
あの! 『同級生』が! である。オリジナル版は1992年にWindows以前のPCで登場したアダルトゲーム。女の子が抱える悩みと向き合いながら仲を深めていく恋愛アドベンチャーで、そこからエッチな要素を抜いたものがプレイステーション4(PS4)/Switchにやってくる。
発売日は2024年4月18日。この日を僕らのノーエッチ記念日としよう。
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僕は1995年にプレイステーション版『ときめきメモリアル』で恋愛ゲームの何たるかを知り、その数年後に『To Heart』で人生が変わった男だ。だけど『同級生』は何となく遊ぶタイミングを逃していた。
恋愛ゲームの礎を築いた名作だけに、信仰にも似た感情があって遠ざけていたのだと思う。何やらすごいらしいという漠然としたイメージ。おそれ多い。でも興味はあるので誰か背中を押してくれないか(現実的な理由もある。当時はお金がなくて買えなかった)。
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そのきっかけこそが『同級生リメイクCSver』だ。発売前に遊んで感想を書いてみないかとお誘いいただいたので、これはと腕まくりをしてPS4を起動した次第である。
キャラクターデザインはオリジナル版を手掛けた竹井正樹氏のデザインをベースに、すめらぎ琥珀氏が担当。シナリオも現代に合わせて調整済み。どれだけむずむずさせてくれるのか。
初めてプレイした『同級生』は、とても青かった。みんな気をつけろ。真正面から全力で青春を叩き込んでくるぞ。
よしこ先生に見るエポックメイキング
街中できれいな人に声をかけ、知り合いの女の子や学園の先生にちょっかいを出す。会話で好印象を与え、何度も顔を合わせて打ち解けていく。ゲーム的に説明すると“会話でフラグを管理するアドベンチャー”といったところ。
いまとなってはオーソドックスなこのシステムが、1992年当時にすでに完成されていたと思うと少し感動する。『同級生』が恋愛ゲームをひとつ前に進めたのは間違いない。
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さて、難しいことは横に置いて先にやることがある。キャラクター一覧の凝視だ。美少女ゲームでいちばん高まる瞬間。誰がいい? 誰が好き? と、修学旅行の消灯時間後にふとんをかぶって話し合うと言われる都市伝説が自分の中で自動的に始まるのだから人間とはふしぎなものである。
僕は最初におっぱいが大きくて目つきの強い年上お姉さんキャラを探す。今年45歳の僕にとってたいていのお姉さんキャラは年下なのだが、おたくには“年下の年上のお姉さん”という概念があるので問題ない。
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年下の年上のお姉さんから「こぉ~らっ」と言われたい気持ちは常日頃から抱いており、同時に中年男性がそれを解き放つことがはらむ社会的な危うさにもうっすら気付いている。
それでも走り出した想いは止められないのだから、人間の心とは複雑なものとご理解いただくしかない。
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とはいえ世間は甘くない。多くの美少女ゲームにおいてお姉さん枠は垂れ目のおっとりキャラで埋まっているのである。希望を胸にアニメやゲームのキャラ一覧を眺め、そのたびに「また垂れ目のおっとりお姉さんしかいないのか……」と打ちひしがれてきた。
だがしかし、『同級生』は違う。祝福のファンファーレが高らかに鳴り響く。櫓に上ってカーンカーン! と鐘を打ち「てえへんだー!」と大声を上げる。垂れ目じゃないお姉さんがふたりもいるのだ。そんなことあっていいのか。人はこれを奇跡と呼ぶ。
かくて革命は成し遂げられた。いや、これは30年以上も前のできごと。我々は『同級生』が切り拓いた地平で生を享受しているにすぎないのだ。
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決めた。眼鏡っ娘で年上でキリッとした目つきがすてきなロイヤルストレートフラッシュこと芹沢よしこ先生で行く。自分やれます! コーチ、やらせてください!
女の子のもとに通い詰める3週間
まずはクォータービューの街を歩き回って女の子を探す。マップにアイコン表示された女の子のもとを訪れると会話イベントが発生。恋愛とは足で行うものなので、僕はよしこ先生のもとに足しげく通った。
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重要なイベントフラグは一覧で確認できるので過剰に通い詰める必要はない。でも、よしこ先生に会いたいのだから仕方ない。これを衝動と言う。会うたびに眼鏡を調べて眼鏡お姉さんのよさを確認する。眼鏡をかけたうえに上目遣いで見上げていただき、とてもありがたい。
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建物に入ったり誰かと話したり、“画面が切り替わる”行動を取ると一定時間が経過。オブジェクトに触れてメッセージが出るだけでも10分ほど経つのは少し困ったが、時間の管理にはそれほど神経質にならなくていい。
女の子ごとの予定は余裕をもって組まれていて、たいていのイベントは仮に時間を過ぎても後ろにスライドされるからだ。多少は時間にルーズでも相手をしてくれるほどに女の子たちは優しい。
ただし、これはひとり(あるいは少人数)の女の子を追いかけるときの話。複数の女の子といい関係になることもでき、その場合はイベント巡りのスケジュール管理が重要だ。とんだプレイボーイである。
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一途な男に優しい本作はイージーモードが標準。女の子がいる場所やイベントフラグ一覧を確認できるほか、選択肢による好感度の上下まで表示される。
オリジナル版の難度で遊べるクラシックモードに切り替えると途端に不安に襲われる。どこに誰がいるのだろう。つぎは何をすればいいんだ。わからなくなるからメモを手放せない。スマホを忘れたときと同じ心理状態だ。
僕より上の世代の美少女ゲーム好きは一生懸命に恋愛をしていたんだなと感じ入った。それも楽しいだろうな。
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ちなみに、マップでアイコン表示されないところにも誰かがいることがある。何気ない会話の中に伏線が貼られていたりして、これがまたおもしろい。点と点がつながる快感。
すべてを把握しようとするとローラー作戦的に町内を回ることになる。不親切な仕様に感じる人もいそうだが、僕はこのムダに思える行為が楽しかった。明確な目的はないのだけど、何かおもしろいことがあるような気がして、ただただ彷徨う。その無鉄砲さと空回りもまた100%の青春だから。
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きちんと“大人”として描かれるお姉さんたち
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本作は衝撃的な事件とはあまり縁がない。だってそうだろう。ドラマはそうそう起きないものだ。急な事故には巻き込まれないし、憧れのあの子は生き別れの妹じゃないし、特別な力にも目覚めない。
ヒロインのひとりが大富豪の令嬢だったり近所に物憂げな着物美人が住んでいたりと、やや浮世離れした展開もあるが、大筋はあくまでふつうの夏休みだ。裏を返せば、“奇をてらわなくてもおもしろいゲームは作れる”というクリエイターの自信の表れなのではないか。
果たして、それは正しかった。僕にはそう思える。
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最初の1週間は“ここから青春恋愛ドラマが始まりますよ!”という助走の期間。波風はほとんど立たず、あちこちに顔を出して女の子と関係を深めるための種をまく。2週目頃から徐々に盛り上がり、会話を重ねるごとに彼らの悩みが浮かび上がっていく。
学生を中心とした青春物語に深みを与えるのは“大人”の存在だ。ゲームタイトルは『同級生』なのに、14人のヒロイン中9人が年上の女性。思春期特有の“大人への憧れ”を表現しているのだろうか。
基本的に大人たちはしっかりしていて、言動の端々から年下への気遣いが見て取れる。同世代の子は急な進展があるとびっくりしてしばらく避けられたりするのだが、お姉さん方の中には変わらず接してくれる人もいる。大人の余裕。
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もともとはアダルトゲームということで、関係を持ったであろう描写もある。その後、主人公は未練たらたらなのに、お姉さん側はどこかドライ。でも心を閉ざしているのではなく、深入りは主人公のためにならないからと、あえて一線を引いているように感じられた。
きっと大人たちからすると主人公は庇護すべき対象なのだ。彼は軽薄に見えて芯があり、軽口を叩くのは年上や気安い仲間が中心。それは相手を“甘えてもいい人”と認識しているからだと思う。信頼と言い換えてもいい。
一方で、憧れの存在である桜木舞(前述のお嬢様)と話す際に緊張する様子は微笑ましく、友人の素行をたしなめるなど良識的な一面も見せる。へらへらしているわりに悪印象を受けにくいのだから、見守りたくもなるというもの。
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主人公の悪友・一哉も同様だ。仁科くるみというかわいい恋人がいるにも関わらず、ゲーム序盤から別れをほのめかす。理由は“何もさせてくれないから、させてくれそうな人と付き合いたい”。
言葉にするとなかなかのくずだが、若い男なんてこんなものかもなという気もする。うろたえたり後悔したり、根っからの悪人というより若さゆえの浅慮。どうしようもないやつだなと呆れつつも、かわいげがあるので笑ってしまう。
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人は恋愛で変わっていく。とくに若者の心の変化を感じ取る瞬間は心地いい。むずがゆくて「あー!」と声を上げてしまう。
特別な関係になったことで「自分はあの人が好きなんだ」と勘違いすることもあるだろう。それはある種の“精神的な幼さ”であり、僕らが失くした純真でもある。そんな儚い宝物を俯瞰で見る年齢になった自分にも驚いたが、きっとこれは成長というより加齢だ。
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彼らの恋愛に触れた僕の中には多くの感情が渦巻いた。説明が控えめなので想像が掻き立てられる。昨今の恋愛アドベンチャーに多い”ビジュアルノベル”タイプなら小説並みの文章量で丁寧に描写できるが、『同級生』には状況を説明する地の文が少ない。それだけプレイヤーの想像を行きわたらせるための余白が多い。
たとえば、いい女の化身こと校医の真子先生。艶めいた雰囲気からいかにも男子生徒を誘惑しそうだが、本人はとても誠実だ。「いまのうちに恋をしたほうがいい」や「髪を染めてみたら?」など先生とは思えない発言も多く、少し言葉をかわすだけで、人を上っ面で判断しない成熟した大人であると理解できる。
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真子先生はすてきな人だなとゲームを進めていると、妹の亜子について話すときがいちばん魅力的なことに気づく。このときだけは保健の先生から“お姉ちゃん”になるのである。言葉の端々に心配性なニュアンスが含まれ、これがとても暖かい。妹を大切に思っていることが伝わってきて、好きな人が優しいと何だかうれしくなってしまう。
直接的に説明されることは少なく、ただ空気が変化するだけ。丁寧に丁寧に、『同級生』は僕らの心に入り込んでくる。
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売り文句は何だろう
その挑戦は功を奏し、アダルトゲームファンに限らず幅広い支持を獲得。1995年にはPCエンジン版、1996年にはセガサターン版と展開を広げている。物語を真摯に描けばノーエッチでも十分戦える事実を証明した功績は大きい。
「だったら最初から全年齢向けとして作ればいいのでは」という声もあると思う。たしかにその通りだが、男女関係とアダルトな要素はなかなか切り離せないのもまた事実。ゲームクリエイターがプラトニックラブでは表現できない何かを求めたら、そりゃまあアダルトゲームを選ぶよなと思う。
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以上が僕の感想である。細かいところで言うと、エッチなシーンをカットした部分はもっと丁寧に描写してほしかったとか、方向キーにクイックセーブ/ロードが設定されているので適当に連打してるとロードが暴発するとか、気になる点はあった。僕の書きたいこととは違ったので本編では触れていないだけだ。
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友だちに進めるときの売り文句は何だろう。「伝説のゲームだからゲーマーなら遊ぶべき」か、それとも「泣けるからおすすめ」か。どちらも少し違う気がする。
ただ、美少女ゲームが好きなら触れておいたほうがいいとは思う。極端な展開がなくても登場人物にエキセントリックな極端な個性を持たせなくても心地いいドラマは作れる。圧倒的な文章量で心理を描写しなくても人間は描ける。ふつうの青春はどこか切なく、まぶしかった。
製品概要
- タイトル:同級生リメイクCSver
- ブランド:DG REMAKE
- 発売日:2024年4月18日(木)予定
- 価格:豪華版9240円(税込)/通常版5940円(税込)
- 豪華版同梱特典
- ビジュアルファンブック(16P仕様)
- 主題歌(OP・ED)フルver収録楽曲CD
- アクリルスタンド(桜木舞)
- 対応機種:Nintendo Switch/PlayStation4
- 販売区分:CERO D(17歳以上対象)
- ジャンル:恋愛シミュレーション