なお、当初は生出演する予定だった原田氏だったが、某国の皇太子に名指しで呼ばれたということもあり、基調講演としては珍しく録画講演というかたちを取っている。

30周年を迎える『鉄拳』シリーズの実績
原田氏が関わった作品は数多く、『鉄拳』シリーズのみならず『ソウルキャリバー』シリーズや『ポッ拳』、『VR サマーレッスン』など有名タイトルが並ぶ。マーケティングプロデューサー、プロダクションディレクターとして携わったタイトルも含めれば、『エルデンリング』や『テイルズ オブ アライズ』など、近年でも注目を集めた作品が多く挙げられる。


- もっとも長く続く3D格闘ビデオゲームシリーズ
- もっとも長く続くビデオゲームの物語
本シリーズが持つギネス記録は非常に数多く、そのほかにも“バーチャルカードゲームになった初めての格闘ゲーム”、“作中に登場する技数がもっとも多いゲーム”なども。ギネス世界記録の公式ページで“TEKKEN”の記録を検索すると、その数はなんと1234件にも上る。ほかのタイトルが持つ記録は100件程度とのことで、10倍以上の差というのはすさまじい。






販売実績はプレイステーションが代替わりするごとに世代を分けるかたちでまとめられていた。第4世代にあたる『鉄拳7』は1200万本以上を売り上げるなど、長期間に渡りシリーズとして成長を続けていることがわかる。




対戦格闘ゲームにおける2Dと3Dの違いとは
3D対戦格闘ゲームが登場したのはポリゴンの黎明期であり、当時3D対戦格闘ゲームはある種ベンチマーク的なソフトとして、各社が技術を模索していた時代だった。ゲームとしてのルーツは2D対戦格闘ゲームにあるものの、2Dと3Dは似て非なるものである、と原田氏は語る。
当時は2D対戦格闘ゲームはドット絵で描かれ、3D対戦格闘ゲームはポリゴンで、と見た目にもわかりやすかったが、現在ではどちらもポリゴンを使うのが当たり前になってきている。しかし2Dと3Dでの違いは表現部分よりも、ゲームの構造部分にあるという。

講演内では『鉄拳8』のデバッグモードでニューヨークステージがかなり引いた視点で映し出され、大きなマップのごく一部分しかバトルで使用していないことが明かされた。バトルで使わない部分は、ほかのモードで利用するから作り込んでいるのではなく、そこまでしないとしっかりとした奥行が出せないのだという。この部分を見るだけで、構造的に2Dとは大きく異なる、というのは一目瞭然だ。


背景の作り込みはニューヨークステージのような開けた場所だけの話ではない。格納庫のような閉鎖空間であっても、壁を突き破ったり段差から落ちたりというステージ移動がある。そのなかで情報密度のある背景を作るため、かなり大きな背景が必要となるそうだ。


背景と並んで2D、3Dで大きく異なる点として挙げられたのが、コリジョンとヒット処理の部分だ。2Dの場合は各種判定をXY座標で正確に判定できるが、3Dの場合はそこに奥行が加わるために複雑化する。『鉄拳』シリーズが悩みを抱える部分でもあり、シリーズを通して作りかたを変えてきているのだという。





同じ攻撃が当たったり当たらなかったり、あるいは攻撃が叩きつけ判定になったりならなかったりと、同じ筐体でプレイしていても判定にブレが生じるケースがあったという。バグかどうかもわからないなかで調査を進めたところ、その店舗の電源が不安定で、電圧が落ちた際にCPU処理が影響を受け、ヒット判定に誤差が生じていたのだという。こういった苦労もある意味で3Dならではと言えそうだ。



数十人規模の大会から世界ツアーへ。コミュニティを育て見守ることの重要性
欧米では返品制度があるため、リリース直後にユーザーたちからの批判的な声が大きくなると、小売店がマークダウン(値下げ)を行うか返品するか、といった2択をメーカーに迫ってくるという。メーカーとしては返品を避けたいため、その場合は値下げを受け入れざるを得なくなってしまう。とくにSNSが登場して以降はそういった動きが強まっており、メーカー側も流通に流して終わりではなく、コミュニティを育て、見守る必要性が強くなってきているとのことだ。

対戦格闘ゲームのコミュニティ大会も、20年前は数十人規模の小さなものだったが、現在では1タイトルだけでも数千人規模のエントリーがあるなど、その規模は比較にならないほど大きくなっている。変化を見届けるなかで、原田氏はコミュニティをサポートすることの大切さを実感したと語る。


現在主流となっている大会の多く、8割から9割は小さなコミュニティ大会が育った結果大きくなったものであり、コミュニティをサポートし続けたことが現在の状況につながる一因になっている、と原田氏は語った。




そして現在では世界大会の“TEKKEN World Tour”も開催され、EVOでは試合の実況を務めるコメンテーターもタレント化するなど、かつては考えらなかった規模でコミュニティが広がっている。


コミュニティの盛り上がりはファンたちの熱意があってこそではあるものの、それを支え育むメーカーの存在も同じように大きいのは確かだ。あらゆる業界に言えることかもしれないが、裏方として力を尽くす人々にもスポットライトが当たってほしいところだ。


格ゲー暗黒時代を生き抜いた戦略、SNS時代にユーザーへ作品を届ける力
日本でもゲームセンターの減少は取りざたされているが、欧米のそれはこちらと比較にならない速度で進んでおり、『鉄拳5』が出たときには日本で7000~8000台は売れていたものがアメリカでは100台程度しか売れなかったそうだ。


そこで『鉄拳』シリーズは各種ムービーの充実や、いわゆるおまけ要素と呼ばれるミニゲームの数々を入れ込んでいった。コンテンツ全体を家庭用向けにシフトさせることで、家庭用ゲーム機市場における生き残りを図ったのだ。



第4の戦略として挙げられたのが、“多国、多地域、多人種、多思想にターゲットする”こと。先ほど家庭用版の売り上げでは“日本がわずか3%”という話もあったように、本シリーズは世界各国で売れているタイトルであるため、各地域のターゲットに刺さるようなものを考える必要があった。
一見すると『鉄拳』には日本人からするとピンとこないキャラクターもいるかもしれないとしつつ、それらもマーケットを分析しながらアプローチした結果であると原田氏は語る。ターゲットはアニメ好きなど、ナショナリズムに関係なく捉えられる“層”なのか、特定の地域や国に根ざした“域”なのか、あるいはそれらが絡み合った複合的な存在なのかを市場分析から読み取り、そこに対してアプローチをかけるのだという。

『鉄拳』プロジェクトの戦略として最後に挙げられたのが、“クリエイティブだけでなく「届ける=パブリッシング&マーケティング」を考える”という発想。沈黙は金、という言葉があるようにかつては問題が沈静化するのを待つのが賢明と考えられていたが、現在はそれがむしろ悪手になることも。よって、スポークスマンを立てることの重要性が高くなっている。
コミュニティの信頼を得るには無難な告知をするだけでなく、評価された部分、逆に評価されなかった部分も含めて発信することが大事。テレビCMが出ることをSNSで告知する、といった手法だけではゲームファンから支持を得ることは難しいという。


メーカーの枠を超えたコミュニティ、新世代の誕生、そしてAI。原田氏が見据える対戦格闘ゲームの未来
いまはタイトルごとに個別のラウンジが存在しているが、将来的にはバーチャル空間におけるゲームセンターのように、各メーカーが共通のラウンジを作り、そこに多くの人が集まれる、オンライン上のEVOのような場所ができたらおもしろいのではないか、というのが原田氏の考える未来のひとつ。対戦格闘ゲームというジャンルでひとつのマルチバース的仮想ゲーセンを、というのは夢がある話だ。

基調講演のなかでもビジネスモデルがゲームデザインに深く関わってくる、という話があったが、いまから作るのであれば100円で何分遊ばせるか、といった縛りも存在しない。また、アーケードから続く対戦格闘ゲームは家庭用で出した際、オンライン対戦時の遅延との向き合い方も大きな課題だ。そこについても過去のプレイフィールを保たなければならない、というある種の呪縛がないため、現在の環境に適したシステムやコンテンツが期待できるのでは、と原田氏は語る。

これは対戦格闘ゲームに限ったことではなく、たとえばMMORPGなどでも、AIがパーティーメンバーがとして参加し、人間と遜色ないレベルで会話をしつつプレイヤーをイベントに導いてくれるなら、それもひとつの最適解であると言える。コストダウンの面でもAIには期待がかかっているが、同時にプレイヤーとゲームの関わりかたにおいてもAIがもたらす変化があるのではないか、とのことだ。




















