西健一氏(代表作:『ちびロボ!』、『moon』ほか)が原案、森川幸人氏(代表作:『がんばれ森川君2号』、『アストロノーカ』ほか)が世界観デザイン・AI設計を手掛ける完全新作『はらぺこミーム』が、クラウディッドレパードエンタテインメントより、Nintendo Switchにて2025年6月19日に発売となる(Steam版はドリコムより2025年7月31日発売)。本作は、クセ強なクリエイターが集結して作るタイトルなだけに、かなりユニークで味わい深い作品として期待が高まるところだ。
本稿では、そんな『はらぺこミーム』の発売を記念して、森川幸人氏の特別寄稿コラムをお届け! 名作『アストロノーカ』や『くまうた』など、森川氏が手掛けた名作の裏話を交えつつ、AIを使ったゲーム作りの奥深さをわかりやすく解説してくれる内容となっているので、ぜひご一読を。
なお、森川氏のAIゲーム開発の始まりから、『がんばれ森川君2号』開発にまつわるエピソードについては、週刊ファミ通2025年7月3日号(2025年6月19日発売)の『はらぺこミーム』特集内にて、特別寄稿コラムとして掲載する。気になった方は、ぜひこちらもご覧いただきたい。
森川幸人氏(もりかわ ゆきひと)
モリカトロン代表取締役。ゲームAI設計者、グラフィッククリエイターとして活躍中。代表作に『がんばれ森川君2号』、『アストロノーカ』など。『はらぺこミーム』では世界観デザイン、AI設計を担当。
ゲーム、AIとの出会い
AIを使うことに関して言うと、正直何きっかけでそう思ったのか、記憶にないです。AIという言葉はSFかなんかで知っていましたが、どういうものであるのか企画が通った時点ではまったくわかっていなくて、SFレベルの知識で“なんか人間のような知恵をもつ装置”みたいなふわっとしたイメージしか持っていませんでした。そのため、企画が通ってからAIの勉強を一から始めることになりました。
大学は芸術学群(学部のようなもの)だったので、AIを理解するための大学レベルの工学的数学を理解するには骨が折れました。そして、実際に半年間はゲーム自体の製作が進まないまま、ずっとAIの勉強をしていました。いま考えれば、よくそんなこと許してもらえたな。SCE(※)さん太っ腹だったなーと思う次第であります。
※SCE……『がんばれ森川君2号』を発売したソニー・コンピュータエンタテインメントの略称(現SIE・ソニー・インタラクティブエンタテインメント)。なぜ『がんばれ森川君2号』を作ることになったのかは、週刊ファミ通2025年7月3日号(2025年6月19日発売)のコラムで解説されている。![[IMAGE]](https://cimg.kgl-systems.io/camion/files/famitsu/43806/a3fb5ed13afe8714a7e5d13ee506003dd.jpg?x=767)
『がんばれ森川君2号』(1997年発売/SCE)……AIを搭載したロボット“PiT”を育成して、重要アイテム“AI-CHIP”を集めさせていくゲーム。
AIの勉強をしていくうちに、多くのAIアルゴリズムのうち、ニューラルネットワーク(Neural Network。以下、NN)と遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm。以下、GA)というモデル(アルゴリズム)にとくに魅せられて、いつの間にか、ゲームにAIを活用すると言うよりは、AIを使うためのゲームの企画を考える、隙あらばAIを使うという本末転倒な思考回路に陥ってしまいました。
時代を先取りしすぎた!? 『アストロノーカ』
NNとともに興味を持ったAIであるGAは、その名が示すように生物の進化をモチーフとしたAIです。たまたま当時、夢の島(東京のゴミを使って作った人工の島)のハエが問題になっていました。なんせゴミで海を埋め立てて作った島ですから、夏場にはハエが大発生するわけです。そこで殺虫剤を散布する。すると中にはその殺虫剤に耐性を持つ個体がいて、その子孫がつぎの夏に大発生する。するとより強い殺虫剤を散布して撃退する。それがイタチごっこなっているという問題でした。そのニュースを聞いたとき、これはゲームじゃないか。ハエの殺虫剤への耐性進化はGAで再現できるはずと考えて作ったのが『アストロノーカ』です。
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『アストロノーカ』(1998年発売/エニックス(当時。現スクウェア・エニックス))…… AIで動く害獣“バブー“をトラップで撃退しながら作物を育てて、宇宙一の農夫を目指すシミュレーション。
さすがにハエとゴミだとキモいので、プレイヤーが栽培する野菜を食べに来る害獣(バブー)にトラップを仕掛けて撃退する。するとバブーは、そのトラップを破るように進化するという“宇宙農家”という世界観にしました。このバブーの進化にGAを使ったわけです。これはいろいろたいへんだったのですが、結果、とてもうまく機能しました。
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どのトラップをどこにどれだけ配置するかはプレイヤー任意だったので、プレイヤーごとにバラバラな状況になります。汎用的なトラップ配置が想定できないため、全プレイヤーに合うようなバブーのパラメータを事前に作っておくことができません。ところがGAを使えば、プレイヤーが仕掛けたトラップに応じて自律的にパラメータを調整していくので、あらかじめパラメータを用意しておく必要がありません。実際に、ゲームで用意したのは最初の20個体のパラメータのみです。最初はみな同じバブーを相手にプレイするわけですが、その後はプレイヤーのトラップ配置のクセに応じてバブーが自律的に多様に進化していきます。
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この仕組みはこのゲームに限らずRPGの武器、モンスターのパラメータ生成に使えるはず! 事前に手作業で膨大なパラメータを作らなくてもいい、想定したプレイヤーレベルと乖離したパラメータを設定してバランスをブレイクするリスクもない! これはもう全RPGで使うほかない! と確信していたのですが、残念ながら、2025年現在、そのような使われかたをした事例が存在しません。
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いまでは考えられない話ですが、当時、農業だけのゲームというのはまだ存在しなかったんです。さらにAIが絡んで予定調和的なゲーム進行にならないということが足を引っ張ったのでしょうか。さすがにこのときは、AIを抜きにしてもちゃんとおもしろいゲームに仕立てられたという自負があったので、ちょっとへこみましたね。
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「GAにおけるバブーのパラメータ(遺伝子)。開発中はこの数列を見るだけでバブーの進化の具合がわかったのでした(いまでは無理)」(森川氏)
『くまうた』の死亡フラグを初音ミクが教えてくれた
『アストロノーカ』を作りながら、GAを使うとプレイヤーの好みに応じた音楽を生成することができるんじゃないかというアイデアが浮かびました。いろいろな歌詞やメロディーをモンスターのパラメータみたいに考えれば、プレイヤーの好みに合わせたモンスターの進化と考えられるわけです。このアイデアで作ったゲームが『くまうた』です。宇宙一の演歌歌手を目指すシロクマが演歌の師匠であるプレイヤーのところにやってきて、楽曲の制作にいそしむ。そんなゲームです。
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『くまうた』(2003年発売/SCE)……プレイヤーが師匠となり、弟子となったクマといっしょに演歌を作り上げていくという異色の作品。
最初はいろいろな歌詞、メロディーが生成されるが、プレイヤーの好みに合った歌詞、メロディーのみが生き残り、進化していき、自律的な音楽が生成されていくという仕組みです。いまの生成AI、たとえばSUNOのような楽曲生成の先駆けですね。結局いろいろ紆余曲折があってGA自体は使わなかったのですが。
先駆けと言えば、このゲームは音声合成で歌を歌いあげ、モーションキャプチャーでクマのアクションが作られています。いまでは当たり前の技術ですが、当時はまだあまり採用されていなかった。少なくともSCEではモーションキャプチャーを使った最初のゲームでした。また、“初音ミク”が生まれるよりはるか前にリリースされています。
余談ですが、“初音ミク”が出たときは、ああこういうカワイイキャラクターがテクノポップぽい曲を歌うじゃないと売れないよなー。クマが演歌を歌うなんて最初から死亡フラグが立ってたなと大いに反省したものです。
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「開発メンバーにゲームの仕様を説明するためのイラスト。GAを使って歌詞が選択されていくところ」(森川氏)
そして『はらぺこミーム』へ
『はらぺこミーム』ではミームの意思決定やアイテムに対する印象、行動の学習などにNNが使われています。AIの使われかたとしてはシンプルですが、久しぶりに、いわゆるキャラクターAIが組み込まれたゲームだと思います。
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『はらぺこミーム』(2025年6月19日発売/クラウディッドレパードエンタテインメント(Steam版はドリコムより2025年7月31日発売予定))
生成AIが出てからは、なんだかAIは絵素材やキャラクターのメッセージなどゲーム素材を作るツールみたいなイメージでとらわれることが多い気がします。それはそれで重要なAIの能力ですが、AIのポテンシャルは素材作りだけに限られたものではないことは意識しておきたい点です。
先に話したように生成AIだけがAIではありません。生物の脳や進化、人間の考えかたなどをお手本にしたAIアルゴリズムが多くあります。そっちのほうがゲームの中心に入り込んで、キャラクターに生き生きした行動をさせることができます。
NNを使うため、ミームの行動はすべてプレイヤーの思うまま、ゲームデザイナーの意図する通りになるとは限りません。この「野生っぷり」は好みの分かれるところでしょう。生き物っぽい振る舞いを楽しむ遊びと、プレイヤーの思いのままにキャラを操る遊び、どちらがおもしろいか、どうバランスを取っていくかという問題は、キャラクターAIを採用する場合には必ずぶち当たる問題です。
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AIの問題に限らずゲームの根幹の遊びに直結する問題であるため、なかなか悩ましい問題です。『はらぺこミーム』も例外ではないです。ただしゴールは明確で、ミームの振る舞いがかわいく、生き生きして見えたら合格ってことですね。さて、みなさんのジャッジは?
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「いちばん最初に描いたミームたちのラフ絵です」(森川氏)