『プロミス・マスコットエージェンシー』レビュー。極道のマスコット事務所、いよいよ開業! 海外産なのに仁義に燃える異色の任侠物語
 「なんなんだコレは! 海外の開発がこんなもん作れるのか」

 “極道が九州の寂れた田舎町でマスコット事務所の経営に奮闘する”という海外ゲーム、『
プロミス・マスコットエージェンシー』のスタッフロールが流れ始めた時、思わずそう叫んでしまった。「こんなもん」というのは行儀が良くないが、まぁそれだけ驚いたんだから許して欲しい。

 筆者は長年、ありとあらゆる海外ゲームをやり倒してきた。海外から見たオリエンタルな夢の国ジパングを異文化的に扱ったゲームも、トンチキに誇張された“おもしろ日本”を描いたゲームも、日本のアニメやゲームに影響を受けて模倣したようなゲームも山ほど遊んだ。モノによっては「そのへんにしとけよ」ってツッコミ所もあるけど、基本的に筆者はどのタイプのゲームも好きだ。

 しかし本作はそのいずれの要素も持ちながら、日本に対する理解が深すぎる。しかもお堅いゲームではないのに、である。日本を舞台にしたコメディとしてすごくふざけ倒しているのに、一方で日本のゲームでも逆に避けたりわかりやすく単純化してしてしまいそうな描写まで地に足がついていて、すごくちゃんとしててスキがないのだ。

 だから、ブッ飛んだ展開に笑ったかと思えばホロりと昭和の任侠映画スタイルな人情に泣かされるし、熱い展開にもアガる。決して“おもしろ日本”だけで終わるゲームじゃないのだ。
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マスコット派遣業の経営シミュレーションと探索アドベンチャーの二段構え

 では実際どんなゲームなのか? その内容を紹介していこう。『プロミス・マスコットエージェンシー』は、イギリスを拠点とするインディーゲームスタジオのKaizen Game Worksによる第2作。グラスホッパー・マニファクチュア作品などからの影響を感じるファンキーなアドベンチャーゲーム『パラダイスキラー』に続いて挑むのが本作となる。

 そのジャンルは、“オープンワールド・マスコット事務所経営アドベンチャーゲーム”とでも言えばいいだろうか? 舞台となるのは、マスコットたちが人間とともに暮らす世界の九州のどこかにある過疎った町、その名も“過疎町”だ。

 プレイヤーは抗争の果てに下手を打って過疎町に飛ばされてきた極道の若頭“ミチ”となり、“小指”型のマスコット“ピンキー”とともに、潰れたラブホテルを根城にしたマスコット派遣業を新たなシノギとして上納金稼ぎに奔走することになる。
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姐さんの指示で過疎町に潜伏することになったミチ。マスコット事務所を再建し、自らの失態を挽回するために金を稼がなくてはならない。

日常のシノギに探索やストーリー進行が邪魔されない作り

 ゲームとしてはマスコット派遣業の経営者としてのライトな経営シミュレーションの部分と、町のさまざまな問題を解決していくオープンワールド探索アドベンチャーゲームとしての部分が分かれていて、両者が並走しているのがひとつのポイントだ。
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フィールド探索は軽トラで進行する。任意に降りたりはせず、イベントなどに突入すると画面が切り替わってミチたちが出てくるという形式だ。
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各地のお狐様からゲットした強化を装備すると、しまいには空を滑空したりピンキーをミサイルのように撃てるようになったりする。
 というのも、潜伏中の極道者であるミチは堂々とマスコット派遣現場に顔を出すわけにもいかない。そんなワケで基本的にはどの現場にどのマスコットを派遣するか決めたら、あとはトラブルがあった時にイベントの配信映像を見ながら遠隔で助けを送ってやるのが精一杯なのだ。結果として、スタッフ管理や派遣や査定など日常のシノギのマネージメントは全部どこにいてもできるようになっている。
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マスコットのタイプによる向き不向きなどを案件ごとに検討して、かわいいマスコットたちを派遣する。
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トラブル発生時にチェックする配信映像は、視聴者のコメントが流れてくるというどっかで見たような仕様。
 ……まぁそれは半分ゲーム設計上の方便にしても、オープンワールドゲームで“じっくり探索してみたいけど、探索してると他のすべてが止まってしまう”という問題に直面した人は少なくないと思うが、本作ではミチが現場に行かなくていいおかげでシノギのことをあまり気にせずストーリー進行や探索に没頭できるようになっているのがありがたい。

 つまり「マップのこの辺の神社まわったりマスコット勧誘したいなぁ」って時に、「でも2時間後に商店街のシノギに顔出さなきゃいけないしなぁ」とか悩むことがないのだ。思う存分探索したりイベント発生ポイントに向かったりして、ヘルプを求められた時だけ管理画面からお助けゲームに挑めばいい。
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現場に送り出したマスコットが下手を打った時は画面上に連絡が入る(左上)ので、一定時間内に配信をチェックして対処すればオーケー。ついでなのだが、どうやってシノギを成長させていけばいいかわからなくなった時にピンキーにアドバイスを求める機能も用意されていて、いつでも呼び出せる(左下)。

下手を打ったおマヌケマスコットをお助けヒーローたちで救え!

 さてプロミス・マスコットエージェンシーが契約できるのは、仕事にあぶれていたり一線を退いたマスコットだらけ。なので彼ら彼女らは状況次第でしばしばミスをする。ステージにつまづいてぶっ壊しちゃったり、狭い隙間に挟まっちゃったり、ワンコに追われたりしてピンチに陥るのだ。
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“底辺インフルエンサーに粘着される”なんてトラブルも。見た目はカワイイが声が大変男らしい“いちごらぶ”さんが危ない
 「え、そんなことで引っかかるのかよ!」というオーバーな演出が毎回面白いのだが、マネージメントとしてはなんとかしないとアガリが減るので笑ってる場合じゃない。そして元裏社会の人間とはいえ、ミチは義理に厚いし今はマスコットエージェンシーが正業なので、マスコットたちを詰めるわけにもいかない。そこでお助けヒーローたちを送り込んで担当マスコットの自信を取り戻させ、自分たちで事態を収拾させるのだ。

 これは、お助けヒーローのカードを規定枚数出していって目標値をクリアーを目指すというカードゲームスタイルのミニゲームになっている。といってもルールは簡単。残り枚数を増やせるカードや、追加でカードを引いてくる能力を持つカードなどを駆使して強力な値を持つカードを出せば割となんとかなる。
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カードを出していって、上のゲージを削り取ればオーケー。
 ちなみに、新たなヒーローカードの入手やその強化もまた、探索でのアイテム回収や各地のNPCイベントと繋がっているので、現場はかわいい部下たちに任せて、ミチはガンガン過疎町じゅうを探索するといいだろう。

沈みゆく過疎街を救え! ミチとマスコットたちの仁義“ある”戦い

 とまぁそんな感じにシノギをやりつつ、探索でイベントを進めていけば、やがて過疎町に潜む陰謀と因縁に直面することになるだろう。

 かくして物語は、癒着が横行する腐敗した地方政治によって食い物にされて沈んでゆく一方の町を救うため、はぐれものたちが立ち上がる……そんな『
龍が如く』的なディープな展開になってゆく。

 そして、このあたりのディテールも半端ない。“選挙向けに適当に発せられる口先だけの駄目な政策”とかの描写の解像度が半端なく、思わず「ひぇぇ」と悲鳴をあげてしまったほどである。
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「あーはいはい、とりあえず地産地消とか言い出すよね」って感じの事を言いだした町長。選挙カーに乗っての公開討論では、NPCとの交流などを通じて町の状況をつかんでいるとピンキーに的確に反論させられる。コレがまぁリアルでスゲェんだ。
 そこに描かれるのは、“仁義に厚い昔ながらの任侠が私腹を肥やす連中相手に立ち上がる”という、『仁義なき戦い』よりもさらに前の昭和の任侠映画の世界。ただでさえ今となってはファンタジーみたいな“仁義ある”物語だけど、丁寧なローカライズのおかげでぶっ飛んだ設定からも浮かずにじっくり描かれる。

 ところで筆者が本作のミチの描写で好きなのは、一家の“始末屋”であるとされる彼の暴力性や所属する一家の黒い部分をあまり隠していない部分だ。ミチはやると決めたらやる人間だし、言い訳もあるけど一家が犯罪を犯していることはちゃんと示されている。そういった影の部分を変に隠していないからこそ、任侠モノらしく耐えに耐えてついに悪党どもに啖呵を切るミチとピンキーがカッコいい。
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ピンキー、黒い知識が豊富すぎ。
 『龍が如く』シリーズの桐生一馬役で知られる黒田崇矢がミチを演じると知った時「それはやりすぎでは?」と思わないでもなかったが、単に同シリーズのパロディ的にやるのではなく、スピリット的な部分まで踏襲しているとなれば話は別だ。高倉健や菅原文太が違う任侠映画やヤクザ映画に出てくるようなもんだと思っていただきたい。
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ちなみにミチはめっちゃ九州の方言で話す。
 というわけで本作、ヘンなマスコットが山盛りに出てくるし、ミチの愛車の軽トラは空を飛ぶし、フィールド探索は軽トラだけで行う(つまりイベントシーン以外で任意に降りられない)割り切った設計だったりもするけど、おかしなところも熱いところも実に日本的な、とんでもないゲームとなっている。レトロ調のサウンドなども質が高いし、トレイラーなどを見て惹かれるものがあった人はぜひトライしてみて欲しい。

 『プロミス・マスコットエージェンシー』は2025年4月10日にプレイステーション5、Xbox Series X|S、Nintendo Switch、PCで発売予定。参考までに探索系をほぼ100%ゲットした筆者のクリアータイムは15時間強となっている。