2023年3月9日にスクウェア・エニックスより発売された心霊ホラー・アドベンチャー『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』。
パッケージ版展開のないダウンロード専売ソフトながら、その完成度の高さとおもしろさが発売直後から話題を呼び、各所で高評価を得ている。
今回、発売1周年を祝して特別対談を実施! 週刊ファミ通の連載コラム“伊集院光接近中につきゲーム警報発令中”でおなじみでもあり、日本ゲーム大賞の授賞式の司会を毎年務めている芸人・伊集院光さんは、2023年の同アワードをきっかけに『パラノマサイト』を知り、本作をプレイ。以降、コラムでも何度も紹介するほどにハマっていた。
『パラノマサイト』開発陣と伊集院さんの特別対談が実現。伊集院さんならではの視点で開発陣に切り込む!
伊集院 光(いじゅういん ひかる)
タレント、ラジオパーソナリティー。ゲーム好きとしても知られ、週刊ファミ通でコラム『伊集院光接近につきゲーム警報発令中』を連載。東京ゲームショウでは日本ゲーム大賞授賞式の司会を務める。1995年から続くラジオ番組『月曜JUNK 伊集院光 深夜の馬鹿力』が毎週月曜25時からTBSラジオにて放送中。(文中は伊集院)
奥州 一馬(おうしゅう かずま)
スクウェア・エニックス所属のゲームプロデューサー。『インペリアル サガ エクリプス』などを手掛ける。『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』ではプロデューサーとして企画立ち上げから携わる。(文中は奥州)
石山 貴也(いしやま たかなり)
『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』脚本・ディレクター。スクウェア・エニックスでは『ドラゴンクエストX オンライン』Ver.1 ライブプランナーチーフや『スクールガールストライカーズ』ディレクターなどを務める。スクウェア・エニックス入社以前は、他メーカーにて『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズ(元気)などを制作。じつはサウンドデザイナーとしてゲーム業界に入っており、最初に担当した作品は『メタルギア ソリッド』(KONAMI)。(文中は石山)
小林 元(こばやし げん)
スクウェア・エニックス所属のデザイナー。『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』ではキャラクターデザインを担当。『すばらしきこのせかい』シリーズや『スクールガールストライカーズ』などのキャラクターデザインを手掛ける。
ゲーム業界には『パラノマサイト』のような作品が必要
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伊集院
年間に発表されるゲームの量も多くなってきたし、寄る年波もあるので、東京ゲームショウで日本ゲーム大賞の司会をやるときに、未プレイのゲームが何本か出るようになってきました。2023年の時に『パラノマサイト』は申しわけないことに完全に見逃していたゲームで、台本もらったときの第一印象が、「これ “パノラマ”じゃねえんだな」と。
一同 (笑)。
伊集院
「タイトルを言い間違えるのだけは絶対に避けよう」というのが、東京ゲームショウの中で僕のいちばんの使命。そんなアリサマだったんですが、皆さんはそもそも、賞を獲ったと聞いたときどうでしたか?
石山
びっくりしましたよ。ほかに賞を獲っているタイトルが、やれ『ポケモン』だ、やれ『モンハン』だ、『スプラ』だ……っていう、こんな中に入っていいの? と(苦笑)。ちょっと場違い感といいますか、空気を読めない人みたいになっちゃわないかなという気持ちはありました。
「大丈夫? 大丈夫? 俺たち大丈夫?」みたいな(笑)。
伊集院
確かに、最近のゲーム大賞優秀賞受賞作品は、けっきょくシリーズものか海外のメーカーが作ってくるような、腰の抜けるような超大作みたいなタイトルで占められるようになりましたよね。それ以外でよくあるのは、かわいいキャラクターと声優さんが手伝って、さらにゲーム性もよかったからということで選ばれるゲームなんですけど……。
『パラノマサイト』はかわいいキャラクターと声優さんもナシですよね。
奥州
何もないですね(笑)。
小林
ちょっと硬派すぎますよね。
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硬派な老刑事はいるよ。
伊集院
そもそものところでは、『パラノマサイト』はどんな感じで作り始めたんですか?
奥州
もともとディレクターの石山が温めていたアドベンチャーゲーム企画があって……。
石山
(発言を遮って)いや違う、違う!(笑)
奥州
あ、どうぞ(苦笑)。
伊集院
いきなり真相が明らかになるんですか(笑)。
石山
僕がディレクターを担当した『スクールガールストライカーズ』(『スクスト』)というゲームが、おかげさまでちょっとヒットしたんですよ。スクウェア・エニックスは開発を外部に発注することが多いんですけど、『スクスト』は内部で開発した初めてのフリー・トゥ・プレイタイトル(※)でした。
※……基本プレイ無料のタイトル。F2P。 さきほど伊集院さんがおっしゃった、まさにかわいいキャラクターと声優さんの力を借りたタイトルではありますけど、オリジナルタイトルを当てたということで、僕は会社に「新しい企画やらせてほしい」という話をずっとしていまして。会社としてもやはり新規タイトルを作っていきたいでしょうから。
そのとき、『スクスト』でいっしょにやっていた小林さんに「またやりませんか」と声をかけて、「いいですよ」と快諾してもらっていたのですが、いくつか企画を考えて、コンセプトアートをいくつも描いていただいたりしましたけど、これがまあ通らない(苦笑)。
伊集院
へぇ~。
石山
そのときに出していたのはそれなりにしっかりした規模の企画で、3Dでがっつりバトルもあるようなゲームでした。でも、それだと通らなかったので、上といろいろ話した結果「小規模な企画だったら進めてよし」という話になりまして。
そこで「小規模で作って勝ち目があるゲームはなんだろう?」と考えたときに、自分の中にあった武器がアドベンチャーだった、という感じです。じつは、最初からアドベンチャーゲームを作りたかったわけではないです。
伊集院
なるほど。
石山
アドベンチャーであれば過去に何本か作っていますし、こういう素材があれば形にはなるだろうという見当がつきます。新しいことをしない代わりに、間違いなくコンパクトでおもしろいものにできるという自信はあったので、「それでいこう」と。
伊集院
いまのエンターテインメント業界、モノ作り業界に共通していることですよね。ちっちゃい作品を当てて実績を積んでいかないと、大きい作品にはなかなかいけないという。
奥州
そうだと思います。
伊集院
映画がわかりやすくて。ショートフィルムでがんばって、その後、ちっちゃいインディペンデント映画を撮って……とか。それでもまだ、原作付きで「こういう風にやってくれ」って制約も多い映画をちゃんと撮ってそこそこの評価を受けて、ようやく自分の夢の映画が撮れるみたいな。
話を『パラノマサイト』に戻すと、最初に言った通り僕はこのゲームのことを知らなかったんですが、ゲームの賞のありかたとして、「賞をきっかけにこのタイトルを知ったんで気になる新作ではないけどちょっと買ってみよう」という流れがあるのが健全だと思うんです。100億円を掛けて作って200億円収益を上げたら成功ってなるようなタイトルはあってもいいんだけど、そうではない良作もどこかにないといけないと思うんです。
それで、自分も『パラノマサイト』をやってみようと遊んだら、すごくおもしろかったです。
奥州・石山・小林 ありがとうございます!
伊集院
僕は落語家が出発点なうえに、師匠(六代目 三遊亭円楽)の家が錦糸町、まさに本所なので、「こんなにもピッタリなゲームがあるなんて」って。コラムにも書きましたけど、このゲームの舞台の周辺で師匠はフライデーされたんですよ。あれも七不思議のひとつなんじゃないかな。
一同 (笑)。
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ゲームの舞台は墨田区錦糸町駅近辺。本所七不思議は古くから落語や講談の題材となっている。
伊集院
今回、題材に本所七不思議を選んだのは誰なんですか?
奥州
本所七不思議を提案したのは私です。
伊集院
あ! そうなんだ。
石山
アドベンチャーでホラーをやることが決まって、題材はどうしようとなったときに、奥州が「本所七不思議はどうですか」って。最初に聞いたときは「え、何それ」ってなりましたけど(笑)。
伊集院
すごいですね。そういうアイデアがプロデューサーから出るという認識が僕の中にはあまりなかったので。
奥州
私はいずれシリーズ化できるのなら、全国のオカルトを扱ったらおもしろそうだなと考えていました。本所七不思議はおもしろい怪談話がざっくばらんに詰まっているので、これに“呪い”を組み合わせたらゲームになるんじゃないかと石山に提案してみました。
石山
墨田区も本所七不思議を観光資源にしていたので、「題材にすれば墨田区が協力してくれるかもしれない!」という期待もありました。
伊集院
ふたりの関係を聞いたら、みんなビックリするんじゃないかな。本所七不思議はディレクターのアイデアで、「じゃあ、本所とタイアップ取ってくるよ」っていうのが、プロデューサーの仕事だろうというイメージでした。
石山
あ、もちろん奥州はちゃんとそこまで考えたうえで提案しているはずです。「本所七不思議を題材にすれば俺が売るから、あとは好きにしてよし」って。
伊集院
それもすごい。
石山
ゲームを開発していると多くの人に聞かれるんです。「これは本当に売れるのか」って。その都度、理論的に説明できないと開発を続けるのが難しくなってしまうのですが、「本所七不思議を題材にすることで、墨田区と協力してプロモーションできるんです」と奥州が会社を説得してくれたりして。
伊集院
ちゃんとケツを半分持ってくれたと。
石山
もちろんそれで100%ヒットするというわけではありませんが、会社を説得してプロジェクトを進めるにはどうしても売れる理由が必要なので。本所七不思議を題材にすることで担保できるのであれば、あとはこっちは全力でおもしろくすればいいんだなと。
伊集院
プレイヤー、会社、墨田区にとってWin・Win・Winの関係だったと。もの作りにおいて、この関係はものすごく大事ですよね。
たとえばラジオで話しますと、お彼岸の時期だけでも日本香堂さんにスポンサーになってもらえませんかって持ち込む。で、“お墓参りの思い出”っていうメールテーマを作る。その代わりに「ちょっと高級なお線香やお香をメールを読まれた視聴者に出してほしい」とお願いするんです。
これがハマると、スポンサー企業、番組・放送局、リスナーもうれしいという、きれいなWin・Win・Win・Winになるんですよ。
石山
それでいうとゲーム開発でも、伊集院さんのおっしゃる“Win”をかき集めていかないと、新しいゲームはオーケーを出してもらえないと思います。「作ったらおもしろいはずだから!」という理由だけでは、なかなか……。
ノベルゲームではなくアドベンチャーとして作った
伊集院
いずれ僕はすごいノベルゲームを作りたいと考えているんですが、『パラノマサイト』はサウンドノベル、ノベルゲームを作ろうとしたんですか? それともアドベンチャーゲーム?
石山
それはもう、アドベンチャーゲームです。『パラノマサイト』がノベルゲームと言われると、ちょっともやっとします。
伊集院
そうなんだ。
石山
ノベルゲームはノベルというだけあって、ちゃんと文章で表現するのが勝負どころだと思います。言葉だから伝えられるキャラクターの心情であったり、ありえない描写だったりというのを含めてこそのノベルゲームだと考えているので。
僕はどちらかと言うと、地の文は極力なくして、キャラクターのセリフに絵や音楽を合わせてシーンを描くのが好きなんです。コマンドを選んでプレイヤーが自分で行動を選んで進めていく、いわゆるテキストアドベンチャーと言われている文法ですね。それこそ『ポートピア連続殺人事件』(※)のころからずっと続いているコマンド選択式の系譜を勝手に引き継いでいると自負しています。
※……堀井雄二氏が手掛けたアドベンチャーゲーム。相棒の若手刑事とともに神戸を舞台に発生した連続殺人事件の謎を追う。ファミリーコンピュータ版は1985年に発売。なぜか犯人が有名。伊集院
そのこだわりはすごい大事ですよね。おもしろいノベルゲームを作ろうと思っているのか、それともアドベンチャーゲームの枠の中で完成させたいと思っているのか。似ているところは出てくるけど、何がやりたいのかは違うじゃないですか。
石山
そうなんです。ノベルゲームとアドベンチャーゲームはいっしょくたにされがちで、文章を読んで進めていくゲームは全部ノベルゲームでしょうと考えている人は多いと思います。
伊集院
確かに作り手側は気をつけたほうがいいですけど、お客さんからすると別にどっちでもいいんでしょうね。おもしろいゲームであれば。でもテキストアドベンチャーだと、デザイナーの力がものすごく必要になるじゃないですか。
小林
そうですね。キャラクターの表情やイベントシーンで見せていくことになるので。
伊集院
『パラノマサイト』は絵でプレイヤーに気づかせるのがうまいですよね。周囲をよく見渡していたら、白くぼんやり光っていたりして。あとデザイン性もよくまとまっているし、謎の散りばめかたとか気づかせかたの妙みたいのは、遊んでいておもしろい理由のひとつかなと思います。
キャラクターやイベントのイラストについてディレクターとデザイナーは、どういうやり取りをするんですか?
石山
小林には、「こういうパターンをお願いします」とリストにして発注しています。で、完成した素材の中から合うものをピックアップして使ってます。
小林
ただ、イラストを発注されたときは、ストーリーの詳細がわからないので苦労しました(苦笑)。
伊集院
ひどいディレクターですね。
一同 (笑)。
石山
う、ごめんなさい。別に隠してるわけじゃなくて、単に詳細までできていないという……。僕は、ほら、あれですよ。イラストや音楽の素材を組み合わせながら、それを見てシナリオを組み立てていく黒澤明監督タイプなんで!(笑)
伊集院
ずいぶんすげえ例えを(笑)
石山
もちろん、よくない作りかただとは自覚しています。
伊集院
でも、そこにちゃんとした信頼関係があれば、「自分が作った素材でゲームのクオリティーが上がるはず」と思って、やるしかないですよね。
石山
『スクスト』でいっしょに仕事をしたときに、「おもしろいシナリオを書くな」と思ってもらえたからこそ、今回も文句を言わずに描いてくれたところはあると思います。
小林
『スクスト』のときは僕は大阪にいてリモートでやり取りをしていたので、ガッツリと開発に携わっていませんでした。ただ、今回は上京して、近くで作業を進めることになったのですが、「えっ、この状況でもストーリーがどうなるかわからないのか」って(苦笑)。
伊集院
やっぱり戸惑った?
小林
「このイラスト、どういう風に使うのかな」っていう迷いはありましたね。完成したゲームを見せられると、これでよかったんだなって納得できましたけど。
伊集院
石山さんからは、どんな漠然とした発注があったんですか。
小林
キャラクターの感情の指定は漠然としたりもしましたね。“怒っている顔”と、“激しく怒っている顔”という発注があっても、なぜ激しく怒っているのかがわからない、とか。う~ん、どうしようかなって。
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キャラクターが見せる多彩な表情も魅力。
伊集院
シナリオが先にないということは敵か味方かわからないキャラクターの表情も描かなきゃいけませんよね。
石山
そういうときは、“悪い顔”とだけ指定していました。
伊集院
小林さんにまず悪い顔をいっぱい描かせたうえで選んでいくと。
石山
それでいい“悪い顔”をちゃんと上げてくださるので助かってます。あやめとか。先ほどお話しした通り、素材に合わせてシナリオを組み立てていきたいので、キャラクターのセリフにしても表情を見ながら書きたいんです。たとえば当初、マダムはもっとふつうのしゃべりかたというか、「~だわ」みたいな女性語多めの感じでしたが、小林が描いたマダムの表情を見て、もっとズバッとしゃべらせようと決めたり。
伊集院
お話を聞いていると、石山さんと小林さんは本当にいいコンビだなと思います。
僕もラジオドラマを作るときなどに経験があるんですけど。ADに「こんな音楽を探してきてほしい」とお願いして、言われた通り探してきてくれれば100点なんです。でも、たまに似たような系統の音楽で、僕が知らないものを提案してくれることがあって。「これこれ、これすげえいいじゃん!」って、それは150点になる。僕もうれしいし、ADも快感ですよね。自分が提案したものが使われるんですもん。
小林
それはありますね。「石山が求めているのは、こういうことじゃないかな」って先回りして、それが喜ばれたときはうれしいので。
石山
「そう来たか!」っていうのはいくつもありました。イメージしていたものとは違うけど、これはこれでありだなっていうものはどんどん取り入れてます。できあがったイラストに合わせてキャラクターの設定や性格を変えることも多いです。
伊集院
これ芸人の世界にもあるんですよ。若手の芸人に対してお使いを頼むときに、“おいもの”っていう頼みかたがあって。“おいもの”は“おいしいもの”なんですが。
みんながんばって買ってきてくれるんですけど、狙いすぎて失敗することもあれば、僕も知らなかったものすげえおいしいものを買ってきてくれることもある。理不尽に思うかもしれませんけど、ありがたいのは、自分が知らないことを気づかせてくれること。僕がした注文をある程度理解したうえで、それを超えてくる喜び。それはもう「釣りは取っとけ」ってなっちゃう。おふたりがそういう関係性なら、そりゃ幸せな環境ですよね。
石山
絵に引っ張られて完成度がみるみる上がっていくのは、すごく楽しかったです。
伊集院
でも、これが大人数になるとなかなかうまくいかないんですよねえ。
石山
そうなんです。先ほど「この作りかたはよくない」と言ったのは、少人数だったおかげでなんとかなったから、というのが正直ありまして。何十人、何百人規模のプロジェクトでは、この作りかたは通用しません。やはり最初に必要な素材をガチッと決めて、どの素材をどこに使うかを明確にしていかないと、現場が混乱してしまうので。
伊集院
そうですよね。あと、デザインに関して小林さんに聞きたかったのが、いちばん好きなキャラクター。登場人物たちの容姿を生み出した視点でいうと、誰がいちばん好きですか?
小林
いちばん好きなのはマダムですね。
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マダムこと志岐間春恵。影のある表情が印象的。
伊集院
マダムのどういうところが?
小林
もともとマダムのような影のあるキャラクターを描きたいと思っていたのですが、これまではそういったキャラクターを担当する機会がありませんでした。自分の中で何となくイメージしていたものを、マダムで表現した感じです。
伊集院
マダムは終盤、表情がどんどんヤバい感じになるじゃないですか。プレイしたときに、こわい、こわい、こわい、こわいとなっちゃうんですよ。あの表情は抜群でした。
小林
ありがとうございます。あの表情も、こういう使われかたをするのかって驚きましたね。
伊集院
そういう風に使うんだったら、本当は発注時にもっと具体的に説明できたはずなのではって?
一同 (笑)。
石山
小林が悩んでいるときは、具体的に説明することもありましたよ。そうすると、これならどうですかと提案してくれて、お互いにコミュニケーションを取りながら進めていきました。
伊集院
本当に素敵な関係だなあ。
『パラノマサイト』をシリーズ化するなら、どうなる?
伊集院
想定していたものが変わっていく楽しさってありますよね。僕はひとり旅が好きで、行く前に分単位でスケジュールを全部決めるんですよ。
でも、ちょっと予想外のことが起こると、スケジュールが破綻するときはあっという間なんです。
ひどかったのは、田舎のバス停でいつまで経ってもバスがこない。時効表では一日4本しかないとはいえ、朝の一本が来ていていい時刻。溜まりかねて通りすがりの人に聞くと、「これは高校行きだから今日は開校記念日でバスは来ない」って。
ここで先のスケジュールは全滅、でもなんとか元の旅程に戻すにはどうしたらいいのか、必死に検索するのが楽しくて。たとえ戻せなくても、きれいな菜の花畑を見ることができたから、これはこれでありかなって。計画は破綻したけど、結果的にもっといいことが起こる可能性もある。これはもの作りにも通じているのかなと思っていて。
石山
僕も一応プロットは作っていますが、だいたいプロット通りにはならなくて、あがってきたイラストや音楽に合わせていくと「もっとよくできるよね」って、ストーリーの展開が変わっていくことが多いです。
でも、おそらくシナリオを書いている人はみんな体験したことがあると思いますが、制作時の都合でプロットから変更した結果、最終的に当初の予定以上にうまくハマることってあるんですよ。そういうときは「あ、俺は天才だなあ!」と(笑)。
一同 (笑)。
伊集院
ふだんは無神論者だとしても、神の存在を信じちゃう。
石山
でも、よくないのは、何作も同じように作っていると偶然の産物に期待する自分がいて……。
伊集院
うわー! いままさに同じことを言おうとしました。
石山
いいアイデアが閃かないときは、「そのうち何とかなるだろう」と先延ばしにしちゃうんですよね……。
伊集院
ラジオでもあるんですよ。トーク用にメモを用意していったけど、絶好調のときはその準備した話題メモをいっさい使わなくてもおもしろくなるんです。「だったら最初からメモいらないじゃん」ってメモとかなしで本番に臨むと、これがまあ~……何も出てこない!
石山
(笑)。
伊集院
だから石山さんの気持ちはすごくわかりますね。
石山
ただ、今回『パラノマサイト』でよかったのは、決して偶然の産物ではなかったことで。褒められた作りかたではないにせよ、自分のやりかたで、自分がおもしろいと思う形に仕上げた結果、評判がよかったのは安心しました。
なので、今後も同じように、自分の基準や作りかたでちゃんとおもしろくなるようにしていけば、きっと大丈夫だろうという自信になりました。
伊集院
『パラノマサイト』で今後やりたいことはありますか?
石山
僕個人の構想ですけども、『パラノマサイト』をシリーズ化するなら幅をもっと広げていきたいなと考えています。テレビドラマの『世にも奇妙な物語』のように、オムニバス方式でどんなシナリオでも描けるようにしたくて。今回はホラーでしたけど、違うジャンルにもチャレンジしたいという野望はあります。
伊集院
楽しみだなあ。
石山
続続編を出せる機会があれば、ファンの方たちに「うわ、こう来たか!」と言わせたいです。
伊集院
いいですね。でも難しいのが、シリーズ化すると、ファンが期待していることも考えないといけなくなるじゃないですか。
石山
ああ……確かに。僕はエゴサが大好きで、去年発売してから1年間、ほぼ毎日エゴサをしているのですが、伊集院さんのおっしゃる通り、自分が想定していたものと違う受け取りかたをして楽しんでくれている方もたくさんいて。そういったファンのことを考えると、狙ってはいなかったんだけど、喜んでくれた要素は残したほうがいいのかな……と考えることはあります。
伊集院
難しいですよね。僕は56歳になったしキャリアも35年ぐらいあるのでずいぶんとわかってきたんですけど、お笑いの人は“笑われる”ことをものすごく嫌うんです。自分のコントロール下で笑わせたいから、たとえばズボンのケツが偶然破れて爆笑が起きたみたいなことは大嫌いなんですよ。
でも最近になって、結果的にお客さんを笑わせているなら、意図せずに笑いがとれてもいいんじゃないかと思うようになりました。
石山
でも、意図しない笑いは狙ってできないですよね。
伊集院
そうなんですよ。自分でケツを破ってもおもしろくないから、自分の笑いには絶対の自信を持つ必要がある。ただ、意図しない笑いも受け入れる必要があるというか。そのブレンド具合をどうするか、どこまでリクエストに応えていいかどうか悩むというのは、すごいわかる。
石山
どこまでファンの要求に応えるかはずっと迷うと思いますが、最低限、自分がおもしろいと思うところはしっかりと残していきたいです。
伊集院
ファンの声に応えすぎると自分を見失っちゃいますからね。僕も毒舌が評価され始めたときに、「僕は毒舌なんだ」という自己暗示にかかってしまい、何か毒舌を言わなきゃいけない、ハートウォーミングなことを言うのをやめなきゃいけないと思ってしまったので。
石山
タレントさんはよくキャラクターづけされますよね。それで、自分は何がおもしろいのかわからなくなっちゃうって人も多い気がします。
伊集院
狩野英孝くんが昔言ってました。たまたま「スタッフゥ~↑」と言ったら受けて定番ギャグにしたんですけど、何がおもしろいんですかねって。いや、知らないよって(笑)。
一同 (笑)。
石山
どうしてウケたのか自分なりに分析できてうまく活かすことができればいいですが、それが過度になってしまうと自分のよさを見失ってしまう気もするので、そこのバランス感覚が大事そうですね。
小林
イラストもそうですね。意識せずに描いたものが評価された後、そこにこだわりすぎてしまうと、味をしめたのかなと思われてしまうので。
石山
自分の心の柱を見失わないようにしたいです。
エンディングまで配信可にしたことでダウンロード数が増加
伊集院
これはプロデューサーの奥州さんに聞いたほうがいいのかな。最近は、ゲーム実況配信でそのゲームのことを知ったという人も多いじゃないですか。
奥州
多いですね。
伊集院
ただ、『パラノマサイト』みたいなアドベンチャーゲームは配信されるとストーリーのネタバレがきついですよね。そこをあえて配信しちゃってオーケーにしようと考えたのは、プロデューサーの判断になるんですか?
奥州
はい。最初の企画会議のときから、ワールドワイドで仕掛けたいという思いがありました。でも、プロモーションに予算を多く使うことはできません。限られた予算の中でどのようにプロモーションを行っていくべきかいろいろと相談した結果、人気の実況者にプレイしていていただくのがいちばんいいと考えました。
ただ、「ここまでなら配信してもいいですよ」と制限を設けると見向きもされないと思ったので、早々にエンディングまで解禁することにしました。『パラノマサイト』はストーリー的にはネタバレがNGのタイトルなので、けっこうチャレンジしたところではありましたね。
石山
完全新規のタイトルということもあって、ネタバレをしてでも、とにかく知ってもらうことに重点を置いて、プロモーションをすることにしました。
小林
じつは、配信してもらうために、ジャンルをホラーにしたんですよ。
伊集院
ほう、なるほど。
石山
リアクションが取りやすいホラーなら多くの配信者がプレイしてくれるかなと。
少なくとも『パラノマサイト』に関して言えば、エンディングまで配信オーケーにしたことで、すごくよかったという結果が出ています。人気の方が配信すると、明らかにダウンロード数が伸びましたし、配信をしてもらえなければ絶対に『パラノマサイト』を知らなかったであろう層にも届けることができたので。
懸念していたネタバレも、導入だけ見て「おもしろそうだから」と先に購入してくれた方がいましたし、エンディングまで見ても「楽しかったからお布施で買った」という方もいらっしゃいました。それで1本でも売れたらもう、こちらとしてはオーケーなので。
伊集院
斜に構えていて売れないぐらいだったら、絶対に売れたほうがいいですからね。勉強になるなあ。僕はアドベンチャーゲームが配信に弱いジャンルだと思い込んでいましたけど、割り切ってチャレンジすることで成功したと。
奥州
先ほど石山がお話ししたように、まずは多くの人に興味を持ってもらう。そのために配信してもらうという戦略でしたが、結果論ではあるものの、「自分でも遊んでみたい」と考えてくださる人が多くて売上につながったと思います。
伊集院
すごいですね。配信されやすいようにエンディングまでオーケーにして。人気の配信者がピックアップして。さらに配信を見た視聴者が、自分でも遊んでみたいとい感じさせる力がちゃんとあって。いろいろな要因がうまくつながってプロモーションが成功している。
奥州
時代の変化にうまく乗れたのもよかったと思います。最近は“タイパ”(※)という言葉が流行っていますが、ゲームもタイパを気にする人が多いのかなと思います。冒頭で伊集院さんが指摘されたように、毎年すごいタイトルが数多くリリースされるので、どれを買えばいいのか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
そんなときに実況配信を参考にしている人はやはり多いですし、魅力的なゲームを作ればネタバレしても売れることがわかったのは、このプロジェクトの強みのひとつです。
※……タイムパフォーマンスの略。費やした時間に対する満足度を表す。小林
とくに若い方は、ネタバレをあまり気にしないようですからね。
伊集院
それですごいなと思ったのは、ヒントの与えかた。絶妙ですよね。まずはちょっとヒントをくれて、わからない人にはもうどんどんヒントを与えて先に進めるようにしているけど、ヒントを見ずに謎を解いたときはちゃんと褒めてくれる。
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石山
ヒントの提示方法はちゃんと狙って設計しています。最終的には、ほぼ答えを教えるようにしていますが、1回で正解したらちゃんと褒めるようにしました。一部、あえてヒントを少なくしている箇所もありますけども。
伊集院
『パラノマサイト』のヒント機能は、ほかのゲームでも使える、すごいレシピだと思いますよ。とくに僕みたいなタイプは、詰まったときに投げ出したくないけど、かといって攻略本や攻略サイトに頼りたくないじゃない。どうしようもなくなって攻略を見ると、悔しさ半分で「そんなのわかるわけないじゃん!」と逆ギレして投げちゃうんですけど、『パラノマサイト』ではその感情が湧かなかった。
石山
ゲームにはある程度のストレスも必要だと思いますが、それでもいまの時代はストレスを感じる要素はできる限りなくしたほうがいいんじゃないかと考えています。だから、よりうまい人を褒める、というふうにしました。誰もがエンディングまでいけるのが当たり前で、その中でもよりうまくやった人を褒めるような形がいいのかなと。
伊集院
いまの時代、どれくらいストレスを感じたらやめるか、みたいのが読めないですよね。
奥州
ゲームに慣れているプレイヤーの中には、深読みしてくれる方もいて……。SNSなどを見ると、詰まったときに「セーブデータを消すとクリアーできるんじゃないか」と考える人がけっこういました。
伊集院
このゲームだったらそう考えても不思議じゃない。
奥州
セーブデータを消されるのはまずいとなって、アップデートパッチを当てて“セーブデータは消す必要がありません”という注釈を追加しました。
伊集院
いまはパッチを当てられるのはいいですね。それにしても、ストレスとご褒美の考えかたは僕にとってもキーワードだな。別にストレスは与えなくてよくて……。
石山
ご褒美があればいいのかなと。
伊集院
まだまだお聞きしたいことはありますが、時間なのでそろそろ締めにいきましょうか。
石山
本当だ。話したいことを自由にしゃべりましたが、これ、記事になるんですよね(苦笑)。
一同 (笑)。
伊集院
『パラノマサイト』はゲーム業界の希望だと思っています。
奥州・石山・小林 ありがとうございます!
伊集院
『パラノマサイト』のような良作が出てこないと、ゲーム業界を夢見る人がいなくなるんじゃないかと僕は思っていて。ゲーム開発は、関わっている人が多ければ多いほど、自分が何をしているのかわからなくなっちゃう気がするんです。だから、大作ではない良作も必要で。良作がなければ、いずれ大作を作る人もいなくなって、誰も残らない。
石山
僕としても、小規模なゲームがきちんと受け入れられる世の中であってほしいなと思います。
近年はインディーが盛り上がっていますが、大手ゲームメーカーの中にも僕のように小規模なゲームを作りたい人はいますし、いっしょに楽しいものを作っていきたいと考えています。
開発予算が何10億円、何100億円というプロジェクトしかなくなっちゃうと、自分みたいなクリエイターにとってものすごく窮屈な業界になっちゃうなという懸念はあったので、手前味噌ですが、多少は風穴を開けることができたのかな……と。
小林
開発チームの人数が増えている中で、小規模開発でこれだけ多くのキャラクターやグラフィックを担当できたのは贅沢な体験でした。プロデューサーやディレクターと密にやり取りしながら開発できて、しかも完成したタイトルが評価をしていただけたのは、ものすごく幸せな環境だと思います。今後もこのすばらしい環境でチャレンジしていきたいですね。
奥州
小規模だからこそできることや、予算をかけなくてもできることの成功例として、ひとつ形にできたというところは自信を持っています。また、墨田区と組むことによって、ゲームメディア以外の媒体に取り上げられる重要性の知見も改めて得られました。社内でも珍しいプロジェクトだとは思いますが、本当に楽しくやらせてもらっているのはありがたいですね。作り手が楽しんでいないとおもしろいゲームは作れないので、今後も楽しみながら展開を考えていきたいです。
伊集院
仕事は楽しくないとダメですよね、本当に。皆さんが楽しんで作った『パラノマサイト』は、アドベンチャーゲームとして純粋におもしろかったです。今後も期待しています!
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- ページ下方のキャンペーン用投稿をリポストする。
開催期間
2024年4月27日(土)12時00分 ~ 2024年5月10日(金)23時59分
賞品
- 『パラノマサイトパラノマサイト FILE23 本所七不思議』 開発者(石山貴也氏、奥州一馬氏、小林元氏)直筆サイン入りポスター 抽選で5名様
当選発表
当選者へのみ2024年5月17日ごろまでに、ファミ通.com公式X(Twitter)のDM(ダイレクトメッセージ)にて、(@famitsu)よりお知らせします。
※あらかじめDMを受け取れるよう設定してください。
※ご当選の場合、2024年5月24日(金)23時59分までに賞品送付先を専用フォームにてご登録いただく必要があります。かならず期日までにDMをご確認ください。
注意事項
- ●応募には、X(Twitter)への登録(無料)が必要です。
- ●当選はおひとりにつき1回までとなります。
- ●以下の場合は応募をお受けできません。
- ・非公開アカウントの場合
- ・懸賞応募用アカウントやボット(bot)アカウントから応募した場合
- ・当選発表以前に、応募ポストを削除した場合
- ・当選発表以前に公式アカウントのフォローを解除した場合
- ・第三者の権利を侵害する内容および公序良俗に反する内容など、株式会社KADOKAWA Game Linkage(以下、弊社といいます)で不適切と判断した内容が含まれる場合
- ●応募に際し発生する通信料などは、お客様のご負担となります。
- ●賞品の発送先は日本国内に限ります。
- ●当選賞品を譲渡(転売、オークション出品含む)しないことが応募・当選の条件です。譲渡が明らかになった場合、当選は取り消され賞品をお返しいただくことがあります。
- ●当キャンペーンは、弊社が主催しています。 X (Twitter) およびx社 (Twitter社) X Corp.とは関係ありません。
- ●X (Twitter) および関連ツールの動作等の不測の障害により、 当キャンペーンを予告なく変更・中止させていただく場合があります。
- ●ご応募に際しご提供いただいた個人情報は、弊社のプライバシーポリシーの定めるところにより取り扱わせていただきます。
※フォローやリポストの際、正常な画面が表示されない場合は、X (Twitter) へ再度ログインしてお試しください。
X(Twitter)のファミ通.com公式アカウント“@famitsu”では、 投稿DMでの問い合わせには対応できません。 ご不明な点につきましては、 下記のサポート窓口までお問い合わせください。
お問い合わせ
※必ず“ファミ通.com 『パラノマサイト』ポスタープレゼントについて”とご明記ください。
※サポートは日本国内に限ります。