2025年4月24日に発売された『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』(ハンドレッドライン。発売:アニプレックス。対応プラットフォームはNintendo Switch、PC(Steam))。
本作を開発した小高和剛氏と打越鋼太郎氏のおふたりに加え、 イシイジロウ氏とヨコオタロウ氏をお招きし、ゲームクリエイター4名による座談会を実施した。気心知れた間柄だけに、本音のトークが展開。ゲーム制作にまつわる話はもちろん、お金や働きかた、アドベンチャーゲームの未来についても語り合ってもらった(取材日は2025年4月1日)。
ディレクター/シナリオライター。ゲームの企画やシナリオ、小説やマンガの原作、アニメの監修など多岐にわたって活躍。代表作は『ダンガンロンパ』シリーズ、『レインコード』など。文中は小高。
ディレクター/シナリオライター。数々のアドベンチャーゲームのディレクター、シナリオ制作を担当。代表作は『極限脱出』シリーズ、『AI:ソムニウムファイル』シリーズなど。文中は打越。
アドベンチャーゲームを中心にシナリオ制作やディレクション、プロデュースを担当。 近年では『文豪とアルケミスト』の世界観監修や、『新サクラ大戦』のストーリー構成などを手掛ける。文中はイシイ。
ブッコロ代表取締役兼ゲームディレクター。『ドラッグ オン ドラグーン』や『NieR(ニーア)』シリーズなどのディレクターを務めた。舞台やマンガの原作など、その活動範囲は広い。文中はヨコオ。
――ゲームには“ストーリー”や“キャラクター”、“世界設定”、そして“体験”といったさまざまな要素がありますが、皆さんがゲームを作る際はどのような順序で構築していくのでしょうか?
イシイ
では、僕から。僕はすべてのパーツが揃わないと企画がスタートしません。ゲームはストーリー、キャラクター、世界設定、システムのすべてが揃った段階で初めて企画としてまとめられるんです。もちろん、断片的にストーリーやキャラクターのネタを思いつくこともありますが、それらはあくまでストックとして頭のどこかに置いておくという感じですね。
――なるほど。ヨコオさんはいかがですか?
ヨコオ
僕の場合、手掛けているタイトルのほとんどがアクションゲームなので、アドベンチャーゲームとは作りかたが違うかもしれませんね。アクションゲームは、まずどういう遊びにするのかというシステムの部分をベースに予算が組まれるので、その予算内に収まるようにストーリーやキャラクター、世界設定を考えていきます。けっきょく、予算次第で登場させられるキャラクターの数であったり、敵味方に割り振れる数なども変わりますから。というか、いきなりお金の話だな(笑)。
小高
お金の話だと、『ハンドレッドライン』は自社で出資していることもあって、予算に関してはシビアにいこうとしていたんです。でも、どんどんボリュームが増えていって、当初の予算はものの数ヵ月で使い切りました。僕がまったくブレーキを踏まなかったというのもあるのですが……。
ヨコオ
それで、いくらかかったんですか? 実際の額だと生々しいので、単位は“ロンパ”で。
小高
べつに言ってもいいですけど、どうせ書けませんから(笑)。
ヨコオ
お金の話を続けますが、最近はローカライズのための費用もだいぶ膨らんでいるので、文章量を減らしてほしい、というような要望を受けたりもします。それこそ『ハンドレッドライン』の文章量はとてつもないと思いますが、予算的に引っ掛からなかったんですか?
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小高
本作はアニプレックスさんと組んで制作費を折半しているので、それぞれが納得する形で進めました。本当にアニプレックスさんが納得していたかはわかりませんが(笑)。
――小高さんは、『ハンドレッドライン』の世界をどのように構築していったのでしょうか?
小高
ストーリーやキャラクターの方向性については、自分の年齢的にも高校生の生々しい会話や群像劇を描けるのはこのタイミングが最後かなと感じたのが大きいですね。あと、システムに関しては、シミュレーションRPGにすれば予算を抑えられるかなと思ったんです。
ヨコオ
そんな幻想を抱いてたんですか?
小高
まったくの幻想でしたね(苦笑)。僕と打越が組んだ作品ということで、当初はストーリーがメインでシミュレーションRPGは物語を盛り上げるおまけのような位置づけでした。でも開発を進めていくうちに、シミュレーションRPGパートももっとおもしろくしたいという欲求が高まり、ギリギリまで調整を行っています。本作はストーリーの質とボリュームを両立させたうえでゲーム性を高めることもできたので、僕の理想にいちばん近いタイトルになりました。これでいつ死んでもいいです(笑)。
イシイ
つまり、遺作……?
一同 (笑)
――本作は100のルート分岐とエンディングが用意されていますが、このボリュームに関して、イシイさんとヨコオさんの率直なご感想は?
イシイ
すごいですよね。近年は『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』や『都市伝説解体センター』のように、比較的短時間でサクッと遊べるアドベンチャーゲームがヒットしています。それとは真逆というか、僕たちが作ってきた何十時間と遊ぶアドベンチャーゲームのような体験に近いのかな。
小高
僕らが目指したのは、“プレイヤーが遊び続けられるアドベンチャーゲーム”だったんです。そのためにいろいろなタイプのルートを用意していて、たどりついたエンディングが満足いくものなら、その人にとっての真ルートだと捉えられるようにしています。このコンセプトにしたのは、いまの時代に新規IPを作るとしたら、何かひとつでも正気かと疑われるほどとがった要素がないと勝負できないと考えたからでした。ウチの強みを生かすなら、シナリオやイラストの物量と質だろうということで、100のルート分岐とエンディングを用意したというわけです。
イシイ
ルートによって体験がガラリと変わるのは、『かまいたちの夜』に近いのかもしれませんが、シンプルな作りのサウンドノベルではなく、シミュレーションRPG要素を取り入れたアドベンチャーゲームというのはおもしろいですね。また、満足するまで遊び続けられるゲーム性は、『グノーシア』のような挑戦もしているのかなと感じました。そういう意味でも、本作はものすごく興味のあるタイトルです。
小高
シミュレーションRPGのパートについては、シナリオの管理が想像していた以上にたいへんでした。そのルートに登場するメンバーだけでバトルに勝利できるように難度を調整する必要がありましたし、そもそもルートの数が膨大なので、登場キャラクターに齟齬がないかをチェックするのにも時間がかかりました。このルート、このタイミングでは、このキャラクターがいるのはおかしい、とか。
――シナリオの分岐という観点では、ヨコオさんの作品とも共通点がありますよね。
ヨコオ
そうですね。『ドラッグ オン ドラグーン』シリーズは周回プレイを楽しんでもらうために、シナリオが分岐する仕組みを考えました。当時はボリュームがないゲームはダメ、という風潮でしたから。ただ、いまの時代にルート分岐やエンディングが100種類あるのはなかなか攻めていますよね。
打越
作り手の立場からすると、小高から企画を聞いたときは「考え直してほしい」と思いましたね(苦笑)。本作がいかに無謀であるかをわかってもらうために、100分岐のフローチャートを作って見せたのですが、小高はむしろやる気になったみたいで……。
小高
これはすごいゲームになるなと、ワクワクしました(笑)。
――諦めてもらうための資料が逆効果になってしまったと(笑)。
打越
実際、ユーザーの視点で考えると、心ゆくまで遊びたい人も、サクッと遊びたい人も、どちらも楽しめるゲームになるとは感じました。あくまで、実現できれば、の話ですが(笑)。
小高
ただ、ボリュームに関しては社内でも意見が割れたよね。それで、親しい人にボリュームが多いことに対する感想を聞いてみたんです。日本だと「文章量の多さに引いちゃう」という意見が多かったのですが、北米では「日本のゲームを遊ぶのはコアな連中ばかりなんだから、ボリュームがあるのは最高だぜ!」といったノリでした。
ヨコオ
日本でも、「すべてのエンディングを見たい、遊び尽くしたい」というような人ばかりではないですかね。
小高
もちろん、すべて体験してもらえるとうれしいですが、満足したタイミングでやめてもらって大丈夫です。
打越
RPGのサブクエストに近いかもしれませんね。すべてをクリアーする必要はないけれど、ひとつでも多く体験することで作品のことをより深く知ることができる、というイメージです。
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――本作はアドベンチャーパートとシミュレーションRPGパートで構成されています。さまざまなゲームジャンルで溢れる昨今、アドベンチャーゲームはどうあるべきとお考えですか?
小高
最近プレイした中では、『Until Then』が印象的でした。尺を長く使う、昔のゲームにあった“ムダの美学”のようなものを感じましたね。以前は尺を贅沢に使ったゲームもありましたが、昨今は適切な尺に収めている作品が多いと思います。尺を短くすればするほど効率のいい物語展開になって、マンガやアニメ、映画に近づいていってしまうんです。どうするのが正解なのかはわかりませんが。
――そういう意味では、『ハンドレッドライン』は小高さんなりのアドベンチャーゲームの回答ということでしょうか?
小高
アドベンチャーゲームの回答というわけではなくて、僕がいま作るなら、という回答が『ハンドレッドライン』です。それと、僕はアドベンチャーゲームと言ったらインディーばかり、というような風潮はよくないと感じていて。大作もどんどん制作されてほしいですし、本作の発売を期に、このジャンルが盛り上がってくれるとうれしいなと思います。
――イシイさんはいかがでしょうか?
イシイ
先ほどお話しした『グノーシア』のような、ローグライト的なタイトルは可能性があると思います。ローグライトとストーリーをしっかり連携させたタイトルはまだほとんどありませんが、近い将来、高いレベルで結実するのではないかと期待しています。あと、アドベンチャーゲームの物語は、フローチャートやセーブ&ロードと対峙してきた歴史がありました。新たなゲームデザインを取り入れることで、フローチャートやセーブ&ロードにこだわらないストーリーが生まれると思うので、見たこともない物語との出会いに期待しつつ、自分でも作りたいですね。
――ヨコオさんはどのようにお考えですか?
ヨコオ
僕はテクノロジーが進化したら、RPGやアクション、アドベンチャーといったジャンルの境界がなくなると思っていました。でも、僕が想像していた通りにはならなくて、いまもはっきりとジャンル分けがされています。アドベンチャーゲームのジャンルの定義も変化していて、ハードの制限が強くあったときは、いわゆるノベルゲームがアドベンチャーゲームという認識でした。しかし、ゲームであらゆる表現が可能な昨今においては、定義も変わってきていますね。たとえば『デトロイト ビカム ヒューマン』と『アンチャーテッド』のアドベンチャー部分の違いはあまり多くなく、実際は「アクションでないからアドベンチャーである」という見かたをされている気がします。
打越
確かに、『アンチャーテッド』も『デトロイト ビカム ヒューマン』も、3Dのキャラクターが冒険するという本質的なところは同じで、プレイヤーの操作のどこに比重が置かれているかの違いしかないですよね。
小高
海外では、アドベンチャーゲームではなくビジュアルノベルと呼ばれているので、そのほうがしっくりきますね。
イシイ
ビジュアルノベルだと、ストーリーが抽出されますしね。これは余談ですが、いろいろなものが欠けているからこそストーリーが際立つビジュアルノベルは、純文学と似ているのかもしれません。純文学は一人称であることがものすごく重要なのですが、みずからの視点でしか物語を語れないので、世界がめちゃくちゃ偏っているというか、欠けているんですよ。
ヨコオ
イシイさんは、純文学でもうひと山当てるつもりなんですか?
イシイ
『文豪とアルケミスト』がヒットしたからね(笑)。
一同 (笑)
――アドベンチャーゲームに対する、打越さんの考えもお聞きしたいです。
打越
現代のアドベンチャーゲームの最終形態は、『デトロイト ビカム ヒューマン』だと思います。映像もすばらしい。では、実写映像にルート分岐を付ければ理想的なアドベンチャーゲームになるかというと、そうではないんですね。自分で操作できることが重要なんです。僕もいつか、日本人だからこそ作れる『デトロイト ビカム ヒューマン』のような作品を手掛けてみたいですね。
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――めちゃくちゃ遊びたいです。
打越
まだまだ作りたい作品はあるものの、このままAIが進化していくと、AIが制作したアドベンチャーゲームが主流になるかもしれないと危惧していて。
ヨコオ
僕も、ゲームクリエイターはAIによってみんな失業するのではと考えています。50年後には、ゲームクリエイターは吟遊詩人のような扱いになっているかも。
――皆さんが生み出すような、奇想天外な世界やストーリーをAIが作り出せますか?
ヨコオ
書けるでしょうね。
イシイ
僕もできると思いますよ(笑)。
小高
でも、作家の真似はできても、本人のようには振る舞えないと思うんですよ。たとえば、デビッド・リンチ監督が書きそうなゲームシナリオは生成できると思うけど、本人だったら自分の持ち味というか、作風からあえて変えてくるでしょう。
ヨコオ
優れたAIは、それすら見越して本人になりきると思いますよ。言われた通りに原稿をアウトプットしないとか。
小高
締切を守らないAIはおもしろい(笑)。
ヨコオ
ゆくゆくは、自分の好きなクリエイターの作風を真似させる時代から、自分の好きなシナリオを生成してもらう時代に変わると思いますね。ユーザーの好みをAIが判定して、その人が読みたいであろうルート分岐をうまく生成してくれる、レコメンドの能力がどんどん発達していくという感じ。
小高
みんなが同じ体験をするということが減ってくると思うので、世界中で大ヒットするというような現象もなくなっていくでしょうね。
――本作は、トゥーキョーゲームスにとって初の自社IPとなります。IPを創出することや、自社でIPを持つことの意義についてどのようにお考えですか?
ヨコオ
僕はゲームのIPは持っていません。一部、マンガの権利は持っていますが、ゲームについては基本的にすべてクライアントにお渡ししています。では、ゲームのIPを持っていたとして、それでお金が稼げるかというと、正直、そうでもないんです。ただ、それはあくまで金銭面の話で、IPを持つことでクリエイティブのコントロールをしやすいという利点はもちろんあります。僕の場合は、クライアントのプロデューサーと対等に話し合える信頼関係があって、たとえば発売してほしくない関連商品などは相談ができますし、自分でIPを持っておく必要がないとも言えます。
小高
ヨコオさんの言う通り、ゲームにおいてはIPを持つということにそれほど大きな意味があるとは思っていません。『ハンドレッドライン』のIPは僕らが持っていますが、たとえばアニメ化や舞台化などを計画したとしても、自社だけでは実現できませんからね。協力会社や製作委員会が必要で、それはIPの権利がどこにあっても大きな違いはないんです。それでも自社初のIPにこだわった理由は、トゥーキョーゲームスを設立したときの目標のひとつが、自社IPを持つことだったからでした。べつにどんなタイトルでもよかったのですが、まさか『ハンドレッドライン』のような大きなプロジェクトが初の自社IPになるとは思いませんでしたね。
イシイ
『ハンドレッドライン』は、IPをすごく意識した作品だと僕は感じましたよ。小高さんたちは『ダンガンロンパ』をIPとして成功させた実績があるので、本作もIPとして成立させる要素をちゃんと押さえているなと。
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小高
それほど意識したつもりはないのですが、過去の成功体験をベースにストーリーやキャラクター、世界設定を作っていったので、IPとして展開できる作品に自然になったと思います。
ヨコオ
それは意識的なものではなく、小高さんと打越さんの性癖だと思いますよ。おふたりが作るゲームは、根っ子の部分が似ていますよね。よどんだ意思のようなものを感じます。
小高
どうなんですかね(苦笑)。
ヨコオ
登場人物をどこかに閉じ込めて、ひどい目に遭わせたうえで、残虐な結末を用意せずにはいられない。そんな謎の衝動があるんですよ。似たような展開なのに、小高さんと打越さんのシナリオはそれぞれ味わいが違うのもすごいなと思っています。
――確かに(笑)。さて、少し話題を変えまして、独立スタジオやフリーランスならではのゲーム作りのおもしろさ、たいへんさといったところをお聞きせください。
小高
ヨコオさんは会社員時代のことはもう覚えていないのでは?
ヨコオ
覚えていますよ。会社に出社したり、相性がよくない人と仕事をしたりするのは不自由だなと感じていました。いまはフリーランスなので気楽ですね。出社しなくていいですし、仕事をする相手も自由に選べますから。クライアントが微妙な企画を持ってきても、予算などの守るべきところは守ったうえで、自分がおもしろいと思うものに変えちゃいますし。
――クライアントの企画を変更するようなことが可能なのですか?
ヨコオ
後戻りができないタイミングで報告するのでだいたい怒られますが、まあ、なんというか……交渉次第でなんとでもなりますよ(笑)。
イシイ
僕は会社員時代のほうが好き勝手できていましたね。新しいものを生み出すために強い覚悟を持っていましたし、企画を通すために会社を口説いて予算を勝ち取ったこともありました。そこまでやって結果が出なかったら、会社を辞めて責任を取ればいいやと思っていたので強気だったんです。ですから、独立した後は、外からディレクターを支えられるクリエイターになりたいと思っていました。でも現実は「いつでも会社なんて辞めてやる!」と腹をくくっているディレクターとはなかなか巡り会えないんです。あなたがクビをかけるなら全力でサポートしますと言っても、「家族がいるのでクビはかけられません」と。こうした感覚のズレが、独立した直後はだいぶ壁になりました。
打越
世代の違いもあるかも?
イシイ
でも、同世代は安定志向が強い人が多かったので、僕が特殊だったのかもしれません。
――フリーランスで仕事を続けるうえで、どのように折り合いをつけていったのですか?
イシイ
とがった作品が作れなくて、最初は葛藤がありましたし、絶望することもありました。生活のためとはいえ、迎合したいろいろを自分自身が納得できるのかと。それでも、独立後に関わった仕事の中には、商業的に成功したものも多いんです。なぜヒットしたのか自己分析をしながら、いまも模索を続けているところです。
――小高さんと打越さんは、独立されてトゥーキョーゲームスを立ち上げたわけですが、どんな変化がありましたか?
小高
会社員時代は、やりたいことがあっても自由に取り組むことが難しかったのですが、いまはアニメやマンガの原作など、やってみたかったことにも気軽にチャレンジできています。僕の裁量で自分や打越たちの仕事量を調整できるのも、やりやすいですね。さすがにディレクションやシナリオの仕事は1~2タイトルが限界ですが、ちょっとした仕事であれば休日に進めるといった判断もできるので。
打越
僕は仕事を発注する側になったことで、仕事には上下関係がないことに気づきました。会社員として給料をもらっていたときは、会社からの無茶な要求にも従っていましたし、対価をもらうほうは逆らえないと思い込んでいたんです。いざ、仕事をしてもらう側になってみると、無茶な要求には「無理なのは無理。できません」と断られるんです(笑)。お金と労働は、同じ価値のものを交換し合っているだけで、どちらが上ということではないんですね。今後はもうちょっと強気に、できない仕事は「できない」と断ろうと思います(笑)。
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――ここからは仕事の話から離れまして、ここ数年で感銘を受けたエンタメや出来事についてお聞きしていきます。
小高
この1~2年はとにかく忙しくて、ゲームや映画はチェックできていませんでした。エンタメとして楽しんでいたのは格闘技くらいです。試合は1日で終わりますし、観戦中は仕事を忘れられます。最近、ようやく落ち着いてきたので、時代に取り残されないように『メタファー:リファンタジオ』と『龍が如く8』を立て続けにクリアーしました。映画は『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』と『教皇選挙』を観ましたね。
ヨコオ
映画だと、3Dアニメの『野生の島のロズ』と邦画の『花まんま』もいいですよ。
――おお、意外なラインアップですね。
ヨコオ
映画はなかなか自分から観に行く機会がないので、試写会のチケットをいただけたときは、なるべくおじゃまするようにしています。『野生の島のロズ』は、よくぞ2時間の尺に収めたなと感心したのと、後半の1時間は号泣でした。本当に嗚咽をこらえるのに必死になるほどです。『花まんま』も感動的でしたね。こういった作品を鑑賞する際、自分が書くシナリオと方向性が近いと、ついつい仕事感覚で観てしまって集中できないのですが、『野生の島のロズ』や『花まんま』のような自分の内面にないタイプの作品だとものすごく感動するんです。どちらの作品もオススメなので、この場をお借りして紹介させてください。
――イシイさんはいかがでしょうか。
イシイ
僕は上海で体験した“没入型演劇”が衝撃的でした。“UMEPLAY”といって、5~6LDKの大きなマンションのような会場で観客は部屋を回りながらリアルタイムで巻き起こるいろいろな演劇が楽しめるというものです。あまりにもクオリティーが高くて、たとえるならファミコンで『ドラゴンクエスト』を初めてプレイしたときと同じくらいの衝撃を受けました。
小高
セリフは中国語ですか?
イシイ
日本語と中国語のバイリンガルが同行してくれました。通訳が3人いたのですが、公演の内容によってはみんながパニックになってしまい、通訳どころではなくなりました。そのあたりの臨場感も含めてすごかったですね。また、言語に依存しない公演もあるので、流れに身を任せてインタラクティブな体験ができました。こうした“体験型”のエンタメは、デジタルゲームや映像にもうまく落とし込めるのではないかと考えていて、かなり刺激されました。
――打越さんはいかがですか?
打越
直近で心が動いたゲームとしては、『ニーア オートマタ』ですね。
小高
それ、2017年とかじゃん!
ヨコオ
ネタではなくて?
打越
本当ですよ! まだ『ニーア オートマタ』を超えるゲームに出会っていなくて、お世辞抜きでハマったタイトルなんです。ストーリーは何だか哲学的だし、深いですよね。
ヨコオ
残念ながら、打越さんを満足させられるようなゲームはもう僕は作れません!
打越
そうなんですか?
ヨコオ
能力が枯渇しちゃったので(笑)。
――冗談はそれくらいで(笑)。
打越
あとは、エンタメと言っていいのかわかりませんが、先日プロモーションのためにアメリカを訪れたとき、バーでちょっとしたハプニングがあったんです。バーに同行したアメリカ人の連れが、店内で大柄な黒人男性といきなりラップバトルを始めたんですよ。
ヨコオ
今度こそネタでしょ!
打越
本当なんですって!(笑)
イシイ
打越さんも参戦すればよかったのに。
小高
ラップで『ニーア オートマタ』の魅力を伝えるとかね。
一同 (笑)
打越
何を言っているのか聞き取れなかったし、何より怖くて……。ラップバトルが終わるまで他人のフリをしていました。先ほどのイシイさんのお話とも通じますが、リアルで体験する臨場感にはかなわないと思いましたね。
ヨコオ
打越さんの話を要約すると、『ハンドレッドライン』なんか遊んでいないで、外に出たほうがいいよということが言いたいの?
打越
いえ、『ハンドレッドライン』をクリアーしたうえで、リアルな体験をしてください!
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――最後に、今後トライしてみたいことや、見据えている領域についてお話しください。
小高
この数年は『ハンドレッドライン』を中心に複数のプロジェクトを動かしていて、立て続けに繁忙期が来ることもありましたが、いまはひさしぶりに仕事が落ち着いています。クリエイティブな仕事はいったんお休みして、まずは4月24日に発売される『ハンドレッドライン』のプロモーションをがんばりたいなと。『ハンドレッドライン』以外にすでに制作が終わっている作品もあるので、近々発表されると思います。
ヨコオ
動いているプロジェクトはありますが、お話しできることが何もなくて……。っていうか、メディアさんがこういう質問をされるとき、どういう返答を期待しているんです?
――まさかの逆質問! やはり、「『ニーア』の続編を作りたい」とか、ヨコオさんが手掛けられたタイトルの今後について探りたいですね。
ヨコオ
では、言わされましょう。皆さんが期待しているシリーズの続編を作りたいです。
――これはやられましたね(笑)。
一同 (笑)
打越
では、僕もヨコオさんと同じで……。
小高
打越さんは『デトロイト ビカム ヒューマン』のような作品を作りたいです、じゃないの?
打越
それだ。
――イシイさんはいかがでしょうか?
イシイ
僕はちょうどいいネタがありますよ。4月28日に、ファンの皆さんに爆弾を投じるような施策を考えています。あくまで僕の個人的なプロジェクトなのですが、徹底的に作品を作り込めば、ついて来てくれる人がいるのではないか、という仮説をみんなにぶつけてみたいなと。ぜひ注目してもらえるとうれしいです。
打越
4月28日ということは、ヨン、ニ……。
小高
それはね、あえて黙っていたんだよ。
一同 (笑)
ヨコオ
打越さんが言わなければ、ファミ通さんがうまく書いてくれるはずだったのに!
打越
このメンバーだったら、僕がツッコまないといけないなと思って……(苦笑)。
――イシイさんで4月28日と言われたら、ピンときそうですね(笑)。
イシイ
はい、4月28日はポイントです。僕も『ハンドレッドライン』に負けないように、アドベンチャーゲームに対して一石を投じることができればと思います。