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『萬手一体』レビュー。全身が“手”の悪夢的ビジュアルだけじゃない、デッキ構築とバトルデザインも秀逸な“ちゃんとおもしろい”怪作

by小林白菜

更新
『萬手一体』レビュー。全身が“手”の悪夢的ビジュアルだけじゃない、デッキ構築とバトルデザインも秀逸な“ちゃんとおもしろい”怪作
 2025年4月22日(火)にSteamにて発売された『萬手一体』。Game Riverが開発、Lightning Gamesが販売を担当するインディーゲームです。このたび、発売前にプレイする機会をいただいたので、エンディングまでプレイしたうえでのレビューをお届けします。

 ある日、目覚めると全身が“手”になってしまった者として悪夢のような世界をさまよい、狂気の世界に隠された真実を追求していく本作。実写を取り込んだ強烈なビジュアルが目を惹きますが、それだけではありません。

 インディーゲームならではの尖った世界観を味わいたい人はもちろん、デッキ構築の要素を取り入れたターン制バトルで頭を悩ませ、戦術がうまくハマったときの喜びを味わいたい人にもおすすめしたい一作に仕上がっていました。
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“萬手一体”となり自分の部屋から出られなくなった主人公は、夜な夜な悪夢の世界をさまよい歩く。
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バトルはゲームが進むほど複雑さを増し、やりがいのあるものに。
 第1章のラストまでプレイできる無料のデモ版も配信されているので、実際にプレイしてみたくなったらまずはこちらをお試しください。

 エンディングまでに掛かった時間は12時間ほど。ストーリーの分岐も用意されており、やり込むならばもっと多くの時間を要することでしょう。なお、レビューのためにプレイしたのは発売前のバージョンなので、製品版ではゲームバランスや日本語ローカライズなどが一部異なっている可能性がある点はご了承ください。

悪夢世界に囚われた者の数奇な旅を描く“デッキ構築型RPG”

 ゲームの唯一無二な雰囲気はトレーラーでつかめると思うので、本稿ではゲームプレイを中心にレビューしていきましょう。

 昨今のデッキ構築を取り入れたゲームというと『
Slay the Spire』に代表されるローグライク作品が思い浮かびますが、開発者のZeyu Yang氏によると、本作はあくまで“カードゲーム×探索×ストーリーの融合”がポイントのRPG(2024年のBitSummitでインタビューした際の発言)。

 いざ腰を据えてプレイしてみると納得。悪夢的ビジュアルのマップに表示されたアイコンをクリックするとある程度自由に探索できるゲームデザイン、そしてそれぞれの場所で表示されるテキストを中心とした演出により、プレイヤーはこの世界を“少しずつ深く知っていく”ことになるのです。
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フィールドではアイコンをクリックすることで自由に移動できる。奇想天外な悪夢世界を探索。
 『Slay the Spire』タイプのデッキ構築ゲームと異なり一本道な進行ではないので、新たなカードが購入できる自販機などは、コインが貯まってから改めて買いに行くことが可能。警告が出るようなちょっと危険な敵はデッキが十分に強くなってから挑戦するといった自由度もあります。

 ちなみにもしバトルで敗北した場合、コインが半分になるペナルティがありますが、再挑戦して勝利できれば取り返せるなど、“取り返しのつかない要素”はほとんどありません。物語を楽しむことに集中したい人のための低難度も用意されていますが、難易度ノーマルでも難しいゲームに苦手意識がある人も楽しみやすいのではないかと思います。

試行錯誤が楽しい、不気味なビジュアルを活かしたカードバトル

 バトルで重要なのは“カードを使用する順番”。これが“全身が手”というビジュアルと見事に噛み合っています。

 本作の操作はマウスひとつですべて完結。まず、山札から配られたカード3枚が画面右側に並び、ここに画面下側からドラッグ&ドロップすると"手"に持つことができます。手に持ったカードを、効果を行使したい対象にドラッグ&ドロップすると能力が発動。

 1枚のカードを手に持てば、そのぶん画面右には新たなカードが1枚補充されるので、いったんキープしておいて次に配られるカードをチェックしつつ、効果の発動はここぞというときまで温存する、といった戦いかたもできるのです(次回以降のターンまでの持ち越しも可)。
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敵のターンの攻撃に備えて盾を構えつつ攻撃をくり出すこともできる。
 カードを手に持つたびにコストをひとつ消費。1ターンで使えるコストは3なので、敵に大きなダメージを与えつつ自身の生命を司る“心臓”を守るにはどのように立ち回るのがベストか? と考えながら戦術を組み立てることになります。

 敵の本体は“上段”にいて、この本体が残っている限り、彼らは“中段”に新たな敵を生成し続けます。本体さえ倒せばその手前にいる敵も消滅するのですが、基本的に中段の敵を倒さなければ本体に攻撃は届きません。カードによっては中段を無視して上段を叩ける“遠距離攻撃”ができるものの、倒しきれなかった場合、無傷な中段の敵からの総攻撃を受け、心臓に致命的なダメージを食らってしまう可能性も……。
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心臓が大ダメージを受けそうなときは、なんとか回避したいところ。
 攻撃対象を指定したときに表示されるダメージや“敵を撃破できるか否か”といった結果を加味して、慎重に攻撃先を選ぶことが要求されます。

 このあたりの楽しさはデモ版でも味わえるのですが、プレイヤーがゲームに慣れるにつれて考えるべきことは増えていきます。新たな能力を持った敵が登場し、中段にさまざまな個体が並ぶと、どんな順番で叩くのが最適なのか、かなり頭を悩まされます。敵が持つ能力をしっかり読まずに攻撃すると、手痛い反撃を食らう場合も。

 対抗するためには、プレイヤー側も自身を強化していかなければいけません。“顔”のパーツの組み合わせを変えれば、パッシブスキルや数ターンごとに使用回数が回復する特殊能力も入れ替えられます。強力な能力を持つパーツは引き換えに“心臓”の最大HPを減少させてしまうのでハイリスク。けれど、使いどころを見極められたら心強い味方になります。
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目と口のパーツに付与された能力をデッキの運用とどのように組み合わせるかが重要に。
 さらに、ゲームを続けていると“手”の数は最大で4本に増えます。カードを多く持てるようになるだけじゃなく、中にはカードを持たなくても攻撃や回復ができる“手”もあるなど、戦術の幅が広がっていくのです。

 デッキに入れるカード・“顔”パーツによる能力付与・“手”のカスタマイズ。敵の強化にあわせて、これらを自分にあった戦いかたができるよりよい状態へと入れ替えていくのもまた非常におもしろいところ(ここには後述する“呪い”の影響も関わってきます)。
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“対象を倒せばほかの敵に追加ダメージが与えられるカード”で“左右の敵もいっしょに破壊する”敵を倒すことでまとめて撃破! みたいなこともできる。
 筆者は“敵を倒せればコスト回復”などのカードを駆使した手数の多さと“攻撃力アップ”の能力を組み合わせて、中段の敵をキッチリ殲滅していく“攻撃は最大の防御”スタイルのデッキを構築しました。中段の敵を無視して上段の本体を徹底的に叩く構築や、防御・回復からのカウンターに重きを置いた構築なども考えられそうです。

 こうした遊びの幅をさらに広げてくれるのがボス戦です。ボス戦というとゲームによっては相手のHPが異様に高くて長時間にわたって気が抜けず、ストレスが大きいものが決して少なくないのですが、本作ではふつうの敵よりも手強いものの、“性質”を理解すればそこまでの長期戦にはなりません。そのうえで、かなりユニークな“性質”を持っている者が多く、プレイヤーの頭をいい具合に悩ませてくれるのです。
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“船”を“冥界の出口”まで進めれば勝利となる特殊なボス戦。いつもとは少し異なる戦いかたが求められる。

3種類の“思考”の選択と“悪夢レベル”による独自性

 ほかにも、本作にはユニークなシステムの数々が存在します。

 ゲームのいたるところで現れ、プレイヤーに語りかけてくる“論理思考”、“神秘思考”、“行動思考”という3つの思考傾向。これらはときとして選択肢という形で現れ、どれを多く選んだかによってゲームプレイやエンディングの分岐に影響を及ぼします。
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どの思考に身を委ねるかで手に入るカードの効果が変化することも。
 ボスを倒したとき手に入る特殊なカードは、3種類の思考のどれによって解釈するかで効果が変化。ひとまずは自分が構築したデッキと相性がいい効果を選ぶのがいいと思いますが、逆に「この思考を選ぶならどんなデッキ構築が最適か?」と考えてみればゲームプレイの幅が広がりそうです。

 もうひとつ特徴的なのが“悪夢レベル”という要素。これはバトルをくり返すことで上昇していき、“敵が強くなる”、“敗北時にコインを多く失う”、“カードが呪いを受ける(一度に呪いを受けるカードが増える)”など、プレイヤーに不利なことが増えていくシステム。
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悪夢レベルを下げるマッチはバトルで勝つと手に入るほか、コインで購入できる場所もある。
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呪いを受けたカードは攻撃力が上がるなど恩恵もあるが、使える局面が限られてしまう。
 カードが受ける“悪夢の呪い”はパラメーターが上がるなど有利な効果もあるのですが、代わりに“自ターンの最初からは使えない”などの使用制限が追加され、さらに呪いが進行すると最終的にそのカードは使用不可になってしまいます。これがなかなか厄介で、悪夢レベル8以上だと一度に3枚のカードの呪いが進行するので、そのたびにデッキ構築の調整を検討することに。対処法として“マッチを消費して悪夢レベルを下げる”、“コインを消費してカードの呪いを解除する”などがあるので状況にあわせて活用していきたいところです。

 ちなみに筆者は「ずっと悪夢レベル最高を維持していればそれ以上カードが呪いを受けることもないのでは?」と思いついて試してみましたが、悪夢レベルの上昇とは無関係にカードはどんどん呪われていきました。呪いを最小限に抑えたい人は小まめにマッチを使って、呪いを受けるカードの枚数が少ない悪夢レベルを維持しておくのがよさそうです。
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狂気に囚われた者の行き着く先は……?
 デッキ構築RPGとしてビジュアルはもちろんゲームデザイン的にもオリジナリティに満ちている『萬手一体』。自身が悪夢のような世界に囚われてしまった原因を探るストーリーも普遍的な葛藤が描かれており、人生の中でほろ苦い経験をしたことがある人には刺さるのではないでしょうか? このレビューがプレイするかどうか迷っている人の参考になればうれしいです!
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集計期間: 2025年04月24日12時〜2025年04月24日13時