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『Clair Obscur』レビュー。これは日本のRPGへのフランスからの最高のラブレターだ!

byミル☆吉村

更新
『Clair Obscur』レビュー。これは日本のRPGへのフランスからの最高のラブレターだ!
 元ユービーアイソフト系の開発者によるフランスのゲームスタジオSandfall InteractiveによるRPG『Clair Obscur: Expedition 33』(クレールオブスキュール:エクスペディション33)のレビューをお届けしよう。

 本作の対応プラットフォームはプレイステーション5/Xbox Series X|S/PCで、独立系パブリッシャーのKepler Interactiveから2025年4月24日に発売予定。XboxとPCのゲームパスに対応するほか、プレイステーション5のパッケージ版がセガから販売される。なお執筆にあたってはプレイステーション5のレビュー版でプレイした。
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【世界観】壮絶に美しく、しかし過酷なファンタジー世界

 本作の舞台となるのは、一年に一度カウントダウンしていく呪いの数字によって人々の最高寿命が減っていく世界。海の彼方にある“モノリス”に示された数字を巨大な少女“ペイントレス”が書き換えると、その数字の年齢の人々は“抹消”されて花びらと灰のように散ってしまう。

 そんな状況下、67年前よりペイントレスを食い止めるために組織された“遠征隊”が毎年送り込まれてきたが、いまだ目立った成果はなく、今や数字は“33”となり、新たに33歳の人々が消え去った。
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ペイントレスがモノリスの数字を書き換える日、人々はモノリスが見える港に集まり最期の時間を過ごす。
 というわけでプレイヤーがギュスターヴたち第33遠征隊として挑むのが、未知の怪物“ネヴロン”たちが跋扈する海の向こうの世界への絶望的な旅だ。そのまま過ごしても抹消を待つだけ、誰も成し得なかった勝利を手にするか、それともせめて後の遠征隊の役に立つ記録を遺せるか? ただでさえ過酷な状況だが、さらに上陸直後に部隊は壊滅。残された数人をかき集め、過去の遠征隊の成れの果てを横目に冒険していくことになる。

 とまぁ、この上なく死の匂いに満ちた設定なのだが、この世界は同時に壮絶に美しい! 美麗な自然や異世界の風景に思わず惹き込まれて、マップの隅々まであっちこっちを探索してしまう。筆者は普段あまりプレイ環境を気にしないのだが、本作についてはできるだけいい環境、できればHDRディスプレイでプレイしてもらいたいぐらいだ。
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SDR環境でも十分綺麗なんですがね。

トールキンやD&Dの延長でもJRPGの単なる模倣でもない、独自のフレンチ・ファンタジー

 ところで、SFものを除いた海外の大作RPGでは、往々にしてトールキンなりダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)なりの影響を受けて“剣と魔法とドラゴン”的な西洋の中世ファンタジーをやっていることが多いと思う。たとえば『バルダーズ・ゲート』はそれこそD&Dの直系の派生作品だし、BioWareの『ドラゴンエイジ』もD&Dからの影響が明確に見て取れる。

 そんな中で本作は、モダンな独自のファンタジー世界を築き上げているのが面白い。キャラクターまわりのデザインや戦闘時のユーザーインターフェースなどに『
ファイナルファンタジーXIII』や『ペルソナ』シリーズからの影響を感じる本作だが、全体的な世界観についてもまた、これらのタイトルのように伝統的な西洋のファンタジーとは違うユニークな方向を目指しているのだ。

 オープニングから“ネヴロン”、“ペイントレス”、“ルミナ”、“ピクトス”といった独自のワードが連発されるのでちょっと面食らうかもしれないが、まぁそういうものだと思ってプレイしながら理解していくといいだろう。
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ルミナは不思議なピクトスから能力のエッセンスを引き出したもの。ゲーム的に言えばPerkのようなもの。
 一方、アートやサウンド面では、絵画のような美麗さと激しさが同居する画作りに始まり、シックな建築や衣装デザイン、クラシックやシャンソンからエレクトロスイングなどフランスの現代のダンスミュージックに至るまでのエッセンスが感じられるBGMなど、開発の地元であるフランスの分厚い芸術文化がその背景に感じられる。

 自分たちの文化や歴史をふんだんに取り入れることで他にはない世界を作り上げるのは、中国開発の『
黒神話:悟空』、チェコ開発の『Kingdom Come: Deliverance II』、ウクライナ開発の『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』など新興国で開発された最近のスマッシュヒット作とも呼応する、プライドを感じる部分だ。

【物語】自分が生きた証とは何か、後に続く者に何を遺すか? 物語を揺るがす大胆な仕掛けも

 ストーリーはギュスターヴがたびたび口にする遠征隊の哲学、「自分たちが倒れても後に続く者のために何を遺せるか」というヘビーなトーンで進行していく。そう、この世界ではもう何十回となくペイントレス討伐に失敗していることもあって、もはや生還はそんなに期待されていないのだ。それはNPCの何気ないセリフの端々にも示されている。

 そんなギュスターヴたちの悲壮な覚悟と目の前に広がる美しい世界や流麗なサウンドとのコントラストは強烈で、だからこそ沁みる。キャンプでのキャラクター間のやり取りによる個別の掘り下げや(溜まりがちなのでひと段落するたびに適度にキャンプに戻ってみるのがオススメ)、各地で手に入る過去の遠征隊の記録などのサブ的なストーリーコンテンツも面白かったし、いくつかのJRPG作品を意識しているだろう、それまでの物語を揺るがす大胆な仕掛けも用意されていて、ラストまで惹き込まれた。
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休憩地点となるキャンプでは、ギュスターヴの“弟子”だという子どもたちのために残す記録を執筆できる。いつか彼らがやってきて発見する日のために。

【探索】オプションのダンジョンやサブエリアまで丹念に作り込まれた世界

 お次はゲームシステムについても触れておこう。マップは世界を旅していくワールドマップと、各地の重要地点を探索する3Dアクションアドベンチャー風のダンジョンマップの2層構造。どちらにも敵がおり、近づくことで戦闘に突入するというシンボルエンカウント方式を採用している。

 とはいえワールドマップにはそこまで敵がいるわけではなく、どちらかと言えば全体的な世界の広がりを感じさせるための要素といった感じ。実際の探索や戦闘、ストーリーの進行といったコアの体験はダンジョンマップで味わう形となっている。
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ワールドマップにもモンスターがおり、戦闘可能。終盤に行けるようになる辺りにはたまにボス級の連中がいたりもするのだが、フィールドではいつでもキャンプで休憩ができるので安心して戦える。
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ダンジョンマップはアクションアドベンチャー風。アイテムなどが隠されたサブルートがさまざまな場所に隠されている。こちらは過去の遠征隊が立てた旗の所にたどり着かないと休憩(回復)ができない。
 実は本作、海外の大作志向のタイトルの中では意図的に安めの勝負価格に設定されているのだが、安易にオープンワールドにしたりボリュームを必要以上に増やしたりせず、見せたい所・やりたいことにギュッと凝縮した形にすることで、体験の密度をしっかりとしたものにすると同時に開発費を抑えているという印象だ。

 
それでもメインストーリーだけで公称30時間、結構オプションのダンジョンを探索したりサイドボスも倒した筆者の場合は実際に38時間ぐらいかかったし、それぞれのダンジョンマップの脇道にはサブエリアや強敵がかなり用意してあって、各地で発見するのがかなり楽しかった。

 特にクリアーに必須ではないオプションのダンジョンは終盤に行ける所がグッと増えるので、ぜひトライしてみて欲しいところ。ユニークな仕掛けが用意してあったりトンでもない強敵が待ち構えていたりするので、スルーするのは実にもったいない。
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世界観をさらに深く掘り下げるためにも中盤以降はオプションのダンジョンに潜ってみるのがおすすめ。

【戦闘】デフォルト難度ならパリィは必須ではないが……全パリィ狙いをしてみた方がいい理由

 戦闘は敵味方の各キャラの速度に応じて順番が決まるターンベースのもの。そこにスキル使用時のQTEや、敵の攻撃時のパリィ(弾き)や回避などのタイミング押し、弱点を狙い撃ちできるTPS(三人称視点シューティング)風の“フリーエイム”など、アクションゲーム系のリアルタイム要素が入ったものとなっている。
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スキルはQTEのタイミング押しでフルの性能を発揮する。
 またHPはあるがMPの概念はなく、通常攻撃のヒット時やパリィの成功時などに獲得するAPを使ってスキルやフリーエイムの弾を放っていく。そして回復アイテムなどは一時消費アイテムとなっていて、チェックポイントとなる中継地点で休憩するたびに補充されるという形だ。
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フリーエイムではスキルに使うAPを消費する代わりに弱点を狙い撃ちできる。部位破壊により攻撃パターンが変化する敵などもいる。
 さて、このゲームの戦闘で一番気持ちいいのはカウンター攻撃だろう。敵の連続攻撃をパリィしきると「ギュオーン」というSEとともに空間が歪むエフェクトが入り、カウンター攻撃が繰り出される。大ダメージとともにブレイクゲージもドカっと減り、返しきったカタルシスがハンパない。

 でも、パリィがどれだけ求められるか気になる人もいるだろうと思う。公式にはデフォルト難度の“エクスペディショナー”の場合は「高く推奨」、低難度のストーリーモードの場合は「必要ではない」、高難度のエキスパートモードの場合は「必須」とされている。
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難度はいつでも再選択可能。パリィがきつかったりしたら下げるのも検討すべし。
 なので「エキスパート以外ではパリィ必須ではないですよ」と言いたい所だが、実際はエクスペディショナーでも「敵のキツいコンボはたまに回避で逃げたりちょっとパリィをミスってもいいけど、基本的には狙えるだけ狙ったほうがいい」というぐらいの内容だ。
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全体攻撃に対して3人で繰り出すチームカウンターが一番アツい。
 というのもシステム上、パリィのメリットがありすぎるのだ。全パリィで完走できれば被ダメージはゼロ、デバフなども回避できて、カウンター攻撃が発動するだけでなく、スキルに使うAPもマックスに稼げるので、圧倒的に有利に自ターンを迎えられる。

 これが全食らいだと大ダメージ(場合によっては1ターンキル)、デバフがかかったりして、APも増えないまま自分のターンに入り、少ないAPは回復や蘇生や防御バフに使うことになって全然強力な攻撃に移れない……という負のスパイラルになる。

 そしてカウンターが必中するのもポイントだ。浮遊系の敵は高い確率でこちらの通常攻撃やスキルをかわしてくるので、フリーエイムモードでAPを使って撃って倒すのが常道。でもカウンターは必ず当たるし強いので、パリィからのカウンターに専念すれば稼いだAPはその分スキルに使える……というワケだ。

 ちなみに、パリィをちょっとミスって完走しなかった場合でも一定のAPは得られるし、デバフもある程度回避できて、敵の全体攻撃系のスキルならカウンターが発動してくれることもあるといった感じ。なのでまぁストーリーモード以外でプレイする場合、パリィ嫌いな人やさまざまな事情でパリィしづらい人でもなければパリィしない手はないのだ。
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全部パリィ取らなくてもカウンターできる攻撃も存在する。途中ミスっても投げずに合わせていこう。
 幸い、パリィの猶予時間は結構長いし、タイミングの手掛かりとなる敵の予備動作やサウンドエフェクトもかなりわかりやすいので、かなりパリィしやすいゲームではあると思う。グラフィック設定には解像度優先のクオリティモードとフレームレート優先のパフォーマンスモードがあるが、そういった部分がしっかりしていることもあってどちらでも特に支障はなかった。普段ほかのゲームであまりパリィを選択しない人も、取り組む意欲があれば意外となんとかなるだろう。筆者もその部類だ。

【バランス】快適なレベリングでストーリーと戦闘に没頭できる

 RPGとして、かなり気前よくレベルが上がっていくのも特色と言えるだろう。基本的にはストーリーを追いながら道中にいる敵を必要以上に避けずに戦っていけばどのボスも普通に戦闘可能で、一部のエンドゲームボスを除くと“レベル上げ”に専念しなければいけなくなるようなフェーズは皆無だった。
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探索して強敵を頑張って倒す→サクッとレベルが上がって強武器や強ピクトスが手に入る→次のエリアへ……といった感じにプレイしていける。
 ちなみに、終盤にさしかかるとスキルポイントやピクトスの能力を追加で覚えるための”ルミナポイント”がかなりあまり気味になるのは面白かった部分だ。どちらも多めにアンロックしておいて、難敵に合わせてスキルや能力などのビルド構成を自由に組み直して最適化するのを推奨する作りなのだろう。探索などで手に入る“リコート”というアイテムでステータスやスキルの割り振りをリセットすることもできるのだが、筆者のプレイではあまりお世話になることはなかった。
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スキルツリーはリコートでリセット可能だが、ガンガンレベルが上がって次第にあまり気味になるので、「いまどうしてもこっちのスキルが欲しい!」という時でもなければ割と大丈夫。

プラットフォームアクションとパリィ重視の設計には難点も

 こうした設計は好みもあるだろうが、個人的にはアクションアドベンチャーゲームのようにストーリーと戦闘に没頭できてかなり快適だった。

 とはいえ、悩ましい点もいくつかある。たとえばプラットフォームアクション(ジャンプアクション)をかなりやらされること。メインストーリーの攻略に必要なルートはそうでもないが、脇道を探索して隠しアイテムを探したり、サイドダンジョンもやるとなると、結構要求される。

 これは勘違いしてほしくないのだが、プラットフォームアクションをやること自体はそこまで嫌ではない。足場の目の前まで飛べてればフチを掴んでよじ登ってくれるといった救済措置も入っているので非アクションゲームとして操作性が悪い方ではないし、落下してもすぐに再スタートできる。

 でも、やっぱりちゃんとプラットフォームアクションとして作られたゲームと比較すると物足りないのだ。ギリギリまで走ってからのジャンプが間に合わずに落下するたびに「うーん」となってしまう(落下開始後すぐのジャンプが間に合う、いわゆる“コヨーテジャンプ(タイム)”の仕組みまでは多分入っていない)。
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プラットフォームアクションのためのネタコンテンツなんかもあったりする。
 もうひとつ悩ましいのは、パリィ重視の作りであることの副作用の部分。終盤に挑めるオプションの敵にはラスボスよりも長いコンボを繰り出してくる敵がいたりして、そういうのは「集中力を切らさずにパリィし続けられるか」というネタ系のチャレンジなのはわかるのだが、まぁ単純に疲れる。

 それにパリィでダメージをほぼ無効化できるため、適正レベルからかけ離れている敵でも粘ればなんとか戦えてしまうのが裏目に出ることもある。「ラスボスはきっともっと強いんだろう、ならばこいつらを倒さねば」と思って流石に無理な連中以外を倒してからラストダンジョンに挑んだら、すっかりレベルが上がっていたこともあってまぁ楽なこと! 「ちょっと1周目からやりすぎちゃったな」と反省した次第だ。

【まとめ】日本のRPGへのフランスからの最高のラブレター

 さて本作は、日本産のRPGに影響を受けたいわゆる“海外製JRPG”と呼べるようなタイトルの中でも、大作級のビジュアルやボリュームで取り組んだ傑作だと思う。

 ここでJRPGという言葉の定義をあまりあれこれ掘り下げるつもりはないが、個人的には、欧米のRPGは与えられた世界観の中で生み出した役割を演じる”ロールプレイ”に主眼を置く事が多いのに対して、日本のRPGは開発側が生み出したキャラクターが物語を動かしていくことにフォーカスしている部分が大きな違いとしてあると思う。

 そういった意味で本作は間違いなく日本のRPG的であり、かつ単なる模倣に留まらずに、フランスという自分たちの文化や芸術に対する感覚などを込めて独自のものを作り上げた、この上ない返答なんじゃないだろうか。第33遠征隊の面々との別れが惜しく、ニューゲーム+モードで2周目をプレイしている次第だ。
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集計期間: 2025年04月26日06時〜2025年04月26日07時