
『REANIMAL』は、Tarsier Studiosがエンブレーサーグループ(THQ Nordicの親会社)傘下となってから初めて世に出される新規IPとなる。新規IPとしてどういったゲームにしていきたいか、『リトルナイトメア』とのつながりはあるのか、アンドレアス・ジョンソン氏とデイビッド・メルヴィック氏の両名に聞いた。
David Mervik(デイビッド・メルヴィック)
Tarsier Studios ナラティブ・ディレクター。写真右。文中はデイビッド。
Andreas Johnson(アンドレアス・ジョンソン)
Tarsier Studios共同創業者。CEO。ビジネス・デベロッパー。写真左。文中はアンドレアス。
協力プレイをメインに、Tarsier Studiosのホラーは新たなステージへ
ゲームのコアができて、古いものや新しいものを含めたコンセプトアートを見ていたのですが、その中で「いいな」と思ったのが動物でした。動物が苦しんでいる姿やおぞましい姿が表現されたシーンを見続けました。そのシーンはたびたびエネルギッシュな反応を起こしたので、ここから始めようと思ったのです。
自分の家が恐怖を感じ始める場所である、というワールドを構築しようと思いました。子どもにとっては世界一安全な場所がじつは地獄のような場所だった、というのは何か非常に悪夢めいたものを感じますよね。これがすべての始まりです。
――首なしチキンやおぞましい豚にホラー的魅力を?
ふつう、頭のない鶏が走り回るのは変ですし、残酷ですよね。しかしゲームの中でずっと走っていたら、“動物”や“残酷で奇妙”を超えた“何か別のもの”になっていくのです。豚についても同じことが言えます。この豚は永遠に痛みに苦しんでいるわけではなく、私たち自身が経験する世界の暴力を反映しているような、とある状態にいるんです。
これらの動物はどうしてこのような状態にあるのか? 何が起きたのか? 子どもたちは大丈夫なのに動物がそうでないというのは何を象徴しているのか? 子どもたちはどこに着いたのか? どんなワールド? 動物たちはどこからきたのか? こうしていろいろなアイデアが浮かんできました。ただ「動物はおぞましい」ということで終わりというわけではありません。アイデアを掘り下げて、何がこうしたクリーチャーを生み出したのかを考えました。
豚はふつう農場などにいるのを見ますが、工場にいることはありません。彼らがふつうにしていれば何も思いませんが、何らかの歪みを与え、予期せぬ行動を取ると違和感を覚えるのだと思います。しかも彼らは言葉を話しますからね。いろいろなものを混ぜておもしろくしています。みなさんは“ふつうの豚”をたくさん見てきたかと思いますが、本作の豚はそうではありません。怖がらせるのではなく歪めて違うものにして、プレイヤーにその理由を考えてもらうのです。
――Tarsier Studiosはすでに『リトルナイトメア』を手掛けていらっしゃいます。新規IPを考えたときに再びホラーを選んだのは企画当初からそうだったのでしょうか。それともアイデアをまとめていく途中でホラーの方向に?
私たちはつねにホラーの中に希望を入れたいとも考えています。いつも悲惨である必要はありません。しかし暗闇の中の蓋を持ち上げて、その下を覗いてみたらもっとおもしろいのではないかと、やはり思うのです。カラフルで楽しげでみんな元気、というゲームよりドラマが生まれます。恐ろしい状況に置かれたふたりの孤児は互いに依存しながら生き抜き、努力して脱出します。彼らは生き残るためにこれまで何をしなければならなかったのか? それはそもそも彼らがこの場所にいる理由と関係があるのか? このようにどんどん掘り下げていくことができますが、もちろんそれとともに考えるのは現実世界にあるホラーと、いま自分たちが経験しているホラーです。
![[IMAGE]](https://cimg.kgl-systems.io/camion/files/famitsu/19869/ad893cde95a843c19730f1ba2eb70eb98.jpg?x=767)
だいぶ前になりますが、『Static』というVRゲームを作ったことがあります。ここにもホラー要素はありましたが、本作とは大きく違う、存在を脅かすようなホラーでした。プレイヤーは自分が誰なのかを明確には知らず、箱の中に手を入れただけなのですが、誰かがプレイヤーにパズルを解かせるのです。そして意識を失います。なぜそうなったのかわからず、状況がまったく掴めないのです。その状況における完全な無力さがホラー要素なのですが、これはサイエンス・フィクションの設定でした。
私たちがどこへ行くにしても、何をやるにしても、どんなゲームを作ると決めるにしても、誰を主人公にするにしても、ホラー要素はあります。しかし、どんなホラーを探索するかはそのゲームのコアテーマ次第です。
――動物のコンセプトアートと、ふたりの協力プレイというシステムが軸となっていると思いますが、このふたつはどういうつながりがあるのでしょうか。
また、『リトルナイトメア』の『1』と『2』をプレイした親世代からの話では、子どもたちといっしょに座って『リトルナイトメア』をプレイするときには子どもがプレイすることもあれば、子ども(あるいはパートナー)は親がプレイするところをただ見ていることもあるとのことでした。シングルプレイヤーゲームをいっしょに体験する人たちの話はたくさん聞いてきました。本作では彼らにいっしょにプレイしてほしいと思ったのです。
しかし、そうした技術的、システム的な難所をクリアーした後は、本作はこれを必要としていたことがわかり、正しい決断だったと確信しました。先ほどアンドレアが言ったように、誰かといっしょにプレイするとその体験はすこし特別になります。誰かといっしょにホラーゲームをプレイするとバランスが取れます。純粋に悲惨なホラーから少し遠ざかり、緊張感や笑いを共有できるのはいいことだと思うんですよね。
――本作は画面分割は採用していないとのことですが、それは世界観の兼ね合いからですか?
――そうなると、アクションやギミックを考えるのは制約があってたいへんだったのでは?
私が以前に手掛けたレゴ・ゲームではひとりのプレイヤーが遠くに行ってしまうと壁に当たってうっとうしかったのですが、本作では、不自然に感じることなくふたりがいっしょになるようにガイドしてくれます。これは怖がる感覚をいっしょに持ってもらうために重要なことです。
――協力プレイのギミックについてはどうでしょうか。
これは本作でも重要なポイントです。ゲーム全体を通して、あまり見られたくないですし、子どもたちのすべてを知られたくないので、多くは語りません。ボイスアクティングなどダイアログを紹介したばかりですが、『リトルナイトメア』ではノイズを発することはありましたが、言葉は発しませんでした。しかし本作ではミステリーと制限された感覚を保持しつつ、もう少し何かできるのではと感じたので、彼らに言葉を与えました。
与えたのですが、彼らの言葉は非常に断片的です。プレイヤーは探索しながら、キャラクターの会話を聞くことになるでしょうが、プレイヤーには彼らが具体的に何の話をしているのかはわからないでしょうね。もちろん、当人どうしはわかっていますが。プレイヤーにわかるのは彼らふたりに何かが起こっていて、プレイヤーがそこにいるのはその“何か”に関係しているということくらい。でも、彼らの会話に耳を澄ませていくと徐々に起きていることの全体像がわかってくるかと思います。
――彼らに声を与えた効果はどのように感じましたか?
私は言葉の数をかなり絞って書くのが好きなのですが、それは曖昧さ、奥深さ、言語の豊かさにつながります。ストレートにすべてが語られることはないのです。彼らが何かを言っても意味がよくわからなかったり、複数の意味を持つ単語だったりします。“Animal”という言葉ひとつとっても、解釈によってさまざまな意味になりますよね? 従って、声を与えることは私たちの道具箱に、ミステリーを作り出すもうひとつツールが増えたと言えます。これによってみなさんは視覚だけでなく、聴覚でミステリーを感じられます。
![[IMAGE]](https://cimg.kgl-systems.io/camion/files/famitsu/19869/ad2849b4a249c915caee31dc92c0586ed.jpg?x=767)
そこから『リトルナイトメア』に寄せない方向性で企画を練り直しました。しかし、それは間違った決断だったと気づいたのです。『リトルナイトメア』は弊社のアートチームが自分たちを限界まで追い込んで作り上げたもので、その強みを活かしたほうがよりよいものが作れると気づきました。そういった考えにたどりつくと、世界には『リトルナイトメア』というゲームがあり、『REANIMAL』があって、両方とも楽しんでもらうことはいいことだと思えるようになりました。
――『リトルナイトメア』と『REANIMAL』の関係性や、違うポイントを教えてください。
私たちは『リトルナイトメア』、そして『リトルナイトメア2』の後、すでに新しいワールドを作りたいと思っていました。スタジオとはそういうものですし、『リトルナイトメア』も『Static』もそこから生まれたのです。これらのプロジェクトの終盤に差し掛かると、何か新しいものを作るときが来たと思いました。
また新しいワールドを作りたいと思うときが来るかもしれません。同じものを作り続けることはしたくありませんからね。クリエイティブな活動を続けつつ仕事に従事する必要があると思っています。
スタジオとしてはカメラも大きなステップで、以前はドールハウスの中を覗けるカメラでしたが、本作では柔軟性に優れ、出入りができるシェアード・ディレクテッド・カメラ (shared directed camera)を使っています。デモでご覧いただいたように、階段のチェイスでは見下ろしたり見上げたりします。柔軟なだけでなく効果的なので各シーンの感覚を作り出すことができ、とても楽しいです。ボートは探索のパートなのですが、子どもたちが友だちを見つけるためにボートに乗って移動します。アートスタイルもよりダークでザラザラしています。『リトルナイトメア』の『1』と『2』を見て、本作を見れば大きな進化を遂げたのだと感じていただけるでしょう。
![[IMAGE]](https://cimg.kgl-systems.io/camion/files/famitsu/19869/a5dbd5127316fe39b952d51f42aeb2c1c.jpg?x=767)