
初心者でも遊びやすいゲーム性も相まり、対戦格闘ゲームの魅力に触れてこなかった人たちをも引き込み大きなブームに。ひとり用RPG的モードの“ワールドツアー”なども影響し、2024年1月3日の発表時点では、全世界累計販売本数300万本を突破している。
その立役者とも言えるのが、ディレクターを務めた中山貴之氏だ。本記事では『スト6』1周年を記念して、中山氏へのインタビューをお届けしよう。
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中山貴之 氏(なかやま たかゆき)
グラフィック業務を経て、前作『ストリートファイターV』の途中からディレクターを担当。『スト6』でもディレクターを務めている。
予想以上の反響に包まれた『スト6』
昨今のゲームはアップデートを重ねていくのが主流ですので、ゲームを発売したら開発が終わるのではなく、むしろ発売後が本番のスタートと言っても過言ではありません。発売後も毎日、不具合の修正やバランス調整、そのほかの施策もたくさん続けていました。
毎日がなにかしらの締切に追われているような毎日でしたので、本当にこの1年は一瞬で過ぎ去っていった感覚です。
――ゲームの開発のみならず、大会やリアルイベントなども開催されていたので、本当にお忙しい1年だったように感じます。
本作は当初から、コラボやイベントをできる限りやることを目標にしていたので、いまも毎日のようにイベント、大会がたくさん開催されていることに、とてもうれしく思います。
――これからも期待しています。『スト6』の発売後、国内のプレイヤーからの反響には、どのような印象をお持ちですか?
また、日本に住んでいるからこそ、日本のプレイヤーたちの盛り上がりをより身近に感じられたように思います。開発チームのスタッフたちも、仕事をしながらSNSのチェックやプレイヤーの配信を複数同時視聴したりしていますし(笑)。
それができるのも、皆さんが盛り上がってくれたからこそです。
――日本ではとくに、新規プレイヤー層がとても増えた印象があります。その要因は、どこにあると考えているのでしょうか?
“みんなで楽しもう!”は、そもそも『スト6』の持つ思想のひとつなんです。その想いと、皆さんの発信力、そしてストリーマーの皆さんたちの文化などが、うまくマッチしたおかげで、新しいプレイヤーが増えてくれたのかなと思います。
――要因に上げているように、“REJECT FIGHT NIGHT”や“Crazy Raccoon Cup”などのストリーマーイベントは、『スト6』の盛り上がりに大きな影響があったように思います。
それが日本人としての考えや、楽しみかたにうまく合致していたので、それに『スト6』が引っ張られる形で、いい影響を受けたと感じています。
――それもあって、いままでの対戦格闘ゲームファンのみならず、これまでにないファン層からも『スト6』の話題が聞こえてくる、とてもうれしい1年だったと思いました。
たとえばリュウの使い手だとしても、プレイヤーそれぞれリュウの動かしかたは違いますよね。プレイヤーのファンとして応援してもらうのはもちろんのこと、「〇〇さんのリュウだから応援する」といった領域にまで踏み込めたのは、プレイヤーの皆さんと、それを応援してくださっている方々のおかげでした。
キャラクターとプレイヤーの双方があって見てもらえる、ファンになってもらえることは我々としては狙いつつも、なかなか実現が難しいことです。
――リュウひとつ取っても、人によって個性が強く出るのは、根本的にゲームがしっかり作り込まれていたからこそだと感じました。
相手を倒し切るために、自分が“バーンアウト”(※2)してでもドライブゲージを使い切るアグレッシブなプレイヤーもいれば、できるだけバーンアウトはしないように守備重視で戦う。または、相手の“ドライブインパクト”(※3)への対処のためにドライブゲージを温存するスタイルもあります。予想以上に多彩なプレイスタイルを実現できたシステムでした。
前作では“スタンゲージ”があり、攻撃を連続で食らっていくほどにゲージが溜まり、最大値に達すると、そのキャラクターは一定時間気絶します。慣れ親しんだ人なら理解できる、いわゆる“ピヨる”だと思いますが、あまりにも“ゲームシステム”に寄りすぎている要素ではありますし、少しわかりにくいなと思っていたんです。
ですので、“集中力が切れてしまったところに、不意の一撃で気絶した”といった感じで、一発で説明できるものにしたかったんです。そこを表現したくて生まれたのが、ドライブゲージの原型でした。
そこからいろいろと試行錯誤をくり返し、結果的にはプレイヤー、そしてキャラクターの心理状況を表しているかのように可視化できるようになったのは、予想外ながらおもしろい要素になりました。
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とあるプレイヤーの苦悩からワールドツアーが生まれた
――ワールドツアーをどうしても作りたかった理由はなんでしょうか?
狙い通り、エドから『ストV』を始めてくださったプレイヤーは少なからずいたんです。実際にどんな効果があったのか、プレイヤーたちのSNSを追って探っていたときに、ある意見を見てしまったんです。
とあるエド使いの方は、エドの簡単な操作方法だけでなく、ビジュアルも含めて好きになり『ストV』を始めてくださったようなのですが……。
――そのエドが好きだという方は、どのような反応を示していたのでしょうか?
「好きなエドが負ける姿を見たくない」、「自分の腕前のせいでエドが負けてしまっている」と悲しんでいる様子を見て、僕はすごく申し訳ない気持ちになってしまいました。
――その気持ちが、ひとり用モードであるワールドツアーのコンセプトの根幹にあると。
そこから自分の分身を作れるキャラクタークリエイトが生まれ、自分自身の物語を体験しつつも、対戦格闘ゲームの駆け引きとはどう楽しむのか、どう練習すればいいのかを学べるようにしました。それをこなしつつ、キャラクターと仲よくなっていく。そしてそのキャラクターを動かすこともうまくなっていく、その動線こそが“ワールドツアー”でした。
――実際のところ、ワールドツアーを導入した手ごたえは感じていますか?
自分がどうしても作りたいこだわりですとか、キャラクターと仲よくなることが根本にはありましたが、結果的には誘い文句にもなる、初級者向けのいいモードになったと思います。
――キャラクターたちの設定などを知れるのも、シリーズファンとしてうれしかったです。
リュウはなぜ水ようかんが好きなのか、などのたくさんの設定が、シリーズが続いた36年ぶん蓄積しています。ワールドツアーを進めるだけで、古くからのファンと同じくらいキャラクターたちについて詳しくなれるんです。キャラクターの好き度合いで言えば、昔からのファンと同じラインに立ってほしかったんですよ。
また、シンプルな狙いとしては、そういった要素から『ストリートファイター』シリーズ全体を好きになってもらいたくて、たくさんのエピソードを取り入れていきました。
“リュウはふだん、ブラックカードで買い物をしている”など、“じつはこうだった”みたいな設定がプレイヤーのあいだで話題になったのは狙い通りなところです。(笑)。
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そこから、当時のゲームセンターの盛り上がりや体験を、仮想空間上で味わえるようにしたのが、“バトルハブ”でした。もうひとつ目指したのは、対戦をせずとも楽しめるような空間にすることです。
――だからこそ、ほかのアーケードゲームが遊べたり、エモートやチャットでコミュニケーションが取れるようにしたんですね。
――アバターがあるからこそ、対戦の敷居も少し下げているように思います。
そこにアバターがあれば、なんとなくその人の個性がわかって、対戦へのハードルが下がると考えました。
――たまにどこかで見たことがあるようなキャラクターがいたりするのも、狙い通りなのでしょうか?(笑)
だったら、プレイヤーが自分でそのキャラクターを作って参戦している気分だけでも味わえればいいのでは? といった狙いもあったので、ある意味狙い通りです。その結果なのか、見たことのあるような方々もいますね(笑)。
――あそこまで自由にクリエイトできるのは、プレイヤーのためを思ったからなんですね。
2年目もプレイヤーたちをとことん楽しませたい!
その文脈もおもしろいですし、バトルハブでゲームセンター文化を知った方々に、本当にそういった文化があったことをリアルで体験してほしくて、開催してみました。
――ゴールデンウイークの期間“ゴウキウィーク”として、豪鬼の試遊もできましたね。
名だたるプレイヤーたちが、その調整が入っているだろうと予想して来てくれて、細かく調べていたのが印象に残っています。その情報が正しい、間違っているかどうかの議論が起きることも、昔のゲームセンターでやっていた“ロケテスト”を見ているかのようで、あの体験を再現できたのもうれしかったです。
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プレイヤー目線で見たときに、イヤに感じる部分はなるべく潰したい想いが本作にはあるので、それを踏まえて追加キャラクターをまとめて発表することにしました。
確定ではないですが、きっとこの先もこのやり方を続けていくと思います。
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結果としては、やってよかったと思っています。“EVO Japan 2024”では、決勝戦の前に豪鬼のPVを初公開しました。会場から大きな歓声が沸くと同時に、女性からも黄色い歓声があがっていてとても驚きました。あの豪鬼が女性から声援をもらえるなんて、すごい時代になったものだなと(笑)。
――ちなみに、公式サイトではプレイヤーデータなどが細かく集計されています。キャラクター使用率などもわかりますが、これらはバランス調整にも活用されていますか?
たとえばダルシムは使用率が低いですが、だからと言って“弱い”わけではないですよね。むしろ使い手が少ないからこそ、逆に強みになったりすることもあって。だからこそ、そういったデータはほぼ参考にしていません。
――この1年は、中山さんや開発チームがやりたいこと、実現したいことをたくさん叶えてきた1年だったと感じています。今後、中山さんがさらにやりたいことはありますか?
具体的には明かせませんが、僕はリアルイベントが大好きなんです。プレイヤーの皆さんと実際に出会ったり、お話できる機会を設けることが好きなので、ゲーム開発と並行して、イベントのほうにも力を入れていきたいと思っています。
――最後に、2年目に向けての意気込みをお聞かせください。
今後は“Year2”追加キャラクターの発表も控えていますので、ぜひ楽しみにお待ちください。きっと見たとたん、「えぇ!? なにやってんの!?」と、皆さんに驚いてもらえると思います!