
失踪課の課長・清崎蒼は、事件発生直後から犀華ちゃんの両親、近隣住民への聞き込みを重ね少女の行方を追うが、解決には至らず、事件は迷宮入りしてしまう。
“犀華ちゃん行方不明事件”は清崎蒼にとって生涯忘れることができない出来事として、罪悪感とともに彼女の記憶に廃墟のごとく残り続けることとなった。しかし、そんな彼女の前に「全然わかってない」と話す若い女性警官が現れる。
その人物に促されて清崎蒼は事件の結末と始まりを思い出すが、確かにその記憶には不可解な点があった。
事件は“犀華の母”からの「娘がいなくなりました」という連絡から始まり、犀華の父である宮城哲郎の「これ以上、娘を探さないでください」という発言で迷宮入りをしたはずだが、記憶の中には「あの子は…とっくに…死にました」と自首する男の姿もあったのだ。
日常の所作や作業をゲーム化してきたSomiの最新作は“記憶”がテーマ
たとえばそれはスマートフォンの操作であったり、警察による事件書類の作成であったり、他人の日記の解読(盗み読み)といったもので、言うなれば日常の所作や事務作業を“ゲーム化”するようなものだ。
もちろん、そういった作品はSomi氏の専売特許というわけではない。たとえばこの手の作品の草分け的なものとして国境検問所を舞台に入国審査を行う『Papers, Please』があり、新聞社の編集長となりニュースを選択する『ヘッドライナー:ノヴィニュース』という高い評価を得ている作品もある。小規模なタイトル群に目を向ければ、日常の所作や事務作業をゲーム化したような作品は無数にあると言っていいだろう。
しかし、テーマに対するミニマルかつソリッドなアプローチ、ゲーム性にマッチした巧みなストーリーテリングという点において、Somi氏の作品に唯一無二のオリジナリティがあることは間違いない。
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2024年9月19日にPLAYISMからNintendo Switch版がダウンロード発売されるSomi氏の最新作『未解決事件は終わらせないといけないから』も、過去のSomi作品同様のアプローチでつくられたパズルゲームだ。
テーマは人間の記憶。過去に起きた未解決の行方不明事件の真相を明かすべく、当時事件の捜査にあたった清崎蒼の記憶の底に眠る、事件関係者たちの発言を掘り起こしていくのがゲームの目的だ。
人間の脳の働きをゲーム化したようなシステム×Somi流のヒネリ
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人間の脳はニューロンと呼ばれる神経細胞が、シナプスという接合部を介してつながることによって、情報を伝達しているそうだが(筆者は専門家ではないので、“まあそんなものである”くらいの感じで受け止めてもらえると幸いである)、『未解決事件は終わらせないといけないから』のシステムは、そんな脳の働きをゲーム化したものと表現できるかもしれない。
ゲーム画面を構成するのはチャットのように表示された事件関係者たちの証言と、それに不随するいくつかの印象的なモノクロのイラスト。各証言は“いつ”それが話されたかという縦軸と、”誰が”証言したかの横軸で展開されている。
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最初に表示されるのは、行方不明になった宮城犀華ちゃんの父・宮城哲郎の「これ以上、娘を探さないでください」という証言と、“犀華の母”からの「娘がいなくなりました」という事件の始まりを告げる連絡のふたつ。ここから新たな証言を掘り起こすためには、既存の証言の中にある記憶を刺激する単語を選択しなければいけない。たとえばそれは“公園”や“幼稚園”、“嘘”などの普通名詞であったり、あるいは人の名前だったりする。そして単語を選択をすると、ニューロンがつながるように選択した単語と関連する新たな証言が発見されるのだ。
そうやってひたすら証言を増やしていけば事件の真相が明らかになるのかと言えば……もちろんSomi氏の作品はそんな単純なものではない。
『Replica(レプリカ)』における”他人のスマートフォン”のような、効果的なヒネリが本作にもしっかりと仕掛けられているのだ。
不確かな記憶を掘り起こし、並び替え、推理する
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“犀華ちゃん行方不明事件”は清崎蒼にとって生涯忘れることができない失態であり、消えることのない自身の罪として彼女の心に残り続けている。
その影響もあってか、彼女の記憶は「索引のない古い図書館」のような状態になっていて、掘り起こされる証言のほとんどは、それがいつ証言されたのか、誰がそれを証言したのかという事実関係が不確かな状態になってしまっているのだ。
つまりどういうことかと言うと、清崎蒼が最初に思い出したふたつの証言――宮城犀華ちゃんの父と母の言葉――も、本当にそれが彼・彼女が発したものであるかどうかが確かではなく、さらに言えば本当にそれが事件の終わりと始まりを描写した出来事なのかもわからないのである。
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プレイヤーは証言を掘り起こすとともにその内容をしっかりと読み込み、そこに生じた矛盾やわずかな違和感を見つけ出して、正しい発言者・順序に入れ替えることも求められるのだ。
また、証言の中には単語選択をするだけでは発見できないものも一部あり、推理を求められることもある。たとえば、ある人物が証言の中で嘘をついていたとして、それを裏付ける発言を見つけたりとか、特定の出来事に関連する4桁の数字を見つけるといった具合だ。
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証言の発掘、並び替え、推理という一連のゲームプレイは純粋にパズルゲームとして楽しいだけでなく、未解決事件の真相を追うというミステリーとの相性も抜群。プレイ中に何度か起きる“物語全体の見えかたがガラッと変わる瞬間”の驚きをより一層高めてくれるし、なにより、“真実を自分自身で見つけた”という手ごたえを感じさせてくれることだろう。
不確かな記憶の物語は、プレイヤーにとって忘れられない記憶になるはず
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清崎蒼と女性警官の会話で描写されるプロローグとエピローグこそあるものの、それ以外にあるのはなにもかもが不確かな証言のみだ。それを再構成し、正しくつなぎ合わせることによって生まれる物語は、プレイヤーの脳内――ニューロンのつながりの中にだけある。そしてそれはきっと、いつまでも確かな記憶として残り続けるはずだ。
Somi氏の過去作を振り返り、『未解決事件は終わらせないといけないから』までの変遷を考える
そこでここからは、過去の作品を紹介しつつ、Somi氏の描く物語がどう変遷し、『未解決事件は終わらせないといけないから』にいたったかについて解説していこう。
『不思議の国のアリス』が超スピードで迫る『Rabbit Hole 3D: Steam Edition』
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Somi氏のキャリアを振り返ってみると、デビュー作『Rabbit Hole 3D: Steam Edition』の時点から、“物語を伝える”ことに対するただならぬ意気込みが感じられる。
猛スピードで前進する真っ赤なキューブを操作して、障害物を避けながらステージクリアーを目指すというシンプルなゲーム内容の本作は、一見すると物語性が皆無だが、じつは各障害物が英単語になっていて、さらにそれは童話『不思議の国のアリス』の一文でもあるのだ。
正直なところプレイ中はじっくりと文章を読んでいるようなヒマはないのだが、意地でも物語をねじ込もうとするSomi氏の感性のきらめきは感じることができるだろう。
パズルアクション×ゾンビパンデミック『RETSNOM』
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続く『RETSNOM』は、完全3Dグラフィックだったデビュー作から一転、ピクセルアートで構成された2Dパズルアクションゲーム。鏡の反転により地形変更を駆使してステージクリアーを目指すという内容になっている。
舞台となるのはゾンビパンデミックが発生した研究所で、主人公は娘を感染から救うため施設内を突き進む……という設定からもわかるとおり、物語性が非常に高いパズルゲームだ。鏡の反転パズルは、ゲームの進行に合わせて“一定時間で地形が消える”などのギミックが追加されるので単調にならずプレイできるのだが、いかんせん自分には難しすぎたこともあって、恥ずかしながらクリアーにはいたっていない。しかし、(おそらく)中盤あたりまで遊んだ限りでは、本作の物語はただのゾンビパンデミックものではなく、何かひとつ、ふたつのヒネリが加えられているようだ。
ストーリーテラーとしてのSomi氏は実質本作がデビューとなるので、『未解決事件は終わらせないといけないから』およびこのあと紹介する“罪悪感三部作”でSomi作品に魅力された人は、原点を知る意味でもぜひプレイしてみてほしい。
Somi氏の評価を決定づけた“罪悪感三部作”
『Replica(レプリカ)』
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他人のスマートフォンを操作するという設定の罪悪感に加えて、管理国家が舞台ということで、イギリスの作家ジョージ・オーウェルによるディストピア小説の金字塔『1984年』を彷彿とさせる“国家による罪のでっち上げ”という罪悪感もプレイヤーは体験”させられる”ことになる。
『Legal Dungeon(リーガルダンジョン)』
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続く『Legal Dungeon(リーガルダンジョン)』も似たような罪悪感が描かれる作品だ。主人公は警察官だが、事件現場へ赴いて捜査するのではなく、プレイヤーが行うのは逮捕された犯人を相手に捜査書類を作成するという事務作業が中心。
容疑者の性別、仕事、住所といった基本情報から、どうやって罪を犯したかといった犯罪事実の確認、適用法条などを穴埋めクイズのように作業し、そうやって作成した書類を元に容疑者を取り調べて容疑を確定させるのがゲームの流れだ。
本作が(いい意味で)ややこしいのが、ここに警察の内部事情や権力が絡んでくる点。たとえば本作において犯人の検挙は点数制になっており、ただの窃盗なら2点だが、特殊窃盗なら5点になるといった具合に、容疑者にどんな罪を与えるかによって評価が異なってくる。もちろん高い点数を獲得できたほうが警察としては評価が高まるのだが、ときにそれは誤った判断や最悪の場合でっち上げを招くことにもなる。また、容疑者が権力者とつながりがあったり、逆に敵対する立場にあったりするようなケースもあり、そこでもプレイヤーは難しい判断を求められるのだ。
本来正義であるべきはずの警察が組織として抱えてしまう罪、そしてそこにプレイヤー自身を積極的に介入させるという2重の罪悪感が『Legal Dungeon』の本当にイヤなところだ(褒めてます)。ちなみに物語上のつながりはないが、本作の登場人物の一部は『未解決事件は終わらせないといけないから』にも登場している。
『The Wake: Mourning Father, Mourning Mother』
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罪悪感三部作の最終作となる『The Wake: Mourning Father, Mourning Mother』(Nintendo Switch版のタイトル名は『The Wake』)は、ミニマルなアプローチが特徴的なSomi作品の中でもとりわけシンプルなルックス&システムの作品だが、『未解決事件は終わらせないといけないから』の物語にいたるSomi氏の意識の変遷を知るうえでは、もっとも重要な作品と言えるかもしれない。
ある男性が残した日記に書かれた、彼の家族にまつわる罪の告白を読む――それだけの内容だ。ただし、日記にはシーザー暗号やキーワード暗号などが仕掛けられており読み進めるためには、それを解読していかなければならない。
物語も日記を盗み読むという罪悪感、日記の中で明かされる家族に対する罪悪感という点において本作は間違いなく罪悪感三部作のひとつなのだが、プレイしたあとに残る罪の感情は『Replica』、『Legal Dungeon』のそれとは質が異なる。
分断ではなく連帯を――『The Wake』と『未解決事件は終わらせないといけないから』が描く罪とは?
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確かにそういった社会的なテーマ性は意義深いものだ。一方で、その物語が魅力的であればあるほど、人々の他者に対する意識を“あちら側とこちら側”に分断してしまうリスクもある。実際、現実社会における深刻な対立、分断は政治や思想によって引き起こされるが、それを正当化させるうえで物語は巧みに利用されがちだ。
しかし、最終作となる『The Wake: Mourning Father, Mourning Mother』の物語には社会の不正義もなければ、横暴な権力者もいない。
あるのは他者への愛と、憎しみ、そして理解だ。本作における罪の意識は、分断ではなく他者との連帯をプレイヤーに促してくる。
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物語の内容について詳しく述べることは避けるが、Nintendo Switch版に先行して配信されているSteam版(Steam版のパブリッシャーはSomi氏個人)で獲得できる実績のひとつに“連帯”という名のものがある、ということだけは伝えておきたい。
■執筆者紹介:ヨージロ
元ファミ通編集部ニュース班。子どもが行方不明になる系の作品だと、映画『トールマン』が好きです。
未解決事件は終わらせないといけないから
- 対応プラットフォーム:Nintendo Switch
- 発売日:2024年9月19日発売
- 発売元:PLAYISM
- 開発:Somi
- 価格:990円[税込]
- 対象年齢:IARC 3歳以上対象
- 備考:ダウンロード専売 Steam版はSomiより2024年1月18日発売