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『メトロペンギンユートピア』インタビュー。『ファミレスを享受せよ』の作者が「ゲーム開発で食べていこう」と決意して、相棒を見つけて殺人ペンギンが地下鉄で暴れまくるRPGを作るまで【BitSummit Drift】

by古屋陽一

更新
『メトロペンギンユートピア』インタビュー。『ファミレスを享受せよ』の作者が「ゲーム開発で食べていこう」と決意して、相棒を見つけて殺人ペンギンが地下鉄で暴れまくるRPGを作るまで【BitSummit Drift】
 2024年7月19日~21日に京都みやこめっせにて開催されたBitSummit Drift/ビットサミット ドリフトにて、月刊湿地帯開発による新作『METRO PENGUIN EUTOPIA』(メトロペンギンユートピア)が出展された。

 月刊湿地帯と言えば、『
ファミレスを享受せよ』でおなじみのゲームサークル。タイトル自体は2023年に発表されていたが、プレイアブルで出展されるのはこれが初めて。同作が出展されていたわくわくゲームズブースは、試遊を求める人でときに通路がふさがれてしまうほどの人気ぶりだった模様。
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 今回、試遊台の出展に合わせて、月刊湿地帯のクリエイターであるおいし水さん(“おいしすい”と読みます)がBitSummitに参加(おいし水さんは札幌在住)。「『ファミレスを享受せよ』のような個性的なゲームを作るクリエイターさんってどんな方なのかしら……」と興味津々だった取材陣は、おいし水さんにお話をうかがう機会を得た。
 おいし水さんに「どんなゲームなのですか?」と聞いてみたところ、

 「そうですね。ジャンルとしてはたぶん広義のRPGになるのかなと思っています。ストーリーは、天変地異が起きて、気候がめちゃくちゃになった未来が舞台で、北海道も吹雪で人が住めなくなってしまったのですが、札幌市だけが地下に居住地を移して、そこで暮らしている人たちがいます。そんな未来の札幌市のさらに奥深くに、殺人ペンギンたちがいるんですね。未来の札幌市は“サポロシティ”と名前を変えているのですが、主人公は、殺人ペンギンたちと戦う……というのが大まかな流れです」

 とのことで、
『ファミレスを享受せよ』の作者らしい、なんともシュールな設定。BitSummitの試遊では、シティを走るペンギンを運ぶ列車に乗り込み、各車両で連続して戦う“列車戦”を体験することができた。疾走する電車の車両を移動していって、各車両にいるペンギンたちと戦っていくという趣向だ。
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 主人公のバームは、“ペンギン頭”と呼ばれるペンギンを模した被り物をつけた戦士で、多彩な攻撃方法を持つ。攻撃方法はコマンド方式で、4種類の方向を選んで攻撃。スティックでコマンドを選んで、ターゲットを選択して攻撃する。

 攻撃にはコストがあって、消費すると攻撃できなくなる。行動を終了すると敵のターンに移行し、自分のターンになるとコストが復活するという流れだ。

 敵(殺人ペンギン)は隊列を組んで複数で登場する。それぞれ有効な攻撃があるので、見定めて倒すというのが攻略の基本となりそう。
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 主人公は強力な攻撃方法を持っており、たとえば、横一列に並んでいる敵は、より強力なクロスボウで一網打尽にすることもできる。ただし、強力な攻撃は回数制限があるようだ。また、ひとつのステージで1回だけしか使用することのできない攻撃もあるとのことで、使いどころもカギとなりそう。

 さらにデモでは、大中小の敵が1列に並んでいるときを狙って、“SYZYGY”という技を駆使する攻撃をすることもできた。タイミング次第では、揃っている敵に攻撃して大ダメージを与えられるのだ。

 また、“FATAL”という要素も。こちらはある一定の条件が満たされると敵の頭上に赤いマークが表示され、どんなに弱い攻撃でも倒せるというもの。

 「単純に倒すだけだと手間がかなりかかりますが、こういった効果を利用することで、いかに効率よく殺人ペンギンたちを倒していくかが、キモになります」とのこと。
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試遊バージョンからさらにわかりやすい操作方法に変わるとのこと。

 なお、今回体験できたのは、“列車戦”という1ステージ中のボス戦に相当するもので、各ステージの最後に楽しめる。1ステージでの戦闘はけっこう頻繁に起きるが、戦闘が連続するのはボス戦にあたる“列車戦”のみ。

 サポロシティの地下には区ごとに謎の地下鉄が走っており、殺人ペンギンたちが送られてくる。主人公は発生源を止めるために列車に乗り込んで列車を破壊する……というのがステージごとの流れになる。ひとつのステージにはアドベンチャーパートなどもあり、探索などもしていくことになるという。

 ステージごとに“列車戦”の趣向も凝らされており、敵もバラエティーに富んでいるようだ。ちなみに、サポロシティは現実の札幌市と同じく10区で構成されており、本作のステージも10なのかと思いきや、そのへんは少し調整中なのだという。
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 さて、
『METRO PENGUIN EUTOPIA』のデモにあたり、説明をしてくれたのは、おいし水さんと、きょむけんさん。きょむけんさんは本作のプログラムを担当しており、本作から月刊湿地帯に参加することになったのだという。そんなわけで、おいし水さんときょむけんさんにちょっとだけお話をうかがってみた。
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おいし水おいしすい

月刊湿地帯『METRO PENGUIN EUTOPIA』クリエイター(イラスト左)

きょむけん

月刊湿地帯『METRO PENGUIN EUTOPIA』クリエイター(イラスト右)

自分の中の興味のあるものをつなぎ合わせた結果できたのが、殺人ペンギンが地下鉄で暴れまくるRPG


――ユニークな設定ですね。

おいし水
 そうですか? でも個人的には別に「奇抜なことをやろう」みたいなことを思っているわけではなくて、何か自分の中の興味のあるものをつなぎ合わせた結果だったという感じです。ことに札幌市は地下がすごい広がりがあって、高校生活や大学生活で地下をたくさん使っているうちに、札幌と言えば地下というイメージが結びついて行きました。

――頭に浮かんだそんな設定を、ゲームに落とし込んでいったのですか?

おいし水
 そうですね、札幌の地下にペンギンがいて、そこで戦っている人がいるみたいな……都市伝説ですね。
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――本作の開発はいつくらいから始まったのですか?

おいし水
 開発を始めるの自体は、『ファミレスを享受せよ』のブラウザ版が完成してから、プログラマーと話をして企画を進めていったので、1年半くらい前ですね(2022年)なのですが、『ファミレスを享受せよ』のNintendo Switch版やSteamの作業もあったので、実際に本格的に動き出したのは、1年前くらいでしょうか。構想はもっと前からありました。

――世界観やストーリーをゲームに落とし込んでいくにあたってこだわったポイントはどのあたりですか?

おいし水
 そうですね……。なんとなくのイメージとして舞台設定はあったのですが、その舞台を表現するためにどのようなシステムが最適か……みたいなことを考えてシステムを作っていったような記憶はあります。

――地下鉄の車両の中で、殺人ペンギンたちを倒していくというシチュエーションも、世界観設定の要請から生まれて、戦闘システムが練り上げられていった感じですか?

おいし水
 戦闘自体はわりと独立して考えていたかもしれないですね。

 なんて言うんだろう。ジャンルとしてはぜんぜん違うのですが、『
ホットライン・マイアミ』みたいな、“やられる前にやれ”みたいなのが好きだなと思っていて、それと、『Darkest Dungeon』とかの、プレイヤーと敵の位置関係が大事な戦闘システムとかが好きだったので、そこを合わせて大量の敵を「やる前にやろう」といったシステムを作ろうと考えた記憶があります。質問のお答えになっていないかもしれませんが……。

――いえいえ、ストーリーや世界観を楽しんでもらいたいということと同じくらいに、本作ではゲームシステムの楽しさも味わってほしいという思いがあるということですか?

おいし水
 ああ、そうですね。作り始めはストーリーではあるんですけど、やはりゲームとしておもしろいというか、ゲームとしてシステムをちゃんと成立させるということも重要だと思っているので、ストーリーとシステムは密接に結びついてはいますね。
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――もともとおひとりで作っていたとのことですが、今回きょむけんさんと組むことにした理由は?

おいし水
 もともとプログラム自体は得意ではなくて、「最低限動かせるのを作れる」とか、そのレベルなんですよね。もともとは『ファミレスを享受せよ』を始め、ブラウザ版で公開していたので、「無料だから多少は不具合はあっても……」という気持ちも、正直ありました。

 それが商業の領域になると、さすがに不具合があるとよくないとの思いもあって、まず第一にクオリティーを保証するという意味合いもありますし、複雑なプログラムを組むとなると自分だけでは難しいとの思いもありまして。プログラムがしっかりできる方と組んだほうが表現の幅も広がるかなと思いもあったりしてそうしました。

きょむけん
 私もゲームが作りたかったのもあって。ただ、自分でアイデアはなかなかなかったので。で、(おいし水さんが)「ゲームを作っている」とって言っていたので、「じゃあ私作る」って言って、入れてもらった気分でした、私は。

おいし水
 ああ、そっちからだっけ。

きょむけん
 もともと知り合いだったので。

――どういう関係なのですか? おふたりは。

おいし水
 高校のころの知り合いで、大学に入ってからも、別の大学なのですが、ちょくちょく連絡取ったりしていて、それでちょくちょく話していたので、そこでゲーム作りに誘った感じではあります。

――プログラムの技術はお持ちだったのですね。

おいし水
 高校のころからプログラムはやっていたっぽいです。知り合いでプログラムができるのはこの人だなと思っていました。

――率直過ぎる聞きかたですが、組んでみてどうですか?

おいし水
 そうですね。自分ができないことができるようになるというのは、いいなと実感します。難しい動作を実装したりとか。あと、ひとりだと、「仕様を変えよう」とか、なんでも好きにやってしまいますが、そういった取り回しのよさが減ってきていることは感じてはいます。でも、仕様変更は頻繁にしてしまっていますが……。

――(笑)。

きょむけん
 仕様変更に振り回されています。

――(笑)。そんなにちょくちょく仕様変更したりするのですか?

おいし水
 そうですね。もうしばらくはあんましないとは決めているんです。

――しばらくは(笑)。

おいし水
 最初に考えていたのとか、いまはけっこう変わっていて、それは自分の頭の中にあったものをそのまま実装していったら、「やっぱり違うな」ということがわかってきて。でも、こればかりは「変えてもらうしかないな」と思いまして。
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――さきほど、“商業の領域”とおっしゃっていましたが、そもそもわくわくゲームズと組んで商業ベースで展開することを念頭に置いていたプロジェクトだったのですか?
おいし水
 違います。当時考えていたことが定かではないのですが、「つぎは有料で出そう」みたいことは思っていて「そろそろゲーム制作で食べていきたかったら、商業でやるしかないだろう」みたいに感じつつあったので。

 それで、もともとペンギンのゲームを作りたかったので、それは商業で出そう、有料で販売しようみたいなことを決めて作り始めました。

――そんな決意があったのですね。とはいえ、「ペンギンのゲームを作りたい」というのを聞くと、ほのぼのと聞こえますが、実際に作ったのが殺人ペンギンの話というのは、独特な感性ですね(笑)。

おいし水
 かもしれませんね(笑)。ペンギンが嫌いとかではぜんぜんないですし、むしろ好きです。

 地下都市である程度現実的というか、現実をもとにした舞台で、そこにいる敵ということを考えたときに、ファンタジー的なゴブリンや架空のモンスターだとなにかしっくりきませんでした。近くにいそうな虫とかドブネズミとかも、なんか違うな……と思って。

 そこで自分の中で、ペンギンというのがすごいしっくりときて、ぬったりとしたイメージとか。自分の中では地下にペンギンが潜んでいるというのは、一種のリアリティーを持っているものに感じています。自分の中では、「ペンギン以外ないな」と思いました。

――本作は、おいし水さんがゲームクリエイターとして食べていくことを決意した第1作という言いかたをしてもいいのですか?

おいし水
 そういう捉えかたもできますね。実際には『ファミレスを享受せよ』の有料版が出たりして、よくわからなくなってきたのですが(笑)、当初はゲームで食べていきたいから、「有料でがんばろう!」と思って出発した記憶があります。

――『ファミレスを享受せよ』でファンになった方も多いかと思いますが、本作は、そんな『ファミレスを享受せよ』ファンに向けてのものなのですか? それとも『ファミレスを享受せよ』とはまた違った方向性のタイトルなのですか?

おいし水
 そういう期待されているものを出そうという気持ちはぜんぜんなくて、ただ自分のやってみたいことをやっている感じです。たしかに『ファミレスを享受せよ』とはアウトプットされるものの方向性が違うかもしれないのですが、けっきょく同じ人が作るので、そんなに変わらないのではないかと思います。

――ちなみに、『ファミレスを享受せよ』がファンに受け入れられたのはうれしかったり?

おいし水
 ありがたいとは思います。評価されたりするとかは、ぜんぜん思っていなかったので。
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――半分好奇心でうかがってしまうのですが、クリエイティブで大切にしていることはどんなことですか?

おいし水
 うーん……とにかくいちばんは続けることですね。制作を。とにかく続けることにいちばん価値があると思っているというか。なんて言えばいいんだろうな……作れば作るほどよくなっていくし、いろいろなものを作れるし。本当にとにかく、ただ続けることをいちばん大事にしているんですよ。

――自分が作った世界をみんなに楽しんでほしいとかいうのは、あまりない?

おいし水
 たしかに、自分の好きなものを作りたい気持ちはもちろんありますが、とにかく本当に制作を続けていきたいというのがいちばんにあります。また、違う話なのかもしれないのですが。

大柳(※) おいし水さんは作家魂を持っている方なんです。ふつうの作家さんって1本作ったら売れたにせよそうでななかったにせよ、つぎの作品に取り掛かるまでに少し休憩期間をおいたりするのですが、おいし水さんは『ファミレスを享受せよ』である程度知名度が出てきているし、セールス的にもきっちりと結果を出しているにも関わらず、もうつぎの作品を作りたいんです。

 いま
『METRO PENGUIN EUTOPIA』を作っていますが、じつは次回作の構想などもあるようです。作家として、つねに創作衝動に駆られ続けているようなところがありますね。
※インタビューに同席していたわくわくゲームズ代表の大柳竜児氏。
おいし水
 衝動でもないのですが、商業でやっていこうと決めたのも、自分が働きながらゲームを作り続けられるような体力がある人間とも思えなかったからというのもあるのですが、商業にして、作らないと食べていけない状況にすることで、自分を作り続けさせられることができるのではないかという思いもありました。

 うまく言えないのですが、とにかく続けることに価値があると思っています。

――食うために作り続けようという。それはわかるような気がします。どこかのゲームメーカーに所属して作ろうという発想はない?

おいし水
 そうですね。自分で作りたいものがあるので、どこかに属さずに、それを自分中心で作っていければなと思っています。

――パワフルですね……。もしかして作りたいアイデアがしこたまあって、取り組みたくてうずうずしているとか?

おいし水
 ああ、そうですね。別にアイデアというものは尽きるものではないというか、内にあるのではなくて、外から受け取れる。自分がからっぽになるとかではなくて、筒というか、自分という筒を通して、外の世界から出てくるものというか……。筒というか、笛というか……。

大柳 おいし水さん的な視点からすると、自分を通して外の世界を見ると、いろいろとネタが転がっているから、それを拾っていけばいいのでは?という感覚のような考えなのではないでしょうか。

――『METRO PENGUIN EUTOPIA』も、おいし水さんが筒を通して見た世界を、僕らが体験するゲームになる?

おいし水
 どうでしょうか。自分の内面を熟成して……というよりは、自分が感じたことをそのまま作っているみたいな感じではありますね。

――自分が筒という発想はおもしろいですね。

おいし水
 笛でもいいですよ。そのほうが音が出るのでわかりやすい。

――その音に合わせて、僕たちは楽しく踊るのかしら……。

大柳 『METRO PENGUIN EUTOPIA』は、たぶんおいし水さんが頭の中でいろいろと想像してきた産物だと思うのですが、“サポロシティ”とか、地下街とか。そういった外のネタをいろいろと組み合わせたタイトルなのかしら。

おいし水
 そうですね。なんて言うのでしょうか。自分の外の世界に何もなかったら、自己認識や自我が生まれるとは考えにくいですよね。自分の外にあるもので自分が作られるというのは、やっぱりあると思うので、そういう意味で外の世界がある限りはアイデアってなくならないのではないかと思います。
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――そういう意味では、きょむけんさんと組むことも、自分の“外”を確認することなのかもしれないですね。期待も高まる本作ですが、完成はいつごろに?
おいし水
 来年(2025年)中にはなんとか完成したいです。ひとつのタイトルにかけすぎるとつぎが作れないので……。もちろん『METRO PENGUIN EUTOPIA』はきっちり作り上げます!

大柳 そしてプログラムを助けてくれるメンバーが加わったことで、月刊湿地帯はさらにパワーアップしていくと。

――もしかして、月刊ペースになるかもしれないと。ちなみに、なぜ月刊なのですか?

おいし水
 最初にゲーム制作から活動を始めたわけではないんですよ。留年したときに時間が余ったので、ちゃんと強制的に自分が活動をできるような仕組みを作ろうと思って。毎月何かしら更新するということで、“月刊湿地帯”というホームページを作ったんです。ゲーム制作はその延長線上みたいな感じですね。

――最後に、本作を楽しみにしているファンの皆様にひと言ずつメッセージをお願いします!

きょむけん
 私は表層的なところで小言を言い続けるマシンのようなものなのですが(笑)、とりあえず本作を楽しんでもらえればと思っています。

大柳 きょむけんさんがいるから、おいし水さんの作品がプレイヤーの皆さんのもとに届けられるのは間違いないです。

おいし水
 有料にするからと言って、バグをなくすといったこと以外に、別に作るものを変えたりするつもりはないので、いままで通り待っていてくれればと思います。
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集計期間: 2025年04月24日22時〜2025年04月24日23時