アニプレックスが手掛ける、ノベルゲーム製作ブランド“ANIPLEX.EXE(アニプレックスエグゼ)”の3rdプロジェクト『たねつみの歌』。2024年冬にPC(Steam・DMM GAMES・DLsite)向けに発売される本作は、企画・シナリオ担当に、『雪子の国』『ハルカの国』などのノベルゲームシリーズを個人で製作し、その作品クオリティーで高い評価を受ける気鋭のクリエイター・Kazuki氏を抜擢した注目タイトルだ。
ジャンルは冒険ファンタジーで、“神々の国”を舞台に16歳の少女・みすずと、過去からやってきた16歳の母親・陽子、そして未来で出会った16歳の娘・ツムギら同い年の3人による、最初で最後の冒険がくり広げられる。
舞台となる“神々の国”は春夏秋冬の4つに分かれていることから、全4回にわたって『たねつみの歌』に関する記事を展開している。第3回は、Kazuki氏の類まれなる想像力で生み出された登場人物たちに、命を吹き込んだイラストレーターのpopman3580氏とマニアニ氏にインタビューを行った。Kazuki氏も同席してキャラクターの誕生秘話を語っているので、最後までお見逃しなく。
popman3580氏
人間のキャラクターデザイン。『引きこもりVTuberは伝えたい』(電撃の新文芸)や『小説 夜のクラゲは泳げない』(ガガガ文庫)のイラストを担当。VOCALOID曲のイラストを担当することもあり、お笑い芸人・粗品氏が手掛けた『ビームが撃てたらいいのに』などのイラストも手掛けている。(文中はpopman3580)
マニアニ氏
神々のキャラクターデザイン。モンスターのイラストや、和風のキャラクターのデザインに定評のあるイラストレーター。オリジナルキャラクターシリーズ『Shadow Monsters』は、ミニチュアフィギュアとしてリリースされている。(文中はマニアニ)
Kazuki氏
企画・シナリオ。個人サークル“STUDIO・HOMMAGE(すたじおおまーじゅ)”にて長編ノベルゲームシリーズを個人で製作し、その作品クオリティーで高い評価を受ける気鋭のクリエイター。(文中はKazuki)
Kazuki氏のラフスケッチをもとにデザインされたキャラクター
――popman3580さんとマニアニさんはANIPLEX.EXEをご存じでしたか?
popman3580
すみません、僕は事前に知らなくて……。最初の企画のときにいろいろと教えてもらい、これまでにリリースされている作品のビジュアルを拝見しました。どのタイトルもグラフィックがすごくきれいで、最新作のキャラクターデザインが自分で大丈夫なのかなとハードルが上がったのを覚えています(苦笑)。
――そうだったんですね。マニアニさんは?
マニアニ
popman3580さんと同じく、私も知りませんでした。新作に携わることになり、これまでの作品のキービジュアルやキャラクターのイラストを拝見したのですが、どの作品も絵柄がかわいいなと思いました。背景もすごくきれいで、どんなゲームなのか、とても興味を惹かれました。
――『たねつみの歌』の企画書やプロットを見たときの第一印象はいかがでしたか?
popman3580
16歳の少女とその母親、娘の三世代の冒険を描くのが、ものすごく斬新で印象的でした。世界観や儀式も設定がよく考えられていて、物語の壮大さと時間の奥行きが感じられる興味深い企画だなと思いました。
マニアニ
時代を超えて集った3人の親子がひとつの世界を冒険するというストーリーは、なかなか見たことがないので、おもしろい作品だなと感じました。世界観も印象的でしたね。そこから本作の企画にグッと引き込まれて、わくわくしながらキャラクターのデザインなどを担当させていただきました。
――popman3580さんとマニアニさんには、どのようなオファーがあったのでしょうか。
popman3580
オファーはメールでいただきました。アニプレックスさんから発売されるノベルゲームということで興味を引かれたのと、依頼内容のキャラクターデザインはものすごく好きな仕事ですし、ふだんから女の子のキャラクターを描いていたので、純粋にうれしかったですね。
正直ビックリもしましたが、僕が描いている女の子のイラストを見ていただいて、本作の世界観にマッチするから依頼してくれたので、ご期待に添えるようにがんばりたいなと思いました。
マニアニ
私がX(Twitter)やpixivで公開している和風のキャラクターデザインを見て、声をかけていただいたと聞いているのですが、私は基本的にモンスターのデザインを担当することが多くて。和風のキャラクターデザインは趣味で描いていたので、私が選ばれたのはうれしさと驚きが半々でした。和風のキャラクターデザインを公開していてよかったです(笑)。
――ANIPLEX.EXE(アニプレックスエグゼ)のプロジェクトに参加されてみて、これまでの作品作りと何か違いはありましたか?
popman3580
本作のように、キャラクターデザインに深く関わらせてもらったのは初めての体験でした。表情パターンを多く描いたり、細かく影をつけたりしたことがなかったので、作業自体は探り探り進めていきました。
とくに登場人物たちの表情をたくさん描くのはたいへんでした。これまでもスケッチ感覚でキャラクターの表情差分を描くことはあったのですが、仕事として描いたのは初めてだったので。
慣れないなりにも、できるだけ生き生きした表情を描くために、キャラクターの性格をしっかりと把握しながら描き進めていきました。最初はうまく描けるかどうか不安でしたが、今回の作業を経てとてもいい勉強になったと思います。
――大きな学びがあったと。マニアニさんの感想も教えてください。
マニアニ
キャラクターの中で、老人はあまり描いたことがなくて。なので龍神族の王やフクロウの婆さんのキャラクターデザインを考えるのが楽しかったですね。
あとは自主制作やオリジナル作品では思いつかないようなデザイン……、たとえば乙姫などは、『たねつみの歌』の世界観に合わせながら、いただいた資料をもとにいかに自分の絵柄で表現するのか、考えながらイラストを描くのはやりがいがありました。
――キャラクターデザインを考えるにあたって、どのような資料が用意されていたのですか?
マニアニ
キャラクターの要素が箇条書きでまとまったものや、世界観などの参考資料、あとKazukiさんが描いてくれたキャラクターの一覧が並んだラフスケッチも送られてきました。とくにラフスケッチが参考になりましたね。あ~、こういう感じのデザインなんだなって。
Kazuki
ラフスケッチは落書き程度のものですが、キャラクターの身長差や体格の違いなどをイメージしやすいようにまとめて、こういう方向性でお願いしますとおふたりにお渡ししました。ラフスケッチをもとに、いい感じにデザインを考えてくれたと思います。
実際のラフスケッチ。
――ラフスケッチはpopman3580さんも参考にしたのですか?
popman3580
はい。人間のキャラクターもラフスケッチを用意してもらいました。キャラクターデザインの方向性を決めるうえで、非常に役立ちましたね。
――おふたりから上がってきたイラストの感想をKazukiさんにお聞きしたいです。
Kazuki
popman3580さんに人間側のキャラクターデザインをお願いする時点で、親しみやすいキャラクターにしてくれるんじゃないかという期待がありました。そのうえで、みすずと母親の陽子、娘のツムギは、それぞれ違いはあるけど、血縁関係があることがわかるようにデザインでも表現してほしくて。できあがったイラストを拝見したとき、私が表現してほしかった微妙な雰囲気の違いがしっかり再現しれていてうれしかったですね。
マニアニさんには、異世界に行って出会う神々のキャラクターデザインをお願いしました。異世界には春、夏、秋、冬の国があり、そこで暮らしているキャラクターのモチーフとなる動物や服装、イメージカラーを変えたかったので、マニアニさんにはキャラクターのデザインのレンジといいますか、バリエーションを表現してほしいと思いました。
完成したイラストは、それがバッチリ表現されていて、プレイヤーに国を巡りながら旅をするロードムービーの雰囲気を味わってもらえると手応えを感じています。あとは、グロテスクなキャラクターを、しっかりグロテスクにしてくれたのはうれしかったですね。
16歳の3人の女の子は、時間の壁を超えて邂逅した三世代の親子
――ここからは、おふたりが手掛けたキャラクターについて、より詳しくお聞きしたいと思います。まずは、popman3580さんが描いたメインキャラクターの4人(みすず、陽子、ツムギ、ヒルコ)のデザインについて教えてください。4人の中で最初に描いたのは?
popman3580
みすずです。4人の中でも物語のカギを握るキャラクターだったので、みすずから描き始めました。残りの陽子、ツムギ、ヒルコは、ほぼ同じタイミングで描いています。僕が担当した人間側のキャラクターたちは、人間味といいますか、親しみやすさや温かさを感じられるようにデザインを考えています。
――みすず、陽子、ツムギは、違うキャラクターですが、親子だとわかるような雰囲気のデザインにするのは、難しかったと思いますが……。
popman3580
たしかにハードルは高かったですが、親子3人が旅をするのが本作の重要なポイントだと思ったので、僕としても親子だとわかるような雰囲気が出せるように、重点を置いて作業を進めました。
みすずとツムギに関してはパーツを似せて描いていて、リーダー格の陽子だけちょっと変えていますが、3人は血がつながっていることをつねに意識しながら、雰囲気が似た感じになるように描いています。
――16歳のみすず(2023年)はブレザー、16歳だった陽子(1996年)はセーラー服と異なる制服を着ていますが、制服は時代背景を考慮して決めたのですか?
popman3580
ご指摘の通り、3人の制服は生まれた時代をわかりやすくするために、できるだけ時代背景を反映させることにしました。それで陽子はセーラー服にカチューシャ、みすずはセーラー服よりも現代的なイメージがあるブレザーに。ツムギに関しては、多様化が進んだ未来の制服をイメージして、自分なりにカスタマイズしたような、ちょっと着崩したデザインにしています。
――みすず、陽子、ツムギの3人の中で、とくに描くのが難しかったのは?
popman3580
陽子ですかね。ほかのふたりと顔のパーツを変えながらも、血のつながりがわかるようにしなければいけなかったので。
――なるほど。ヒルコのデザインのポイントも教えてください。
popman3580
ヒルコは“たねつみの儀式” (常世の国で不定期に行われる儀式。各国に住まう一族の長が命を大地に還すことで、その土地に実り与えられる)の水先案内人で、みすずたち現世のキャラクターとは違うということで、マニアニさんが描いた神々の国のキャラクターたちにできるだけ馴染むようにといいますか、バランスが取れるようにデザインを考えました。そういう意味では、ヒルコも自分の中ではハードルが高かったですね。
衣装のデザインの方向性はある程度指示をいただいていて、格衣(神職が着用する装束のひとつ)をベースに自分なりにアレンジして考えています。
――ヒルコは、ほかの3人と比べて憎たらしい表情が多いと思いました。
popman3580
ヒルコは、皮肉たっぷりのユーモアセンスの持ち主ということがわかっていたので、表情の中にも憎たらしいものをふんだんに用意しています。ヒルコの憎たらしい表情は、描いていて楽しかったですね(笑)。
――人間側のキャラクターをデザインするうえで、ほかに意識したポイントはありますか?
popman3580
本作の世界観を崩さないように気をつけました。ファンタジーとリアルが入り混ざったような表現もあったりするので、バランスにも気を配りながら。
――ファンタジーとリアルが入り混ざったような表現を描くにあたって、参考にした作品などがあれば教えてください。
popman3580
『たねつみの歌』の企画を聞いたときに、スタジオジブリのスタッフが手掛けた『玉繭物語』や『二ノ国』といったゲームを思い出しました。とくに『二ノ国』は、現実とファンタジー世界を冒険する作品だったので、こういったタイトルを頭のはしっこに置きながらイメージを膨らませていきました。
春夏秋冬の国に暮らす、種族の異なる神々のキャラクター
――本作には春・夏・秋・冬の4つの国があり、それぞれ登場する種族が異なりますが、どのような意図で割り振っていったのか意図を教えてください。
Kazuki
春の国の龍人族に関しては、春の国をいちばん偉い国にしようと思った名残で龍になったと記憶しています。絵柄をおもしろくしたかったのと、亜人っぽさを出したくて、龍人族の姉妹の眉毛を長くしたのですが、やりすぎるとかわいくなくなってしまう。マニアニさんは、ちょうどいいバランスでデザインしてくれたと思います。
――名残ということは、いまは国ごとに序列はないのでしょうか?
Kazuki
そうですね。春の国の中心には“永年桜”という巨大樹が生えており、その虚の中で“たねつみの儀式”を終えた各国の民が越冬をするという設定があります。なので、ほかの国よりも特別ではありますが、序列はありません。
――なるほど。
Kazuki
つぎに夏の国のフクロウの一族ですが、フクロウは知恵の象徴として知られていますよね。夏の国は自分たちの知恵や知識に誇りを持っているという設定だったので、住人をフクロウにしました。
秋の国は離縁や離婚をテーマに設定やストーリーをふくらませたのですが、どんなキャラクターを離婚させたら興味を引くかなと考えたときに、本当は相手のことが好きなんだけど、ワケあって仕方なく離婚したことにすればおもしろそうだなって。情に厚いところから毛深い動物をイメージして、狸と狐の夫婦が生まれました。夫婦役に狸と狐を選んだのは、古くから“狐狸”という言葉がありますし、狐は“女狐”、狸は“古狸”という表現からも、狐=女性、狸=男性のイメージにも合うなと考えました。
最後の冬の国の“名前のない猫”ですが、冬の国は家族や役割を持たない人々が流れ着く悲しい世界です。自分は哲学者だから恋もしなかったし、家族もつくらなかった猫と“負けた犬”が暮らしていて、現代に対する皮肉を効かせるような設定にしています。それぞれの国ごとに、シニカルな笑いも込めながら設定をつくっていきました。
――Kazukiさんが考えた設定をもとに、マニアニさんはどの国のキャラクターから描いていったのですか?
マニアニ
最初に春の国のオーダーがあって、龍神族の王と姉妹から描き始めたと思います。先ほどKazukiさんもお話されていましたが、姉妹の眉毛は印象に残っていますね。
眉毛を長くしすぎるとかわいくないし、かといって短すぎても印象に残りにくい。バランスを意識しましたし、じつは眉毛の先のデザインを姉と妹で変えているんですよ。姉は先をクルンと丸めて、長い眉毛なんですが、かわいらしさをアピールしてみました。チャームポイントになればいいなって。
――龍といえば、長いヒゲが特徴的ですよね。龍人族の姉妹の眉毛は、龍のヒゲがモチーフになっているのかと思いました。
マニアニ
そうですね。龍といったら長いヒゲが特徴的でもあるので。
――龍人族の姉妹は衣装も華やかできれいですよね。春のイメージにピッタリだと思いましたが、衣装のポイントは?
マニアニ
天女様が身にまとっているような、ふわっとした素材でできた羽衣を意識しています。女性の漢服をイメージして描きました。
――春の国以外のキャラクターや衣装のデザインのポイントも教えてください。
マニアニ
夏の国のフクロウの一族とエラ族は、見た目の違いを強調できたらいいなと考えてデザインしました。ただ、同じ国に暮らす種族ではあるので、肩などデザインの一部に共通点をつくるようにもしています。
――ちなみに、どちらの種族を描くのが難しかったですか?
マニアニ
エラ族ですね。デザインを考えるときは、実在する魚をモチーフに、海に関係ない要素も取り入れています。たとえば乙姫は、深海魚のラブカとチョウチンアンコウを組み合わせていて、浄瑠璃人形も意識してデザインに落とし込みました。
――乙姫といえば、きれいなキャラクターをイメージしがちですが、本作に登場する乙姫は不気味な印象です。なぜこのようなデザインにしたのですか?
マニアニ
乙姫の登場シーンを拝見したときに、深海で出会うというのが印象深くて。深海は暗い世界で、深海魚のような不気味な生物も暮らしています。私は深海=怖いイメージがあったのと、そこに魔女の要素が合わさって、神秘的でやさしい女性ではなく、いまのような恐ろしいデザインになりました。
――なるほど。たしかに、フクロウの一族のほうが描きやすそうですね。
マニアニ
ただ、鳥っぽいキャラクターはあまり描いたことがなくて……。とくにクチバシに苦労していて、人っぽい顔にクチバシをくっつけていかに違和感をなくすのか、バランスを取るのが難しかったですね。
――秋の国のキャラクターも解説をお願いします。
マニアニ
狸と狐は離婚していて、国としても冬に近いということで、暖色系の色を使って温かみを感じられるんだけど、どこかさみしい見た目になるように表現したいなと考えました。
これまで狐っぽいキャラクターは描いたことがあったのですが、私がデザインするキャラクターは若くなりがちなんですね。でも本作に登場する狐は狸と連れ添った後に離婚しているので、私がふだん描いている狐のキャラクターよりも、お姉さんっぽい雰囲気が出ればいいなと思ってデザインしました。
――夫の狸はどうですか?
マニアニ
狸のキャラクターを描くのは初めての体験でした。個人的には、狐も狸も顔はシュッとしているイメージなのですが、今回は狸の置き物のような、横に広くておおらかな雰囲気の狸でデザインを考えてみました。ふだん描かないキャラクターを担当できたのは、いい経験になりましたし、楽しかったですね。
――そして冬の国には猫と犬が登場します。こちらのデザインのポイントは?
マニアニ
冬の国のキャラクーのカラーリングは、秋の国と同じく温かそうな色合いにしつつ、冷たい雰囲気を出せるように灰色などの冷たい色も使っています。デザインでは、猫と犬がコミカルで楽しげな印象を与えたかったのと、かわいさをなるべく全面に押し出したかったので、猫のフードをもこもこにしたり、首元に肉球のデザインを取り入れたりして、哲学者のお堅いイメージがあまり出ないように工夫してみました。
また、犬のデザインは、そのまま犬らしい姿でというオーダーがありました。毛並みの模様はハスキーをイメージしていて、全体的にもこもこしている姿にしています。ハスキーは寒さに強くて、雪の中でソリを引くのが得意な犬種なので。
――それでいうと、猫にもモデルにした品種があるのでしょうか?
マニアニ
三毛猫をモデルにしていますが、三毛猫よりもオレンジ色を多くしているのと、三毛猫は大体がメスでオスは珍しいということで、リアルな三毛猫とはちょっと違う存在にしています。
――マニアニさんが担当した中で、とくに産みの苦しみが大きかったキャラクターは? 逆にすんなり描けたキャラクターもお聞きしたいです。
マニアニ
全体的に悩むことは少なかったですね。すんなり描けたキャラクターのほうが多かった印象です。なかでもいちばん描きやすかったのは犬ですね(笑)。
Kazukiさんから託されたキャラクターデザインの想い
――『たねつみの歌』の登場人物たちの魅力、注目ポイントをそれぞれ教えてください。
popman3580
みすず、陽子、ツムギの3人の親子がいっしょに冒険をくり広げるのが、この作品ならではの大きな魅力だなと思います。親子の関係でありながら、同じ歳の女の子でもある彼女たちがくり広げる掛け合いも、シナリオを読んでいて斬新でおもしろいなと感じました。
マニアニ
どのキャラクターも魅力的ですが、神々のキャラクターデザインを担当した立場からすると、やはり神様たちに注目してほしいですね。神様と言われながらも、人間と同じような生活をしていて、どこか人間くささが感じられるので、イラストからも人間のような温かみを感じていただけるとうれしいです。
――Kazukiさんには、おふたりのコメントを受けて感想をお聞きしたいです。
Kazuki
私にはこのゲームのイラストで明確に実現したいことがありました。でも、自分には技術がないのでイラストは描けません。どなたにイラストをお願いしたら私がやりたいことを表現できるのか、島田さん(島田紘希氏。ANIPLEX.EXEのプロデューサー)と相談する中で、今回はpopman3580さんとマニアニさんにイラストをお願いすることになりました。
ふたりには私ができないことをイラストで実現してもらえたので、それがいちばんうれしかったですね。できあがったイラストを見て、これはいいゲームになるんじゃないかなと手応えを感じました。
――Kazukiさんが、自分ではイラストで表現できなかったこととは?
Kazuki
キャラクターのレンジです。本作は人間側にも幅のあるキャラクターが多い。それぞれバックグラウンドがありますし、生きてきた年代もそれぞれ違います。マニアニさんだけではなく、popman3580さんもイラストでキャラクターのレンジをしっかり表現してほしかったのですが、期待以上のできでした。
――完成したイラストには満足しているのですね。本作は立ち絵(に関わるデザイン)のボリュームが多いと伺っています。作業をしていて、ボリュームの凄さを体感することはありましたか?
popman3580
たしかに、立ち絵、三面図、表情パターンは多く描きましたし、影の指定もたくさん入れました。ボリュームは多いと思いますが、そのぶんキャラクターに愛着が湧きますし、物語の中で本当に生きたキャラクターを表現できたのが体感できたので、僕としても新鮮で楽しくイラストを描けました。
――ちなみに、キャラクターの表情パターンは、どれくらいの枚数を描いたのですか?
popman3580
メインキャラクターは、10パターンずつぐらいだったと思います。最初に描いた立ち絵は素の表情だったので、そこからいろいろな表情を考えました。
――これだけ多くのイラストを描いたのは、初めての体験だったんですか?
popman3580
初めてです。表情はある程度数がほしいというオーダーでしたが、具体的な指定はなかったので、プロットを読みながら必要だと思った表情をどんどん描いていきました。正直、表情がどれだけあるのかなと思いましたが(苦笑)、本作はゲームということで、シーンに応じてたくさんの表情が必要ですからね。喜怒哀楽以外の表情を考えるいいきっかけになりました。
――イラストのボリュームに関して、ほかに印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
popman3580
ヒルコは別の顔を見せてくれることがあるのですが、そのときはどんな表情にするのか、いろいろ相談しました。詳しく話すとネタバレになってしまうので、どのような表情になっているのか、ぜひゲームをプレイして見ていただけるとうれしいです。
――楽しみにしています! マニアニさんはどうでしたか?
マニアニ
これまで表情集をたくさん描くことがなかったので、たいへんではありましたが、とても楽しかったです。とくに大げさな表情を描くのが好きでしたね。
――どのキャラクターも該当するとは思いますが、とくに好きなキャラクター、もしくは注目してほしいキャラクターは?
popman3580
僕は陽子とツムギが好きですね。世代の離れたふたりが、同じ16歳という年齢で衝突するのが楽しくて(笑)。物語の舞台はファンタジーの世界なんですけど、世代間ギャップで衝突するやり取りリアルで、ミスマッチでおもしろいなと思いました。陽子とツムギの掛け合いは、プロットを楽しく読みながらイラストを描いたのを覚えています。
マニアニ
私は最初に描いた春の国の龍人族の王様と、姉妹が印象に残っています。春の国は最初に訪れる場所ということで、温かい雰囲気をキャラクターデザインでうまく表現できたかなと手応えを感じていて。王様は朗らかでおおらかな姿が、姉妹はお互いに対する言いようがおもしろいのも印象的でした。春の国のキャラクターたちと出会って、これから先の国を冒険するのが楽しみになってくれたらうれしいなと考えながらデザインを進めました。
Kazuki
あえてサブキャラクラーの中から挙げると、誠司ですかね。誠司はツムギの父親で、みすずの夫となるキャラクターですが、現代的な葛藤を抱えたキャラクターで私はものすごく感情移入ができるんですよ。
それに、誠司は大人になった姿と大学生の姿をデザインしてもらいましたが、大学生の姿は垢抜けていない感じなんです。いいところの坊っちゃんが、勉強をしっかりがんばって大学に入ったんだなって感じ。でもみすずと結婚してお父さんになると、スタイリッシュでかっこいい姿になるんですね。
Kazuki
性格は変わっていませんが、みすずというパートナーができることで、しっかり垢抜けてくるんだなってリアリティが担保されていて。デザインでも誠司の変化は好きですね。
――誠司のデザインを考えるうえで、popman3580さんが印象に残っていることは?
popman3580
頼りない青年から父になるという設定を教えてもらっていたので、頼りなさを線の細さや目の雰囲気で表現しています。
――大学生の誠司はなで肩なのも、頼りなさが表現されていますね。お父さんになった姿のポイントは?
popman3580
父親になったことで、やさしさとういうか、おおらかさを感じられるような雰囲気になるように意識しました。
――ちなみに、誠司が大人になった姿で登場するということは、16歳のみすずたちが異世界を巡るストーリーのほかに、大人になったみすずたちのストーリーも描かれる……?
Kazuki
メインはあくまでも16歳のみすずたちの物語なので、ボリュームは多くありませんが、みすずたちのバックボーンや父親の物語を描くようにはしています。誠司だけではなく、陽子の夫であり、みすずの父親も登場して、いかにして陽子と出会ったのか、そして死に別れたのか……。
Kazuki
そういった父親の物語を描いています。みすずの父親や、ツムギの父親になる誠司の物語をちゃんと描かないと、ツムギを異世界に送り出すシーンをリアルに描けないので。キャラクターひとりひとりの人生を想定していて、人生観が垣間見えるようにセリフを考えています。
――みすずたちが異世界を旅しながら、ときどき現実世界のエピソードも描かれると。
Kazuki
そうですね。たとえば夏の国では、住民のフクロウたちの姿を見て、ツムギのトラウマが刺激されるイベントがあります。その後に、どうしてトラウマを植え付けられたのか、明かされるシーンが用意されていて、誠司の葛藤や娘であるツムギの苦しみを描いています。
ファンタジーと現実世界がリンクしないと、おもしろくないと思います。異世界のキャラクターは家族関係のあるあるネタをひとつのキャラクターに凝縮するようにしました。たとえば、龍人族の王様は家族の話を聞かないお父さん、フクロウの一族の婆さんは威圧的に接する一家の主といった感じです。こういった家族間の軋轢などを見ることで、プレイヤーは共感してくれるんじゃないかなって。
マニアニ
家族間のあるあるをキャラクターに詰め込んでいるというお話は初耳でした。
――衝撃の事実が(笑)。みすずの父親と誠司が似ているのは、みすずのタイプがお父さんみたいな人だったから?
Kazuki
はい。16歳のみすずが誠司に会うイベントもあるのですが、そこでみすずは、やっぱり私はお父さんみたいな人を選んだんだなって。popman3580さんには、同じようなタイプの男性として描いてくださいとお願いしました。
――似ている理由が腑に落ちました。異世界に登場するメンバーで、Kazukiさんがとくに好きなキャラクターも教えてください。
Kazuki
私は名前のない猫が好きですね。もともと好きだったというよりは、マニアニさんにキャラクターデザインをお願いした結果、好きになりました。
冬の国はとてもシリアスな状況なのですが、そこに名前のない猫のような間の抜けたキャラクターが登場することで、冬の国に温かみを生み出してくれたと感じています。
マニアニ
ありがとうございます。
ふたりの人気イラストレーターはどのようにして生まれたのか?
――せっかくの機会なので、popman3580さんとマニアニさんがイラストレーターになったきかっけを教えてください。
popman3580
僕は小さいころから絵を描くのが大好きでした。自由帳に『ドラゴンボール』のキャラクターを描いたりしていましたね。オリジナルキャラクターを描くのも好きで、想像をふくらませていろいろなキャラクターを考えました。
とくに好きな作品は『新世紀エヴァンゲリオン』で、キャラクターはもちろん、エヴァにも夢中になって。このころからおしゃれでかっこいいアニメが増えていったと思います。
――マニアニさんは?
マニアニ
私も子どものころから絵を描くのが好きで、『ドラゴンクエスト』や『ポケットモンスター』の好きなモンスターのイラストや、オリジナルキャラクターを自由帳に描いていました。初めてイラストとして完成させたのは、小学生のころに描いた二頭身のデフォルメされたキャラクターです。それが楽しくて、イラストレーターになりたいと考えるようになりました。
――昔からモンスターを描くのが得意だったのですね。
マニアニ
子どもの私にとって、人間のキャラクターは大人っぽい印象があって。自分にはまだ早いと感じていました。でも、モンスターは描きやすくてかわいかったので、夢中になったんだと思います。
――おふたりは、それからどうやってイラストレーターになる夢を実現させたのですか?
popman3580
芸大のデザイン系の学科に進学して、それからはずっとデザイン関連の会社で働いていました。イラストは趣味で描いていてSNSにアップしていたのですが、仕事をいろいろといただけるようになったので、2年前に思い切ってイラストレーターになりました。あまり深く考えずに、こっちのほうが楽しそうだなって(笑)。
――(笑)。マニアニさんの経歴も教えてください。
マニアニ
私も美術系の大学を出ていますが、イラストを勉強することはあまり意識してこなくて。とにかく好きなモンスターやキャラクターを描いて、将来はイラストレーターになれたらいいな。できればキャラクターデザインを担当したいなと考えていました。SNSにイラストを公開していたところ、キャラクターデザインのお仕事がくるようになって、自分がデザインしたキャラクターが生き生きとしているのがうれしいですね。
――仕事ではモンスターを描くことが多いんですか?
マニアニ
仕事を始めたころは人間のキャラクターも描くことになるのかなと思っていたのですが、仕事の依頼はモンスターや動物が圧倒的に多いです(笑)。ただ、X(Twitter)やpixivで公開している和風系のキャラクターは人間が多いので、もっとうまくなって、人間のお仕事も請けてみたいですね。
――『たねつみの歌』をきっかけに、人間のイラストの仕事が増えるかもしれませんね。popman3580さんとマニアニさんが今回お仕事をごいっしょしてのご感想や、刺激を受けたことがありましたら教えてください。
popman3580
マニアニさんが描くキャラクターはめちゃくちゃかわいいです(笑)。
マニアニ
ありがとうございます(笑)。
popman3580
Kazukiさんがキャラクターのレンジのお話をされていましたが、キャラクターの幅をしっかりと持たせつつ、同じ作品としてうまくまとめる画力があるのは、うらやましいですし、刺激になりました。
マニアニ
popman3580さんが描くキャラクターは、ふだん私が思いつかないようなデザインなので、私も勉強になりました。とくに女の子がみんなかわいいんですよ。立ち絵もただ立っているだけではなくて、写真撮影をするときのような、動きのある自然な立ち絵になっているのがすごいなって。ポーズだけではなく、表情もとっても生き生きとしていますよね。
――お互いに刺激になったのですね。最後に、本作の発売を楽しみにしている読者やファンに向けてメッセージをお願いします。
popman3580
世界観やストーリー、キャラクターが一貫していて、完成度の非常に高い作品です。ぜひプレイして楽しんでもらえたらと思いますが、プレイする際はマニアニさんと僕がデザインしたキャラクターたちにもぜひ注目してください。
マニアニ
死がテーマになっていて、シリアスなところもありますが、家族の温かさやキャラクターのコミカルな掛け合いもふんだんに楽しめます。ストーリーを通して、四季の移ろいを感じながら旅をしている感覚も味わえるので、キャラクターたちといっしょに冒険してもらえるとうれしいです。
Kazuki
キャラクターデザインをpopman3580さんとマニアニさんにお願いしたことで、私が実現したかったキャラクターレンジの広さを実現できました。冒険を進めるたびに、統一感のあるデザインで生み出されたバラエティー豊かなキャラクターがどんどん登場しますので、純粋にキャラクターを見て楽しんでいただければと思います。
『たねつみの歌』作品情報
イントロダクション
企画・シナリオを、サークル「Studio・Hommage」で『ハルカの国』などの連作ビジュアルノベル「国シリーズ」を制作してきた Kazuki、音楽をゲームミュージック中心に様々な作品に楽曲提供を行う原田萌喜が手がける。キャラクターデザインには、アニメのキャラクター原案など多方面で活躍する popman3580、SNS 中心にオリジナリティに富んだイラストを多数発表しているマニアニが参加し、ディレクション・演出を『ATRI -My Dear Moments-』にて演出を担った Yow が担当。
選択肢や分岐のない、ただ一つの結末に向けて奮闘する主人公たちを描くノベルゲームとして、2024年冬にSteam・DMM GAMES・DLsiteにて発売予定。
ストーリー
幼い頃に母を亡くしたみすず。
2023年の春、16歳の誕生日を迎えたみすずのもとに、一人の少女が訪ねてくる。
それは、16歳の母・陽子だった。
神々が住まう「常世の国」で行われる「たねつみの儀式」。
その巫女に選ばれた陽子は、旅の仲間としてみすずを誘うため、1996年からやってきたのだと告げる。
たねつみの儀式は、不死である神々が新たな時代へと世代交代していくために必要な、神々の葬式。
「たねつみの巫女」は常世の国を巡り、大地に穢れをもたらす「本当の冬」が到来する前に、古い神の長たちに死を受け入れてもらわなければならないという。
陽子に誘われたみすずは 2050年に赴き、
16歳になったみすずの娘・ツムギも仲間に加えて常世の国へと向かう。
水先案内人として現れた、自身をみすずの弟と名乗るヒルコを交えて、
四人は本当の冬を迎えつつある詩情豊かな国々を旅していく。
時を越え、奇跡のように集った少女と少年。
旅の果てに、彼女たちがたどり着く結末とは――。
スタッフ
- 企画・シナリオ:Kazuki(STUDIO・HOMMAGE)
- キャラクターデザイン:popman3580・マニアニ
- 音楽:原田萌喜
- 演出・ディレクション:Yow
- プログラム開発:iMel Inc.
- オープニングテーマ:「夜を越える」歌:sola
- エンディングテーマ:「たねつみの歌」歌:Rita
キャスト
- みすず:飯沼南実
- 陽子:渡部紗弓
- ツムギ:早瀬雪未
- ヒルコ:田村睦心
- 龍神族の王:岩崎ひろし
- 姉姫:井上ほの花
- 妹姫:髙橋咲貴
- シオミ:栗坂南美
- フクロウの婆さん:宮沢きよこ
- 乙姫:木下紗華
- キツネの奥さん:山本悠有希
- タヌキの旦那:かぬか光明
- 猫:虎島貴明
製品概要
- タイトル:たねつみの歌
- ジャンル:ノベルゲーム
- 発売時期:2024年冬発売予定
- 価格:2,750円(税込)
- プラットフォーム:PC(Steam・DMM GAMES・DLsite)
- 対応言語:日本語・英語・簡体字
- 公式サイト
- Steamストア
- 公式 Twitter @ANIPLEX_EXE