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『ハンドレッドライン』ルート分岐の数は脅威の"100"! すべてを真ルートとして作ったクレイジー作品の誕生秘話【インタビュー:シナリオ編】

byジャイアント黒田

更新
『ハンドレッドライン』ルート分岐の数は脅威の"100"! すべてを真ルートとして作ったクレイジー作品の誕生秘話【インタビュー:シナリオ編】
 2025年4月24日に発売された『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』(ハンドレッドライン。発売:アニプレックス。対応プラットフォームはNintendo Switch、PC(Steam))。

 シナリオが“100ルート”に分岐するがゆえに、圧倒的なテキスト量を誇る本作は、多くのライターの協調作業によってストーリーが紡がれていった。クリエイターインタビューのパート1では、小高和剛氏と打越鋼太郎氏を筆頭に、6人のシナリオ担当者に制作秘話をうかがった(取材日は2025年2月28日)。
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小高和剛氏こだかかずたか

ディレクション&シナリオ担当。メインストーリーのほかにサブストーリーも執筆している。文中は小高。

打越鋼太郎氏うちこしこうたろう

小高氏と同じくディレクション&シナリオ担当。本作の複雑なルート分岐の管理などを行った。文中は打越。

登川晶弘氏とがわあきひろ

COディレクター/シナリオライター/プロジェクトマネージャー。一部ルートのシナリオも執筆。文中は登川。

小山恭平氏おやまきょうへい

シナリオライター。一部シナリオとインゲームのシナリオを担当。特典の書き下ろし小説も手掛けた。文中は小山。

小泉陽一朗氏こいずみよういちろう

シナリオライター。小高氏や打越氏とは10年以上の付き合いがあり、本作の一部シナリオを担当した。文中は小泉。

石井ののん氏いしいののん

シナリオライター。新卒でトゥーキョーゲームスに入社し、一部シナリオを担当。本作がデビュー作。文中は石井。

膨大なルートのシナリオを完成させるために精鋭が集結

――まずは、本作での担当領域をおひとりずつ教えていただけますでしょうか。

小高
 本作の企画、シナリオと全体のディレクションを担当しました。

打越
 僕はシナリオを担当しつつ、第2ディレクターとして参加しました。

――登川さん、小山さん、石井さん、小泉さんは、担当と併せて経歴も教えてください。

登川
 ゲームのシステム面のディレクションとシナリオ、スクリプトのディレクション、スケジュール管理とアサイン調整、デバッグの進行管理、その他もろもろを担当しました。前職はアトラスで『ペルソナ』シリーズのチームに所属していて、パートリーダーやシナリオディレクターなどを任されていました。

小山
 僕はシナリオのほかに、インゲームまわりのシナリオも担当しました。もともとはライトノベル作家だったのですが、シナリオライターに転向してフリーランスで活動していました。VRアドベンチャーゲームの『東京クロノス』や『ALTDEUS: Beyond Chronos』のメインライターを務めた後、縁があってトゥーキョーゲームスの一員となりました。

石井
 僕はシナリオと侵校生の言語を担当しました。トゥーキョーゲームスには大学生のときにインターンでお世話になり、そのまま入社しました。『ハンドレッドライン』がデビュー作になるのですが、最初からすごい作品に携わってしまったなと自分でも驚いています。

小泉
 僕はシナリオを担当しました。以前、小説を書いていたときのご縁でトゥーキョーゲームスが設立される前から小高、打越と仕事をしています。

――開発を終え、発売を控えたいま(※取材日は2025年2月28日)の率直な感想を、小高さんと打越さんにお聞きしたいです。

小高
 本作は僕がこれまで手掛けた作品とは毛色が違うところが多々あるので、どういう受け止められかたをするのかドキドキしています。ただ、Steamで配信した体験版の評価が非常に好評で安心しましたね。プロモーションプランとして体験版を配信して正解だったと思いますし、僕の精神衛生上もよかったです。数百本しか売れなかったらどうしようと考えていた時期もあったので、ホッとしたというか(苦笑)。

打越
 僕も小高と同じ気持ちです。今回は新しいことにたくさん挑戦しているのですが、シナリオの量が膨大なうえ、シナリオの作りかたも特殊でした。プレイヤーの感想が想像できないので、フタを開けてみないとわからなくて。そういう意味では、発売後にどのような評価をされるのか楽しみな作品ではあります。

――シナリオのボリュームは、最初から膨大になることが決まっていたのでしょうか?

小高
 コンセプトのひとつが“終わらないアドベンチャーゲーム”と言いますか、プレイヤーがずっと楽しもうと思えば、遊び続けられるアドベンチャーゲームを作りたかったので、シナリオは膨大になるだろうなとは思っていました。本作は100分岐するシナリオを用意していて、そのディレクションをストーリーの分岐を作るのが得意な打越に任せました。本作も打越作品ならではの仕掛けというか、いろいろなルートを使った仕掛けがふんだんに用意されていて、おもしろい作品になったと手応えを感じています。

打越
 ただ、すべてのルートをプレイしなくても楽しめるようにはしています。小高に「すべてのシナリオが真ルートだと捉えられるようにしてほしい」とオーダーされたので、いろいろなジャンルのシナリオを用意しました。お気に入りのルートを見つけていただいて、それが真ルートだと解釈してもらえればと思います。

――本作は小高さんと打越さんが初めて共同でシナリオに取り組んだタイトルですが、いっしょに作業をされて新たな発見はありましたか?

小高
 隣の席に座ってずっと作業していたわけではないですし、作業も役割分担を明確にしていたので、新しい発見はとくにないかな……。

打越
 僕は、ディレクターとして小高はすばらしいなと再認識できました。そのように思えた理由は彼の“Sっ気の資質”にあると考えていて。僕はスタッフに遠慮しちゃうので、Aと言ったものをBに直してほしいときに、ためらってしまうんですよ。でも小高は一切ためらわない。無茶なお願いをしてもスタッフが彼の指示を聞くのは、修正することによってゲームがめちゃくちゃおもしろくなるからなんですね。これはディレクターにとって必要な資質なので、尊敬していますし、学ばなきゃいけないなって。
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小高
 「こうしたほうがよくなる」と思ったことを言わないで後悔したくはないですからね。以前は葛藤することもありましたが、ある有名なアニメ監督に相談したとき、「その段階でいいと思っても、作業が進んで違う考えになるのは当たり前じゃん」と言われてハッとしました。それからは遠慮なく伝えるようにしています。

――皆さんは、小高さんからの修正依頼で印象に残っていることはありますか?

小泉
 僕はあまり記憶にないですね。

小高
 小泉には、開発がある程度進んでからシナリオチームに入ってもらったからね。そのときは直すところがほとんどなかったと思う。

打越
 いちばんたいへんだったのは、開発を担当したメディア・ビジョンさんじゃない?

登川
 それが回り回って僕のところに来るのですが(苦笑)、理不尽だなと感じることはほとんどありませんでした。小高の説明を受けて、確かにそうだな、ゲームがおもしろくなるなと納得できるので、気持ちはつねにポジティブでしたね。ただスケジュールを管理する立場としては、ゲームは確実によくなるけど、工数が増えるからどうしようというせめぎ合いでした。

小山
 おもしろければ、というのが大前提ではありますが、僕らのアイデアが採用されやすいのもいい環境だなと思います。直すことになったときに、おもしろいネタを考えたのでこうしてみましたと提案をすると、おもしろさの基準を超えていればオーケーしてもらえるので、僕は逆にやりやすかったです。

石井
 僕のような新人のアイデアも採用してくれるんですよ。打ち合わせの会議で僕が考えたフラッシュアイデアが採用されていたことに後で気づいて、喜んだのを覚えています。
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小高
 部下の手柄は僕の手柄だから(笑)。

――(笑)。シナリオの執筆作業は、どのように進めていったのか教えてください。

小高
 今回はシナリオの量が膨大なので、みんなで手分けをして書くことは決めていました。僕がメインルートのシナリオを書き上げて、それをもとに打越にルート分岐の仕組みや、分岐先のシナリオをざっくりと考えてもらい、必要なルートをシナリオライターに割り振る形で執筆作業を進めていきました。ここには6人しかいませんが、外部のライターさんを入れると、本作のシナリオは10人くらいで書いています。

――どのルートを誰が担当するかは、どのように決めていったのですか?

打越
 自分で選んでもらったものもあれば、こちらから振ったものもありました。

小泉
 僕は急に振られましたよ(笑)。

登川
 僕も選択の余地はなかったです(笑)。

小高
 ふたりは後から入ってもらったから。シナリオライターがプロジェクトに加入した時期はバラバラで、ここにいるメンバーだと打越と石井が最初から参加していて、小山、小泉の順に入ってもらい、最後に登川が加わりました。登川は、いつチームに入ったんだっけ?

登川
 2023年の8月ごろだったと思います。そのタイミングでスケジュールを立ててみたところ、すでに破綻していてどうしようって……。

小高
 2023年9月のタイミングで、シナリオが全部揃っていなかったという(苦笑)。

登川
 スケジュールを組み直してみても間に合うかどうかギリギリだったので、小高にも追加でサブのルートを担当してもらい、なんとかシナリオを揃えることができました。

――なにせ100ルートですからね……。

小高
 ただ、みんなで手分けしたからこそ新たな発見もあって。僕はこれまで、自分が作ったキャラクターを他人に動かしてもらうことはなかったので、別ルートのシナリオをチェックしたときに、新鮮な気持ちで楽しめました。自分が作ったキャラクターが、このシナリオではこう動いているのか、という感覚は初めてでおもしろいなと。あと、みんなのクセが出ているのもおもしろくて、打越のファンが見れば、このルートを書いたのは打越だなとすぐにわかると思います。
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当初は等身大を目指したのにどんどん濃くなった登場人物

――本作には個性豊かなキャラクターが多数登場しますが、キャラクターの設定などはどのように考えていったのですか?

小高
 キャラクターは僕がひとりで考えていて、特防隊のメンバーを15人にすることも最初から決めていました。ただ、生徒たちはもっと等身大のキャラクターにするつもりでしたが、このままでは個性が弱いと思いどんどん足し算をしていくうちに、いまの感じになりました。

打越
 それで後から合流するメンバー(霧藤希、大鈴木くらら、凶鳥狂死香、面影歪、喪白もこ)たちのほうが濃くなったの?

小高
 そう……なんだけど、最初からいるメンバー(澄野拓海、厄師寺猛丸、雫原比留子、飴宮怠美、蒼月衛人、川奈つばさ、丸子楽、九十九今馬、九十九過子、銀崎晶馬)もデザインは等身大にしようと話し合っていたのに、ぜんぜんできなくて。それでも当初は等身大にしようとしていたので、後で合流するメンバーのほうが自然とキャラクターが濃くなりました。

――マスコットキャラクターのSIREIとNIGOUはどのようにして生まれたのでしょうか?

小高
 SIREIとNIGOUは、『ダンガンロンパ』シリーズのモノクマや『レインコード』の死に神ちゃんとは違うものにしたいという思いが強かったですね。立ち回りはふたりに近いところがありますが、SIREIは一人称を“本官”にするなどして、ちょっと小賢しい感じにできたらいいなと。SIREIを大塚芳忠さん、NIGOUを大谷育江さんにお願いできたのも、モノクマや死に神ちゃんと差別化できてよかったと思います。

――大塚さんと大谷さんを起用することは、最初から決めていたのでしょうか?

小高
 おふたりにお願いしようと思ったのは、収録が始まるタイミングでした。結果的に、ふたりともすごい異次元な感じになりましたね。

――シナリオで動かしやすいキャラクター、逆に苦戦したキャラクターはいましたか?

小高
 『ダンガンロンパ』では苦手なキャラクターもいたのですが、今回は全員動かしやすかったです。ただ、いちばん気を使ったのは霧藤でした。彼女はブッ飛んでいるところがないキャラクターなので、1回気持ちをリセットしたうえで、ふざけないように注意しました。

――打越さんはいかがですか?

打越
 全員キャラクターが立っていたので、みんな書きやすかったのですが、なかでもセリフをスラスラ書けたのは飴宮です。

小高
 飴宮の悪口もスラスラ書けたんだ?

一同 (笑)

打越
 飴宮はスクリプト(シナリオをもとに演出の設定を行うこと)を組んでいるときに、どの表情を選んでもしっくりくるのも楽しかったですね。難しかったのは面影かな。

小高
 面影はセリフの文字変換が難しかった。いちいち書き換えるのが面倒で(苦笑)。

打越
 セリフの変換ではなくて(笑)、面影はどこまで相手のことを殺したいと思っているのかがちょっとわからなくて苦労した感じです。

登川
 僕も面影が難しかったですね。彼が何を考えているのか最後までつかみきれなくて。

小高
 面影は、個別のイベントのシナリオを見ればどんなキャラクターなのかがわかる。でも、このシナリオは後で書いたからな……。

登川
 面影のイベントのシナリオを読んで、こんな人だったんだと理解できました(苦笑)。

――シナリオを書くにあたって、キャラクターの設定などをまとめていないのですか?

小高
 簡単な設定は石井がまとめてくれていますが、ちゃんとした資料は用意していません。本当はよくないのですが、僕が書いたシナリオがすべてなので、シナリオを読み込んでキャラクターの理解を深めてもらっています。

――なるほど。登川さんの筆が乗ったのは?

登川
 凶鳥と大鈴木のコンビです。このふたりは相性がよくて、何も考えなくても自然と楽しいやり取りを書くことができました。あと、川奈も書きやすかったですね。川奈のようないい子が、僕はすごい好きなので(笑)。

小高
 正直、僕は川奈が等身大すぎて、シナリオを書くときに物足りなかったんですよ。だから、川奈が活躍するルートのシナリオを見たときは新鮮でしたし、僕には彼女のよさを引き出せなかったので、任せてよかったと思いました。

打越
 とくに登川や小泉が担当したルートのシナリオで、川奈は大活躍しているよね。

――キャラクターの設定資料を作らなかったからこそ、余白が生まれたのかもしれませんね。小山さんはいかがでしょうか?

小山
 僕は面影が書きやすかったです。彼が考えていることはわかりませんでしたが、わからないなりに書けばいいんだなということに気づいてからは、僕が担当したルートの“ヒロイン”は面影なんじゃないかというくらい活躍しています(笑)。ほかにも、凶鳥や喪白のような行動原理がわかりやすいキャラクターも書きやすかったですね。苦戦したのは拓海と霧藤です。ストーリーでとくに需要なキャラクターは環境要因に左右されるので、ここではどういう感じに書けばいいのかと、悩むことが多くて……。
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――石井さんはいかがでしたか?
石井
 僕は、担当したルートのシナリオがコメディー要素が強かったこともあって、丸子と凶鳥が書きやすかったです。ふたりともオーバーリアクションを取らせるとめちゃくちゃおもしろくなりますし、拓海にツッコミを入れさせると成立するので。逆に書きにくかったのは、厄師寺と喪白の気合の入っているコンビです。厄師寺はヤンキーキャラをうまく生かせなくて苦戦しましたし、喪白は僕にプロレスの知識がなかったのでネタを出すのがたいへんでした。

登川
 でも、プロレス番組のおかげで、プロレスの技や歴史に詳しくなったよね。

石井
 シナリオのネタにプロレス技を使うために、番組などを観て勉強したので(笑)。

――小泉さんがシナリオを書くうえで、得意なキャラクターと苦手なキャラクターは?

小泉
 苦手なキャラクターはとくにいなかったので、ここまで名前の挙がらなかった生徒の中から書きやすかったキャラクターを選ぼうと思ったのですが、僕が担当したルートは凶鳥、大鈴木、川奈の出番が多くて……。3人とも思い入れが強いですし、書きやすかったです。

小高
 名前が挙がらなかったキャラクターの中だと、銀崎はたいへんじゃなかった? 自分を卑下する語彙が尽きてきて、どうしようって。

登川
 それぞれ独自に調べているので、銀崎が卑下する言葉はルートごとに違うと思います。

小高
 僕はSNSで見かけた悪口も採用しましたよ。「この悪口いいじゃん!」って(笑)。

――(笑)。コンプライアンスが重視される昨今、本作のシナリオはギリギリのラインを攻めているなと感じました。シナリオチームの中で、線引きはどうされたのですか?

小高
 判断に迷ったときは、その都度、相談するようにしていて、たとえば戦争を茶化すのはやめようといったように、超えてはいけないラインは考えています。ただ、下ネタに関してはかなり少なくしたつもりだったので、体験版の感想で「下ネタが多い」と書かれたのは、正直、ちょっとショックでした。体験版で遊べる7日目までは、下ネタはゼロぐらいの気持ちだったこともあり、「どれが下ネタなんだよ!」と。

一同 (笑)

小泉
 下ネタはかなり減らしましたよね。当初は、もっと過激な下ネタもありましたが……。

小高
 女性のライターに「キツイ」と言われてやめました。でも、打越は「日和った」と。

打越
 こっちは小高の下ネタに合わせて書いているのに、整合性が取れなくなるから(苦笑)。

小高
 結果的に、下ネタは僕が書いたシナリオよりも打越のシナリオのほうが多いですし、内容もちょっとキツくなるという(笑)。

シナリオライターがスクリプトを担当することで完成度がアップ

――シナリオの作業で、ほかに印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

小高
 スクリプトの作業を分担したのが特徴的でした。これまでの作品は、僕がひとりでスクリプトを担当することが多かったのですが、今回はひとりで抱えきれる量ではなくて……。ひとりで作業すると5年くらいかかりそうだったので(苦笑)、登川にスケジュールの管理を任せて、各自シナリオを書いたルートはスクリプトまで責任を持って担当してもらいました。

登川
 シナリオライターがスクリプトをそれぞれ担当することになったときも、スケジュールが押していましたし、初めてスクリプトを担当するメンバーもいたので、不安でしたね。

――ちなみに、初めて担当されたのは……。

登川
 小山と新人の石井です。

小山
 ですから、わからないことがあるたびに、隣の席にいる登川に質問をしていました(笑)。

小高
 シナリオは基本的にリモートワークでしたが、スクリプトはみんなに出社してもらって進めました。全員揃っていたほうが、スクリプトの根幹のシステムを作りやすいですし、わからないことがあってもすぐに確認できますから。

――先ほど登川さんは、スクリプトを分担するのは不安だったと振り返っていましたが、実際に作業を進めてみていかがでしたか?

登川
 みんなのがんばりのおかげでスケジュールを守ることができましたし、いっしょに作業をしたからこその感動もあって。いちばん印象的だったのは、小山が急成長したことです。小山はふだん文章作成ソフトくらいしか使わないので、パソコンがあまり得意ではないんです。にもかかわらず、自分が書いたスクリプト通りにゲームが動く喜びに目覚めてからは、めきめきと成長して。ゲーム業界に入ったときに、同じ体験をしたなと懐かしくなりました(笑)。
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――スケジュールがたいへんな中で、心温まるエピソードですね(笑)。ほかにもスクリプトを分担したメリットはありましたか?
小高
 スクリプトをそれぞれ担当することで、シナリオの勉強になったんじゃないかな。

小泉
 そうですね。スクリプトで表情を設定しているとシナリオを直したくなるので、スクリプトの作業を続けていくうちに、シナリオがどんどんよくなっていく感覚はありました。

小高
 シナリオの完成度は高くなるよね。そもそも僕が自分でスクリプトを担当するようになったのは、ほかの人に任せても、けっきょく修正することになるからなんです。このセリフにはこの表情じゃないんだよなあと。当たり前ですが、シナリオを書いた当人がセリフやシーンに合った表情をいちばんうまく選べますから。それにスクリプトを組むと、ページ送りのベストなタイミングもわかるんです。次回、ゲームのシナリオを書くときも手応えを感じやすいので、シナリオライターはスクリプトまで担当するのがいいと思います。

フランス語の発音をもとに生み出された侵校生の言語

[B――体験版には、人のような姿をした侵校生の部隊長が登場しました。石井さんは、侵校生の言語を担当されたそうですが、どのように言語を考えられたのか教えてください。

石井
 文字デザインは社内のグラフィック担当が作成して、僕は言語の発音を担当しています。フランス語に近い発音で、五十音作ってほしいとオーダーされました。ただ、フランス語はわからなかったので、動画共有サービスなどでフランス語を聞き続けて、フランス語の発音を頭に入れるところから始めて。ある程度理解できたところで、フランス語っぽい発音を文字列に当てはめて、五十音順に変換して侵校生の言語が完成しました。

打越
 すでに解析している人もいるよね。

石井
 僕もビックリしました。ランダムな配列にしたところもあったのにすごいなと。

小高
 誰かがリークしたんじゃない?

一同 (笑)

――体験版でプレイできる範囲には、侵校生の言語はほとんど出てきていませんよね?

小高
 スタート画面のニューゲームやコンティニュー、ロードなどといっしょに表示されていた文字もヒントになったみたいです。

石井
 言語を考えた立場からすると、情報が少ない中で自分なりに考察して、解析してもらえたのはうれしかったですね。

――侵校生といえば、部隊長にトドメを刺して味方を強化するシステムも特徴的です。このシステムが生まれた経緯は?

小高
 ゲームのアイデアは、僕がプロットを書きながら思いついたものをストックしていました。たとえば、敵の数を多くしたい、バトルには仲間を全員出撃させたいといった感じです。僕が書きまとめたものの中に、敵にトドメを刺すときは残酷なシーンにしたいというアイデアがあって、それをメディア・ビジョンさんにゲームに落とし込んでもらったのが、味方を強化できるシステムです。

――部隊長にトドメを刺すときに、敵の視点になる演出も印象的でした。

小高
 敵視点にしたのは、正直に言うと工数の問題だったんです。最終的に部隊長が登場するムービーも作りましたが、当初は予定になくて。トドメを刺すシーンのためだけに、部隊長の3Dモデルを全員分作るのは工数がきびしい。それでアイデアをいろいろ出し合って、味方の3Dモデルを使える敵視点の演出を考えました。敵視点にしたことで、仲間たちの怖い一面を強調できて残虐性がアップしたので、結果的にはよかったと思います。

ギリギリまで調整することで遊び応えのあるバトルに

――ゲームシステムのディレクションを担当された登川さんに、バトルのシステムやバランスについておうかがいします。実際にプレイしてみると、プレイヤー側にいろいろと工夫できる余地があり、絶妙なゲームバランスだと感じました。バトルはどのように開発を進められたのでしょうか?

登川
 バトルに関しては、僕がチームに加わったときに“このゲームにおけるバトルの体験設計”を考え直すところから始めました。当時のバトルは、基本的なルールはあったものの、ほかのシミュレーションRPGと比べてあまり特色がなく、ゲームにとって非常に大切な“プレイしていて気持ちのいい瞬間”と、“このバトルでどういう体験をさせたいのか”がわかりにくいという印象があって……。そこで、本作のバトルで気持ちのいい瞬間は何だろうと自分なりに突き詰めた結果、“大量に出現する敵を一掃する快感”と、“そこにいたるためのルートをプレイヤーがある程度自由に組み立てられるパズル感”だと考えました。

――なるほど。

登川
 この気持ちがいい瞬間をゴールに設定して、プレイヤーがゴールに向かっていろいろな手段を使えるバトルを実現するために、システムを考えたり、バランスを調整したりしてデザインしていった感じです。たとえば、“敵を一掃する快感”のために必殺我駆力を入れたり、選択肢を増やすためにキャラクターの能力をピーキーにしたり……という感じですね。

――侵校生の配置も絶妙ですよね。敵をうまく倒せば味方の行動回数を増やせるので、短いターンでクリアーすることもできますし。

登川
 敵の配置にもこだわっています。当初は、攻撃範囲の広い厄師寺の近くに敵をまとめて配置していたりしたのですが、露骨すぎると、作り手側に誘導されているのがわかって冷めてしまいます。ですから、こうすると敵を一網打尽にできるのではと、プレイヤーに気づいてもらえるように調整しました。

――味方が戦闘不能になることでメリットが得られるゲーム性も、突飛ながら、じつはよく考えられているなと。

登川
 ありがとうございます(笑)。仲間の命を道具のように使い捨てるシステムは、仲間の被害をできるだけ抑えて戦う王道のシミュレーションRPGとは真逆のコンセプトで、本作ならではだと自負しています。また、仲間の命を犠牲にするシステムは、“『ハンドレッドライン』におけるバトルの役割とは何なのか?”という根本的な問いを煮詰めていった末に生まれたものです。エンディングにたどり着いたとき、“このシステムがあったからこそ、物語により深く没入できた”と感じていただけるのではないかなと思います。

――真相を知るのが楽しみです。あと、バトルは想像していた以上に歯応えがあって、いい意味で驚きました。2024年9月に実施されたメディア向けセッションで、小高さんが「ストーリードリブンのゲームなので、バトルの難度は低めにしています」と話されていていたこともあり、ゲーム好きには物足りないのではないかと不安でした。

小高
 じつは、9月以降に難度も含めてバトルの調整を行ったので、当時のインタビューでお伝えしたものとは別物に仕上がっています。当時のバトルも、そのときまでに実現できる範囲でやれることはやれたかなと思っていたのですが、そのタイミングでスクリプトの作業を終えた登川がバランス調整に入ってくれました。登川にギリギリまで調整したいと提案されたのと、メディア・ビジョンさんが僕たちの思いに応えてくれた結果、最後のブーストがかかってバトルのクオリティーが格段にアップした、というのが真相です。

登川
 9月以降に、調整していないバトルはひとつもありません。毎日のようにメディア・ビジョンの開発のディレクターと何時間も話し合い、細部にわたって調整を行っています。キャラクターの能力も見直していて、9月以降に得異科目の効果が変わったキャラクターもいます。時間があれば、いろいろ挑戦したいこともあるのですが、本作でできなかったことは続編で……。もしあれば、ですが。

――続編はちょっと気が早いですが、追加のダウンロードコンテンツ(以下、DLC)の配信予定はないのでしょうか?

小高
 本作は全部入れきったので、DLCの予定はありません。今後の予定でお伝えできることはありませんが、強いて言うなら、特防隊のメンバーの過去のエピソードは、小説にしてもいいのかなと考えています。小山が書いてくれた『特防隊前日譚FILE03 雫原比留子の初陣』(本作の予約特典)で雫原の過去が描かれているので、ほかのメンバーの小説があってもいいかなと。

打越
 小説は素材の制限がないぶん、ゲームに登場しない場所を舞台にすることもできるので、やりようはあるかなと思います。

登川
 小山は部隊長のシナリオを書きたがっていたよね? 敵の部隊長に特徴的なキャラクターがいて、その部隊長のサクセスストーリーを想像して小山と盛り上がりました(笑)。

小山
 チャンスがあれば書きたいです(笑)。
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生徒たちが全員“◯◯”するルートの存在が明らかに!

――本作の発売までわずかながら時間がありますので(取材日は2025年2月28日)、体験版をまだプレイされていない人に向けて見どころを教えてください。

小高
 シナリオはもちろん、シミュレーションRPGのパートもゲームとしておもしろくできたと手応えを感じています。体験版の7日間でシナリオとバトルを味わってもらえたらと思いますが、全体で見るとまだほんの序の口にすぎません。8日目からとんでもないことがつぎつぎと巻き起こるので、体験版をプレイした方は、今後の展開にご期待ください。

――発売を楽しみにしているファンや読者に向けてそれぞれメッセージをお願いします。

登川
 本作は、自分にとって初めてディレクターという肩書きをいただいたタイトルです。その名に恥じないようこれまでの経験を総動員し、できることはすべて出し切りました。スタッフ全員が全身全霊を注いで作り上げた、間違いなく「おもしろい」と胸を張れる作品になっています。ぜひ購入していただいて、僕らが生み出したとんでもない世界を体験してください。多くの方がとあるシーンでビックリすると思います。

小山
 登川の言う通り、全力で開発にあたったタイトルですので、このゲームが売れなかった世界線のことは考えたくありません(苦笑)。成功してほしいという願いしかないので、ぜひプレイしてほしいですし、おもしろいと感じた方は応援をお願いします。SNSなどで感想を発信してもらえるとうれしいです。

石井
 このプロジェクトの説明を受けたときに、アドベンチャーゲームを作るにはこれほどのテキスト量が必要なんだと感心しましたが、後で多くの先輩方に、「このプロジェクトは異常だから!」と教えてもらいました(笑)。トゥーキョーゲームスの名前の由来通り、狂気が感じられるタイトルに仕上がっていますので、クレイジーさを楽しんでもらえたらうれしいです。プレイした方たちの感想が聞けるのを楽しみにしています。

小泉
 本作は、トゥーキョーゲームス初の自社IP(知的財産)になります。このゲームを作るために会社を立ち上げたといっても過言ではないので、多くの方に楽しんでもらえたらうれしいです。そして、トゥーキョーゲームスという開発会社が生まれてよかったと思ってもらえたら最高です。
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打越
 くり返しになりますが、たくさんのルートの中からお気に入りのシナリオを見つけてもらえるとうれしいです。コンプリートを目指す方は、ぜひすべてのルートを遊び尽くしてください。

小高
 初めて公開しますが、全員生存するルートも用意しています。僕はそのルートのシナリオを見たときに感動しました。満足したタイミングでプレイを終えてもらっていいのですが、本作のようにクレイジーな作品にはなかなか出会えないと思うので、味わい尽くしてもらえるとうれしいです。
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『ハンドレッドライン』スタッフインタビュー

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      集計期間: 2025年04月26日09時〜2025年04月26日10時