かの偉人は言った。
「えっちなのはいけないと思います!」と。
だけど、『ブラウンダスト2』のキャラクターはとてもえっちである。お色気という言葉だけでは済まされない。スマホとPCで展開するRPGで、PCの大画面に映すとたまに不安になるレベルだ。法の抜け穴か?
もうあれだ。デザイン担当のイラストレーター・折り紙さんに直接聞く。
ユースケ
(この記事の担当者) どうしてこんなことするんですか。

笑う。
折り紙
奇遇ですね。私も「何やってるんだろう」と思っています。
ユースケ
できればわかっていてほしかったな。



こんなのだぞ。何やってんだ。
折り紙さんが描く絵はとてもえっちである。この絵で『ブラウンダスト2』に興味を持った人が多いのは事実だろう。ふらふらと誘われて遊んでみたらとても戦略性の高いRPGであることに気づき、いつしか抜け出せなくなっている。アリジゴクみたいだ。
もちろん魅力はほかにもある。たとえば主人公のラテル。彼は純粋な青年で、悪に対しては序盤から殺意を隠さないのがおもしろい。すぐに始末しようとする姿勢が好きだ。

爽やか好青年キャラかと思いきや、序盤はとくに怒りに敏感。いいキャラ。

バフ役を先に行動させて、アタッカーはまず壁役を狙って……と、攻撃順を考えてパーティー編成。デッキビルド系の楽しさがある。
さて、最初にこれだけは伝えておきたい。
ユースケ
ファミ通.comはよい子も見るメディア。性の目覚めを促進させるのは本意ではないので、絵は全面的にぼかすつもりです。
折り紙
望むところです。
ユースケ
望むんだ。


というわけで、Neowizゲームオンさんにお邪魔しています。ファミ通.comのミス・ユースケと申します。
折り紙
『ブラウンダスト2』原画チーム長・イラストレーター。話を聞くと信念をもって作品に臨んでいることがわかる。文中は折り紙。
ミス・ユースケ
ファミ通.com編集者。えっちなイラストの記事をどうやってファミ通.comに載せるか苦心している。文中ではユースケ。
「ときどき怖いんです。自分はクレイジーなんじゃないかって」
遠慮しても仕方ないので、最初はストレートにいこうと思う。真っすぐいってぶっとばす。右ストレートでぶっとばす。
ユースケ
改めて。どうしてえっちな絵を描くんですか?
折り紙
もともと『ブラウンダスト2』はイラストのクオリティを重視していて、私はアートにセクシーさをミックスさせるのが好みなんですね。
折り紙
あるとき、セクシーな表現を盛り込んだら反応がすごくよくて。
ユースケ
BC/ADが切り替わる瞬間だ。えっち特異点(シンギュラリティ)。
折り紙
ファンの方からより大胆なものを求められるようになって、それに応えたくて、ファンも喜んでくれて、もっと大胆になって、また喜んでもらえて……。
ユースケ
戦いを通して成長する戦士みたいですね。
「脱いだら監督から褒められて転がり落ちていく女優みたいですね」と言おうと思ったが、どちらかというとバーサーカー系だと思う。


企画会議で「水着キャラを出そう」と決まったとして、右みたいなデザインはなかなか出てこないと思う。どうして自分で水着を引っ張るのだ。
折り紙
私自身、ときどき怖いんです。自分はクレイジーなんじゃないかって。
ユースケ
力を制御できない悲しきモンスターだ。
折り紙
そして本当に絵をぼかすんですね。
ユースケ
おもしろいかなと思って。
ただえっちにするだけなら、その方法はシンプルだ。脱がせばいい。だが、『ブラウンダスト2』は世界設定や小道具にSF要素があったり、ビジュアルへのこだわりを感じる。ただ脱ぐだけじゃないのは間違いない。
折り紙
社長兼プロデューサーのイ・ジュンヒがもともとアートディレクター出身なんですよ。彼自身は設定を細かく作るタイプ。それが『ブラウンダスト2』の作風につながっているのでは。
ユースケ
へぇー。別ゲームの話題になりますけど、『NIKKE』のキム・ヒョンテさんもアート(イラストレーター)出身ですよね。アート出身の人が作ると、

ユースケ
こうなってしまうのか……。
折り紙
言い返せないのが悔しいです。
ユースケ
ソーシャルゲームは短いスパンでアップデートを準備する必要がありますよね。変化を見せるのにキャラの新ビジュアルはすごく有効。衣装の変化はわかりやすい。
ユースケ
そういう意味で、アートを軸に開発を引っ張るのはすごく理にかなっている気がします。
折り紙
急に褒めてきますね。ありがとうございます。
ユースケ
えっちな絵に理由をつけておかないと、この記事がお蔵入りになりそうなので。
デザインするとき、カットシーンも動きも頭の中に全部ある
ユースケ
僕、ウィルヘルミナが好きなんですよ。キリっとしてかっこいいお姉さんキャラ。

ウィルヘルミナの基本イラスト。これはこれですごいのだけど。

水着が小さいのである。それは本当に水着ですか? 思わず中学英語の例文みたいになってしまう。
ユースケ
何があったらこんなことになるんでしょうか? どうかと思いますよ。
折り紙
取材で諭されるのは初めての経験です。
『ブラウンダスト2』はキャラクターひとりに対して複数の衣装パターンがある。衣装によってはそれぞれがパラレルワールドの別人物として設定されているが、ベースの性格はだいたい同じ。ウィルヘルミナは生真面目で厳格。
それなのに、どうしてあんなにちっちゃい水着を着てしまうのか。おしゃれに興味がなくて手近なものを着たのかもしれないし、真面目な人の服の趣味が攻撃的なのはとても好ましいのだけど、理由を知りたい。


水着は全体的に小さめ。この世界ではこれが標準なのかもしれない。
折り紙
デザインはプロデューサーとふたりで簡単なキーワードを出し合って決めたりしますね。
折り紙
たとえば水着ウィルヘルミナの場合は、「水着キャラはほかにもいるから、水着っぽくない方がいいよね」みたいに。シフォン系のやわらか素材ワンピースなんてかわいいじゃないですか。
ユースケ
かわいい服を着せたい気持ちはあるんですね。キリっとした女性がかわいい服を着るのはとてもいい。
折り紙
話し合ううちに、ちょっと大胆にしてみようかって。
ユースケ
で、「ちょっと」がこれですよね。

ユースケ
蛇口がぶっ壊れている。
折り紙
大枠が決まったら私の領域です。どういったデザインにするのか、演出をどう入れるのか、どう動かすのか、カットシーンにどう反映させるのか。最初から頭に全部あるんですよ。
ユースケ
最初から、全部?
折り紙
はい。モーションも私が作っていますし。
ユースケ
動きも折り紙さんが作ってるんですか⁉ イラスト(静止画)だけじゃなくて!?
折り紙
いちばん説明しやすいのはこの娘かな。


ユースケ
ロエンですね。少し前から流行の逆バニー。
折り紙
お詳しいですね。
逆バニーについては各自調べてもらうとして、この時点で読者から「その衣装おかしいだろ」とツッコミが入っていると思うが、心を強く持って進める。
折り紙
試案の段階から、服が全部弾ける絵(イメージ像)は見えていました。
ユースケ
未来視の能力者だ。
折り紙
動き方もカットシーンの演出も頭の中に全部ある状態で描き始めるんです。最終的な答えから流れを逆算して描くイメージですね。

電気がスパークするような演出とともにパーツが弾ける。

衣装パーツの動き(右)も最初から計算に入れている。
描いていくうちにブレーキの効かない暴走特急になっているものだと思っていた。ではなく、衣装のパーツが弾ける演出をやりたくてこのデザインにしたのだという。意味のある逆バニーだったのだ。意味のある逆バニーって何だ。
折り紙
まず、こういうポーズがいいなどの基本的なアイデアがあります。仮に露出度を高くするなら、キャラの引き出しにあるものと合わせていく。
ユースケ
逆バニーが引き出しに入っている女の子、不憫すぎる。
折り紙
バシッとすぐにハマることもありますし、長く考えることもありますね。
ユースケ
大事な話を聞いた気がしますけど、

ユースケ
「えっちだな」と思うことしかできません。
折り紙
本能に導かれてしまいました。
折り紙
何とか理論的にごまかせると思ったんですけど。
ユースケ
どうしてインタビューでごまかそうとするんだ。
折り紙
パッと見で困惑させたいんだと思います。違和感があればスルーされないですし、そこに細かいディテールを入れることで斬新さにつなげたい。
折り紙
それが下品にならないように、やりすぎないように、ぎりぎりを攻めたい。攻めの姿勢は大切ですから。
ユースケ
ぎりぎりアウトな危険性も考慮してほしかったな。

これはアウト寄りなので全面モザイク。
ユースケ
プロデューサーと話して、「今回はセクシー系でいきましょう」などと判断するのもわかるんですよ。
ユースケ
やっぱり外せないと思いますし、セクシーでかっこいいお姉さんは女性人気も高いですもんね。でも、


アクライト教団の大司教代行ミカエラ。一見、慈愛に満ちた人物で、底知れない怖さを感じさせるキャラなのだが、夏の水着イベントでは露出狂お姉さんとして描かれる。どうして。
ユースケ
どうかと思いますよ。
フルスイングにもほどがある。三振か場外ホームランか。これが折り紙さん流のチームバッティングなのかもしれない。なるべくえっちな絵を提供したいという過剰なホスピタリティは折り紙さんを怪物にしてしまった。
いったん話をウィルヘルミナに戻す。設定上、彼女はすごく生真面目だ。それなのに、どうしてこんなことにしてしまうのか。彼女に何があったのか、その発想の源を、僕は知りたかった。
折り紙
まずはこちらをご覧ください。けっこう前の試案です。

ユースケ
まだ理性を保ってますね。真ん中のデザインなんて、すてきなお嬢さんじゃないですか。
折り紙
たしかにウィルヘルミナは真面目です。ただ、変態的なウィルヘルミナはどうなるんだろうと考えてしまったんですよ。

ガタッ! と立ち上がる。
折り紙
そしたら手が動いただけ。果たしてこれは悪なのでしょうか?
ユースケ
天才の発想みたいなエピソードだけど、えっちな絵の話なんですよね。
折り紙
真面目なウィルヘルミナがあってこそ大胆なウィルヘルミナが活きる。セクシーなウィルヘルミナを想像しながら真面目なウィルヘルミナを描く。だから、いいんです。
ユースケ
このどすけべパラダイス、略してどすパラがよぉ!
折り紙
いっしょにドスパラさん(※)に謝りましょう。
※ドスパラ:サードウェーブが運営するPCショップ、ブランド。品質のいいPCをたくさん扱っている。みんなも買おうな! PC版『ブラウンダスト2』を大画面で遊べるぞ!
より色っぽくしたいから真面目さを利用した。厳格なキャラがセクシーだとうれしい(わかる)。すごく入念に肩を作って160kmのストレートと高速スライダーを投げ分ける。
ウィルヘルミナは真面目なキャラだからセクシーさが際立つ。小さい水着にして、その上にビーチドレスを着せたらおしゃれ。百歩譲ってそこまでは理解しようじゃないか。理解し合うことが争いをなくす第一歩だから。
ユースケ
どうしてこのモーションを付けちゃったんですか。

クリック(タップ)するとSpineアニメーションで動く。そこまでしなくてもいいじゃないか。もう致命傷だぞ。
折り紙
それはですね……アーティストにはいろいろなタイプがいるんです。
ユースケ
(言葉を選んでいる。真剣に説明してくれるんだな)
折り紙
ある人はウィルヘルミナとかわいい思い出を作りたくてデートを想像しながら描く。考えながら描かれた作品からは感情が見えてくるんですよ。
ユースケ
なるほど。深いですね。折り紙さんの場合は?
折り紙
腕を上げたときに脇がどう見えるか。
折り紙
戦闘中にスカートがめくれたらどんな思い出が広がるのか。
ユースケ
ピリオドの向こう側だ。

ふざけているようだが、語る折り紙さんはめちゃくちゃ真剣。
折り紙さんは、最初から小さい水着だとプレイヤーは満足できないと考えた。さらにセクシーさを際立たせるにはどうすればいいのだろう。そうだ、我々にはチラリズムがあるじゃないか。気づいてしまったのだから後には引けない。
ユースケ
この際だからスキルカットシーンの演出についても問い詰めます。
折り紙
取材じゃなくて尋問になってきましたね。
ユースケ
滑ってプールに落ちるところまではいいとしましょう。

滑ってプールに落ちて浮き輪にはまってしまう。これはぼかさなくていいか。

怒られそうなのでモザイク大きめにしておく。
ユースケ
どうしてこういうことしちゃうの。
折り紙
立ち絵を書くとき、頭の中でこれを想像していたんです。
エロスがスピードを置き去りにしている。僕らにもう勝ち目はない。そう思った。諦めよう。
折り紙
この演出をやりたくて、水着デザインをマイクロビキニとビーチドレスにしたんです。
ビーチドレスだからスカートのひらひらを活かした演出にしたと考えるのが一般的だろう。だけど折り紙さんの頭の中は違った。僕のずっと先を行っている。達人と試合をするときってこんな感じなのだろうか。
折り紙
アイデアをふり絞ることもありますけどね。でも、いまは思い浮かぶものを形にできています。最近はどんどんどんどん(描きたい要素が)出てきてしまって。
ユースケ
折り紙さん、

「本当によくないと思いますよ」
折り紙
悲しい顔をしないで。
折り紙さんは「話しながら考えを整理できて、自分でもおもしろいです」と笑う。つまり、これまではずっとアクセルべた踏みだったのだ。おそろしい。
非難されてもやるべきことは変わらない
続いて、イラスト完成後の流れを教えてもらう。折り紙さんの手から離れた後はプログラム担当者が作業をするはずだが、ちゃんと納得しているのだろうか。
折り紙
流れは一般的だと思いますよ。モーションまで私の方で作って、Spineチームがアニメーションを作って、企画チームが立ち絵などをゲームに組み込む準備をします。
折り紙
カットシーンは演出が必要になるので、映像担当の方でブラッシュアップしていきます。
ユースケ
「タップするとスカートがめくれるんです」みたいに折り紙さんが説明するんですよね。
折り紙
ですです。

タップすると貝殻ビキニの裏にある警察手帳を取り出すキャラもいる。そんな指示を出される側の気持ちにもなってほしい。

なお、そのシルヴィアというキャラは犯人の顔を太ももで挟んで制圧する。その躍動感は何なんだ。
ユースケ
相手はどういう感じでそれを聞くんですか。
折り紙
最初は「無理無理無理!」と言われます。
ユースケ
よかった。倫理観はまだ残っていた。
折り紙
細部を詰めていくうちに「……これ、すごいんじゃない?」って。
ユースケ
洗脳?
折り紙
人は話せばわかりあえるんです。
ユースケ
この文脈で使う言葉じゃないですよ。


スキルカットシーンの演出もたいがい飛ばしている。脇や太ももから剣を取り出す。剣だってそんなことされるとは思っていないよ。
折り紙
たとえば、Spineチーム長に持っていくと「大丈夫なんですか?」と心配されます。
ユースケ
頭を?
折り紙
おい。
折り紙
でも、上がってきた成果物を見ると、私の指定より胸が動いてるんですよ。ものすっごく。
ユースケ
全体的にどうかしている。
折り紙
みんなマッドサイエンティストみたいなもの。ほかの開発チームだったらこういう風にはできないと思います。
ユースケ
ラグビー日本代表が言っていた“ONE TEAM”ってこういうことか。
同席スタッフ ラグビー関係者に謝りたいですね。
ユースケ
この発想もどうかと思いますよ。


タイツを引っ張ってパチーン! とするアニメーションのラフ。この熱量よ。
ユースケ
どうして自分のタイツを引っ張るの?
折り紙
タイツをはいている。じゃあ引っ張らなきゃ。そう考えるのは自然の節理です。なぜタイツを引っ張るのか。そんな意味のない議論をしている場合じゃないですよ。
ユースケ
真っすぐな目をしていますね。周りのスタッフさんも「これでやっていこう」とすぐに受け入れるんですか?
折り紙
Spineチームとは「できるかどうか、やるかやらないか」ではなく「どうやってそのアイデアを実現するか」という話にしかならないんです。ふつうの仕事の話ですよ。
ユースケ
世間から怒られたらどうしようって不安になりません?
折り紙
正直、非難される方もいらっしゃると思いますし、意見は真摯に受け止めます。ただ、非難されたからといっても私がやるべきことは変わらないんです。きれいなキャラクターを描く、それだけ。

折り紙
私は私の道を歩いているだけですから。そうすると、ファンが増えていく。
折り紙
究極的には、現時点で私の絵が苦手な人に、何かのきっかけで見ていただいて、好きになってもらう。それが理想ですね。
折り紙
セクシーでも下品でもなくて、「何で急に?」と困惑する人もいますよね。振れ幅がおかしくて笑っちゃうみたいな。結局は気になって(絵を)見るようになって、『ブラウンダスト2』沼に落ちていく。
ユースケ
そう。それで気になって始めるとちゃんとおもしろいから何か悔しい。
折り紙
慣れるたびにおいしくなっていくのが『ブラウンダスト2』の味ですから。


念のため再度書いておく。『ブラウンダウト2』は戦略的なバトルが楽しいRPGです。
細分化されていくすべてのフェチを救いたい
ユースケ
ここ最近のソーシャルゲーム界隈のバニーガール人気について話し合いませんか。
折り紙
いいですね。私も大好きです。
ユースケ
『ブラウンダスト2』にもめちゃいますもんね。どのキャラがいちばん難産でした?
折り紙
エクリプスです。こだわりが止まらなくなってしまいまして。

エクリプスのナイトメア・バニー。
折り紙
ストッキングは材質が命ですから。
ユースケ
詳しく教えてもらいましょうか。
同席スタッフ ベテラン刑事の取り調べだ。
折り紙
伸ばしたときに浮かぶ色、質感が大事。エクリプスはストッキングの上に網タイツを履いていますよね。網タイツの肌へのちょうどいい食い込みを表現しつつ、ストッキングが引っ張られた感じを描くのに苦労しました。
ユースケ
僕、エクリプスのナイトメア・バニーが好きで始めたんですよ。好みが近いのかもしれない。
折り紙
通じ合っているみたいでうれしいです。
ユースケ
エクリプスはすごくセクシーなキャラだから胸が強調されがちだけど、脚の表現に気迫を感じていた。僕は間違っていなかったんですね。それと……、
折り紙
お腹ですよね。
ユースケ
そう。エクリプスとロエンは絶対そこ狙ってると思ってました。

エクリプス ナイトメア・バニーのスキルカットシーンはお腹がポイント。なお、エクリプスの各種衣装の中で、ナイトメア・バニーはえっち度控えめな方だと言うからおそろしい。
キャラクターのお腹について話す日が来るとは思わなかった。この日を新しい自分の誕生日にしたい。
お互いの好きなポイントをわーわー話し合ったら楽しそうだが、ここで折り紙さんは言葉を詰まらせた。「これはほんとに大切なんですよ」と、目つきは真剣だ。
折り紙
いまはフェチが細分化されているんです。そういう時代が来ています。
折り紙
昔は胸や脚、おしりくらいだったと思いますが、いまは脚と言っても足先が好きな人もいる。脇ですとか肋骨ですとか、パーツのひとつひとつに魂を込めるのが当たり前。
その昔、タモリさんは「どんなジャンルでも500人はマニアがいる」と言っていたという。500人がたくさん集まったら、それはもう一大勢力である。






裏を返せば、それだけ細部まで見てくれるファンがいるということでもある。絵を生業にする人間にとって、これほどうれしいことはない。筆を執る手に力が入る。
ユースケ
最近のネット(あるいはSNS)全体の傾向ですよね。前は特殊だったはずのフェティシズムが一般化してきている。そういう人は前からいたけど、いまはその声を目にしやすくなったんでしょうね。
折り紙
みなさんの本気に応えたいので流して描くわけにはいかない。

「すべてのフェチは平等。すべてのフェチを諦めたくないんです」。
額に入れて飾りたいレベルの名言が出てしまった。
ユースケ
たとえば、さっきのロエンとかエクリプスはわかりやすくセクシーなキャラですよね。そういうダイレクトえっちが苦手な人もいると思います。
折り紙
ですよね。だったら露出を抑えてフェティッシュな部分を強調すればいいんです。きっと喜んでもらえるはず。
折り紙
シルエットモード(心眼モード)を活用してもらえば、どこでもプレイしやすいですし。

一瞬でイラストをシルエット表示にする機能が搭載されている。急にお母さんが来ても大丈夫。心の眼で見よう。
ユースケ
これはこれでいいものですよ。全身ラバースーツみたいなもの。
折り紙
ユースケさんもまあまあレベルの高い変態だと思いますよ。
折り紙
露出が大きすぎるものは私の好みとはちょっと違うんです。微妙にセクシーな要素を混ぜるのが好きなので。
ユースケ
たとえばウィルヘルミナなんて、もともとのデザインは露出少な目ですよね。女性から見ても“かっこいい女性”なんじゃないかな。いろいろなパーツが組み合わさって、フェティッシュな印象が生まれる。
折り紙
おっしゃる通りで、露出はそこまで重要なポイントじゃないんです。それよりもディテール。

きみはすべすべ白タイツをこの角度で見たことがあるか。
折り紙
食べものを例にすると、美食家の方は食べて「おいしかった」で終わりじゃなくて、香りだったり、食感だったり、味の奥行きを総合的に楽しむわけです。イラストも同じ。複数の要素が組み合わさることで奥行きが生まれる。
ユースケ
フェチの奥行き。
ユースケ
そう考えるとキャラクターのデザインの幅も広がりそうですね。セクシーなキャラを作ろうとなった場合、じゃあ水着にするとか脱がせる方向に考えると楽だけど、着せてセクシーさを表現することもできる。
折り紙
いまの『ブラウンダスト2』はセクシー路線なので、その方向性を大事に描いていますけど、表現の幅は広く持っておきたいと常々考えています。
折り紙
何かを見る“角度”と言うんですかね。同じ側面だけ注視すると平坦になる気がします。それがどんなにかわいくても、どんなにセクシーだったとしても。
瞬発的にむずむずさせる絵の魔力は“角度”によって生み出されていたのである。
えっちなトロッコ問題が折り紙さんを襲う→みんな救おう
ユースケ
“角度”と聞いて、ひとつお願いが。ウィルヘルミナの新衣装でスキルカットシーンを作るときは、斜め後ろから見下ろす視点で、
ユースケ
髪を結ぶ仕草を作ってもらえませんか?
ユースケ
ウェルヘルミナは鍛えていますよね。身体のラインが絶対きれい。強調しないのは世界の損失ですよ! 折り紙さん!
折り紙
つまり……うなじですね?

天啓を授かったかのようにラフを描き始める折り紙さん。意味がわからないスピード。
折り紙
カメラがこれくらい(斜め上)で、髪を持ち上げると胸のラインがきれいに出そう。胸がちょっと見えるか……もしくは横から……? ユースケさん、これは脇の見せ方が重要ですよ!
ユースケ
少年みたいな笑顔でえっち報告してくるな、この人。

嬉々として通訳さんに話しかける折り紙さん。守りたい、この笑顔。
折り紙
デザインで大切なのは取捨選択です。構図には限界があるので、何を活かすべきなのか。(キャラの斜め後ろ上側にカメラがあったとして)うなじを見せるならこの位置だけど、上に上げると胸も見える。角度を変えると横からも(胸を)見せられる。でも、そうするとうなじをきれいに描けない。どうすれば……。
ユースケ
職人の顔だ。
折り紙
諦めたくない……!
ユースケ
人質を取られた熱血主人公みたいですね。
折り紙
それでも、何かを諦めないといけないときはあります。これは本当につらいですよ。
折り紙さんはいつもえっちなトロッコ問題に苦しめられている。だが、全員助ける気持ちで彼は描いているのだ。

後ろ姿だけど、サイドのふくらみで救えるフェチもある。
ユースケ
『ブラウンダスト2』のキャラクターには複数の衣装パターンがあって、いろいろなビジュアルを試せますよね。描く側としてはどう思いますか?
折り紙
描いていて楽しいですけど、惜しい点もあります。キャラクターがバラバラに見えてしまいそうで。
折り紙
ですので、キャラクターには芯が必要なんです。
ユースケ
キャラの基本設定は曲げない、ということですよね。ウィルヘルミナは“生真面目で厳格”な部分がぶれないから、それ以外の要素がギャップになってキャラの魅力につながる。
折り紙
……。
ユースケ
どうしました?
折り紙
ただただウィルヘルミナがお好きなんだなと嚙み締めていました。
ユースケ
ご理解いただけて何よりです。

言葉少なにわかり合う我々。
ユースケ
ほかのキャラも好きですよ。エクリプスはセクシーなお姉さんっていう基本設定があるから、どんな衣装を着てもしっかりエクリプス。誰もが想像する“セクシーお姉さん像”を極限まで煮詰めている。
折り紙
まさにおっしゃる通りで。それが(エクリプスにとって)動かせない軸なんです。
ユースケ
中心にそびえる“セクシーお姉さん”という軸。もはやフレーズがかっこいい。
折り紙
ほんとにそう。エクリプスは“セクシーなお姉さん”だからエクリプスなんです。同じ見た目で“ちょっとエッチな妹”だったら、それはもうエクリプスじゃない。
折り紙さんの瞳は強い決意を宿していた。
小学生時代に『バトルアスリーテス大運動会』で覚醒イベント発生
ユースケ
影響を受けた作品はありますか?
折り紙
『キューティーハニー』です。
ユースケ
あー! そういうことか。ウィルヘルミナのタイツ風衣装とホルターネックは、たしかに。

ぴちぴち衣装はこの頃はやりの女の子由来。
折り紙
あとはたぶん『バトルアスリーテス大運動会』だと思うんです。
ユースケ
ぴっちり衣装の源泉がそんなところに。折り紙さんの底知れなさがわかりました。あの精神は現代に受け継がれていた。
折り紙
昔見て、すべてが決まりました。
ユースケ
覚醒イベントはかなり序盤でしたね。
折り紙
当時はそこまで気にならなかったと思うんですけど。
ユースケ
気づかずに植え付けられた感性。それはそのまま業なんです。
子どもの頃に見た『キューティーハニー』と『バトルアスリーテス大運動会』は澱のように溜まり、折り紙さんの内面を埋め尽くしていた。ぴっちり衣装を描いてしまうわけである。



言われてみれば、ぴたっとした衣装デザインが多い。
ユースケ
あの頃のキャラクターデザインにはレオタードの文脈がたしかにありました。『トップをねらえ!』とか。かわいいひらひらスカートじゃないブーム。
折り紙
あの時代のデザインはボディーラインがきれいだと思うんですよね。最近のキャラクターたちは、何でしょう、かよわくなったと言いますか。
折り紙さんは強い女性像に感じ入るものがあるのだと思う。近い感情を挙げるとすれば“憧れ”だろうか。『餓狼伝説』の不知火舞しかり、『デッドオアアライブ』のカスミしかり。
自分に自信を持つ姿に漠然とした魅力を感じ、『ブラウンダスト2』のキャラクターは生み出された。ひとさじ加えられた性的な興味はスパイスだ。情念をかき乱し、常識外れのデザインが飛び出す。
ユースケ
ああいう衣装を胸を張って着こなしているからかっこいいんですよ。
折り紙
それです! 私は強くてかっこいい人間を描きたいんです。

念のため説明しておきますが、僕らはかなり真面目に話し合っています。
折り紙
(さっき挙げたのは)“おじさんが好きなキャラ”だということはわかっています。私もおじさん側ですが、キャラクターがださくてはいけない。
折り紙
おしゃれで、クールで、ファッショナブルじゃないといけないんです。
ユースケ
昔好きだったかっこいい女性キャラを、いまの時代に合わせてアップデートしていく。すごく腑に落ちます。
えっちなのだけど、よく見たら「あれ? かっこいいのでは……?」と感じさせることが大切なのだ思う。ぎりぎりの危うさを、折り紙さんの技術が支えている。
折り紙
いままで露出とか胸とかおしりとか脇とか言ってきたから、バランスを取りたくて、かっこいいことを言いました。
驚異のバランス感覚である。体幹が強い。
折り紙さんのキャラデザイン解説。結局はクラシックな技法がすべて
ユースケ
かなり深いですね、今日の話。
折り紙
ハイレグの角度ですか?
ユースケ
その聞き間違い、おかしいでしょ。
取材の現場でハイレグハイレグ言う日が来るとは思わなかった。さて、折り紙さんの後ろにはキャラクターのパネルが並んでいる。せっかくなのでデザインポイントを解説してもらう。
まずは左側のエクリプスから。

ユースケ
このエクリプスのポーズなんて欲張りセットじゃないですか。おっぱいとおしりと脇が全部見える。
折り紙
そこまでディテールを見てくれます!? この絵は視線が下から上がっていくので、それを想定してこのポーズにしてるんですよ。
ユースケ
はー。やっぱり視線誘導まで考えてるんですね。
折り紙
意図したとおりに見てもらえるとは限らないですけどね。
折り紙
これだと顔、胸、指先、おしりあたりから見る人が多いと思いますけど、人の視線はどこから始まったとしても線をなぞるように動きますよね。だから、ある程度は意図して描きます。
折り紙
あとは曲げたりしわになっているところが気になるので、細かく描いちゃうんですよ。で、この絵はやっぱりお腹。

ユースケ
うわー! すげえ絶妙……。
折り紙
太ったように見えるのも違うじゃないですか。柔らかさは女性的な魅力として大事なので、ちょうどよくきれいに見せたい。むちむちだけではいけない。
ユースケ
また職人の顔になっている。むちむち職人の朝は早い。
折り紙
ただ、実際に人がぽっちゃりになってもこういう肉付きにはならないんです。セクシーなだけではなくて……何だろう、エクリプスの優しさも表現したいというか。
ユースケ
そういうことか! えっちなだけじゃないよなーと思ってたんです。西洋の裸婦画だ。お母さんキャラとは違う包容力(※)をお腹で表現してるんですね!? 計算高い!
※エクリプスは弟子や若者を見守る優しい師匠ポジション。折り紙
?
ユースケ
違うのかよ。感性でここにたどり着いたのだとしたら、それはそれですごい。
つぎは主人公のひとり・ユースティアのもうひとつの姿。神聖ユースティアという名前で、衣装は白いレオタード。

ユースケ
戦うヒロインとして、ある種の古典ですね。
折り紙
これは胸のラインに私なりの美学があります。ただ盛るんじゃなくて、あえてフラットにして、卵ふたつがポンっと置いてある感じを意識しているんですね。
折り紙
胸は女性的なラインを作るために大切なパーツ。そう描くのがいちばんシンプルで美しいと行きつきました。
ユースケ
悟りの世界だ。
イラストだからいくらでも大げさにできるし、昨今は豊満なキャラが好まれる傾向にある。だがそれでも、最終的に落ち着くのは“基本に忠実”という原点。もはやアスリートの領域に片足を突っ込んでいる。
折り紙
何だかんだで、クラシック(な技法)がすべてなんです。
ユースケ
かっけぇ……。
ラストはネブリス。ギャルである。

折り紙
ネブリスのポイントは表情ですね。
ユースケ
わかるー!
折り紙
狐のような顔つきで、子どもっぽく無邪気に笑えること。キャラクターデザインに変化が出ますよね。小悪魔っぽさとのギャップがいいんです。
ユースケ
何がきっかけでこのデザインを思いついたんですか。
折り紙
あのとき私は、恋に落ちていました。明るいギャルに。
ユースケ
コスプレ衣装に着替えるあのキャラですね。
折り紙
そして、ネブリスもお腹です。

折り紙
お腹が全部出てはいけない。へその下あたりが少しだけ。微妙なラインを色味や明暗で表現したいんです。
ユースケ
このネブリス、ちょっとお腹に力を入れてると思うんですよ。タイトな衣装だから意識してお腹を引っ込めてるんじゃないかな。そういう娘だと思う。
折り紙
……。


ユースケ
正解だった。
折り紙
そう。ネブリスはそういうところを気にするタイプなんです。伝わってよかった……。
ユースケ
泣いてます?
この後、「純情なギャル。しかも黒ギャル寄り。最高じゃないですか」と伝えたら折り紙さんは満面の笑みを浮かべた。わかり合えた気がする。


新入社員ネブリスは優しいギャル。いまの流行をちゃんとつかんでいる。
折り紙さんは多くのキャラクターを作ってきたが、円滑に進行したものはひとつとしてなかったという。あえて挙げるならウィルヘルミナ。周囲に見せたらすぐにOKが出たようで、それはきっと「もう止められない」と察したからだと思う。神妙な顔つきでお互いに目配せし、無言で頷くスタッフたちの姿が眼に浮かぶ。
悩みに悩んだアイデアは認めてもらえないのに、リラックスして作ったものは反応がよかった。「創作あるあるですよね」と折り紙さんは笑う。
するりと降りてきたのは、きっと折り紙さんの本性だったのだ。入念な計算を本性が越えることってあると思う。

ちなみに、背後のタペストリーは折り紙さんもセッティングを手伝っていた。
ピュアな底知れなさ
取材後、折り紙さんは「イラストの技術やゲーム制作の裏側を話すものだと思っていました」と笑った。それはあなたの回答がそうさせてくれなかったのだから仕方ない。
全体を通して「えっちな絵が好きなんです」と言っているだけなのだが、何とも言えないピュアさがあり、その奥に溶岩のような底知れなさが蠢いている。クリエイターかくあるべき。そんなインタビューだったと思う。

なお、『ブラウンダスト2』にはちゃんとかわいい絵もある。2月19日までバレンタインイベントを実施中。
この取材は2025年12月末に実施した。冬コミのために折り紙さんが韓国から来日すると伺っていたので、少しだけ時間を開けてもらった次第である。冬コミの『ブラウンダスト2』ブースはコスプレイヤーの撮影会が大人気だった。ですよね。
会期中には折り紙さんのサイン会も実施。プレイヤーの希望を聞いてサインや絵を描く折り紙さんは、プロの顔をしていた。



