異なる能力を持ったエージェントを操作し、5対5で戦うオンラインFPS『 VALORANT 』。もともとはPC版が配信されており、2024年8月3日にはプレイステーション5(PS5)とXbox Series X|S版の正式サービスがスタートした。 ファミ通ではコンソール版の開発ディレクターを務めるアーナー・ギルファーソン氏にインタビューを実施。開発の経緯やPC版との違いを語っていただいた取材動画を公開中だ。 本記事ではそのときにお聞きした内容を読みものとして再編集している。映像とは構成が異なる部分もあるので、合わせてチェックしてほしい。
VIDEO
アーナー・ギルファーソン
コンソール版『VALORANT』開発ディレクター。文中ではアーナー。
平岩康佑
元朝日放送アナウンサーのゲームキャスター。本動画ではインタビュアーを担当している。文中では平岩。
チームの情熱があり1年でコンソール版への移植に成功 平岩
コンソール版を開発するに至った経緯を教えてください。
アーナー
PCでもコンソールでも、どんなゲームの媒体でも、競技志向の高いプレイヤーは競い合う傾向にあります。 『VALORANT』 の4年間の成功を考えると、PCのような体験をコンソールにもお届けしたいと思ったのがきっかけでした。
平岩
具体的にはコンソール版の開発はどのくらいから始まったのですか?
アーナー
「コンソール版をどういう風に作れるか」という実験的なことは2年~2年半くらい前から進めていたのですが、本格的な開発を始めたのは1年ほど前からになります。
平岩
1年と聞くとすごく短く聞こえます。コンソール版に移植する場合、そのくらいの期間でできるものなのですか?
アーナー
実際、1年で移植するのはかなり早いでしょう。チームが情熱をもって取り組んでくれて、 『VALORANT』 の体験自体をコンソール機に持っていけたということを実感した瞬間に、「がんばって出そう!」とチーム一丸となって思いました。そういう意味ではチームに感謝していますね。
平岩
ちなみに、コンソール版の開発メンバーはパッドのプレイヤーが多いのでしょうか? それともキーボード&マウスのプレイヤーですか?
アーナー
その質問に関してはおもしろい話がありまして。開発初期はほとんどがPCプレイヤーだったので、もともとゲームパッドで遊んでいるゲーマーを増やしてもキーボード&マウスのプレイヤーが多く、9:1くらいの割合からスタートしました。ただ、そこから開発していくうちにキーボード&マウス派だった人がゲームパッドを持つようになり、いまでは5:5ほどの割合になっています。 『VALORANT』 はPC版でもコンソール版でも「同じ 『VALORANT』 だ」という感覚があるので、コンソール版で遊んだら今度はPC版で遊んだり、その逆があったりと、最終的には切り替えて遊べるくらいには到達できたと思っています。
平岩
このインタビュー前に、私もコンソール版を遊ばせていただきました。パッドでプレイすると、ふつうは感覚が変わるものだと思いますが、「 『VALORANT』 だなー」と感じたんです。その理由がいまの話を聞いてわかりました。ネイティブなパッドプレイヤーのように、自分のエイムに自信を持って 『VALORANT』 をできている感じがすごく楽しかったです。
アーナー
おっしゃる通り、ただボタンを割り振ってゲームパッドで遊べるようにするだけでなく、 『VALORANT』 そのものの体験をお届けするということが重要だと考えています。
アーナー氏のレクチャーを受けながらコンソール版をテストプレイする平岩氏。
アーナー
(6月15日からスタートした)β版はプレイヤーも同じように共感してくれているのか確認するためのものでもありました。いまのところプレイヤーもデベロッパーも同じ感覚で遊べる 『VALORANT』 を、コンソール機に持ってこれたという実感はあります。
平岩
ボタン操作に迷わない点は大きいですよね。キーボードではどのキーがどんな操作に対応するか迷うことがありますが、ゲームパッドなら本能的にわかる。初めてプレイしたのにスムーズに遊べて、すごく入りやすかったです。
アーナー
ゲームパッドでのプレイヤーをすぐに迎え入れるために、どこかで遊んだことがあるような慣れ親しんだボタン配置にしつつ、 『VALORANT』 に最適な配置になっています。 素早く射撃したりアビリティを撃ったりできるように最適化しつつも、プレイヤー独自のプレイスタイルがありますので、それにも対応したい。コンソール版でもボタン配置を変えたり、複数のプリセットも用意したりしています。
“フォーカスモード”開発秘話 平岩
コンソール版とPC版の違いはどんなところになりますか?
アーナー
コンソール版を作るにあたって、まずは「ゲームパッドの限界って何なんだろう」と考えました。たとえば、フラッシュを投げられたらどういう風に避けるか、アビリティを撃ってからエイムをし直すときはどういう動きをするのか。 そういった点を考えながら開発を進めていき、その違いはおもにふたつあることがわかってきました。ひとつ目は“フォーカスモード”です。これはかなりカギとなる要素なので、後ほど時間をとってじっくり話させてください。ふたつ目はPC版と比べてすごくマイナーなバランスチェンジをしていることです。たとえば、コンソール版の方がレイナのリーアを破壊するとき弾数が少なくなっています。
アーナー
どうしてこういうことをしたのかというと、先ほども言った通り、PC版とコンソール版で同じ体験、同じようなプレイを目指したからです。敵のレイナにリーアを使われたとき、プレイヤーにはふたつの選択肢があります。ひとつはそのリーアを撃つ、もうひとつはリーアを無視して先にレイナを撃つ。 この選択肢があるときに、プレイヤーが何を考え、選択し、結果として何が起こったかという時間の感覚を同一にしたい。これがいちばんの優先事項だったので、そういった目的からレイナのリーアを破壊するための弾数を減らすなどの細かいバランス調整が行われています。
平岩
いまのお話にもありましたが、大きな特徴であるフォーカスモードはどんな意図で作られたのですか?
アーナー
フォーカスモードは簡単に言うと左トリガーを押すと感度が下がるモードです。なぜそのフォーカスモードを取り入れなければいけないのか。それは、 『VALORANT』 というのはすごくハイスピードなゲームで、つねに索敵のために周りを素早く見渡せなければいけないからです。どこに敵がいるのか、相手の罠が張ってあるのか、瞬時に判断したい。 マウス&キーボードなら手首を頼りに動かせますが、ゲームパッドの場合はスティックに頼らなければいけないところがあります。そのため、素早く索敵したあとに精度の高いエイムをするのは、どうしてもハードルが高い。感度を瞬間的に切り替えられたら、早い索敵から素早く精度の高いエイムに移ることができる。そういった動きを実現するためにフォーカスモードを開発しました。
平岩
フォーカスモードはすごい発明ですよね。実際に使ったら、壁の際にエイムを置いているときに、遠くにきたリコンボルトを壊してエイムし直す動きがナチュラルにできました。ゲーム中に感度を変えるというのは、ほかのゲームにはなかったのでは。感度を変えるというのはどんなアイデアから生まれたのですか?
アーナー
まさに、いま仰った状況が「フォーカスモードを作ろう」と思ったきっかけですね。もともとこういったモードを開発しようとしていたわけではなく、大きな問題があったため、それに対する解決策を探していました。
アーナー
PCのマウス&キーボード操作なら簡単なことがゲームパッドでは難しくなる。リコンボルトを撃たれて敵もやってきている状況で、どちらにも素早く対処しないといけない。開発当初の段階では物理的な限界があり、どうやってもどちらか片方しか対処できない。この操作感(から生じるストレス)は 『VALORANT』 らしくないと考えたので、実験や開発を重ねていった結果、フォーカスモードに到達しました。 移植したてのときにテストプレイをしたら、 『VALORANT』 を遊んでいて心地はよかったけど、最高ではなかったんです。そこにフォーカスモードを加えたことで、プレイ感覚が最高になったのです。
平岩
コンソール版が出ると聞いて、私の個人的な予想では、すごくエイムアシストの強い 『VALORANT』 になると思っていました。ですが、フォーカスモードはそれを越えてきた。これは本当に天才的な発明です。
アーナー
『VALORANT』 の重要なポイントは、(戦術が)成功するか失敗するかはプレイヤー次第ということ。ゲームパッドの操作感で勝ち負けが決まるわけではなく、あなた次第であるという事実を提供したかったのです。
エイムアシストは軽く、グラフィックは妥協せず、チート対策は徹底的に 平岩
フォーカスモードで腰撃ちの感度が下がるというお話を伺いました。エイムアシストがかかった腰撃ちなのか、ただ感度が下がっているだけなのか、どのように調整されているのでしょうか?
アーナー
基本的にはプレイヤースキル次第で結果が変わるようにしたいので、エイムアシストを強めてそこの自由を奪いたくはありません。
平岩
エイムアシストは独特なように思えます。アシストがかかる範囲が狭いぶん強いように感じたのですが、どんな調整をされたのですか?
アーナー
(コンソール版 『VALORANT』 の)エイムアシストはすごく軽いものです。操作の入力を補うために入れているだけなので、自分のスキルが上達していく実感を味わえるはずです。
平岩
ちなみにバニーホップ(※)やストレイフ(※)など、ゲームパッド独特の操作はできるのでしょうか?
※バニーホップ:連続ジャンプして高速移動するテクニック。
※ストレイフ:横に移動しながらジャンプし、空中でマウスを同じ方向に振って加速する移動方法。 アーナー
技術的には可能ですが、ゲームパッドでバニーホップをするのは非常に難しいです。ですが、タイミングと操作をきっちり合わせれば実現できるでしょう。ネオンをプレイしたことがある人ならわかると思いますが、高速移動やスライディングなど可能ですよね。どちらもゲームパッドで可能ですが、成功させるのは非常に難しいと思います。
平岩
コンソール版の体験をよくするためにエージェントによって調整がされているとのことでした。その調整がメタ的に影響を与えたり、コンソール版だけの環境ができあがったりしていくと思いますか?
アーナー
基本的にゲームの本質は変わらないと思います。コンソール版でもPC版でも同じような 『VALORANT』 をプレイしているんだという感覚を持ってほしくて、そのために微調整をしているので、それでメタを変えることは目的ではありません。
平岩
それは日本のユーザーにとってすごくいいと思っていて。日本のユーザーは毎週のようにVCT(VALORANT Champions Tour)を応援しているけど、本人はプレイしたことがない人もたくさんいると思います。そういう人にとって、選手が使っているエージェントやスキルの使い方、マップの定点で同じ体験ができるのはすごくいい経験になるのでは、と。
アーナー
そうですね。やっぱり 『VALORANT』 ファンとしてeスポーツのプロプレイを見て勉強したり、共感できたりすることをすごく大事にしています。
平岩
ゲームをプレイしたときに、フレームレートなどパフォーマンスが安定していて、(遅延などが)気にならないくらいナチュラルに操作できました。そういった部分での苦労はありますか?
アーナー
絶対に妥協は許さないと考えていました。ハイパフォーマンスレンダリングと安定した120fpsは絶対に必要です。結果として、4Kの解像度でも安定した120fpsを実現できたので、それはすごくうれしいです。もちろん簡単なことではなかったですね。
平岩
チート対策はユーザーがかなり気になるところだと思います。マウスをつなげるコンバーターも含め、どんな対策を立てているのですか?
アーナー
PC版でも 『VALORANT』 のチート対策チームはトップクラス。そのPC版のチームがすでに自分たちの技術をコンソール版に提供しています。なので、インプット偽装の確認からBANまでをベータ版から行っています。もちろんコンペティティブモードのチート対策というのは絶対に優先しています。
平岩
日本のプレイヤーはそういうことにセンシティブです。すでにベータ版でチートやコンバーターが検出されたことがSNSでバズってましたね(インタビューはリミテッドベータ期間中に実施)。
アーナー
すでにゲーム中のBANは開始していて、あとはBANウェーブをすることによって、チートを未然に防ぐようにしています。
平岩
『 リーグ・オブ・レジェンド 』(LoL)もそうですが、チート対策や暴言対策に関してライアットゲームズとして責任を持ってくれている。その点はプレイヤーの安心につながると感じています。 アーナー
そうですね。暴言対策などをしっかりして、コンペティティブなスペースを大事にし、安心して遊べる、自由に遊べる、自分の周りのチームメイトが守られる。そんな環境を保証していきたいです。
競技志向を持ったコンソールゲーマーのために 平岩
PC版も含めてですが、今後のアップデートを見据えたビジョンや、コンソール版をこういう風に進化させたいという展望を教えてください。
アーナー
コンソール版とPC版は同じにしたいので、2週間おきにアップデートが入り、新しいエージェントやエピソードの更新を全部同じにすることが目標です。そのために、ベータ版ではハイレベルなコンペティティブのシーンにもコンソール版が向いているのかということを観察しています。
平岩
コンソール版で初めて 『VALORANT』 に触れる人が日本でもたくさん増えると思います。おすすめのエージェントや武器を教えていただけますか。
アーナー
いちばん簡単な答えは「使っていて楽しいキャラで遊んでください」。でも、それだと質問の答えにならないですよね。最初から遊べるエージェントたちはほかと比べて癖がなく使いやすいので、その5人の中から始めるのがいいと思います。 あとは、自分のプレイスタイルに合う、使っていて楽しい、自分のやりたい目的を達成できる、そんなエージェントもおすすめですね。アグレッシブなプレイヤーはジェットが使いやすいと思いますし、索敵やサポートしたいプレイヤーはソーヴァがいいと思います。
平岩
Arnarさんがふだん使うエージェントや自身のプレイスタイルについて教えてもらえますか?
アーナー
勝ちにいくことは前提として、カジュアルにリラックスしているときはレイズをプレイするのが好きで、すごく真剣にやりたいときはソーヴァで守りに入ってチームに貢献、というスタイルで遊ぶことが多いです。
平岩
いままでの 『VALORANT』 はすごく緻密で、プレイするのがたいへんなイメージがありました。コンソール版は気軽に楽しく遊べたので、すごく新しい感覚です。
アーナー
PCのキーボードとマウスは、動画を見たり、宿題をしたり、仕事をしたり、いろいろな用途で手に取ります。コンソール版で“気軽に楽しく遊べた”と思われるのは、ゲームパッドというものの存在が大きいのでしょう。ゲームがしたいときに手に取るものですからね。
平岩
いろいろなタイプの人に気軽に遊んでもらいたい思いがあるので、すごくいい体験になりました。
アーナー
『VALORANT』 は真剣に競争する(勝ちを目指す)ゲームですから、ハイストレスな状況もたくさんあると思います。ただ、競技志向の強い、真剣勝負がしたいプレイヤーは、PCだけでなくコンソールにも絶対いるはず。この『VALORANT』というゲームはコンソールプレイヤーが求めていたゲームに仕上がっていると思います。
平岩
最後に、日本の 『VALORANT』 ファンと、ゲームファンに向けてメッセージをお願いします。
アーナー
日本のファンの皆様やゲーマーの方々は本当にゲームが好きで、すごく情熱的で、ものすごく熱心に 『VALORANT』 を遊んでくれて、コンソール版もものすごい数のプレイヤーに遊んでいただいて、とても感謝しています。ありがとうございます。 『VALORANT』 はコミュニティのためにあり、そして、コミュニティといっしょに作っていくゲームであると思っています。コンソール版についてのフィードバックをどんどんください。うまくいったことを知れるとうれしいですし、同時にここはもうちょっとうまくできるなというところの意見もいただければ、よりいいゲームになっていくと思います。