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『シノアリス』記憶に残るソーシャルゲームの終わらせ方。ユーザー自身がお墓に入って端末にオフライン版アプリを残すエンディング【CEDEC2024】

byNiSHi

『シノアリス』記憶に残るソーシャルゲームの終わらせ方。ユーザー自身がお墓に入って端末にオフライン版アプリを残すエンディング【CEDEC2024】
 2024年8月21日(水)から23日(金)にかけて開催された、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC2024(Computer Entertainment Developers Conference 2024)”。本稿では、23日に開催されたセッション“ユーザーの記憶に深く残るソーシャルゲームの終わらせ方 〜ユーザー自身がお墓に入る?!唯一無二のゲーム体験とそれを支える技術のはなし〜”の模様をお届けする。
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 講演は、ポケラボ 結プロダクション所属のエンジニアである高田美里氏と悦田潤哉氏が担当。2024年1月15日にサービスを終了したスマートフォン向けアプリ『シノアリス』において、リターンユーザーのための施策、エンディングを実装していくうえで苦労したエンディング施策の仕様と実装、運営の想定以上にアクセスが来てしまった場合の施策内容について紹介された。
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“最後まで『シノアリス』らしくて楽しかった”と感じてもらうべく、長い時間を掛けてエンディングを計画

 『シノアリス』は、『ドラッグ オン ドラグーン』シリーズや、『NieR』シリーズで著名なヨコオタロウ氏が原案、クリエイティブディレクターを手掛けるダークファンタジーRPG。童話のキャラクターをモチーフにした、アリス、スノーホワイト、シンデレラ、赤ずきんたちが、自身の作者を蘇らせるために、ほかのキャラクターズと殺し合いを行う物語が展開される。

 そんな
『シノアリス』だが、今年1月15日にスマートフォン版のサービスが終了。現在はエンディングアプリ『シノアリスだったナニカ』がリリースしている。
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 そもそも『シノアリス』は、企画立ち上げ当初から、しっかりとエンディングを作るという構想があった。エンディング=サービス終了となると、一見ネガティブで寂しい印象があるが、『シノアリス』では最後までお祭り感覚で、“ユーザーから“最後まで『シノアリス』らしくて楽しかった”と感じてもらいたいという想いがあったため、“シノアリスフィナーレ計画”として長い時間を掛けて練っていったそうだ。
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ユーザーにお墓を作ってもらうために裏技を実装

 “シノアリスフィナーレ計画”を進めるために最初に行ったのは、X(旧Twitter)でサービス終了を告知する施策。“シノアリスの死に様を拡散スルのデス! キャンペーン”と、なかなか攻めたタイトルで行われたが、ユーザーの反応を見ると“エンディングをお祭り騒ぎにする”という意図が伝わり、手応えを感じたそうだ。
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 その後、エンディングの始まりである“ヨクボウ篇”が2023年12月20日よりリリース。エンディング施策の中で大切にしているのが、ユーザー自身の手で『シノアリス』を終わらせるというものだったため、マイページにいるキャラクターズを消していく要素が登場。ストーリーの進行とともに登場し『シノアリス』自体を壊していく流れが構築された。
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 ユーザーはキャラクターズを消した後、任意で1体だけキャラクターズを復活させて最後のギルドバトルの準備を行う。その後、最終ギルドレイドが展開される7章が12月26日リリース。ここからサービス終了の2024年1月15日までの約2週間がエンディングプレイ期間となり、ギルドレイドをクリアーすると『シノアリスだったナニカ』に切り換わる仕組みだ。

 最終ギルドレイドは、ヨクボウ篇6章をクリアーしたギルドメンバーが同じ時間にそろわないと開始できない。参加条件は厳しめだが、これまで6年半、いっしょにコロシアムを戦い抜いてきたギルドメンバーと最終ギルドレイドに挑戦して
『シノアリス』を終わらせるという試みは、厳しいながらもアツい仕組みだったのではないかと高田氏は振り返った。
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 『シノアリスだったナニカ』は、サービス終了後も自分の端末に残せる『シノアリス』のオフライン版アプリ。同アプリで重要なのは、ユーザーのお墓であるということ。エンディングを見たユーザーのみ、『シノアリスだったナニカ』で自身の情報、コメントやクリアーナンバーなどを残せる。
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 しかし、メインストーリーは全9篇、最後のヨクボウ篇7章にたどり着くまでに必要なプレイ時間は約1000分、16時間となる。これは、エンディングを見たいと始めた新規ユーザー、戻ってきてくれた古株ユーザーには厳しい条件だ。そのため、ユーザー救済制作としてヨクボウ篇SKIP機能を実装した。これは、とある裏技を使うと即時エンディング目前箇所までスキップできる機能だ。

 ヨクボウ篇SKIP機能は裏技として実装したため、運営サイドからは告知せず、ユーザーから気づいてもらうのを待った。機能のリリースから約2週間が経過すると、それに気づくユーザーが増え、今年の1月1日に運営サイドでも機能を示唆する情報を公開。メディアでも取り上げられて
『シノアリス』のエンディング施策がいっそう周知された。
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 『シノアリスだったナニカ』を手に入れたいために裏技を利用するユーザーが増え、サービス中にエンディングまで到達するユーザーも増加。新規ユーザーや古株ユーザーも巻き込んだお祭りのようなエンディングにできて本当によかったと高田氏は振り返った。
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ギルドメンバー全員でゲームを遊ばせるためのデータ同期とログイン制限

 続いて悦田氏が登壇。エンディング施策の中で技術的工夫が多かった、ギルドレイド時のデータ同期と、エンディングリリーズ時に導入したログイン制限機能について紹介された。

 メインストーリー最終ステージとして用意されたギルドレイドは、エンディングシナリオをギルドメンバー全員で同時に体験してもらうことを目的としていたので、バトル前後に流れるシナリオから同期させる必要があった。
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 ここで、ギルドレイドの全体フローが公開。最終ステージに入場するとバトル前のシナリオが流れてバトルへと移行。ボスを討伐すると、シナリオムービーが流れてエンドロールへ。エンドロールが終わると、それぞれのメンバーが『シノアリスだったナニカ』用のプロフィールを入力して、順に移行していく。

 このとき、バトル後のシナリオからギルドレイドバトル、バトル後のシナリオムービー、エンドロールとギルドチャットまでが同時進行させたかった部分。バトル中はWebSocket(ブラウザとウェブサーバーとの間で双方向通信を行うための通信規格)によりもともと同期されており、バトル後のシナリオムービーとエンドロールは動画形式であることから、スタートが合えば終わるタイミングも同じとなる。

 ギルドレイドバトルにさえ同時入場できれば、その後の同期は考慮する必要がないので、バトル前のシナリオからギルドレイドバトルをどのように同時進行させたかが解説された。
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 進行を同期させるうえで考慮したのは、どのように全員をそろえて同期を開始させるのかと、同時進行中にアプリが落ちてしまったユーザーがいた場合の復帰についての2点。同期の開始場所については、最終ステージ入場後にギルドレイド用のメンバー待機所を設置した。この待機所をフェーズ1として、以降のフローにそれぞれフェーズ番号を設定して、途中でアプリが落ちてしまった場合は進行中のフェーズから入り直してもらう形にしたそうだ。
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 つぎにエンディングリリーズ時に導入したログイン制限について。『シノアリス』では、メインストーリーをクリアーしたユーザーから『シノアリスだったナニカ』というサプライズを持って、DAU(Daily Active Users=デイリー・アクティブ・ユーザー)の増加を狙っていた。しかし、どのぐらいユーザーが増えるのか予想できない……。
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 可能な限りサーバー増強は行うにしても、負荷が上がった際に即座に増強できるのか。予算的な限界もあるため、ある程度アクセスをコントロールする必要があった。そこで実施したのが、リクエストレートによるログイン制限の導入となる。
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 ただ、ギルドレイドはメンバー全員で挑む必要があるため、実施要件を制定する必要があった。制限をかけるAPIはアプリ起動時に叩かれるログインAPIのみにして、ギルドメンバーの誰かがプレイ中であれば同じギルドに所属しているユーザーはレート制限中でもログインAPIを突破できるようにして、リクエストレートによるログイン制限を実施。ログイン制限を行ったことで、予想のつかないアクセス増加への備えができた。
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人員が限られる中での大規模開発を乗り越えるため、タスクマネジメントの基本に立ち返る

 その後は、再び高田氏が登壇。エンディング施策の開発におけるタスクマネジメントについて紹介した。

 エンディング施策は、季節・周年イベントなどの通常施策と並行して進める必要があったという。エンディングの仕様は「サービス終了後も動くオフラインアプリを作るらしいよ」と伝え聞く形で、少しずつ降りてくるような状態だったとのこと。正式な仕様は伝えられていなかったが、話をまとめてみると「いまいるエンジニアの人数なら実装できそうだ」と考えた。

 しかし、サービス終了間際のチームなので人の移動が発生。追加の人員を確保することが難しかったので、当初の予定よりもエンジニアの人数が足りなくなってしまい、なかなかスムーズに進行しなかったそうだ。高田氏は大規模開発のタスク管理が初めてに近かったこともあり、ここで“タスクマネジメントの基本に忠実に従う”ことに決めた。大きすぎるタスクは見えなくなってしまうので、小さく切り分けて工数を確認。残された実装期間から実装が間に合うかどうかもチェックした。そして対応順に優先度をつけ、工数が逼迫している仕様に関しては、圧縮できるような仕様を検討するなど、“見える化”を徹底したとのこと。
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 これらの取り組みにより、エンディング施策は予定通りに開発を終えることができた。それが実現できたいちばんの理由は“マイルストーンの設定”だと振り返る。“この施策は、ここまでに実機で確認する”ということを2週間単位で設定し、プレイ会を実施したそうだ。
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 プレイ会で実装が遅れそうなところは事前に連絡を受けられるようになって、それに対してフォローがしやすくなった。「今回のプレイ会には間に合わないなら、次回で見られるようにするのはどうだろう」と、密なコミュニケーションを行えたことで、効率よく開発サイクルを進めることができたそうだ。また、長期間開発しているチームの中で漂う「本当におもしろいものが作れているのか」といった不安感を、定期的に動いているものを確認することで払拭できたと高田氏は語る。
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 最後に高田氏が、「『シナアリス』ならではのサービス終了を全力で楽しむということを、エンジニアも、プランナーも、マーケティングも、前面に押し出していけて本当によかった」と振り返ったところで、講演は終了した。
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