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『鉄拳』の原田Pが語る3D格闘ゲームの30年と未来。急速に縮小した00年代を生き抜いた工夫、コミュニティの重要性、メーカーの垣根を越えた仮想ゲーセンという夢【CEDEC2024】

by村田征二郎

更新
『鉄拳』の原田Pが語る3D格闘ゲームの30年と未来。急速に縮小した00年代を生き抜いた工夫、コミュニティの重要性、メーカーの垣根を越えた仮想ゲーセンという夢【CEDEC2024】
 2024年8月21日から23日にかけて、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC2024”が開催。本記事では、21日に行われた基調講演“鉄拳シリーズを通してみた格闘ゲームの変遷とその未来”の内容をお届けする。

 講演を行ったのは、『
鉄拳』シリーズをはじめ、さまざまなタイトルのディレクターやプロデューサーを務めてきた、バンダイナムコスタジオの原田勝弘氏。原田氏らしいジョークも交えつつ、2024年12月に30周年を迎える『鉄拳』シリーズの変遷と戦略、3D格闘ゲームを取り巻く環境の変化、そして未来に関する展望などが語られた。

 なお、当初は生出演する予定だった原田氏だったが、某国の皇太子に名指しで呼ばれたということもあり、基調講演としては珍しく録画講演というかたちを取っている。
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30周年を迎える『鉄拳』シリーズの実績

 原田氏は当初、営業職として当時のナムコに入社したものの、わずか4ヵ月でビデオソフト開発部に異動し、ゲームクリエイターとしての道を歩むこととなった。デバッグや企画、ディレクターやパブリッシャーなどさまざまな業務を経て、現在は開発スタジオで陣頭指揮を執っている。

 原田氏が関わった作品は数多く、
『鉄拳』シリーズのみならず『ソウルキャリバー』シリーズや『ポッ拳』、『VR サマーレッスン』など有名タイトルが並ぶ。マーケティングプロデューサー、プロダクションディレクターとして携わったタイトルも含めれば、『エルデンリング』や『テイルズ オブ アライズ』など、近年でも注目を集めた作品が多く挙げられる。
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 『鉄拳』シリーズが今年30周年を迎えるのは先ほども触れた通りだが、同シリーズは世界累計本数が5800万本を超え、世界でもっとも売れている3D対戦格闘ゲームでもある。1994年12月に初代『鉄拳』が登場して以来、長期に渡ってIPを展開し続けてきたこともあり、『鉄拳』シリーズは以下のギネス記録認定を受けている。
  • もっとも長く続く3D格闘ビデオゲームシリーズ
  • もっとも長く続くビデオゲームの物語
 講演内で原田氏も触れていたが、RPG作品ではなく対戦格闘ゲームがもっとも長く続くゲームの物語として記録を保持しているのは興味深いポイントだ。

 本シリーズが持つギネス記録は非常に数多く、そのほかにも“バーチャルカードゲームになった初めての格闘ゲーム”、“作中に登場する技数がもっとも多いゲーム”なども。ギネス世界記録の公式ページで“TEKKEN”の記録を検索すると、その数はなんと1234件にも上る。ほかのタイトルが持つ記録は100件程度とのことで、10倍以上の差というのはすさまじい。
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 初代『鉄拳』から『鉄拳7』まではアーケード版がリリースされたのちに家庭用ゲーム機版がリリースされてきたが、最新作の『鉄拳8』はシリーズとしても初めて家庭用ゲーム機版が全世界で一斉に発売されることとなった。メインタイトルのみならず、スピンオフ作品やパチスロシリーズ、マンガや映像作品なども数多く展開しており、30年という歴史の厚みが伺える。
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 各種ゲームアワードやCGアワードなどにおける受賞歴もすさまじく、ビデオゲームとしての受賞回数はバンダイナムコグループのなかでも最多だという。『鉄拳』はハリウッド映画化もされているが、これについては発表時のスライドではわざわざ強調した文で“数あるゲームのハリウッド映画化のなかでも最低点を獲得”と記載し、「よく寝れると思います」といったコメントも出すなど、原田氏らしいかたちで振り返っていた。
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 最新作『鉄拳8』の発売前には、テレビゲーム史上もっとも長く続く本シリーズのストーリーをまとめた、いらすとやとのコラボ動画“1分でざっくりわかる!鉄拳シリーズ”も公開された。とにかく「なんやかんやあって」でざっくりまとめているこちらの動画は、シリーズを知らない人でも楽しめるテンポ感と内容になっているので、未視聴の人はぜひチェックしてほしい。
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 その後、シリーズの歴代メディアレビュースコアや、これまであまり公開してこなかったメインタイトルの販売実績についても紹介された。初代『鉄拳』のころにはまだメタクリティックスコアが確立されていなかったこともありカウントされていないが、2作目以降の平均スコアは85.8と高い数値を出しており、安定して高い評価を受けていることが伺える。

 販売実績はプレイステーションが代替わりするごとに世代を分けるかたちでまとめられていた。第4世代にあたる
『鉄拳7』は1200万本以上を売り上げるなど、長期間に渡りシリーズとして成長を続けていることがわかる。
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 販売地域の面から見てみると、『鉄拳』シリーズは世界の広い地域で売り上げを出しており、ヨーロッパが40%、北米が24%を占めたうえで中東や東南アジアなどでも少なくない本数を売り上げている。アーケード版のシェアに関しては日本とアジアが圧倒的ではあるものの、家庭用の売り上げを見ると日本は世界全体のわずか3%。なかなかに衝撃的な数字だ。
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対戦格闘ゲームにおける2Dと3Dの違いとは

 シリーズ全体の振り返りを終えると、原田氏は『鉄拳』プロジェクトの戦略を大きく5つのポイントに分けて紹介した。ひとつ目が“テクノロジドリヴンな描画手法や360度の3D空間を使った遊びの軸”だ。

 3D対戦格闘ゲームが登場したのはポリゴンの黎明期であり、当時3D対戦格闘ゲームはある種ベンチマーク的なソフトとして、各社が技術を模索していた時代だった。ゲームとしてのルーツは2D対戦格闘ゲームにあるものの、2Dと3Dは似て非なるものである、と原田氏は語る。

 当時は2D対戦格闘ゲームはドット絵で描かれ、3D対戦格闘ゲームはポリゴンで、と見た目にもわかりやすかったが、現在ではどちらもポリゴンを使うのが当たり前になってきている。しかし2Dと3Dでの違いは表現部分よりも、ゲームの構造部分にあるという。
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 構造の違いとして原田氏が挙げた例のひとつが、背景の作りかただ。2Dの場合はひとつの軸にキャラがいるため、カメラも平面的な動きが多く、回り込むような見せかたをする場合もカメラが45度傾く程度で、基本のアングルは変わらない。一方で3Dの場合はキャラクターが3D座標のなかを動き回り、カメラもそれに合わせてあらゆるアングルからキャラクターを捉えることになる。

 講演内では
『鉄拳8』のデバッグモードでニューヨークステージがかなり引いた視点で映し出され、大きなマップのごく一部分しかバトルで使用していないことが明かされた。バトルで使わない部分は、ほかのモードで利用するから作り込んでいるのではなく、そこまでしないとしっかりとした奥行が出せないのだという。この部分を見るだけで、構造的に2Dとは大きく異なる、というのは一目瞭然だ。
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 遠景として見える部分も含めて作り込むとなると当然制作コストも高くなる。コストが如実に大きくなっていったのは『鉄拳4』のころからとのこと。初代から『鉄拳3』、『鉄拳タッグトーナメント』などは背景を平面的に描く、いわゆる書き割りで作っていた。そこから、“情報密度”をひとつのキーワードとして作り込んでいった結果、そういった制作スタイルになっていったのだという。

 背景の作り込みはニューヨークステージのような開けた場所だけの話ではない。格納庫のような閉鎖空間であっても、壁を突き破ったり段差から落ちたりというステージ移動がある。そのなかで情報密度のある背景を作るため、かなり大きな背景が必要となるそうだ。
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 この背景制作に関して原田氏は「金がかかってしょうがないですよね」とこぼし、アセット(素材となる各種データ)で作るのではなく、物理演算も含めた構造体としてAIで作れる日が来てほしい、と語った。原田氏の見解では、背景制作にかかる開発費や労力は現在がピークに近い状態だという。

 背景と並んで2D、3Dで大きく異なる点として挙げられたのが、コリジョンとヒット処理の部分だ。2Dの場合は各種判定をXY座標で正確に判定できるが、3Dの場合はそこに奥行が加わるために複雑化する。
『鉄拳』シリーズが悩みを抱える部分でもあり、シリーズを通して作りかたを変えてきているのだという。
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 3D対戦格闘ゲームの場合、各種判定がキャラクターモデルの骨構造に紐づいている。また呼吸のモーションなどによっても微妙に座標が変化するため、判定同士の位置関係がより複雑になる。
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 ハードの性能によって判定結果などが変化しないよう、ある程度結果を丸める処理は入れている。それでもハードごとにズレが生じるケースは過去にも発生しており、現在でもあり得る話ではあるという。ユニークな話として、過去にアーケード版であった不具合が挙げられた。

 同じ攻撃が当たったり当たらなかったり、あるいは攻撃が叩きつけ判定になったりならなかったりと、同じ筐体でプレイしていても判定にブレが生じるケースがあったという。バグかどうかもわからないなかで調査を進めたところ、その店舗の電源が不安定で、電圧が落ちた際にCPU処理が影響を受け、ヒット判定に誤差が生じていたのだという。こういった苦労もある意味で3Dならではと言えそうだ。
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数十人規模の大会から世界ツアーへ。コミュニティを育て見守ることの重要性

 『鉄拳』プロジェクトの戦略としてふたつ目に挙げられたのが、“コミュニティを育てる、コミュニティの変化を常に意識する”こと。原田氏ははじめに、日本と欧米における業界ヒエラルキーの違いを示した。日本では版元やパブリッシャーが強い権力を持っているのに対し、欧米ではユーザーたちの声が強い力を持っている点がその最たる違いとして挙げられている。

 欧米では返品制度があるため、リリース直後にユーザーたちからの批判的な声が大きくなると、小売店がマークダウン(値下げ)を行うか返品するか、といった2択をメーカーに迫ってくるという。メーカーとしては返品を避けたいため、その場合は値下げを受け入れざるを得なくなってしまう。とくにSNSが登場して以降はそういった動きが強まっており、メーカー側も流通に流して終わりではなく、コミュニティを育て、見守る必要性が強くなってきているとのことだ。
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 コミュニティの歴史的な変遷を見てみると、日本やアジアはアーケード拠点型、欧米はLANパーティーや地域大会を主軸としたコミュニティ形成がベースにある。現代のネット社会においては世界共通でコミュニティが動いているものの、そのルーツは異なっているという。

 対戦格闘ゲームのコミュニティ大会も、20年前は数十人規模の小さなものだったが、現在では1タイトルだけでも数千人規模のエントリーがあるなど、その規模は比較にならないほど大きくなっている。変化を見届けるなかで、原田氏はコミュニティをサポートすることの大切さを実感したと語る。
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左の写真は2002年に行われたEVOでの『鉄拳4』大会の様子。現在は右の写真に見られるように観衆も含め大規模イベントに発展したが、その裏にはコミュニティを支える人々の力があった。
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かつて日本で開催されていた大型イベント“闘劇”はeスポーツの先駆けとも言えるものであり、これが廃れてしまったのはもったいないこと、とも触れられた。
 いまでこそeスポーツは大きなイベントジャンルになっているが、かつてはコミュニティ大会をサポートするメーカーは少なく、開発者が2、3人やってくるだけでも注目されるほどだった。『鉄拳』プロジェクトはそんな黎明期から、開発メンバーが直接コミュニティをサポートしていた稀有な例だったという。

 現在主流となっている大会の多く、8割から9割は小さなコミュニティ大会が育った結果大きくなったものであり、コミュニティをサポートし続けたことが現在の状況につながる一因になっている、と原田氏は語った。
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時代の変化とともに大会の規模感が変化していっているのが目に見える。2006年ごろの大会には梅原氏と思われるプレイヤーの姿も。
 90年代には公民館や大学のホールを使っていたコミュニティ大会も、21世紀初頭ごろからはホテルのボールルームが主流になるなど洗練されていき、やがて現在のeスポーツにつながる下地が作られていった。そのなかで、『鉄拳』プロジェクトはメディアや東京ゲームショウといった場ではなく、コミュニティ大会の場で新作の発表なども行うように。単純な参加人数以外の面でもイベントは大きくなっていく。

 そして現在では世界大会の“TEKKEN World Tour”も開催され、EVOでは試合の実況を務めるコメンテーターもタレント化するなど、かつては考えらなかった規模でコミュニティが広がっている。
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 コミュニティイベントの黎明期から裏方としてイベントを育ててきた『鉄拳』プロジェクトだが、その功績が社内外でなかなか評価されていないのが現状だという。

 コミュニティの盛り上がりはファンたちの熱意があってこそではあるものの、それを支え育むメーカーの存在も同じように大きいのは確かだ。あらゆる業界に言えることかもしれないが、裏方として力を尽くす人々にもスポットライトが当たってほしいところだ。
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 また、コミュニティとの関わりはイベントだけではなく、コミュニティを観察することでも生まれてきた仕様も存在するという。そのなかのひとつが、試合が決着する瞬間、リアルタイムにスロー効果が入るスーパースロー演出。コミュニティをよく観察し、その変化に敏感になることでゲーム内外にさまざまな変化を取り入れてきたのが『鉄拳』プロジェクトというわけだ。
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格ゲー暗黒時代を生き抜いた戦略、SNS時代にユーザーへ作品を届ける力

 『鉄拳』プロジェクト第3の戦略は、“ビジネスモデルの変革と価値の変化を見据えコンテンツ内容を変える”こと。北米では『鉄拳』がどのゲームセンターで遊べるかをマップ上に表示するサービスを行っていたが、90年代後半から21世紀初頭にかけて、欧米では急速にゲームセンターが消えていったのだという。

 日本でもゲームセンターの減少は取りざたされているが、欧米のそれはこちらと比較にならない速度で進んでおり、
『鉄拳5』が出たときには日本で7000~8000台は売れていたものがアメリカでは100台程度しか売れなかったそうだ。
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赤い線が日本におけるアーケード店舗数、それに対して欧米を軸にした世界のアーケード店舗数はすさまじい勢いで減少していることが見て取れる。
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原田氏はアーケード店舗数が多かった90年代をアーケード全盛期、アーケード店舗の減少速度に対しオンライン機能の普及が追い付かなかった2010年までを暗黒時代、そしてオンラインが一般的に普及した2011年以降を新時代とした。
 格闘ゲームは“100円で数分間プレイする”というアーケードビジネスに即したかたちで埋まれたゲームシステム・ゲームデザインであるとし、それをそのままコンシューマービジネスに持ち込むのは無理がある、と原田氏は語る。

 そこで
『鉄拳』シリーズは各種ムービーの充実や、いわゆるおまけ要素と呼ばれるミニゲームの数々を入れ込んでいった。コンテンツ全体を家庭用向けにシフトさせることで、家庭用ゲーム機市場における生き残りを図ったのだ。
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 アーケードで稼働していたゲームを単に移植するのではなく、家庭用向けに内容をシフトさせ、1プレイの価値を家庭用のパッケージビジネスに合わせて最適化。『鉄拳』シリーズは暗黒時代を乗り切り、右肩上がりの成長を続けてきたのだという。

 第4の戦略として挙げられたのが、“多国、多地域、多人種、多思想にターゲットする”こと。先ほど家庭用版の売り上げでは“日本がわずか3%”という話もあったように、本シリーズは世界各国で売れているタイトルであるため、各地域のターゲットに刺さるようなものを考える必要があった。

 一見すると
『鉄拳』には日本人からするとピンとこないキャラクターもいるかもしれないとしつつ、それらもマーケットを分析しながらアプローチした結果であると原田氏は語る。ターゲットはアニメ好きなど、ナショナリズムに関係なく捉えられる“層”なのか、特定の地域や国に根ざした“域”なのか、あるいはそれらが絡み合った複合的な存在なのかを市場分析から読み取り、そこに対してアプローチをかけるのだという。
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 市場分析はリリース前だけではない。発売後もハードごとの売れ行きや国別の反応、アクティブユーザー数や対戦ダイアグラムなど、多くのデータを見ながら展開を考えているとのことだ。

 『鉄拳』プロジェクトの戦略として最後に挙げられたのが、“クリエイティブだけでなく「届ける=パブリッシング&マーケティング」を考える”という発想。沈黙は金、という言葉があるようにかつては問題が沈静化するのを待つのが賢明と考えられていたが、現在はそれがむしろ悪手になることも。よって、スポークスマンを立てることの重要性が高くなっている。

 コミュニティの信頼を得るには無難な告知をするだけでなく、評価された部分、逆に評価されなかった部分も含めて発信することが大事。テレビCMが出ることをSNSで告知する、といった手法だけではゲームファンから支持を得ることは難しいという。
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 原田氏は「おもしろければ売れる」世の中であってほしいと思っているものの、現実はそうもいかないことにも触れる。一定のラインを超えるとおもしろいことは当たり前になっており、とくに近年においては、それ以上の反響を得るにはパブリッシングやマーケティングがどれだけ刺さるかが重要になってくる。『鉄拳』プロジェクトはとくにその部分を意識しており、パブリッシングやマーケティングによる“届ける力”で何ができるかを考えているという。

メーカーの枠を超えたコミュニティ、新世代の誕生、そしてAI。原田氏が見据える対戦格闘ゲームの未来

 ここからは原田氏の語る対戦格闘ゲームの未来についての話。最初に原田氏が「勝手な夢」として語ったのは、“新しいコミュニティ形成”だ。現在、さまざまなタイトルにラウンジ機能が搭載されているのは、何かを真似た結果ではなく、オンラインにコミュニティが必要だという意識がユーザーや開発者のなかで育ってきたからこそではないか、と原田氏は考える。

 いまはタイトルごとに個別のラウンジが存在しているが、将来的にはバーチャル空間におけるゲームセンターのように、各メーカーが共通のラウンジを作り、そこに多くの人が集まれる、オンライン上のEVOのような場所ができたらおもしろいのではないか、というのが原田氏の考える未来のひとつ。対戦格闘ゲームというジャンルでひとつのマルチバース的仮想ゲーセンを、というのは夢がある話だ。
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 対戦格闘ゲームの未来を見た際に出てくるポイントとしてさらに挙げられたのが、“アーケード&ローカル対戦の呪縛から解き放たれた世代”の存在。『鉄拳』を含め、過去から続く作品はある意味では古く、その発想のルーツはアーケードのビジネスモデルにある。しかしこの時代に完全新作の対戦格闘ゲームを作るとすれば、根本的な作りかたが変わるだろう、というのが原田氏の見立てだ。

 基調講演のなかでもビジネスモデルがゲームデザインに深く関わってくる、という話があったが、いまから作るのであれば100円で何分遊ばせるか、といった縛りも存在しない。また、アーケードから続く対戦格闘ゲームは家庭用で出した際、オンライン対戦時の遅延との向き合い方も大きな課題だ。そこについても過去のプレイフィールを保たなければならない、というある種の呪縛がないため、現在の環境に適したシステムやコンテンツが期待できるのでは、と原田氏は語る。
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 そして、未来の展望として最後に触れられたのが“AIの進化によって変わるもの”。『鉄拳8』ではプレイヤーの動きを分析し再現する“AIゴースト”機能が搭載されており、これに関連したとあるエピソードがある。あるユーザーが、「亡くなった弟のAIゴーストを保存したい」と声を上げ、それに開発陣が応えたのだ。
 上記のエピソードのように、プレイヤーのクセや人格に近いものをAIとして残せることにはゲームを超えた価値があるとしたうえで、対戦ゲームはやはり同程度の腕前で競い合っているときがいちばん楽しい、とも原田氏は語る。そのうえで、オンラインで対戦する相手、ライバルとなる存在は必ずしも人間である必要はないのではないか、というのが氏の考えだ。

 これは対戦格闘ゲームに限ったことではなく、たとえばMMORPGなどでも、AIがパーティーメンバーがとして参加し、人間と遜色ないレベルで会話をしつつプレイヤーをイベントに導いてくれるなら、それもひとつの最適解であると言える。コストダウンの面でもAIには期待がかかっているが、同時にプレイヤーとゲームの関わりかたにおいてもAIがもたらす変化があるのではないか、とのことだ。
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 「自分たちの世代が現役で開発を続けられる時間は10年も残っていない。その自分が未来を語るのはどうなんだ」と、原田氏。それでも、今後も若い世代が期待を持てるような機能は出てくるはずであり、自分自身今後の発展を願っており、そのためのサポートもがんばっていきたいと意気込む。CEDEC2024でも『鉄拳8』のセッションは複数展開するので、そちらも楽しみにしてほしい、と宣伝も織り交ぜてセッションを締めくくった。
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集計期間: 2025年04月25日01時〜2025年04月25日02時