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『シャインポスト Be Your アイドル!』はなぜSwitch2専用ゲームになったのか? スマホ向けから変更の経緯やゲーム性、“AI歌唱”などいろいろ訊いたインタビュー

by小林白菜

by堅田ヒカル

更新
『シャインポスト Be Your アイドル!』はなぜSwitch2専用ゲームになったのか? スマホ向けから変更の経緯やゲーム性、“AI歌唱”などいろいろ訊いたインタビュー
 『シャインポスト』、それはコナミデジタルエンタテインメントとストレートエッジによるメディアミックスプロジェクト。2021年刊行開始の原作小説から始まり、2022年にはテレビアニメが放送。王道ながら意外性のあるストーリーやエモーショナルなライブシーンで、本作は熱い支持を集めました。

 この勢いに乗ってKONAMIとしてはある意味で本丸と言えるゲーム版、『
シャインポスト Be Your アイドル!』がリリースされる……と思いきや、数年にわたって新情報は公開されず。そして月日は流れて2025年1月、対応プラットフォームがモバイルからコンシューマー機へと変更されることが発表されたのです。
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 このたび、そんな『シャインポスト Be Your アイドル!』の新たな対応ハードがNintendo Switch 2になることが明らかに!

 アイドルたちが輝く場所として、なぜこの未知のゲーム機が選ばれたのか? そして、長らく大きな発表のなかった
『シャインポスト』がいま目指そうとしていることは何なのか? プロデューサーを務める石原明広氏に聞きました。
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石原明広 氏いしはら あきひろ

コナミデジタルエンタテインメント所属、メディアミックス作品『シャインポスト』プロジェクトプロデューサー。『Elebits』、『ラブプラス』、『ラブプラス+』などのタイトルではディレクターを担当。(文中は石原)

“終わりが来ない”ゲームから“夢破れて引退”などの結果がプレイヤーの育成・経営に委ねられるゲームに

――改めて、『シャインポスト Be Your アイドル!』のプラットフォームが変更された経緯を教えてください。

石原
 どこかでずっと『シャインポスト』で描きたい“アイドル”というテーマと“モバイルゲーム運営“との相性は課題として抱えていました。

 一言でいうとそれはやはり「
アイドルとしての何らかのゴールを描きたい」。そういう思いを持ち続けていました。さらに昨今のスマートフォンアプリ市場の変化などを始め、いくつかの判断材料が出てきた状況でプラットフォーム変更をするにいたりました。

――対応プラットフォームにSwitch2を選んだ理由は何でしょうか?

石原
 大きな理由はやはりSwitch2が魅力的なプラットフォームだと思ったこと、そしてそのローンチタイトルとしてチャレンジできる機会があったことです。

 スマートフォン向けに開発している段階から本作のライブシーンは、アイドルの成長度合いによって多種多様な変化がリアルタイムで起きる仕様だったため、ある程度の性能が必要でした。Nintendo Switchでもテストしてみたのですが、シェーダーなどを簡素にしても思ったような描画スピードが出ず、あらゆるグラフィックをデータから作り直す必要があったんです。

 けれど、
Switch2の性能であればモバイル版で考えていた以上のグラフィックが表現できる。ローンチに間に合わせるならば限られた期間で作り上げなければならないというミッションでもあったので、これまで作ってきたデザインアセットを大きく変えることなく持って来られるというのもSwitch2の利点でした。
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――モバイル向けの基本無料タイトルから買い切りタイトルになったのも大きいと思いますが、それ以外にもゲームデザイン面における大きな変更はありましたか?

石原
 いちばん大きな変更はシステム面ではなくプレイヤーの目的です。運営型のスマートフォン向けプラットフォームは、終わりが来ないからこそ過程であるアイドルの成長を描き続けられる、いわば“成長や育成自体がゴール”と言えるゲームデザインでした。

 ゲームクリアーの概念がある買い切りゲームは育成や成長が手段となり、
“アイドルの夢の実現がゴール”のゲームデザインになりました。これによって、困難に対峙して成長していくシナリオから、夢が叶う/叶わないの状況・結果に対してプレイヤーの価値観が問われるシナリオにゲームとしての軸足を変更しています。

――本作は“アイドル育成”と“事務所経営”がミックスされたゲームになるとのことですがこのふたつはどのように絡んでいくのでしょう?

石原
 事務所をうまく経営し、機能を強化して施設などを充実させることで間接的にアイドルたちがより効率的に育っていく……という構造です。

 アイドルはどんな環境でも自分の夢のために努力は惜しまないのですが、育成施設やアイドルの成長を育む環境が整っていくことで、アイドル自身の努力が実る効率や確率が高まる、というような仕組みにしています。

 また、今回のシステムのポイントは育成(≒夢)と経営(≒現実)の2軸があることで、プレイヤーの価値観が問われるように絡んでいます。アイドルの“夢”を叶えるには、アイドルの成長や活躍に振り切った事務所運営をするほうが有利です。しかし、プレイヤーの立場は経営者。あまり肩入れをし過ぎると、経営バランスを欠きゲームオーバーである赤字倒産になりかねません。かといって“現実”の経営優先で進めると、夢が遠のくアイドルたちは不安を抱くかもしれません。

 アイドル育成と事務所経営における利害関係のズレが、プレイヤーの価値観を問うシステムの根幹になっています。
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――経営シミュレーションは、人によってはハードルが高く感じられるゲームジャンルかもしれません。ある程度綿密な計画性が求められるのか、それとも初心者がライトに楽しめるものなのか。このあたりのバランスはどのようになりますか?

石原
 アイドルの育成計画と事務所の経営方針をしっかり立てつつ、都度ゲームプレイの中で調整していく……というシミュレーション好きな方でも楽しめるやりごたえのあるバランスにしています。初年度は事務所の力が弱く、資金や実績もないので、採用したアイドル(一期生)を武道館に連れていくことは難しいと思います。

 けれど、アイドルは1年ごとに二期生、三期生と採用していくことになり、アイドルたちががんばった結果は事務所に寄与していきます。本作の大目標は“5年以内に武道館にいく”ことなので、
一期生や二期生にがんばってもらえば、三期生が武道館に到達するのは、じつは初心者であってもそこまで難しくありません。

 ですが、3年で武道館に到達できなかったアイドルは“引退”しなくてはいけないので、一期生や二期生には悲しい思いをさせてしまうことになります。本作はマルチエンディングを採用しています。トゥルーエンドの条件はまだ内緒ですが、やはりアイドルを誰も泣かせることなくこの難題をクリアーすることはとても重要な条件になってくるわけです。
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未熟なアイドルの“ヘタ”なパフォーマンスの表現に最新“AI歌唱ライブラリ”技術を活用

――“5年以内の武道館ライブ成功”というゲームの目標は、アイドルが題材のゲームとしては比較的長いスパンかと思います。これにともなってアイドルたちの成長を表現する上での特色などはありますか?

石原
 前述のジレンマによって、プレイヤーは経営者として“夢か、現実か?”といった判断を求められることも多く、あっという間の5年間になります。通常のアイドル育成ゲームであれば、直接の育成対象は“アイドル”ですが、本作はあくまでも経営シミュレーションゲームですから、事務所経営の結果としては、どんどん施設が増えたり、ライブ会場が大きくなるというような変化があります。

 武道館への道のりにおいても少しずつ大きな規模のライブができるようにクラスアップしていくことが重要なのですが、クラスアップしていくにはライブを成功させなくてはならず、それはつまり会場に来ている多彩なファンを楽しませる必要があります。そのためには適切な歌唱曲を選ぶ必要もありますし、会場のサイズが大きくなれば、来るファンも多くなり、よりバリエーション豊かなライブを求められます。

 つまりより多くの楽曲数、セットリストも重要になります。ダンスナンバーのように体力を必要とするものや、表現力を必要とする楽曲を組み込もうとしても、アイドルにそこまでやりきれる体力が備わっていないと、ミスを連発し、結果的にライブを成功させることは難しくなってしまいます。

 十分な育成が成功してアイドルが成長すると、ミスが減って歌も上手くなっていく、というのは後述の“歌唱AI”の採用によってライブシーンで実感できることでしょう。
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――ライブシーンにもかなり力が入っているようです。ズバリ、登場する23人のアイドル全員にセンター級の歌唱、パフォーマンスを割り当てることは可能なのでしょうか?

石原
 はい、可能です。

 
全曲、歌唱ポジションを全アイドルから組み合わせることもできます。歌割りも楽曲ごとにかなり複雑に作られているため、リアルなアイドルユニットのような歌割りと、CRE8BOYさんによる素晴らしい振り付けのフォーメーションダンスがお楽しみいただけます。

 歌唱ポジション変更の自由度が高いため、あらゆる組み合わせで歌唱パートを歌えなくてはいけないこともあり、
専用にディープラーニングしたAI歌唱ライブラリを作りました。育成が進んでいないとアイドルはライブでミスをすることが多くなりますが、そうするとピッチを外したりテンポがズレたり、ビブラートやロングトーンがうまく使えなかったり……そうした歌唱になります。

 しかし、育成が進むとミスも減りそれらは改善される、という育成表現がされています。

 生歌の歌唱でそれらを表現しようとすると収録にとんでもない時間がかかるため、ライブシーンは歌唱ライブラリの採用ならではの仕様になっています。AI歌唱と聞くと品質に不安を持つ人もいるかもしれませんが、じつは弊社から先行して
『LAUGH DiAMOND』(※)というAI歌唱ライブラリを発売しており、その技術の一端は公開済みです。ご興味があればぜひサンプルなども聴いてみていただきたいです。
※LAUGH DiAMOND(ラフダイヤモンド)……最新のディープラーニング技術を使用したAI歌声ライブラリで、音声合成ソフト“VoiSona”で歌詞と音符を打ち込むだけで、楽曲を制作できる。4人の少女をイメージした商品となっており、声のモデルとなった声優4名には、販売で得られた利益の一部が還元される。その4キャラクターはゲーム『シャインポスト』にも登場。[IMAGE]
――アニメや小説とはまた異なる、パラレルな展開になると思いますが、これらに触れていることでうれしくなれる要素や小ネタなどはありますか?

石原
 ゲームのメインモードは、小説やアニメ版とはまた違うifの世界線の物語になります。しかし、物語の始まりが“螢”のライブであることは同じです。

 アニメでは螢のライブを見た春たちがアイドルを志しますが、本作ではプレイヤーがアイドルの夢を支えるためのアイドル事務所経営者になることを志します。螢のシーンで聞こえる雑踏の声の中に、どこかで聞いたことがある声も混ざっているかもしれません。

 また、小説やアニメの
『シャインポスト』を好きでいてくださる方のために、“ヒロインストーリーズ”というフルボイスのストーリーモードを用意しました。メインモードはifの世界線ですので公式ユニットは登場しないのですが、このヒロインストーリーズでは原作の設定に準拠したお話が、各ユニットからひとりに焦点を当てて、つまりヒロインたるその子の目線でユニットの物語が語られます。

 ボリュームのあるストーリーの実装は相当な作業量だったのですが、チームが本当に気を吐いてくれて、1話まともに音声を再生すると8時間近くはかかる物語を4話も実装してくれています。

――単純計算で32時間!

石原
 ヒロインストーリーズモードには選択肢が出たりパラメーターがあったりというゲーム性はありませんが、非常に読み応えがありますので、原作ファンはもちろん、ゲームで興味を持ってくれた人にもぜひ読んでみていただきたいです。

――原作小説の発売やアニメ版の放送当時から現在まで、アイドル業界のトレンドの移り変わりにともなって意識的に調整したポイントがあれば教えてください。

石原
 アイドル業界は世代交代が著しく、新興勢力の台頭が目覚ましく本当におもしろい業界になっているなと思います。新しいアイドルが多く誕生する一方で、時代を作ったアイドルも引退を迎え、夢を叶えることができずに去っていくアイドルも少なくありません。

 本作ではそういった部分も描きます。さまざまなアイドルの多種多様なゴールを描いています。これは当初のモバイル版の企画にはなく、その時点からさらにアイドルシーンが変化していったことで描こうとなった部分です。

――最後に、ゲーム版『シャインポスト』で表現したい“アイドル像”は、どういったものですか?

石原
 私はアイドルの魅力は“生き様”、“在りかた”だと思っています。アイドル自身がどういうアイドルで在りたいのか、その在りかたがアイドル人生の生き様として刻まれます。

 仮に外見やスキルだけが至上の基準なのであれば、ここまで多様なアイドルたちが活躍する文化は育ってないでしょう。前述しましたが、アイドルの生き様や在りかたがひとつ象徴的に現れるのはやはり大きな区切りを迎えたときだと思います。何かの目標を達成したときや、引退などさまざまですが。そうしたアイドルのありようそのものをゲーム版では、より重要なテーマとして扱っているかなと思います。

――大きなライブや引退の瞬間に、アイドルとしての“在りかた”がひときわ大きく輝く……。

石原
 また、私がアイドルにハマり始めた15年程前はやはり大きな声でそれを主張することははばかられました。いまではそのころよりは周りに言いやすくなった気はしますが、『シャインポスト』全般においてひとつのテーマとしては、“好きなことを大きな声で好きと言える世界”であってほしいということがあります。アイドルでなくても、何でもいいのですけど、そういう個人が大事にしているものが尊重される世界であってほしいなと思っています。

アニメ版『シャインポスト』放送当時のインタビューはこちら

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集計期間: 2025年04月29日14時〜2025年04月29日15時