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【サウジアラビアのゲーミング夜明け】アラジンなど中東の文化を自分たちの手でAAAタイトルに。eスポーツだけじゃない、もうひとつのロマン

【サウジアラビアのゲーミング夜明け】アラジンなど中東の文化を自分たちの手でAAAタイトルに。eスポーツだけじゃない、もうひとつのロマン
 2024年7月12日、eスポーツの歴史が一歩前進した。国際オリンピック委員会(IOC)が“オリンピックeスポーツ大会”の開催を発表したのである。“新しいスポーツとしてブレイキンがオリンピック種目に採用された”という話とはニュアンスが異なるようだが、前向きなニュースであることは間違いない。
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 2025年に実施される第1回大会の開催地はサウジアラビア。いま、ゲーム関係者にとってサウジアラビアはとてもアツい国だ。首都リヤドを舞台に、7月3日~8月25日の日程でEsports World Cup(EWC)が開催中。賞金総額6千万ドル以上(約94億円)という破格の大会で、2000人以上の参加が予定されている。
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『ストリートファイター6』など、日本人選手が参戦するタイトルも。ゲームタイトルごとの上位入賞者だけでなく、総合成績に基づいて上位16のeスポーツチームに対しても高額な賞金が分配される。選手やチームにとって、人生を変えるほどの大会になりそうだ。
 サウジアラビアの盛り上がりはeスポーツに限った話ではない。ゲーム分野の成長著しく、いままさに“夜明け”とも言える状況なのである。

 ファミ通では、サウジアラビアeスポーツ連盟会長のファイサル殿下とSavvy Games GroupでCEOを務めるブライアン・ワード氏というキーマンにインタビューを行う機会を得た。中東の気温以上の熱を放つ未来についてお届けする(聞き手:ファミ通グループ代表 林克彦)。
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ファイサル殿下

ファイサル・ビン・バンダル・ビン・スルタン・アール・サウード王子。サウジアラビアeスポーツ連盟会長。ゲームやエンタメ関連への造詣が深く、日本とのeスポーツ外交を推進されている。

ブライアン・ワード氏

サウジアラビアの公共投資基金(PIF)によって設立されたSavvy Games Group CEO。かつてはActivision Blizzardでワールドワイドスタジオ責任者を務めていた。

※この記事は週刊ファミ通2024年6月27日号(No.1853)掲載の報道特集に加筆修正を行ったものです。

人口の95%以上が65歳以下の“若者の国”

 皇太子のひとりが設立した財団が資本を投下してSNKを子会社化したり、“日本・サウジアラビアeスポーツマッチ”が開催されたり、はたまた世界有数のエンタメ拠点を目指して建設が予定されている“キディヤ・シティ”内に50万平方メートル以上にもおよぶ“ゲーミング&eスポーツ地区”を作るとの報道があったり……。近年はゲーム業界において、サウジアラビアの存在感がとても増してきている。

【関連リンク】世界初のゲームとeスポーツの“街”がサウジアラビアの“キディヤ・シティ”に誕生。“ゲーミング&eスポーツ地区”は、砂漠の中に生まれる遊びの桃源郷
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東京ドーム7700個分のエンタメ特区キディヤ・シティを設立中。この計画を進めるサウジアラビアの皇太子兼首相ムハンマド・ビン・サルマン殿下もまたゲーム好きな王族のひとり。
 この背景には、石油の産出を中心として発展してきたサウジアラビアが現在は産業の多角化を進めている最中にあるという国の事情が挙げられる。ただ、そういう事情を知ってなお、なぜエンターテインメント、さらにいえばゲームやeスポーツにサウジアラビアが注力しているのか、という点を疑問に思う人もいるかもしれない。

 そうしたサウジアラビアのゲーム事情を理解するうえで外せないのは、“若者の国”であるという点だ。経済産業省が発表している資料によると、なんと2018年の時点で65歳以上が人口の約3.3%しかいないというのだから驚く(出典:
医療国際展開カントリーレポート サウジアラビア編)。高齢化社会と言われて久しい日本とは正反対の国とも言える。

 そのため、新たに育てようとする産業のひとつとして、若年層が興味を示すエンターテインメント産業に大きな期待がかけられているわけだ。中でもゲームやeスポーツは大きな一角を占めていて、言わばこれらの振興は同国にとって非常に重要な国策のひとつなわけだ。今回お話をうかがったおふたりは、まさにその中心にいるキーマンなのである。
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 インタビューで最初に伺ったのは、ゲーム産業はサウジアラビア内でどんな位置付けにあるのか、ということ。ファイサル殿下によれば、サウジアラビアのゲーム産業の柱は以下の5つ。
  1. サウジeスポーツ連盟
  2. イグナイト・プロジェクト
  3. eスポーツワールドカップ
  4. ゲームとeスポーツ戦略(2030年までに250のゲーム関連会社設立など)
  5. Savvy Games Group

サウジeスポーツ連盟

 ①のeスポーツ連盟は日本のJeSUと同様の存在と思ってもらえばわかりやすいだろう。才能あるゲーマーたちに対してプロ選手になるまでの仕組みを整備し、プロ選手としての活動をサポートするのがファイサル殿下が会長を務めるeスポーツ連盟の役割だ。連盟はサウジアラビア国内および海外での大会への橋渡しなど、各種のサポートも行っている。

イグナイトプロジェクト

 コミュニケーション庁の管轄で行っているのが②のイグナイトプロジェクトだ。ここではゲームとeスポーツに関わるさまざまな企業などへ投資を行っていて、すでに18億リヤル(約540億円)が投じられているという。
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 その対象のひとつがeスポーツ・アカデミーで、ここではプロ選手の育成だけでなく、コーチやレフェリー、さらには動画配信やこれらに関わるIT技術など、業界全体に関わる広い分野の教育を行っているとのこと。

eスポーツワールドカップ(Esports World Cup)

 ③のeスポーツワールドカップは、「eスポーツ業界に何か新しいことを導入したい」というファイサル殿下の想いも込められた国際的なイベントだ。高額な賞金が設定された世界最大規模のeスポーツ大会で、ソニーグループなど、各国の企業がパートナーシップを結んでいることが報じられている。

 オーストラリアのメルボルンで開かれた『ストリートファイター6』国際大会で準優勝を果たしたBurning Core Toyama所属のTACHIKAWA選手をはじめ、複数の日本人選手が出場権を得ているほか、JeSUからも6月1日に開催された『eFootball 2024』の代表選手選考会で優勝したおしゅし選手を代表選手として派遣することが決定。
 ただ、ファイサル殿下のお言葉によれば、eスポーツワールドカップは決して出場選手やチームだけの大会ではないという。現地リヤドでは観客に向けたコンサートや飲食の提供、ゲームローンチなども行われ、「わくわくする体験ができる」(ファイサル殿下)ものになるそうだ。

ゲームとeスポーツ戦略

 ④のゲームとeスポーツ戦略とは、サウジアラビアのゲーム業界全体を包括する戦略で、関連する企業と選手やチームをつなぎ、ルール作りを行っていくとのこと。

 ただそのルールは何かを規制するためのものではなく、ビジネスとしての成長を念頭においたものとなる。さらにゴールを設定し、そこまでのプロセスとその達成状況を見守りつつ、“チームサウジ”として業界全体をひとつにとりまとめ、成長を推進させる考えであるという。
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 これは同国のゲーミングやeスポーツ産業におけるKPI、つまり目標達成を示すひとつの指標を指している。2030年までに250のゲーム関連企業を創設することで、GDPに500億ドルの貢献をするとともに39000人の雇用を生み出すのが計画の大まかな骨子とのこと。

Savvy Games Group

 ファイサル殿下はさらりと500億ドルと口にされたが、これは円安のいま、1ドル155円で換算すると7兆7500億円にものぼる。最新のファミ通ゲーム白書によれば2022年の日本国内のゲーム市場規模は2兆316億円。つまり今後6年でサウジアラビアの市場規模を日本の3倍強にまで拡大しようというのだ。いかにサウジアラビアがゲームやeスポーツに対して本気で取り組んでいるかがこの数字からわかるだろう。

 報じられているキディヤ・シティの規模を考えればこの金額は決して絵空事ではないはず。ちなみにこうした同国の施策において中心に位置する企業、それが⑤のSavvy Games Groupなのである。
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MENA市場を見据えたコラボ実現を

 さて、そのSavvy Games Groupとはいったいどんな企業なのか。

「Savvyに課せられた使命は第一に世界をリードする“ゲームとeスポーツの企業”になること。第二に国家戦略に基づき、ゲームとeスポーツにおけるサウジのエコシステム構築を助け、サウジを同分野のグローバルハブに成長させることです」(ブライアン氏)

 ファイサル殿下の言葉を引き取ったブライアン氏は、冒頭でこう語った。
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 じつはこれらのビジョンはすでに半ば実現しつつあると言っても過言ではない。というのも、2022年にスウェーデンのModern Times Group(MTG)から世界最大のeスポーツ企業ESL、それにイギリスのeスポーツプラットフォームであるFACEITを買収し、合併させてESL FACEIT GROUPを設立している。

 さらに、世界的に人気の高い戦略ゲーム『STAR TREK FLEET COMMAND』や、2024年4月にモバイルゲームの売上高世界一を記録した『MONOPOLY GO!』の開発元として知られるアメリカのゲーム企業Scopelyを2023年に買収したのが、何を隠そう、ブライアン氏率いるSavvy Games Groupなのである。

 現在はeスポーツ関連のプロジェクトはESL FACEIT GROUPを、ゲーム開発とパブリッシングはScopelyを通じて行っているそうだ。
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『STAR TREK FLEET COMMAND』(左)と『MONOPOLY GO!』(右)。Google Playの配信ページより引用。
 各分野で大きな実績を持つ企業を買収するという方法を効果的に使って短時間で確実に成長を遂げ、階段を駆け上っているのがSavvyであり、またサウジアラビアという国なのだろう。

 ブライアン氏は
日本のゲームメーカーとも緊密な関係を保っていきたいと考えているといい、その方法を問うと、「第一にコラボレーションすること」と返答した。コラボによって、ゲームとeスポーツ業界をともにグローバルに成長させたいというのがSavvyの意向だという。

 日本企業とのコラボの実現には、サウジアラビアを含むMENA市場(ミーナ:中東や北アフリカ地域の国々)が持つ可能性をしっかりと理解してもらうことが大事だとブライアン氏は続けた。
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 この地域のゲーム市場は世界で2番目に大きな成長を遂げていて、ゲーマーの数で言えば北米や西ヨーロッパを上回っているうえ、長いあいだ格闘ゲームを中心に日本のゲームが高い人気を誇っているのだという。

「MENA市場に向けたローカライズ、さらにこの地域の視点に基づいたストーリーテリングを意識することで、日本のゲームメーカーにとって大きなビジネスのチャンスが生まれるのではないかと思います。」(ブライアン氏)

 Steamによるダウンロード販売と中国語へのローカライズで東アジアでの売り上げを大きく伸ばしたメーカーがあるのと同じことがMENA市場でも期待できると、ブライアン氏は語っているわけだ。

eスポーツを入口にゲーム業界を活性化

 ここまでは“これから”の話に終始した内容だ。そんなスケールの大きなサウジアラビアのゲーム産業の“現在”はいったいどのような状態にあるのだろう? 多くの日本人は知らないことだろうと、質問をぶつけてみた。
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「人口の67%にあたる2100万人を超える人たちがゲームを楽しんでいます。そのうち男性は52%で、48%が女性です。また、プラットフォームとしては50%がモバイル、28%がコンソール、残りの22%がPCでゲームを楽しんでいますね。」(ファイサル殿下)

 若者の国であることはすでに述べたが、実際にユーザー人口の過半数がゲーマーとは、ゲームやeスポーツ振興を国策とするだけのことはある。コンソールはプレイステーションを中心に、Xboxシリーズが少し見られる程度。最近ではeスポーツの人気が高まるにつれ、PCゲーマーが増えているそうで、この辺りは日本の事情と似ているのかもしれない。

 また、eスポーツ人気はとても高いものの、これまではインフラにpingや帯域といった課題があったため、トップ選手は海外でプレーすることが多かったのだそうだ。しかしそうした状況も改善が進み、いまでは選手も海外から戻ってきている。

 EVO Japanに参加した選手がいたり、さらにオーバーウォッチワールドカップ2023ではチームサウジが優勝を飾るなど、サウジアラビアの選手たちが国際的な大会で実績を積み重ねつつもある。ゲーマー人口の多さが結果につながってきているということだろう。
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4月27日~4月29日開催のEVO Japan 2024では、サウジアラビア関連ブースが出展。日本との関係は良好で、近年では両国間でとeスポーツ大会を行うなど親交を深めている。
 もちろん注力しているのはeスポーツ選手の醸成といったプレイヤー側の課題解決だけではない。2030年までにサウジアラビア人の手でAAAタイトルを作ることもまた国家戦略のひとつと定めていて、いまはツールと教育を整備中とのこと。

「eスポーツ施策の結果は半年後、一年後に見ることができます。しかし、ゲーム業界全体を作り上げていくには、より長期的な視野が必要でしょう。結果がわかるまで2年、3年、5年、10年という時間がかかるはずです。私たちにとってeスポーツはゲーム業界を大きくしていく土台となってゲームに向けた関心とわくわく感を育て、人々に機会を提供し、世界と勝負しうる産業であると理解してもらうためのゲートウェイなのです。」(ファイサル殿下)

 eスポーツを入口としてゲーム業界全体を活性化させるだけでなく、中長期的にインディーデベロッパーやゲーマーのコミュニティを構築。さらにはSavvyなどを通じてのゲームタイトル開発まで広げていく。サウジアラビアにとって、いや、少なくともファイサル殿下にとって同国独自の大型タイトルを開発したいという意欲は強く、それを示す言葉もうかがえた。

「私たちの長い歴史は豊富な物語を培ってきました。しかし、アラジンやシンドバッドなど、私たちの物語はこれまで国外の人たちによって語られてきました。私たちはゲームを通じて日本など他国の歴史を学ぶことができましたが、同様に、私たちがゲームを作ることで
自らの物語を語り、同じ体験を与え、同じ立場で考えてもらう機会を作れるはずです。」(ファイサル殿下)
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 アラジンやシンドバッドたちの冒険といった私たちが知る中東の文化に根ざした物語は、これまで西洋の文化というフィルターを経たうえで日本をはじめとする世界各国へと伝わってきた。しかし、そうした物語を中東の国が自らを語り部としてゲームという体験として提供するようになれば……。見知ったはずの物語でも、まったく新たな視点を得ることで、また違った物語として楽しめそうだ。

 低く落ち着いた声、穏やかな口調。幼い頃からずっとゲームをプレイしてきたという殿下のお言葉からは、サウジアラビアのゲーム業界に向ける情熱と、激しい勢いで成長を遂げつつある実態とがひしひしと伝わってきた。

「サウジアラビアへの入国ビザはオンラインで1時間以内に取得できます。扉は常に開いていますので、ぜひサウジアラビアにお越しいただき、実際に何が起きているのかを見ていただきたいです。」(ファイサル殿下)

 殿下はそうインタビューを締めくくった。
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