ファミ通では、サウジアラビアeスポーツ連盟会長のファイサル殿下とSavvy Games GroupでCEOを務めるブライアン・ワード氏というキーマンにインタビューを行う機会を得た。中東の気温以上の熱を放つ未来についてお届けする(聞き手:ファミ通グループ代表 林克彦)。
ファイサル殿下
ファイサル・ビン・バンダル・ビン・スルタン・アール・サウード王子。サウジアラビアeスポーツ連盟会長。ゲームやエンタメ関連への造詣が深く、日本とのeスポーツ外交を推進されている。
ブライアン・ワード氏
サウジアラビアの公共投資基金(PIF)によって設立されたSavvy Games Group CEO。かつてはActivision Blizzardでワールドワイドスタジオ責任者を務めていた。
人口の95%以上が65歳以下の“若者の国”
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そうしたサウジアラビアのゲーム事情を理解するうえで外せないのは、“若者の国”であるという点だ。経済産業省が発表している資料によると、なんと2018年の時点で65歳以上が人口の約3.3%しかいないというのだから驚く(出典:医療国際展開カントリーレポート サウジアラビア編)。高齢化社会と言われて久しい日本とは正反対の国とも言える。
そのため、新たに育てようとする産業のひとつとして、若年層が興味を示すエンターテインメント産業に大きな期待がかけられているわけだ。中でもゲームやeスポーツは大きな一角を占めていて、言わばこれらの振興は同国にとって非常に重要な国策のひとつなわけだ。今回お話をうかがったおふたりは、まさにその中心にいるキーマンなのである。
- サウジeスポーツ連盟
- イグナイト・プロジェクト
- eスポーツワールドカップ
- ゲームとeスポーツ戦略(2030年までに250のゲーム関連会社設立など)
- Savvy Games Group
サウジeスポーツ連盟
イグナイトプロジェクト
eスポーツワールドカップ(Esports World Cup)
オーストラリアのメルボルンで開かれた『ストリートファイター6』国際大会で準優勝を果たしたBurning Core Toyama所属のTACHIKAWA選手をはじめ、複数の日本人選手が出場権を得ているほか、JeSUからも6月1日に開催された『eFootball 2024』の代表選手選考会で優勝したおしゅし選手を代表選手として派遣することが決定。
ゲームとeスポーツ戦略
ただそのルールは何かを規制するためのものではなく、ビジネスとしての成長を念頭においたものとなる。さらにゴールを設定し、そこまでのプロセスとその達成状況を見守りつつ、“チームサウジ”として業界全体をひとつにとりまとめ、成長を推進させる考えであるという。
Savvy Games Group
報じられているキディヤ・シティの規模を考えればこの金額は決して絵空事ではないはず。ちなみにこうした同国の施策において中心に位置する企業、それが⑤のSavvy Games Groupなのである。
MENA市場を見据えたコラボ実現を
「Savvyに課せられた使命は第一に世界をリードする“ゲームとeスポーツの企業”になること。第二に国家戦略に基づき、ゲームとeスポーツにおけるサウジのエコシステム構築を助け、サウジを同分野のグローバルハブに成長させることです」(ブライアン氏)
ファイサル殿下の言葉を引き取ったブライアン氏は、冒頭でこう語った。
さらに、世界的に人気の高い戦略ゲーム『STAR TREK FLEET COMMAND』や、2024年4月にモバイルゲームの売上高世界一を記録した『MONOPOLY GO!』の開発元として知られるアメリカのゲーム企業Scopelyを2023年に買収したのが、何を隠そう、ブライアン氏率いるSavvy Games Groupなのである。
現在はeスポーツ関連のプロジェクトはESL FACEIT GROUPを、ゲーム開発とパブリッシングはScopelyを通じて行っているそうだ。
ブライアン氏は日本のゲームメーカーとも緊密な関係を保っていきたいと考えているといい、その方法を問うと、「第一にコラボレーションすること」と返答した。コラボによって、ゲームとeスポーツ業界をともにグローバルに成長させたいというのがSavvyの意向だという。
日本企業とのコラボの実現には、サウジアラビアを含むMENA市場(ミーナ:中東や北アフリカ地域の国々)が持つ可能性をしっかりと理解してもらうことが大事だとブライアン氏は続けた。
「MENA市場に向けたローカライズ、さらにこの地域の視点に基づいたストーリーテリングを意識することで、日本のゲームメーカーにとって大きなビジネスのチャンスが生まれるのではないかと思います。」(ブライアン氏)
Steamによるダウンロード販売と中国語へのローカライズで東アジアでの売り上げを大きく伸ばしたメーカーがあるのと同じことがMENA市場でも期待できると、ブライアン氏は語っているわけだ。
eスポーツを入口にゲーム業界を活性化
若者の国であることはすでに述べたが、実際にユーザー人口の過半数がゲーマーとは、ゲームやeスポーツ振興を国策とするだけのことはある。コンソールはプレイステーションを中心に、Xboxシリーズが少し見られる程度。最近ではeスポーツの人気が高まるにつれ、PCゲーマーが増えているそうで、この辺りは日本の事情と似ているのかもしれない。
また、eスポーツ人気はとても高いものの、これまではインフラにpingや帯域といった課題があったため、トップ選手は海外でプレーすることが多かったのだそうだ。しかしそうした状況も改善が進み、いまでは選手も海外から戻ってきている。
EVO Japanに参加した選手がいたり、さらにオーバーウォッチワールドカップ2023ではチームサウジが優勝を飾るなど、サウジアラビアの選手たちが国際的な大会で実績を積み重ねつつもある。ゲーマー人口の多さが結果につながってきているということだろう。
「eスポーツ施策の結果は半年後、一年後に見ることができます。しかし、ゲーム業界全体を作り上げていくには、より長期的な視野が必要でしょう。結果がわかるまで2年、3年、5年、10年という時間がかかるはずです。私たちにとってeスポーツはゲーム業界を大きくしていく土台となってゲームに向けた関心とわくわく感を育て、人々に機会を提供し、世界と勝負しうる産業であると理解してもらうためのゲートウェイなのです。」(ファイサル殿下)
eスポーツを入口としてゲーム業界全体を活性化させるだけでなく、中長期的にインディーデベロッパーやゲーマーのコミュニティを構築。さらにはSavvyなどを通じてのゲームタイトル開発まで広げていく。サウジアラビアにとって、いや、少なくともファイサル殿下にとって同国独自の大型タイトルを開発したいという意欲は強く、それを示す言葉もうかがえた。
「私たちの長い歴史は豊富な物語を培ってきました。しかし、アラジンやシンドバッドなど、私たちの物語はこれまで国外の人たちによって語られてきました。私たちはゲームを通じて日本など他国の歴史を学ぶことができましたが、同様に、私たちがゲームを作ることで自らの物語を語り、同じ体験を与え、同じ立場で考えてもらう機会を作れるはずです。」(ファイサル殿下)
低く落ち着いた声、穏やかな口調。幼い頃からずっとゲームをプレイしてきたという殿下のお言葉からは、サウジアラビアのゲーム業界に向ける情熱と、激しい勢いで成長を遂げつつある実態とがひしひしと伝わってきた。
「サウジアラビアへの入国ビザはオンラインで1時間以内に取得できます。扉は常に開いていますので、ぜひサウジアラビアにお越しいただき、実際に何が起きているのかを見ていただきたいです。」(ファイサル殿下)
殿下はそうインタビューを締めくくった。