2022年のタイトル発表から早2年、2025年3月6日に発売が決まった『幻想水滸伝 I&II HDリマスター 門の紋章戦争 / デュナン統一戦争』(※)。長き沈黙を破って復活となる『幻想水滸伝』、『幻想水滸伝II』について、東京ゲームショウ2024のステージに登壇した崎山高博氏、大串達也氏、河野純子氏にインタビューを行った。
※対応プラットフォームはNintendo Switch、プレイステーション5(PS5)、プレイステーション4(PS4)、Xbox Series X|S、Xbox One、PC(Steam)。 本作は、1995年にプレイステーション(PS)用ソフトとして発売された『幻想水滸伝』と、1998年にPSで発売されたシリーズ2作目『幻想水滸伝II』をHDリマスター化したもの。中国の古典小説『水滸伝』をモチーフに、“紋章”を宿す者の宿命を描いたオリジナルRPGだ。
インタビューでは、“幻想水滸伝”の復活経緯や、これまで明かされてこなかったHDリマスター版での細かな変更点を直撃。河野氏には130体以上ものキャラクターアイコンを描き下ろした際の想いや、主人公、テッド、テオ・マクドールの3人が描かれた特典用イラスト制作時のエピソードを訊いた。
崎山高博 氏(さきやま たかひろ)
コナミデジタルエンタテインメント所属。“幻想水滸伝”IP&ゲームディレクター、リードプランナー。シリーズとの関わりは『幻想水滸伝V』の開発(2003年)から。(文中は崎山)
大串達也 氏(おおぐし たつや)
コナミデジタルエンタテインメント所属。『幻想水滸伝 I&II HDリマスター 門の紋章戦争 / デュナン統一戦争』ディレクター。(文中は大串)
河野純子 氏(かわの じゅんこ)
Rabbit & Bear Studios所属。『幻想水滸伝』キャラクターデザインのほか、『幻想水滸伝IV』『Rhapsodia』のプロデューサーも担当した。(文中は河野)
PSP版をベースにHDリマスター。ルカ・ブライトの演出面の課題も修正
――東京ゲームショウ2024のステージでは、2020年ごろにリマスター版の企画が始動されたというお話がありました。当時は25周年の時期だったと思いますが、なぜ『幻想水滸伝 I&II』を復活させようと思われたのか、経緯を教えてください。
崎山
25周年のタイミングに合わせたわけではなく、“幻想水滸伝”というIP(知的財産)を再びゲームファンの方々にお届けしたいという想いはずっと持っていました。
そのなかで、やはりIPを復活させるきっかけとして、この2作品を改めて皆さんに楽しんでいただくのがいいんじゃないか、というところから動き始めた形になります。
――シリーズとしては長らく休眠されていましたよね。
崎山
外から見るとそう感じられたかもしれませんが、社内ではいろいろな可能性が模索されていました。ただ、『幻想水滸伝V』(2006年発売)や『幻想水滸伝 紡がれし百年の時』(2012年発売)から時間が経ちすぎていることもあり、復活させるにはいろいろと難しい部分もありました。
復活させるなら最初の2作からだろうとは思ったのですが、そのままエミュレーションのような形で提供するのは、いまの時代にはきびしいだろうとも思っていました。
ですので、操作性やUI(ユーザーインターフェース)も含めて、いまのお客様でも楽しめる形にしてお届けしよう、ということで今回のリマスター版の企画を立ち上げました。
HDリマスター版ではわかりにくかったUIが変更され、遊びやすくなっている。(画面左はオリジナル版)
――『幻想水滸伝』、『幻想水滸伝II』の2作は過去さまざまな機種でリリースされてきましたが、今回はどの機種をベースにされているのでしょうか。
大串
ソースコードやデータなどはPSP版をベースにしています。ただ、PSP版はPS版から画面が横に広がった関係で、演出面で課題もありました。
そのあたりはしっかりと見直して、HDリマスター版を作るにあたってかなりの修正を入れているので、ほぼ別物にはなっています。
――セガサターン版には独自の追加要素などもありましたが、そのあたりは収録されていないのでしょうか。
大串
PSP版をベースにしているので、収録されていません。
――PSP版では演出面の課題が、というお話がありました。『幻想水滸伝II』はルカ・ブライトに関係する某シーンで、本来見えないはずのキャラクターが画面左に見えてしまっていました。そのあたりも修正されているということでしょうか。
大串
そこはもちろん修正していますし、それ以外にも当時ユーザー様からご指摘を受けた部分については、吟味したうえで制作を行っています。
たとえば、レシピがコンプリートできない不具合などもしっかり修正しているので、ご安心いただければと思います。
崎山
あとは誤字脱字の修正ですね。クロイツを仲間にするときのゲオルグ発言(※)や、『II』のとあるシーンで“ササライ”となっていた点なども誤字として修正し、違和感がなくなるよう対応しています。
※ゲオルグ発言:『幻想水滸伝』でクロイツが仲間になる際、「バルバロッサがゲオルグを討った」という旨の発言をするが、バルバロッサが討ったのはゲイル・ルーグナーだった。のちにゲイルのことをゲオルグと呼んでいた、という設定が入りフォローされている。ロード時間等の最適化のほか、イベントを再生できるギャラリー機能を追加
――発表当時からはだいぶ延期されることとなりましたが、やはり不具合まわりの修正に時間がかかっていたのでしょうか。
大串
そのあたりもそうですし、世の中にHDリマスター版としてお届けするには品質的に未達だった部分もあって、クオリティーを上げるためにも時間が必要でした。
不具合と並行して見た目をブラッシュアップしたり、翻訳を何度も練り直したり、そういった部分に時間がかかってしまいました。
画面左はオリジナル版、画面右はHDリマスター版。
――各プラットフォームへの最適化はいかがでしたか?
大串
ロード時間やフレームレートなどで対応が必要な部分があり、各プラットフォームで確認しながら調整を行いました。
ロード時間に関しては苦労したのですが、ステージでもお見せしたバトル画面など、けっこうすぐに切り換わるようになっていると思うので、安心して遊んでいただけるかなと思います。
――ロード時間が短くなって遊びやすくなるのがうれしい一方で、ロード中に画面の右下で走るキャラクターたちを見るのも好きだったので、そこがすぐに消えてしまうのはさみしい気もしますね。
崎山
そうなんですよね。HDリマスター版ではほとんど出ないという(笑)。最初にゲームを選択する場面がいちばん長く表示されると思うので、そこでしっかりと見ていただければと思います。
ナナミやジョウイが走るのもそうですし、『幻想水滸伝』のローディングアニメーションも意外と多いんですよね。
――TGSのステージではゲーム起動後の画面も公開されていましたが、“ギャラリー”という気になる項目がありました。こちらにはどのようなものが収録されるのでしょうか。
大串
ご想像されるような、サウンドが聞けるモードやゲーム中に流れる動画を見られるモード、あとはイベント、名シーンを振り返ることができるイベントビューワーなどが実装されています。
ゲーム起動後のタイトル選択画面から、ギャラリーに入れる。
主人公とテッドの新たな一面が見られる描き下ろしイラスト
――今回、『幻想水滸伝』についてはキャラクターの顔グラフィックがすべて描き直されています。こちらは崎山さんから河野さんにご提案されたんですよね。
崎山
TGSのステージでお話した通りにはなるのですが、背景などをイラストで描き直そうとなったときに、やはりキャラクターは河野さんにお願いするしかないと思ったんです。お忙しいところに何とかお願いできないかな、と。
河野
お話をいただいたときはそこまで忙しくなかったんですよ。その後いろいろあって忙しくなってしまいましたが(笑)。
『幻想水滸伝』オリジナル版とHDリマスター版のキャラクターアイコンの比較。
――全キャラクターの顔グラフィックを改めて、となると相当な時間がかかったのではないですか?
河野
そこまではかかっていないですね。
崎山
河野さんは描くのがすごく速いんですよ。
河野
とは言え、当時ほど速くは描けませんでした。当時は本当に、最後のほうは80人を1週間くらいで描いていましたから。今回はゆっくり時間をいただいたんですけど、敵味方を含めてトータル130人くらいいるんです。途中で「あれ、多いな」って(笑)。
崎山
昔やったのに(笑)。
河野
そう、やったのに。これ、もしかして描いても描いても終わらないのでは……と思いつつ、2、3ヵ月くらいかけて少しずつ描いていきました。
――新たに顔グラフィックを描かれるうえで、とくに意識されたことはありますか?
河野
トレスはしていないのですが、もともとのニュアンスや印象を変えずに解像度を上げることを意識しました。どのキャラクターにもファンがいるので、この子のどんな部分が好かれていたのか、みたいなことを考えながら、印象を変えないように新作を描くつもりで進めていました。
――TGSのステージでは、『幻想水滸伝』の主人公とテッドの幼いころ、そしてふたりを見守る主人公の父テオ・マクドールの描き下ろしイラストが公開されていましたが、あちらはコナミスタイルの購入特典となるアクリルボードセットのイラストになるのでしょうか。
崎山
はい。あの構図は私から河野さんにリクエストしたのですが、その後もけっこう口うるさく言ってしまいました(笑)。
最初にラフのラフみたいなアタリをつける状態のイラストをいただいたときに、「もっとここはこうしてほしい」みたいなことを言ったら、河野さんから「まだその段階じゃないです」と言われて(笑)。
河野
「前回のラフと表情が違うんだけど」みたいに言われて、「すみません。表情を固めるのは最後なんです」みたいなことを返していましたね。
崎山
完成版は最高のイラストになったので、よかったです。
河野
ありがとうございます。
河野氏が描き下ろしたアクリルボードセット用の新規イラスト。
――幼い主人公とテッドの姿はこれまでに見たことがなかったと思うので、すごく貴重なイラストですよね。
河野
だからこそ、これまでファンの方々が持っていたイメージを崩さないように、でも新しいものになるようにと、けっこうプレッシャーになりました。
――主人公のああいった表情は見たことがない気がします。
河野
そうなんです、ないんですよ。なので、こういう表情を描いてしまってもいいのか、という思いもありました。ゲーム中の選択肢でちょっとおもしろいものもあるので、こういうシチュエーションではこんな顔をしていてもいいのかな、なんて考えながら描いていましたね。
崎山
選択肢では、けっこう乱暴なときもありますからね。
河野
ありますね(笑)。これまでに描いてきたイラストは口を一文字に結んでいるものが多かったので、どこまでいけるか挑戦でした。
崎山
少年らしい、利発な感じで物怖じしない、皆さんが思っているような主人公像になったのではないかと思います。
――主人公の動きにも新たな発見があるような気がしました。
崎山
そういう意味で言うと、テッドもそうですよね。『幻想水滸伝IV』(2004年発売)を経たうえでのテッドっていう。
河野
それもあって、見た目の感じとか、あれやこれや、いろいろ考えることがありました。
――そのふたりを見守るテオについてはいかがですか?
崎山
これも私からお願いしたのですが、連れてきたテッドが自分の息子と初めて出会う場面なので、親の目線で見守っている感じだろうと思ったんです。
でもやっぱり、テオはそういうことを思っていてもなかなか顔に出ないというか、ちょっと険しい顔になるんじゃないかな、と。
河野
なかなか表情が変わらないお父さんですからね。
崎山
そういう表情に見えるんだけど、やっぱり心のなかが見えるような、そんなイラストに仕上がったのではないかなと思います。
ルカの過激なセリフはそのまま収録。しかしリッチモンドは禁煙
――原作から変更が加わった部分について伺いたいと思います。『幻想水滸伝II』のルカ・ブライトは過激なセリフもありましたが、そのあたりは原作のままなのでしょうか?
崎山
そこは原作のままです。PS版はCERO:A、PSP版はCERO:Bとどんどんレーティングがあがっていって、HDリマスターではCERO:Cとなり、日本はかなり高くなりました。
でも、あのシーンはそのままにすべきだと、原作のまま残しています。変更があった点で言うと、リッチモンドさんが禁煙しました(笑)。
――海外は喫煙表現に対してだいぶきびしいですから、その影響でしょうか。
崎山
そうですね。元々の顔グラフィックは咥えタバコをしているような雰囲気だったのですが、キッパリ禁煙されて探偵部屋の灰皿も撤去されています。
HD化にあたり、ひらがなを漢字に直しているものはありますが、メインのシナリオについては当時のものをそのまま再現しています。
――原作ではキャラクターごとに強さがけっこうバラけていた印象ですが、バランスは敢えてそのままにしているのでしょうか。
大串
基本的に、ゲームバランスに関わる部分は変更しない方針としました。明らかな不具合みたいなものは調整しているケースもありますが、バランスに関わる部分はそのままとしております。
――一部の難度の高いイベント、たとえばクライブのイベントにあった時間制限などもそのままということですか?
大串
そうですね。ただ、今回はバトルでの倍速機能があるので、クライブイベントも多少やりやすくなった面はあるかなと思います。
――バトルは2倍速、4倍速にできるとのことですが、フィールドの移動速度も自由に変更できるのですか?
大串
そこに関しては、ひとつ条件があります。まだ詳細はお伝えできませんが、ファンの方々であればピンとくる内容になっていますよ。
――移動速度と言えばやはり、というのは心当たりがあります。個人的には『幻想水滸伝II』で紋章を3つの部位に付けられるのが好きだったのですが、『幻想水滸伝』については原作同様に紋章の装備枠はひとつのみですか?
大串
そこを変えてしまうとバランスが大きく変わってしまいますし、オリジナルのイメージから離れてしまう部分もあると思うので、そこは当時のままにしています。
――バランスはそのまま、ということは協力攻撃や合体魔法の種類が増えるということも……?
大串
ありません。ただ、バトル中の演出などは強化しているので、協力攻撃や合体魔法についてもそのあたりを楽しみにしていただければと思います。
――最後に、満を持して発売される『幻想水滸伝 I&II HDリマスター』への想いを伺えればと思います。
河野
今回、リマスター版が出るということで、個人的にもすごく楽しみにしています。元々村山(※)たちと作った作品なので、村山もきっと、関わりたかっただろうなと思います。
「イラストのリメイクで参加するんだ」という話をしたときにすごく羨ましがられたので、もうちょっと元気でいてくれたら……と思わずにはいられないです。
※村山吉隆氏。“幻想水滸伝”シリーズの生みの親として知られ、近年は『百英雄伝』の開発を行っていた。2024年2月6日に逝去。崎山
本当に、どうにか“幻想水滸伝”を世の中にもう一度復活させたいと活動していたのですが、ようやくお届けすることができます。ここからまた未来に向けて、“幻想水滸伝”というIPが拡大していってほしいと思います。
大串
TGSのステージやブースに来られるお客様を見て、改めて“幻想水滸伝”は愛されているシリーズ作品だと思いました。そこに関わらせていただくのはすごくうれしいです。HDリマスター版としてお届けするからにはしっかり作らなければ、と改めて思いましたし、実際しっかりとリマスターとして作りました。発売は少し先になってしまいましたが、ぜひご購入いただけたらうれしいです。よろしくお願いします。
インタビューにはコナミデジタルエンタテインメントの内藤塁プロデューサーも同席(写真いちばん右)。TGS2024ステージでの「できれば次のステップを踏み出したい」という発言の真意や今後の展開等について質問したが、ノーコメントとなった。
※画像は公式サイトから引用、または配信番組やPVをキャプチャーしたものです。