アトラスとセガ、中国Perfect World社の3社による新作タイトル『ペルソナ5: The Phantom X』が発表となった。『ペルソナ5』と同じ世界の中で展開されるスマホ・PC向けRPGだ。2024年10月9日現在、クローズドβテストの開始を控えている。
4月には中国、台湾、香港、マカオ、韓国でサービス開始となり、日本展開を待ち望む声が多かった本作が、ついに日本上陸。これはいったいどんなゲームなのか、『ペルソナ』シリーズを生み出したアトラスと、本作で運営を担当するセガのキーマンたちに話を伺った。
和田和久
『ペルソナ』シリーズ統括プロデューサー。文中は和田。
新田祐介
『P5X』 開発ディレクター兼メインシナリオプランナ―。文中は新田。
アトラス、セガ、Perfect Worldの3社体制はいかにして作られたのか
――本作の開発はいつ頃から動き出していたのでしょうか。
和田
だいぶ前で、2019年の中頃。『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』(以下、『P5R』)の発売直前くらいでした。
――その頃に、『P5X』の開発を担当されているPerfect Worldさんから熱烈なラブコールがあったのでしょうか。
和田
そうですね。正確に言うならセガさん経由のお話でした。
酒井
Perfect Worldさんがセガのほうに持ち込んでくださったのがきっかけです。そこからあらためてアトラスさんとどのように進めるべきか相談したのが始まりになります。
和田
最初はいきなりガッとアクセルを踏むより、手探りで「どういう感じでいこうか……」と徐々に始まっていった感じです。ただ、とにかくPerfect Worldさんの「やりたい!」という熱量がすごくて。たしかにそれはきっかけではありました。ちょうど僕らも『ペルソナ』を世界中の人に、より身近な形で届けたいという思いから、モバイルゲーム市場への参入を検討していた時期でもあったんです。
――『P5R』も開発が落ち着いて、じゃあつぎに何をしようかという段階だったわけですね。
和田
そうですね。いろいろな展開を考えていて、モバイルゲームもそのなかのひとつでした。その後紆余曲折あり、僕らアトラスとセガさん、Perfect Worldさんによる3社共同開発に落ち着いた……という具合です。
――実際に『P5X』の開発に踏み切った、最終的なきっかけはなんだったのでしょう。
和田
“どういうコンテンツにするのか”という部分が固まらない限りはこちら側も体制を固められないので、まずはひたすらに練り込んでいく時期がありました。最終的なポイントは「やはり僕ら(アトラス)が世界観設定やシナリオをしっかりと担当していく必要があるだろう」ということで、社内に専用チームを構築できるかどうか。そしてその目途が立ったことで動き出すことになったわけです。いま現在は新田を中心としたシナリオチームが監修……というか、(シナリオを直接)書いています。
――あ、もう直で書かれているんですね。Perfect Worldさんから上がってきたものを監修して、とかではなく。
新田
はい。メインシナリオだったり、『ペルソナ5』とのコラボシナリオだったり、そういったものはアトラス側でゼロから作り上げています。セガさん協力のもとで。
――新田さんはどういう立ち位置で携わっているのでしょうか。
新田
いまはペルソナチームに所属しつつ、『P5R』、『ペルソナ5 スクランブル ザ ファントムストライカーズ』、『ペルソナ5 タクティカ』などでシナリオプランナーとして携わった後、『P5X』では開発ディレクターとメインシナリオプランナーを兼任しています。アトラスの仕様に関する監修だとか、それらの代表として立ちながら、シナリオについてもほぼすべて介入させていただいているという形になります。
――ものすごい仕事量ですね……。
新田
もちろん私だけでは対応できない物量ですので、優秀なアトラスの同僚たちにいつも助けられています。私が今日ここにいるのは同僚たちのおかげです(笑)。
――アトラスさん側の体制は何となく見えてきたのですが、セガさんから関わられている松永さんと酒井さんは、どういう経緯で『P5X』の開発に合流することになったのでしょうか。おふたりが参加するということは、セガさんとしてもかなり“本気度が高い”ようにも見えるのですが。
宇田
『P5X』のプロジェクトが立ち上がったとき、僕らに運営型のオンラインゲームを作っていく知見がなくて……わからないことが多かったんです。
宇田
Perfect Worldさんからいろいろな提案をしてもらうなかで、「これは本当に運営型オンラインゲームの仕様として正しいのか?」、「『ペルソナ』シリーズの仕様とオンラインゲーム的な遊びを融合させたときに、IPらしさが担保されるのだろうか?」というあたりの判断をうまく下せなくて困ってしまったんですね。つまり「セガさん助けて!」と泣きついたんです。めっちゃ泣きついた。
一同 笑
宇田
泣きつくといいことがあるんですね。出てきたのが何とこのふたり。よっしゃ、エース来た!
――『チェインクロニクル』で長くディレクターを務められていた松永さんと酒井さんなら心強いですね。
新田
スーパーエースだ! と盛り上がりました(笑)。
宇田
以降は、おふたりから「こういう形が運営的にはセオリーになりますけど、『ペルソナ』らしさを残すのであれば、こうしたほうが」といったご提案をいただいたり。それだったらこのシステムはなくてもいいですねみたいに進めていった感じですね。プロですよね。
松永
最初、ビジネスサイドからけっこうフランクに「ちょっと仕様の判断とか相談に乗ってほしい」みたいな依頼をいただいて……見てみたら、すごいたいへんそうなプロジェクトだぞと(笑)。で、和田さんと「どうしましょうか」みたいな話を飲み屋でして、結果、全力を尽くしますという返事をしました。
――飲み屋で?
和田
松永さんとは、もともとは『チェインクロニクル』と『ペルソナ5』がコラボしたときからの付き合いなんですよ。僕らはいまけっこうコラボをさせたもらっていますけど、モバイルタイトルでは『チェインクロニクル』が初コラボだったので、かなりガッツリやらせていただきました。
松永
三茶(※三軒茶屋。当時のアトラスオフィス所在地)で朝までシナリオの話とかしていましたね……。『チェインクロニクル』がシナリオドリブン型のゲームで、コラボシナリオもかなりのボリュームで作るので、直接本社まで行って話し合いをしていたのです。そのご縁があって、という感じですね。
2017年1月に『チェインクロニクル』と『ペルソナ5』の初コラボが実施された。
――『チェインクロニクル』とのコラボがあったのは2017年頃の話ですね。その頃からの仲だったとは。『P5X』の現場ではどういう動きをされていたんでしょう。
松永
Perfect Worldさんから「オンラインゲームとして、これだけのことをやりたいぞ!」という熱のある提案がどんどん飛んでくるんです。どれもオンラインゲームとしては正しいのだけど、『ペルソナ』としては難しい部分もある。そうした仕様の監修をして、アトラスさんが最終判断しやすいように整理をする。
逆に、『ペルソナ』としてどこの要点を押さえればOKになるかを Perfect Worldさんに説明したり……と、両社のあいだに入って調整をしていく。“ペルソナらしさを最優先に置きつつ、運営型オンラインゲームとして成立するラインを作る”という役割をしています。
松永
最初はそういう仕事だけだったのですけど、途中からはそれだけではなくなってきて……。というのも、アトラスさんがメインシナリオを本当に超本気で書かれているんですよ。それに『ペルソナ』シリーズはメイン以外のシナリオも大事じゃないですか。
コープに当たるものを運営の形に合うように作る必要があるのですが、じゃあそこはセガが担当しましょうということで、運営型タイトルでのシナリオ経験が豊富なスタッフが集まって、アトラスさんのシナリオチームに合流する形で開発に加わっています。日本で『P5X』を展開することが決まったときに、運営もセガでやることになったので、酒井に合流してもらいました。
酒井
僕は“作る”というより“お届けする”という役割を『チェインクロニクル』でも担当していましたので、『P5X』でも松永やアトラスさんともそういったお話をさせていただいています。
今回はPCとモバイルの連動や、完全オンラインなど『ペルソナ』シリーズの遊び方として初の試みが多くあります。その中でも『ペルソナ』シリーズを楽しんでくださっている皆さんが不安に感じないよう、これまでと同じように『P5X』を楽しめるか、どういう点が新しいのか、9月に実施した発表会や東京ゲームショウでのプレミアム試遊、今後のクローズドβテストなど、放送やプレイを通じてお伝えしたいと考えています。
――『チェインクロニクル』でのコラボシナリオもセガさん側で書かれていて、アトラスさん側で監修していたのでしょうか。
新田
そうですね。
――そのころのノウハウが、『P5X』におけるサブストーリーの制作にもつながっていると。
松永
そういった部分もありますし、『チェインクロニクル』をはじめ、物語を中心にアップデートしていくタイトルを10年以上やってるスタジオの経験が活きていると思います。都市生活、学園生活は『ペルソナ』の大きな魅力のひとつだと思うんですけど、運営型にするのならどれくらいのペースで、どんなボリュームで、どういったドラマにするのが魅力的に感じられるか、といった部分を提案させてもらって、アトラスさんと相談しながら進めています。
新田
サブストーリーは最終的にアトラスが監修には入りますが、基盤としてセガさんから非常にいい提案をいただいたり、個性豊かな唯一無二のキャラクターやストーリーを制作してくださっているので、たいへんありがたく思っています。互いに敬意を抱きながらも殴り合ったり(比喩)、互いを尊重しながらもクオリティを高め、切磋琢磨し、多くのユーザーの皆様が笑顔になってくださるような魅力的なシナリオを作っていますので、ご期待いただけますと幸いです。
3社すべてがアクセルをベタ踏み。熱量が動かす現場の力
和田
……正直、ここまでのカロリーをかけるつもりは最初なかったのですよ。
――え、そうなんですか?
和田
各社の熱量もそうですし、現場の熱量がどんどん上がっていきました。ガッツリと『P5X』の開発に我々が参加していくことに舵を切るのはそうとう勇気がいるなと思ったんですけど、みんな「やりきるぞ!」という気合いもすごかったので。
――実際にそういった方向を目指したのはいつごろからなのでしょうか。
和田
2、3年前の話だったかな。
宇田
2022年の頭くらいですね。「もう、やるか!」と。
――となると、そこまではこのプロジェクト自体も不透明だった、とか?
宇田
いやいや、『P5X』をやること自体は決まっていました。僕らがどれだけの人的な投下をすればいいのか……全体のコンテンツ量が見えていなくて。なので、ようやく見えてきて、人を大量に投下する覚悟を決めたというか、気合いを入れる覚悟をしたというか。
和田
どの規模感のコンテンツにするか、という話ですね。
宇田
Perfect Worldさんは初めてお仕事をさせていただく相手なのと、とにかくオンラインゲームが初めて過ぎて……。で、実際にどこまで何をしたらいいのか未知数だったんですね。言葉の壁もありますし、きっと開発カルチャーも違うだろうし……と、かなり試行錯誤をしておりました。でも、何度も対話を重ねていくうちに熱量の大きさとか、やりたいことの多さがハッキリしてきて、「これはちょっと、こちらもアクセルを踏まないと対応しきれないな」と。
和田
で、僕たちだけじゃ無理だからセガさんにも協力を……。
――公開された映像を見てもアトラス内製のゲームのようなクオリティでした。ゲーム内のグラフィックはPerfect Worldさんが作られているものなのでしょうか。
宇田
監修はアトラス、セガ共同で行っています。たとえばメインシナリオに登場するキャラクターなどは全部ガッツリと手を入れていますね。ほかに、アトラスのデザイナーから監修が入ったり、セガさん側からデザインの監修が入ったり。
和田
僕もなぜか、グラフィック監修をすることに……。
――なぜか、ってことはないでしょう(笑)。
※和田氏は過去『ペルソナ3』、『ペルソナ4』のチーフデザイナーを務めるなど、デザイナー畑出身のプロデューサー。宇田
和田は全体を見る立場なので、細かい部分はチームのメンバーに任せていますけどね。
――でも、和田さんもやっぱりいろいろと言いたくなっちゃうんじゃないんですか?
和田
いや、でもそこであんまり細かいことを言い出すととんでもないことになってしまうので……。大きな意味で『ペルソナ』たらしめる部分を押さえるという意味で入らせていただいています。
――そこまでグラフィックにこだわられているのであれば、そのぶんデータ量も膨大になっているのでは?
酒井
現状ですと、PC版は40GB程度、スマートフォン版は20GB程度でしょうか。
松永
いまのAAA系タイトルなら標準ぐらいのサイズにはなっていると思います。もし動作が重いようなら描画(品質)設定で要求スペックを下げられるので、そのあたりは使っているスマホやPCのスペックに合わせていただければ。
――それくらい“ガチ”で作られているということですね。となると、Perfect Worldさんの本社まで行って監修されたりもしているのでしょうか。
和田
みんなかなり行っていますね。
宇田
いまみんな何回くらい行っているんだっけ……僕は3回かな。
新田
僕は2回。
松永
5回です。中国展開のために宇田さんたちといっしょに行って、そのあと日本展開のほうでも行っているので。
酒井
同じく5回くらいですね。
和田
それに、向こうのスタッフもけっこうな頻度で来てくれるんですよ。
――オンラインではなく、直接やりとりしないとできないことがあるということでしょうか。
宇田
最後のクオリティアップのためにチェックをしに行きますね。自分は大きなタームで今後どうしていくのかという話をしに。もちろんオンラインでも頻繁にミーティングをしていますし。
松永
大きなことを決めるときも出張が増えますね。お互いのチーム体制を見ておくのはとても重要です。「ああいう話し合いをしながら、こういうフローで作っているから、ここはお任せできるだろう」とかがわかるようになる。言語の壁も、開発文化の壁も大きいので、相手の動き方をイメージできることはすごく大きいんです。
あと、チェックのときは行き来する人数も多くて。中国展開の直前はとくにすごかったですよね。新田さん中心に大遠征が組まれて。
新田
シナリオを書くだけではゲームは成立しませんからね。現地ではどのようなイベントとしてシナリオが展開されるのか、没入感はあるか、演出やモーションは正しいか、インゲームの挙動はどうなっているか、プレイ感覚にストレスはないか、『ペルソナ』らしさは担保されているかなど、すべてのチェックを行う必要がありましたので……。量も膨大で、リリース直前は数週間現地で寝泊まりしながら直接指示を出していました。
和田
画面を見ないと、という部分も多いですからね。
宇田
「ここ直して!」みたいなことですね。ゲーム開発だとよくあることですけど、そういった指示が出せるようにアトラスからも人員を派遣していました。僕らのほかにも何人か行っております。
新田
映像がきれいなことに加えて、イベントシーンやムービーを直接監修できる高い技能があるんですよ。お世話になっているセガの通訳兼PMの方を通して「この部分はこうしてほしい」と伝えるとすぐに直してくれるんです。現場で高い能力と技術を目の当たりにし、この対応力とイベント制作能力があれば、『ペルソナ』を多くのプレイヤーの皆様に提供できる! と確信しました。
和田
スピードがすごく速くて、「これ、この期間までに終わるの?」っていう修正もちゃんと終わらせてくれるんですよ。
先行してリリースされている地域での反響
――中国や韓国などでは4月よりリリースされていますが、現地の評判はどんな感じなのでしょうか。
和田
非常にご好評をいただいています。『ペルソナ』シリーズという点や、日本らしいゲームシナリオが楽しめるという点など、いろいろな部分が評価されてありがたい限りです。
――もしかしてですが、中国で初展開するという背景があるからこそ、『ペルソナ5』前提ではなく『ペルソナ5』を知らなくても遊べるというスタイルで打ち出しているのですか?
宇田
そうですね。それもあります。
新田
それに『P5X』はスマホやPCなどで世界的に展開していくということもあり、いちばん気軽にプレイできて認知しやすい『ペルソナ』シリーズになると思うんです。ですが、『ペルソナ5』でありながら、新主人公ということで不安になられる方も多いかと思います。というより私がいちばん不安でした。
ただ単に『ペルソナ5』をお届けするだけでは、結果「『ペルソナ5』をやればいいじゃん」という話にもなってしまいます。ですので、新規の方でも入りやすく、そして知っている人なら“さらに”楽しめる新規ストーリーを心掛けました。
新田
ですから本作には『ペルソナ5』のジョーカーや心の怪盗団など既存のキャラクターたちも登場しますし、ファンの皆様の期待を裏切らないよう大切に大事に扱うことを大前提として議論を重ねた結果、新主人公・新ストーリー展開が決まったのです。スマホでまた『ペルソナ5』を遊べるという利点や、「あのキャラたちに会える!」といった懐かしさを感じていただけるのはもちろん、それ以上の楽しみやクオリティをお届けするというのが本作のコンセプトとなります。
松永
開発に参加させてもらって感じたのですが、『ペルソナ5』の世界観はそのままだけど、まったく新しいストーリーとキャラクターで遊べるのですごく新鮮なんですよね。そうかと思えば、ときおり『ペルソナ5』で見たキャラクターが街中を歩いているのを発見することがあって、そういうところもドキドキする。新鮮な気持ちでイチから遊びなおせるし、ちゃんと『ペルソナ5』のよさがしっかり詰まっているし……一度で二度おいしいタイトルだと思います。
――既存のファンでも楽しめるようにということは、中国展開をしている時点で日本での展開も見据えていたのでしょうか。
新田
『P5X』をやろうと決まったときから視野には入れていました。中国での初期クローズドβテストではまだまだ改善の余地がたくさんあったのは事実です。ただ、そのあたりはまだオンラインゲームとして手探りで作っていた時期でもありましたので……。
――先ほど言われていた、全力でアクセルを踏む覚悟をした、というあたりからどんどんよくなっていったのでしょうか。
宇田
念のためご説明させてもらうと、もちろん最初の時点からアクセルを踏んでいなかったわけではありません。最初はずっと試行錯誤をしながらのスタートだったので、どうしてもうまくいかない部分があったんです。先ほどお話ししたように、Perfect Worldさんとの開発カルチャーのすり合わせや、オンラインゲームとしての最適化など試行錯誤の期間が長かったので……。
和田
お互いどこまでやれるのか。そのボーダーラインがまったくわかっていなかったんですよね。
宇田
この作業量はここまでに終わらないだろう、というものを先方は「できる!」と言ってくるわけですが、こっちとしては「ほんとに?」という感じだったんです。
和田
開発常識が違いすぎると言いますか。そのあたりの認識が合致してきたのが、3回目のクローズドβテストあたりでしょうか。
宇田
Perfect worldさんのほうで「ここを改修するのでデザイン追加になります!」、「直すって決めたので人を追加します!」みたいなことになって、そうなるとこちらもチェックする部分が増えてくる。じゃあもうこっちもアクセルを全開フルでベタ踏みにするしかないって感じでした。3回目のクローズドβテストがいい結果をいただけたのは、双方がベタ踏みしたおかげでしたね。
――テストを通じて、どういった部分を修正されていったのでしょう。
宇田
そうですね……シナリオの伝わりやすさでしょうか。
新田
僕がチームに加わったのは、アクセル全開になった3回目のテストからなのですが、その時点で揃っていたシナリオは可能な限りすべて改修しました。「シナリオテンポがオンラインゲームとしての『ペルソナ』として最適になっていない」ということが議題に上がっていたのはもちろん、内容としても、これではユーザーの皆様を満足させられないなと感じたのです。なので、全部のプロットを書き換えつつ、シナリオを大幅改修し、ボイスも再収録しました。
――それ、作業量がめちゃくちゃ多くないですか……?
新田
そうなることは承知のうえでしたが、「いまの内容を『ペルソナ』として出す訳にはいかない」、「逆に、クローズドβテストの改修がやり遂げられるなら胸を張ってリリースできるものになるだろう」と思ったんです。実際に3回目のテストは全社の奮闘もあって改修内容を実装しきれましたし、テスト版プレイヤーの皆様からも好評をいただいて。月並みな表現ですが、これなら“勝てる”と思いました。いままでの『ペルソナ』以上のものを世界中の皆さんに届けられるなと。
……まあ、そこからは開発陣の目の下にある隈がどんどん濃くなっていった気もしますが。
宇田
労働法的な法令違反はしてないから大丈夫です!(笑)
和田
最初からシナリオについては手を入れていたのですが、いま考えると運営が続くオンラインゲームの開発体制としては不十分でしたね。いまは新田を筆頭に専用のシナリオチームを作ったうえで開発に当たっています。
新田
この件、ありがたいことにPerfect Worldさんがシナリオの改修を断らなかったんですよね。それどころかもっと燃えてくれたというか。
宇田
「これはやれないのでは?」というぐらいの物量を投げたのですが、「やる!」と答えてくれて。「やるんだ!?」って驚きの連続でした。
――そのあたりは、国内のデベロッパーとも規模感が違いそうですよね。
和田
すごくこちらのことをリスペクトしてくれているのですよ。だからこそ成立したのだと思います。
宇田
新田が入ってくれたおかげで、こちらとしてももっとアクセルを踏めるようになり、そうなるとPerfect Worldさんも実装する要素が多くなってアクセルを踏むし、じゃあセガさんもアクセル踏まなきゃだし……と、どんどん加速していくんですよ。
新田
3社全体が熱を出し合って完成にいたった作品ですので、本当に楽しみにしていただければ。
――日本で遊べる日が楽しみです……! 今回のような発表もありましたし、展開も順調に進んでいっていると思っていいのでしょうか。
和田
いや、順調かどうかは……。
宇田
まあいろいろとありますからね(笑)。
――記事にしますよ……?
宇田
ああいや、国内だけで展開するのとはまた違った難しさがある、という話です。日本で展開するとはいっても、開発は中国のPerfect Worldさんにやっていただいていますからね。中国でトラブルが起きたら日本の展開にも影響が出るし、でもクオリティは落とせない。もちろんロードマップはちゃんと作っていますので、それに間に合うよう最善を尽くしている、という感じですね。
――海を跨いで開発を行っている以上、避けられない部分ですよね。その中国では当然先の物語が展開されているわけですが、あんまり過剰なネタバレなどは目にしない気がするんです。そのあたりはアトラスさん側でコントロールされていたりするんですか?
宇田
いやぜんぜん。皆さんのモラルがいいだけです。
新田
ビリビリ動画とかに考察動画があったりしますけどね。それぐらい。
――ネタバレを出す人をBANしたりとかは……?
宇田
してないです(笑)。
新田
まだ物語のキーである肝心な情報が出ていない、というのもあるかもしれません。情報の出しかたはとくに気を付けていますので(笑)。
――まだいろいろ隠している部分があると。ストーリーの進度的にはどこまで描かれているんですか?
新田
3つ目の山場くらいでしょうか。これからも謎がたっぷりな、大逆転、大衝撃に満ちたものをお届けしていくつもりです。
宇田
言うねえ!
――なるほど、まだまだ楽しめるポイントがあると! 期待しています。
ゲーム内の気になる部分を聞いたら『P5X』の謎がより増えた
――いろいろ話していたら残り時間10分に。ガッとお聞きしちゃいますね。主人公は雑司ヶ谷に住んでいて、学校があるのは下北沢とのことですが、どちらのマップも歩けるんですか?
宇田
雑司ヶ谷は歩けますが、下北沢は学校の中だけになります。四軒茶屋にも行けます。
――ルフェルはここに来るのが初めてじゃない、といった感じでしたけど、それにも意味が?
新田
もちろんです。
――いろいろと考察しがいのある要素がたくさん散りばめられていると。
新田
その通りです。描かれているものはすべてに意味がありますし、それらは終盤に解き明かされていきますので、考察などもぜひ楽しんでいただければと。
――四軒茶屋にはゲームを始めてすぐに行けるんですか?
新田
そうですね、メインシナリオの中に四軒茶屋に行く用事があって、そのときに解放されます。
――純喫茶ルブランの中に入ると別の人がいたり……?
新田
どうでしょう(笑)。そこはぜひプレイしてみてください。
――楽しみにしておきます。それと、個人的に気になっていることが。ロード画面が“Take Your Heart”ではなく“Take Your Time”でしたし、キーワードが“欲望”。コンソール版の『ペルソナ5』とは違う部分が多いようですが。
新田
『P5X』のテーマは“無欲/生命”となります。これは『ペルソナ5』の“更生/反逆”に対するオマージュでもあり、ペルソナ覚醒をするきっかけとなる部分でもあります。今作は欲望のない世界が舞台です。その中で生きる主人公たちが、自分の中にある欲望を自覚して、それを捨てない決意をすることで偽りの仮面を剥ぎ取り覚醒する……という流れ。『ペルソナ5』との大きな相違点のひとつですね。
――でも、主人公たちが挑む相手は欲望がないわけではないですよね。
新田
そうですね。とある“原因”を起点として歪んだ欲望を持つ人間がいて、そのせいで世界の欲望が奪われている? といったことがわかり、主人公たちは悪人から“奪われた欲望を盗り返す”ために怪盗となります。そこからは『ペルソナ5』と同じく、パレスに潜入して悪人を改心させようという流れになります。
――なるほど。先ほど言われていた大きな相違点に関してですが、『P5X』ではカレンダーの要素が廃止されていたり、パレスの期限がなくなっていたりしますよね。そのあたりはオンラインゲームとして運営する上でのアレンジでしょうか。
松永
もともとはPerfect Worldさんからの提案ですよね。当時、アトラスさんがまさに悩んでいたところで。おっしゃる通り、運営型のゲームとして長く楽しんでもらえるようにアレンジされています。
――毎日ログインしてもらうための導線とか、プレイのモチベーションを作るためのシステムとか、そのあたりはどういったものを用意されているのでしょう。
松永
そのあたりは従来のオンラインゲームと同等のものが用意されています。そのうえで、都市生活と学園生活のサイクル、パレスでの探索をいずれも楽しんでいただけるよう調整されています。
酒井
シリーズに初めて触れる方でも遊びやすいように、毎日コツコツ遊んで成長させる部分は従来のモバイルゲームらしい遊びを意識しています。ユーザーさんによって遊びのスタイルは異なるので、今日はバトルだけ、都市生活だけ、みたいに自由に過ごしていただきたいなと。
松永
もちろん街で新たなキャラクターと出会って物語が起こったり、学園生活でクラスメイトたちと交流して楽しい学園生活を送ったり、『ペルソナ5』らしい楽しみはしっかりと味わえるようになっています。
宇田
いろいろと削ってはいますが、だとしてもプレイフィールとしては『ペルソナ5』から大きく変わっているわけではありません。運営型のオンラインゲームになった『ペルソナ5』として、ちゃんと成り立つようになっています。
松永
カレンダーシステムがないことと引き換えに、アップデートによって街や学園での物語やミニゲームがどんどん増えるようになったのは、ある意味新しいうれしさだと思います。また、イベントストーリーや季節限定のイベントなんかは、ストーリーの進行度に関わらず全ユーザーが同時に楽しめます。あたり前に聞こえるかもしれませんが、たとえばメインストーリー上は冬なのに、真夏のイベントがはじまると没入感が損なわれるんですよね。
――いろいろなユーザーが同時に楽しむ、というのはこういうゲームにとって必須の要素ですもんね。あと聞きたいのはガチャに関してなのですが……“認知存在”って、何でもありな設定すぎでは?
宇田
そうですね! 何でも出てくると思ってください!
――(笑)。
宇田
主人公が相手のことをどう認知したのか。そういう意味で認知上の存在、イコール偶像、その英語たるアイドルということで“怪ドル”と名付けたわけですが、おっしゃる通りどんなキャラクターでも出せるようにつけたものです。ただ逆に、そこが不自然になるようなものは出さないように気を付けてはいます。
――なんでもありとなると、ジョーカーが出てきたり?
新田
はい。メインストーリーでもちょっと絡んだりしますが、大きなものでは『ペルソナ5』でのコラボストーリーで、ある異空間で“心の怪盗団”に会うことになります。そこで主人公が認識して、認知存在を“怪ドル”として抽出し具現化……みたいな。ちなみに抽出と具現化は、ベルベットルームの住人が行っています。
――ペルソナにも何か違いがあったりするのでしょうか。
新田
怪ドルの使うペルソナは、“ペルソナデュオ”と呼ばれるものになります。ベルベットルームの住人の能力によって具現化された、言わば2番手のペルソナです。
宇田
2番手とはいっても、別に能力的に劣っているわけではありません。ベルベットルームを介在した存在として、ゲーム上での命名があるだけです。
新田
ちなみにですが、“怪ドル”や“認知存在”自体にも意味があり、メタ的な“ガチャキャラ”という訳ではなく、メインストーリーに関わってくる大きな謎が隠されていますので、そのあたりも楽しみにしていただければと思います。
――最後の質問だったんですが、気になることが逆に増えました。えーっと、ちなみに『P5X』は『ペルソナ5』本編とどういう関係にあるのかとかは……。
宇田
そこはぜひ、実際のプレイで! リリースされて、物語が更新されていけばきっとわかるはずです。
――最後の最後で完璧な販促コメントが。時間切れは惜しいですが、リリースを楽しみに待とうと思います。本日はありがとうございました!
「Xなポーズでお願いします」で撮った写真。