集英社ゲームズが販売、アクロバティックチリメンジャコが開発中のPC(Steam)向けアドベンチャーゲーム『シュレディンガーズ・コール』。
本作の開発を手掛けるアクロバティックチリメンジャコのメンバー3名と、集英社ゲームズで本作のプロデューサーを担当している林真理氏へ、京都・みやこめっせで開催された“BitSummit Drift(ビットサミット ドリフト)”の期間に実施したインタビューをお届けします。
Achabox(アチャボックス)
京都在住。映像・MV制作のディレクションや撮影、イラストなどを手掛けたあと、room6のデザイナーを経験。Ske6の『ことだま日記』ではゲームデザインやキャラクターを担当。アクロバティックチリメンジャコで開発中の『シュレディンガーズ・コール』ではディレクター・アートを担当。
入交星士(イリマジリ セイシ)
アニメーションクリエイター、ゲームデザイナー、グラフィックデザイナー、ミュージックコンポーザー、ライターなど多岐に渡って活動。アクロバティックチリメンジャコ『シュレディンガーズ・コール』ではシナリオ・音楽を担当。
amenone games(ame)(アメノネ ゲームズ)
2022年よりアクロバティックチリメンジャコに参加。メインエンジニアとして『シュレディンガーズ・コール』を開発中。
林真理(ハヤシ マコト)
集英社ゲームズ・シニアプロデューサー。過去にはディレクター・プロジェクトマネージャー・アートディレクター・3DCGデザイナーなども経験しており、ディライトワークスでインディーゲームのプロデュースを手掛けていたことも。
コロナ禍の「誰かに話を聞いてほしい」という切実な想いがゲームを作る切っ掛けに
――“アクロバティックチリメンジャコ”ってすごいチーム名ですね。
Achabox
自分たちで名乗るぶんにはいいのですが、誰かに呼んでもらうたびに申し訳ない気持ちになります(苦笑)。でもX(Twitter)で「名前が好きすぎるので試遊しに行きます」と言ってくれた方もいらっしゃって……。
――その気持ちもよくわかります(笑)。フルで呼びにくいときは略称で“アクチリ”と呼べばよいという認識で大丈夫でしょうか?
Achabox
もちろんです。
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アクロバティックチリメンジャコのチームロゴ
――先ほど『シュレディンガーズ・コール』をプレイさせていただいたのですが、すごく不思議な体験だったというのが率直な感想になります。どういった着想から本作は生まれたのでしょうか?
Achabox
もともとのアイデアを思い付いたのはコロナ禍で緊急事態宣言が出ていた時期だったんです。自分自身も辛いできごとが重なった時期だったのですが、思うように人とコミュニケーションが取れず、気軽に気持ちを共有したりできない。誰かに話を聞いてほしいとすごく切実に思ったときに浮かんだ最初のイメージが、このゲームの原型になりました。閃いたときすぐに「このゲームを作りたい」と思ったのを覚えています。
いまは登場人物のビジュアルは動物なのですが、最初のインスピレーションとしては「顔が粒子の集まりみたいになっていて誰なのかわからない」というもので、それはコロナ禍ですごく感じた「誰でもいいから話がしたい」という気持ちから来ていたのだと思います。
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Achabox
その後もコロナ禍が続く中、DiscordやZoom、Twitter(現X)のスペース機能などで、友だちや家族だけじゃなく、知らない誰かと通話をする機会がすごく増えたんです。その知らない誰かと話せたことで、救われたと思うことがたくさんありました。
相手の辛かった話を共有してもらったときに「自分にもこういうことがあった」と言い合える、そのやりとりを通して通話だけで相手のことをイメージする。そういったやりとりで救われた経験を、作るゲームに落とし込みたいと思うようになりました。
世界で活躍する映像作家と元・缶バッジ会社の事業部長。異色のメンバーが集まった理由
――アクチリさんとしてのゲーム開発は『シュレディンガーズ・コール』が初めてですよね?
Achabox
そうですね。私はもともとroom6(※)に務めていたのですが、自分の企画として作りたいゲームのイメージができたことで、ゲームクリエイターズCAMP(※)に応募したという経緯があります。入交さんとameさんのふたりは「シュレコ=開発歴」というかなり異色なチームです。
※room6……京都を拠点にインディーゲームの開発・パブリッシングを行う会社。インディーゲームレーベル・ヨカゼも運営している。
※ゲームクリエイターズCAMP……集英社が運営するゲームクリエイターの発掘・支援プロジェクト。『シュレディンガーズ・コール』はその中のゲームコンテストで大賞を受賞している。――3人が組んで、異色のチームを結成したのはどういった成り行きだったのでしょう?
入交
僕が参加したのは近所に住んでいたからです。
――近所に住んでいたから!?(笑)
Achabox
これはだいぶ端折った説明ですね(笑)。私は京都に住んでいるのですが、(入交)星士さんは全国各地や海外を飛び回っていた方なんです。
入交
集英社さんがゲームクリエイターズCAMPの募集を開始して、Achaboxさんがメンバーを集めることになったとき、僕はたまたま長期滞在で京都にいたのですが、コロナ禍ということもあり、ゲームをたくさんプレイしていた時期でした。
そんなときにAchaboxさんから「ゲームのテキストを書きませんか?」と誘われたのが参加する切っ掛けです。それで、当時いっしょに参加したエンジニアさんは忙しくなってしまい、受賞決定と前後して抜けることになってしまったんです。
Achabox
『ことだま日記』をいっしょに作っていたkoheiさんという方だったのですが、もともと週に2日くらいしかこちらの手伝いはできないということで、どちらにせよ新たにエンジニアさんを募集しようとは考えていたんです。その後、koheiさんは『ローグウィズデッド』の開発があまりにも忙しくなって、抜ける形になりました。
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――では、その当初いらっしゃったエンジニアさんの代わりに入ってきたのがameさんなんですね?
入交
クリエイターズCAMP内でメンバー募集ができるようになっていて、応募してくれた中のひとりがameさんでした。
Achabox
ありがたいことに10人くらいの方が応募してくださって、面談をさせていただきました。そんな中、最後に来てくれたのがameさんでした。
応募してくれた方には、海外の方や、すごい経歴を持つベテランの方もいらっしゃって、皆さん素敵な方でした。ameさんは経歴でいえば、エンジニアとしての勉強を始めたばかりなんです。もともとは缶バッジ会社に10年くらい勤めていて、副社長みたいな立場(事業部長)だった方で。
――それは予想外の経歴ですね……!
Achabox
もちろん技術って実現力に関わるすごく大事な部分なのですが、「ゲームが作りたい」という想いの強さをいちばん強く感じたのはameさんだったんです。いまは缶バッジ会社に勤めているけれど、ものすごくゲームが好きなんだなと。
それに、面談でメンバー全員とやりとりしたときに、すごく波長が合ったんです。自分の言葉をちゃんと持っていて、好きなインディーゲームのことを語ることができたり、アンテナを高く持って興味があるものを追求できる。
もともと別の方に決めようとしていたところに滑り込みで応募してくれて、満場一致でameさんにお願いすることにしました。開発に参加してからも、自分の言葉でやりとりしてくれるameさんの姿勢にはすごく支えられています。
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ame
経歴でいうと、星士さんは開発チームに参加する前は、デンマークで映像の勉強をしていたんですよ。
――入交さんはゲーム開発は『シュレディンガーズ・コール』が初めてでも、グラフィックデザイナーにミュージックコンポーザーにと、クリエイターとしての活動は以前から多岐に渡っているんですね。
Achabox
アクチリに参加する前は、デンマーク国のクリエイター支援の一環で、アニメーターやゲームクリエイターが各国から集まって作品制作をする、みたいなプロジェクトに参加していたんです。
入交
インディーゲーム制作者同士っていろいろとつながりができる機会があるのですが、僕は偶然、海外で出会いがあったんです。その方とのつながりで、Achaさんたちともお知り合いになったという経緯があります。
――そうして、以前からつながっていたAchaboxさんと、たまたま同じ京都にいたときにいっしょにゲーム開発をすることになり、アクチリの一員になったと。
Achabox
狭い業界なので(笑)。
入交
デンマークのプロジェクトでいっしょだった方の中にも、いまBitSummitに来ている方が何人もいますからね。
“Aボタンを押すまでの感情”を特別なものにするために
――チームとしてのアクチリさんの話もたいへん興味深いのですが、ゲームに話を戻します(笑)。今回プレイできたバージョンでは「優しく話しかけるか?」、「冷静な態度で話しかけるか?」といった印象的な選択肢がいくつもありました。一見すると優しく接したほうがよい結果につながりそうですが、そういった単純なものではないのでしょうか?
入交
どこまで言うべきか迷いますが……(苦笑)。ストーリーの流れは決まっていて、途中で掛ける言葉や選択肢によってその直後の反応がちょっと違ったり、時間をおくと、ちょっとだけ表現が変わっていくようなイメージです。
――では基本的には、接する態度や掛ける言葉を間違えたことでバッドエンドになってしまうみたいなゲームではない……?
ame
変化がある部分もあれば、あるように見せかけている部分もあるんです。
Achabox
まだ制作中なので、最終的に少し変わってくる可能性はありますが……主人公のメアリは通話相手の魂を救うために「相手の心残りとは、なんだったのか?」を明らかにすることになります。
きっと辛いことだったはず……と想像できるのですが、“いっしょに向き合っていく”なら、どんな言葉を掛けるべきなのか? とプレイヤーさんには考えてみてほしいんです。人によっては“ただ優しく接すればいいわけじゃない”と思うかもしれませんよね。
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――「この人の悩みに向き合うためにいちばん誠実な態度は、どうあるべきか?」といった思考で自問自答するようなイメージでしょうか?
Achabox
そうですね……話し相手にいまどんな言葉を投げかけるのがいいのだろうか? とプレイヤーに悩んでほしいと思っています。今回試遊できたバージョンは20分くらいに重要な部分だけまとめているのですが、実際のルーシーとの通話パートは1時間~1時間30分くらいになります。その中でルーシーという通話相手のことを徐々に理解して、共感を深めていく過程を楽しんでほしいです。
林
僕はこの『シュレディンガーズ・コール』って、生粋のゲーム開発者が作るゲームと比べて、すごく“枠組みに囚われない発想”で作っているなぁと思うんです。「デジタルな表現方法としてどんなものにしていこうか?」ということを純粋に考えているんだなと。
ゲームって大掛かりになればなるほど、システマチックに開発していくことになると思うんです。そこを3人で一丸になって「いま伝えたいことをどうすれば伝わるのか?」と模索しながら作っているのが、表現の多彩さや繊細さ、ほかのゲームでは見られない魅力になっていると思います。
――試遊していて少なからず戸惑いがあったのですが、そうした既存のゲームに囚われない考えかたで作っているからこそのものだった感触はあります。
林
電話の向こう側にいる人と話していく中で、選択肢を選んでいくことで「自分(プレイヤー)の中でおはなしが生まれていく」感じがありますよね。ゲームシステムとして説明すると、難しいことはしていないんです。けど2択の選択肢が画面に表示されて、「どちらを選べばいいのか、わからない」とか、急に音が「ポーン」と鳴って、ハッとするとか。そういうことの積み重ねで、感情が動かされる。
「システムがこうで」みたいには説明しづらいんだけど、だからこそ、このゲームはおもしろいなぁと思うんですよね。実際に体験してもらわないと伝わりづらいところがありますし、プレイするときの環境でも感じるものは変わってくるものがあるかもしれません。できれば、ひとり静かな部屋でしっとりとプレイしてほしいというのが本音です(笑)。
Achabox
ヘッドホンを着けて集中してプレイすると、ぜんぜん体験が変わると思います。
林
さまざまな要素ひとつひとつ、気持ちが伝わるように開発しているので、その繊細さを噛み締めてほしいです。
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――タイトルにもある“シュレディンガー”は、“シュレディンガーの猫(※)”を指しているのかなと思うのですが、この言葉をタイトルに取り入れた意図についてお聞きしてみたいです。
※シュレディンガーの猫……箱の中の猫が生きている可能性と死んでいる可能性が半々である場合、箱を開けて観測するまで“生きてもいないし死んでもいない”と考えられるという量子力学にまつわる思考実験のこと。入交
“シュレディンガーの猫”は量子力学について描いたSFで使われると思うんですけど……量子力学って「もしこれがこうじゃなかったら、こういう未来があったんじゃないか」みたいな、いわゆる“反実仮想”とよく結び付けられますよね。『シュレディンガーズ・コール』では“想像すること”のほうがテーマになっているんです。
箱の中のネコが生きているのか、死んでいるのかを想像するんだけど、確かめるためには一歩踏み出して箱を開けるしかない。“想像すること”と、“一歩踏み出すこと”。その両方をテーマにしていることが、エンディングまでプレイすると体験としてわかるものになると思います。
林
箱を開ける、開けない。開けると生死が決まってしまう――っていう実験自体の話じゃなくて、“観測する側の目線”をモチーフにしたストーリーと考えていただくといいのかなと思うんです。
「この人にはこの言葉を掛けてあげるといいのかな?」とか、「このあともう1回話してあげるといいのかな?」みたいに想像して、行動に移すことが、相手の気持ちを変化させるかもしれない。けれど、それは場合によってはよくない影響を与えてしまう可能性もある。そこの繊細さみたいなものを“シュレディンガーの猫”からイメージしてもらうということだと思います。
――起きる事象がどうこうというよりも、観測者の心情への作用といったほうに焦点を当てるための言葉なのですね。
Achabox
最初は通話相手が“粒子”として描かれていて、共鳴していくことで実像が見えていくという演出になっているのですが、これも観測者の心が動くことで相手の実像が確定していくようなイメージです。
林
プレイを通したユーザーさんの迷いとか、“一歩踏み出す”という気持ちで選択肢を選ぶとか、操作としては“Aボタンを押す”という単純なことですけど、“ボタンを押すまでの感情”みたいなものが生まれてくれたらいいなぁと思っています。
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――体験版を配信することなどがあれば、その魅力に気付くプレイヤーが増えそうです。
林
まだ体験版は考えていませんが、どこかゆったりと静かにプレイしていただける環境が作れればいいなと思っています。ヘッドホンを着けて、1時間くらいプレイしてもらえる体験会を開くとか。
先ほどもBitSummitで試遊できたバージョンはダイジェストのような構成になっているという話がありましたけど、本当はもっとゆっくりと時間が流れていく感覚があったり、かと思えば焦らされたり、より緩急のある体験になっているんです。音が止んだり、鳴ったりといった演出にも力が入っているので、サウンドにも注目できる環境で遊んでいただける場所を用意したいんですよね。
――言語化が難しいゲームなので、いちばんいい環境で多くの人に触れて、ご自身で体験してみていただきたいと感じます。
林
私もプロデューサーの立場として、なんとか言葉にして魅力をお伝えしなきゃいけないので「難しいなぁ~」と正直思っています(苦笑)。「『都市伝説解体センター』と違って伝わるまでは時間が掛かるなぁ……」と(※)。
でも、一度伝われば広めたくなるゲームでもあると思うんです。本作が心に残った人たちが何年か経って、自分にとって大切な1本として挙げてもらえるようなゲームになればいいなと思っています。
※林氏は『都市伝説解体センター』のプロデューサーも兼任。取材当日は『都市伝説解体センター』のインタビューにも参加いただいたあと、『シュレディンガーズ・コール』のインタビューを実施していた。![[IMAGE]](https://cimg.kgl-systems.io/camion/files/famitsu/13328/a134ce63057f068a219a0df338fb0b723.jpg?x=767)
――ありがとうございます。最後に『シュレディンガーズ・コール』が気になっている方へ、メッセージをお願いします。
入交
電話1本でわくわくする冒険ができる作品を目指しています。オーソドックスなアドベンチャーゲームであると同時に、映画や小説などのストーリー性の強いゲームだと思いますが、プレイしていただければ少しずつ楽しみかたがわかっていただけると思うので、ぜひ気軽に触れてみてください。
ame
見たことのない体験ができるゲームになると思います。類似作品がないということに僕ら自身も苦しんでいるのですが(苦笑)、どこにもないような表現を、どうやってイメージを膨らませて形にしていくのか? それはどうすれば人に伝わるのか? 最終的に物語になって、人の感情が動く体験になるように、作っています。
林さんが“ボタンを押すまでの感情”とおっしゃってくれましたが、“自分の意志でちゃんとボタンを押したんだな”みたいな瞬間を特別なものにするために、ひとつひとつ作っていますので、楽しみに待っていていただければと思います。
Achabox
企画を応募したときからずっと変わっていないのが「誰かに話を聞いてほしかった」と思ったことがある人、みんなに届けたいなという想いです。いま、まさにそう感じている人もいるだろうし、過去に思ったことがあるけれど、そのときは話せる相手がいなかった人もいるかもしれない。そういう人たちに届けたいゲームなので、遊んでいただけたら嬉しいです。
林
いちばん最初にこの企画を数枚の紙の企画書として応募してもらったときから見てきて、まだゲームとは言えないようなビルドも知っていると、開発チームの成長とともにゲームも成長していると感じます。そういう意味では、発売できるころには現状よりもさらに素晴らしいゲームになっているという期待感もすごくあるんです。ぜひ楽しみにお待ちいただければなと思っています。
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