターを書きたいという気持ちはあります。

稲荷屋
 人気のキャラクター……そう言われると負けられない!(笑)

一同 (笑)。

越上
 この座談会からも伝わるかもしれませんが、ライター陣の関係性は良好で、けれどもちゃんとライバル意識も持っていると思います。『グラブル』の現場に入って1年ぐらいのライターがものすごくやる気を出してくれていたりするので、こちらとしても刺激になって非常にありがたいです。

監修者A
 個人的な目標はとくにないのですが、越上が言ったように今後活躍してくれそうなライターがチームにいる環境はありがたいです。今後彼らがシナリオを書いていくことになると思いますが、そのときにちゃんとした手助けができて、実力向上のきっかけを作れたら本望です。それがイコール、ユーザーさんの幸せにもつながるので。

稲荷屋
 ちょっと! 負けられないとか言っていた私がバカみたいじゃないですか!(笑)

監修者A
 いやいや、 そういうライターとしての意地も大事なんで(笑)。

寺嶋
 人気キャラクターを生み出したいというとちょっと我欲の強さを感じますけど、 それも言い換えれば自分が書いたキャラクターをユーザーさんに楽しんでいただきたいということ。会社の方針でもありますが、我々の根底にあるのが“ユーザーさんにおもしろいものを読んでいただきたい”という想いなのは間違いありません。ゲーム全体も、お話もキャラクターも、皆さんに末永く楽しんでいただけたらありがたいです。

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本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

集計期間: 2025年04月26日06時〜2025年04月26日07時