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『百英雄伝』60時間プレイレビュー。仲間集めの楽しさと異常なまでの作り込み。『幻想水滸伝』ファンの“あの日、見たかった夢の続き”がここにあった

byまさん

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『百英雄伝』60時間プレイレビュー。仲間集めの楽しさと異常なまでの作り込み。『幻想水滸伝』ファンの“あの日、見たかった夢の続き”がここにあった
 505 GamesとRabbit&Bear Studiosが、Nintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC用ソフトとして2024年4月23日に発売(※)するRPG『百英雄伝』。

 本作は、神秘的な力を秘めた“原初のレンズ”と、そこから巻き起こる戦乱を描いた壮大な戦記ファンタジーとしても期待されている作品です。シナリオを手がけた村山吉隆氏(以下、村山氏)の作品を愛するライターのプレイレビューをお届けします。

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※リリース初日からGame Passに登場。[IMAGE]

 2024年2月6日に亡くなられた村山氏をはじめ、かつて『幻想水滸伝』シリーズなどに携わってきたクリエイターたちが集結して開発された完全新作RPG『百英雄伝』。

 諸国連合の警備隊に入隊した青年ノアと、ガルディア帝国の若き士官セイ・ケースリング。ガーディアンの一員メリサの3人の主人公の運命が交錯し、100人以上の英雄たちが種族や出身を越えて集う。クラシックなJRPGのスタイルで懐かしく、近年では新鮮な驚きをもって迎えられる群像劇のRPGとなっています。

 ゲームのプレイにあたっては提供を受けたSteam版のコードを使用。推奨スペックも十分に満たしたゲーミングPCでプレイしています。発売前のベータテストバージョンとなるため、製品版とは一部異なる場合もあることをご了承ください。

本拠街に集う名もなき人々の群像劇と、交錯する想いを描く。あのころのように遊べるRPG

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 先に書いておくと、私は村山氏が手がけてきた作品の大ファンです。なので、信者補正のひいき目がかなり入ることをご了承ください。

 それくらい、多感な少年だった当時の自分が影響を受けたのです。ゲームライターという仕事をするきっかけのひとつにもなった大好きなシリーズを手掛けられた方の最終作とあっては、とても心穏やかに客観的な視点で遊ぶことができません。Kickstarterにもすぐに飛びつき、バッカーになって、ずっと、ずっと、待っていたものですから……。

 いまでこそ、ソーシャルゲームなどで大量のキャラクターが活躍するRPGは珍しくありません。ですが、100人以上の登場人物が個性を持って物語を紡ぎ、壮大な群像劇と胸躍る冒険もの。戦記としてのコンシューマーRPGとして独自の物を生み出し、いまもなおシナリオのファンが多いのが村山氏でした。

 本作でもイラストを手掛けられている河野純子氏をはじめ、本拠街に集う英雄たちのように再集結した『百英雄伝』スタッフの仕事は、ゲーム史に残るものだと言っても過言ではないでしょう。

 村山氏が独立したあとも、同氏が関わった作品は大なり小なりすべて追っています。しかし、本作のような戦争と絡んだ群像劇ではなく、物足りなさを感じていたのは否めません。心震える物語と、自分で使える大量のプレイアブルキャラクター。戦争をシステムとシナリオの両面から描く挑戦。拠点が大きくなっていく高揚感。

 さまざまな遊びが詰まり、周回して会話の差分や何気ない街の人たちのセリフから世界を深掘りできる。だから、何度も遊びなおしてしまう。そうした作品を求め続けていたのです。そして、村山氏の独立後から見続けていた夢をもう一度、『百英雄伝』は見せてくれました。

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 本音を言えば、もっとじっくり遊びたかったです。少年時代に戻ったかのように、ワクワクしながらプレイする時間をもっと大切にしたかった。Kickstarterの参加人数が多いため、世界中のバッカーの名前を3倍速で流しても時間がかかるスタッフロールを見ながら、私はレビューの仕事を受けたことに喜びと後悔を感じていました。いや、本当に長いですよスタッフロール。どれだけの人が待っていたのか……。

 でも、素直に遊んでよかったと思えた。楽しかったと心から思いました。

 できることなら仕事のレビューではなく、1ユーザーとして素直に遊びたかった。そう思うほどに、本作にはRPGを遊ぶワクワク感がありました。自分が求めていたあのころのRPGであり、そして同時にクラシックなスタイルのRPGでもある。戦力が充実する前の序盤がもっとも難しく、最初はダッシュやファストトラベルも解禁されていない。いまでは珍しい作りなので、こうした王道のRPGを知らない人にはやや古臭く感じられるかもしれません。

 だんだんと利便性が上がってくる作りがいい意味でもクラシックな懐かしさなのですが、当時を経験していないと「なぜ、途中から解禁できるのに最初から快適性が高くないのか?」と思うでしょう。ダンジョンは広く作られており、パズル的なギミックもしっかりあって、かなり広め。街や峠などの行ける場所も多く、いまの技術で当時遊びたかったRPGの続きをしている。そんな感覚すらあります。

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 バトルはランダムエンカウントですが、エンカウント率はかなり低め。敵が出すぎてイライラすることもありません。むしろ、仲間の加入条件でレアドロップのアイテムが必要な場合があり、そうした場合はエンカウント率の低さに困ることも。もっとも、そこをどうやりくりするかもゲーム性なんですよね。ゲームを進めていけば、エンカウント率を上げ下げするアクセサリーが手に入りますし、ドロップ率も向上するアクセサリーが手に入ります。自分でどうやって快適にしていくかを考え、拡張することで遊びやすさが上がっていく。そうした意味でもクラシックな懐かしさです。

 敵よりもレベルが低いと経験値の入手にプラス補正がかかり、育てていない仲間もちょっと戦闘すれば一気に追いつける。ここも懐かしいですね。ザコ敵でも攻撃が痛いのですが、回復アイテムを多めに用意すればゴリ押しも可能です。

 普段は“おまかせ”コマンドでオート戦闘に任せ、回復アイテムがぶ飲みなんてやり方も十分アリです。もっとも、アイテムの所持上限があるので拾えなくて悩む場面も。カバンの所持上限を増やせる英雄を探して、あっちこっちをウロウロ。ああ、なんだろう。こういう楽しさ、本当に懐かしくて早く終わらせたくない……。

 ギミックを駆使して攻略する(力押しでもダメージさえ入れば倒せます)ボス戦も、序盤はややシビアなバランス。レベル補正が強いゲームなので、鍛えにくい序盤は回復アイテムの持ち込みや武器の強化を怠ると苦戦するかもしれません。

 拠点となる本拠街を手に入れる前後くらいまでは、いろいろと大変です。本拠街が手に入る辺りから、装備できるルーンが増えていって強くなっている実感も湧いてきます。

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 特定のアクセサリーを装備する。専用の仲間を加入させる。(入手タイミング的に2周目用ですが)高速移動のルーンを装備することでダッシュが可能になったり、進めていくとファストトラベルも追加される。拠点内のワープも解禁される。アイテムの所持数なども増える。拠点の拡張とともに、どんどん世界が広がる。いまの時代だと当たり前な“最初から快適性が高い”ゲームではない。そこをあえてやっているからこその楽しさがあります。

 自分でも、忘れていたRPGのプレイ感であり、ワクワク感。仲間が増えていくことが直接的にもうれしくなる。タイパやコスパを追い求める現代では、あまり見なくなったスタイルです。敵とのエンカウント率は限りなく低いのですが、ランダムエンカウントなのも昔の仕様。いま時ではないのですが……しかし、その根本にあるおもしろさは、自分が求めた、あのころのあの味付け。

 望んでいた村山シナリオの群像劇であり、戦争のシステムがあり、ミニゲームがあり、ストーリーを進めるだけならまったく使わない膨大な仲間たちがいる。それだけでも満足できる作品でした。人間や獣人、モンスター。個性的過ぎる仲間たちが、ひとつの拠点に集う。コレですよ、コレ!

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 自分はゲーミングPCでプレイしたためか、ロード時間もほぼ発生していません。本当に懐かしいRPGがいまのグラフィックや質感と遊びやすさを伴って、眼前に出てきたような気持ちになりました。誤解のないように書いておきますが、レビューということであえて現代ではやや気になる部分を挙げてはいます。ですが、私自身はまったく文句なしに楽しめているのです。これは懐古的な感情ではなく、ゲームとして「これだよ、これ」という物が出てきたからですね。

 加入しないサブキャラクターまで含めたら、120人どころではすまない多彩な登場人物をドット絵で細かく作り込み、動きで見せるお芝居。心くすぐるわかりすぎのBGM。仲間をすべて集めきることはせず、ミニゲームのイベントを完遂していない状態でも1周目クリアーまでは約40時間。しっかりやり込めば60時間くらいのボリュームだと思いますが、最初から最後まで中身がギッシリです。

 シミュレーションRPG“風”であり、軍団コマンドをきちんと使いながら戦えば負けることはないと思われる“戦争パート”は、イベント戦闘に近い印象ながらも作品を盛り上げてくれます。掛け合いもよくて、軍師の策や敵の策略に心躍る。通常の戦闘だけではなく戦争パートがあるからこそ群像劇として特徴的な作品になっています。

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 ライバルと熱く信念をぶつけ合う“一騎打ち”も当然あります。とにかく派手に盛り上げ、ここぞという場面で入ってくるので熱い! そう、熱さが大事なんですよ。

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 キャラクターで魅せる作品ですし、予想よりも王道ながらおさえる部分はきっちりおさえているのは流石です。強さの中に垣間見える弱さと、策略家顔負けのしたたかさが素敵なぺリエール嬢。主人公を支えるお姉ちゃんのようなリャン先輩。好きなキャラクターは、本当に多いです。

 ちなみに、自分が好きなキャラクターは、リャン先輩とペリエール……も甲乙つけがたいのですが、ひとりだけ選ぶなら公式が開発中に行ったDLC3シナリオアンケートでも目立っていたミラン。本編でも意外な出番があります。

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 村山氏の戦記物を知らない人は誤解しそうなのですが、本作はシリアス一辺倒でも人間同士の戦いだけを描いたものでもありません。寄り道的なイベントもありますし、そもそも基本的には新しい場所へ行ってモンスターを倒す。ボスも人間だけではなく、巨大な怪物が出てくる。王道の冒険ものでもあるんですよね。

 普通のRPG的な流れもありながら、戦記物としても物語が進んでいく。一枚岩ではない人々の化かしあいが描かれ、大義や正義が描かれる。ああ、自分は村山作品を遊んでいるのだ。求めていたものが出てきた喜びがありますが、決して当時の模倣で終わってはいません。村山氏の作品を好きな人ほど意表を突かれたり、逆に納得できたり……? 知らない人には純粋に驚いてもらいたいですし、ここから昔の村山氏の作品に触れてもらうのもいいでしょう。

 もちろん、村山氏のシナリオだけが魅力ではありません。たくさんのスタッフの力があってこそ実現しているゲームの膨大なボリュームや作り込み。牧歌的で、中華風と洋風が入り混じる優しいグラフィック。語りたいことはいくらでもあります。

 多くの英雄が集う『百英雄伝』のように、遊ぶ人も含めて、さまざまな人の想いが形となったRPGなのです。惜しむらくは、村山氏の筆による続きを見ることは永遠に叶わないことでもあります。それでも、続きが見たいと思ってしまった。もっと、リャン先輩に起こしに来てほしいと思ってしまった。さらに違う地方の物語に興味が湧いてしまった。もっと、オールラーンの世界に浸っていたかった。そう感じたことがとても悲しく、そして同時に本作がおもしろかった証拠でもあるので、うれしくもありました。

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仲間集め、本拠街でのミニゲーム、2周目以降のセリフ差分。異常なまでの作り込み

 『百英雄伝』に期待している人が気になる部分としては、やはり仲間集めでしょう。本作は、かなり早い段階で全員を集めるべきだと示唆されます。仲間集めのヒントをくれる占い屋に行くと、全員集めるとどうなるかがほのめかされています。

 とはいえ仲間集めはとても大変。占い屋のヒントなしにはわからないキャラクターもいれば、ヒントがあっても「条件のアイテムが手に入らない!」「何が条件なのかわからない!」「ミニゲームが本気過ぎる!」と悲鳴をあげることも。ベーゴマとカードバトルはやり過ぎでしょ!

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 でも、それが嫌じゃないんですよね。何より「集めなきゃ!」という気持ちになるくらい仲間たちが個性的。パーティに入れている仲間は、サブキャラクターでもイベント中にひと言喋って参加してくれますし、ちゃんとボイスもあります。

 ドロップ率が上がるアクセサリーを装備して走り回り、ヒントから条件を推測して仲間を連れて行ったり、この感覚が懐かしすぎて……。もう私、最初に仲間集めを始めた時点で泣いちゃいましたよ。これをやりたかった。本当に長いこと待ち望んでいた。ガチャとかじゃなく、自分の足で仲間を捜し歩くんだ!

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 ただ、施設キャラなのに条件が悩ましくて、なかなか仲間が増えないときも泣きそうになりましたが……。どこで釣れるのかシャリンメダイ。どこにあるのかあの脚本。まず、気づきにくい場所にあるものを探して、あちらこちらへ右往左往。昔、ゲーム雑誌を読みながら攻略していたあの気持ちがよみがえる!

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 いまはゲームがたくさんあるので、やり込み要素はサクッと一気に終わらせたくなる気持ちもわかります。でも、ガツガツ遊ぶのはもったいないですよ。ちょっとしたセリフの差分までフルボイスですし、細かい作り込みが尋常じゃありませんから。

 2周目以降は強さや仲間を引き継ぎ、本来はその時点で加入していないキャラクターも最初から使えます。本来いないキャラクターでもイベント中にひと言喋りますし、そこもしっかりフルボイスです。正気ですか? ボイスデータだけでどれだけあるんだろう。

 キャラクターの配役を決めて遊ぶ劇場も、フルボイスで全員の組み合わせを試せるのは、ちょっとやり過ぎて引くくらいですよ。たぶん今年出たゲームのエンディングで、もっとも声優名が多いスタッフロールになるのでは? 日本語だけじゃないですし……。

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 2周目でサブキャラクターを仲間にするとき、同じキャラクターを連れて行ったらどうなるのかも試してみたんですよ。そこも、ちゃんとボイス付きでセリフが用意されていました。「俺ならわかるだろ?」みたいにボイス付きで喋りながら自分自身を勧誘するんですよ。おかしい、おかしいよ、このゲーム!

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 料理勝負に劇場イベント(配役を自由に配置できるうえに全部ボイス付き)、レースにカードバトル……。これまでスタッフが過去に携わってきた仕事のセルフオマージュを全部つぎ込んだとした思えない豪華さにクラクラします。そして同時に目頭が熱くなる。自分がニヤリとするような要素もたくさん入っています。

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 やり込み要素としてもボリュームがありますし、差分を全部見ようと思ったら周回しないと無理。サービス精神にあふれています。終盤で力尽きることもなく、ダンジョンの見た目や構造、ボスの演出やギミックも最後の最後まで力が入っている。ずっと派手なまま、最終決戦まで駆け抜けていて感動しかない。

 JRPGとしてもしっかり遊べて、王道で安心感のある展開なのかと思いきやハラハラもさせてくる。ガツッと決めるところは決める。本拠地で仲間と会話したときやストーリー中の何気ないひと言で、キャラの印象をガラッと変える。自分が遊びたかった、何年も待ったRPGがそこにありました。

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 クラシックスタイルのRPGも時間をかけて作り込めば、まだまだこんなにおもしろかったんだと再確認させてくれる。私は、そんな希望のあるRPGだと思います。そして同時に、あのころ見たかった夢の続きを見て、憑き物が落ちたような気持ちにもなりました。

 届くかどうかはわかりませんが、それでも私は言いたい。いまは亡き村山氏に「おもしろかったですよ」と。そして、本作を作ったスタッフたちにも「ありがとうございました」と。きっと、自分と同じく長年待ち続けて遊んだ人たちも、同じようにおもしろいと思ってくれることを願って筆を置かせていただきます。

 どうか、みなさんも純粋な気持ちで楽しんでください。たくさんの人の想いが詰まったRPGであることがわかりますから。

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